3-9 入手先
「どっこかな、どっこかな、女の子ー♪ まあるいお耳の女の子ー♪」
「なぜ歌うんだ……? まあ楽しそうならいいが……」
――ツナグたちがヤクグループを探しはじめた一方、キズナとウィルはパエル探しを勤しんでいた。
「んー、なかなかいないねっ? 運び屋っていうからこういう路地裏とかに潜んでそうだけど……そもそも人すらいない、だよ」
「むしろ人通りの多い場所で、人の波に紛れて取引している可能性もあると僕は思うぞ」
「なるほど、さすがウィル、だよ! じゃあ今度は、大通りでも見てみようか?」
くるりと身を翻し、大通りへと向かうキズナ。ウィルも一歩後ろからキズナに着いていきながら、辺りに注意を巡らす。
「ねぇウィル、ツナグ、大丈夫かな? どっかでやられちゃったりしてないかな?」
「……普段の様子を見ていると不安だが……ヒトリが任せたのなら、きっと大丈夫ということだろう。もしかしたら、実はもう探し人の少女を見つけているのかもしれないしな」
「わー! それだったらすごい、だよ! わたしたちも負けてられないよね!」
そんなふうに笑顔で話すキズナをウィルは微笑ましく見ていたが、次の瞬間、彼は何かに気づいたのか、その目つきは変わった。
「キズナ、一旦止まれ」
ウィルはキズナの手を引き、建物の柱の後ろへと隠れた。
ウィルの視線の先には、壁にもたれてかかり、瓶を片手に酩酊している老人がいた。
「こんな昼間からお酒飲んでる、だよ」
「……だが、アレはただの酒じゃなさそうだ」
ウィルの言葉を受けて、キズナは改めて老人の様子を伺う。すると老人は、瓶の中に粉のようなものを入れ出し、ゆらゆらと瓶を回し中身を混ぜたあと、またそれを飲み出したのだ。
「……あれ、もしかして」
キズナは事態を察し呟くと、ウィルは静かに頷いた。
「ああ、アレがシビコの言っていたヤクだろうな。老人の仕草から見て、かなりの常習犯か」
「じゃあもう、中毒者……ってことだよね」
「そうなるな」
ウィルは言って、柱の陰を出るや老人の元へ歩みを進めた。突然の行動にキズナは着いていこうとしたがウィルに制止され、キズナはその場で様子を伺っている。
老人はウィルが近づいてきたのに気づくや、瞳孔が揺れる目でウィルを見上げた。
「……なんあ兄ちゃん、ワシになんあ用あ?」
酒のせいなのか、ヤクのせいなのか、半ば呂律の回ってない老人。ウィルはそんか老人に物怖じすることなく、こう話す。
「僕もひとつ、それが気になってな」
ウィルは言って、老人の握り締めるヤクを指した。老人はぎょっと目を開いて、ヤクを守るように身を捩り、威嚇の姿勢を見せる。
「なんあ! コレはワシのあ! おあえなんあにやらん!」
ウィルは「まあ落ち着け。奪おうってんじゃない」と言い、老人の前にしゃがみ視線を合わせる。
「……それを寄越せと言っているわけじゃないんだ。ただ、どこで入手したのか聞きたくってね」
「……」
老人は口を堅く閉ざし、ウィルを睨みつけた。ウィルは想定済みだったのだろう、次に上着の内側から、三枚の紙幣を差し出した。
瞬間、その金に食いつく老人。
「どうかこれで教えてくれないか?」
老人はウィルから金をひったくるや、ニヤリと笑ってこう答える。
「町外れの『URA』ってとこのバーにある。一杯目は『メローサのおすすめ』を頼むのさ」
「……メローサ?」
「ああ、メローサあ。店主のおすすめじゃあ、ダメなんあ」
ウィルは「情報をどうも」と言い残し、キズナの元へ戻った。
「ウィ、ウィル! 大丈夫だった!?」
早速、キズナは心配そうにしていたが、ウィルは「ああ」と答え、続ける。
「それより、ヤクの入手先を聞いてきた。そこから辿っていけば、必ず流通元へ辿り着くはずだ。ついでに例の運び屋の少女とも出会えるかもしれないな」
「すごいよ、ウィル! ……で、そこってどこなの?」
「…… 『URA』というバーらしい」
キズナはそれを聞き、目を見開いた。「それって……」と呟くキズナに、ウィルはこう返す。
「ああ。僕らがシビコに会うために初めに行った――あのバーだ」