3-7 捕らえた少女は囚われの中(1)
「うぅ……一人で探せったってどうしたら……」
ツナグは身体を小さくさせながら、周辺を見回しつつ繁華街の通りを歩いていた。
周りの店は賑わっていて、もしこの中にヤクのグループがいると思うと、ツナグはまた恐怖で身体を震わせるのだった。
「とにかく今はあの小さい子を探す……んだよな。まあ、小さい子ならきっと大丈夫……」
ブツブツと独り言を呟き、なんとか自分を鼓舞しつつ前に進むツナグ。そんなとき、ふと人気のない細い道が目に止まった。
「こういう路地裏とかに身を潜めてる……なんてありそうな話だよなぁ……」
と言いつつも、ツナグはその場で二の足を踏む。臆病者なツナグはどうしてもそこへ入るのに躊躇ってしまうのだ。
「……やっぱり行かなくてもいいかなぁ……もしかしたらキズナたちとかが見つけてるかもしれないし……?」
なんて、ツナグが情けない弱音を吐いたときだった。ツナグは背後に誰かの気配を感じ、すぐさま振り返るや、そこにいたのはあのときツナグの財布を盗んだ少女だった。
そして今、ツナグたちが探している少女でもある。
「げっ、またお前か!」
しまった、というような顔をした少女は、慌てた様子で路地の中へと逃げていった。
「アイツ……!」
ツナグは急いで少女の後を追った。細い道に足を取られないようにしつつ、必死に少女を見失わないように追いかける。
しかし、少女はやはり、というべきか――普通の少女とは違い、動きが素早い。身軽な逃亡の姿を見せつけられながら、少女との距離はどんどんと離されていく。
「マズイ……っ! このまま逃したら、シビコさんに何されるかわからねぇ……!」
相手はギャングであり三大卿の一人だ。ツナグが取り逃したことも、ツナグの態度などから一瞬でバレてしまうに違いない。そのとき、ツナグはどんな責められ方をするのか未知数だ。
少なくとも、穏便に見逃してくれる人ではなさそうではある。
ツナグは焦りを募らせていく。ひたすらに腕を振り、足を動かすが、その懸命さは報われずにどんどんと少女の姿は小さくなっていく。
「……クソっ」
――このままじゃ取り逃してしまう。
ツナグはそれだけは阻止したいという思いから、少女の背に向けて叫んでいた。
「――おい! 待ってくれ!」
次の瞬間、少女の動きはピタリと止まった。
目を丸くし、こちらに振り返る少女に向かってツナグは走りつづけ、ようやく追いついたツナグはそのまま勢いに乗って少女に抱きつくように捕らえた。
「うぎゃー!」
突然素性も知らぬ青年に抱きつかれ悲鳴をあげる少女。しかしツナグはお構いなく、少女を地面に押し倒した状態でこう言い放つ。
「つ、捕まえたぞ……!」
ツナグの行動の理由も知らぬ者からすれば、完全にツナグは変質者であり、未成年に対する犯罪者のようにしか見えなかった。
「はっ、離せっ、この変態!」
ジタバタと暴れ出す少女。ツナグは必死に「待て! 話を聞け! 俺はお前にどうこうするつもりねぇよ!」と弁明するが、少女は聞く耳を持つ様子はない。
「こっ、こんなところで道草食ってる暇はねーんだよ!」
と少女は叫ぶや、少女はその右足を思い切り振り上げた。
「……ッ!!!」
――それは見事にツナグの股間にクリティカルヒットし、ツナグは無言で悶えることとなる。
ツナグの力が緩んだ隙に、少女は素早く逃げ出した。
「あ……あんにゃろ……っ!」
ツナグは痛みに堪えながら立ち上がり、それでも少女のあとを追った。
しかし、あっという間に少女の姿を見失ってしまう。絶望に打ちひしがれたとき、背後から声を掛けられた。
「ツナグ様、どうされましたか」
偶然にも、シャル、アムエの二人と合流したツナグ。
「ツナグさんが慌てた様子で走っているのを見かけたから、急いで来たんですよ」
アムエの言葉を受けてから、ツナグは「実は、ちょうど今見つけたンスよ。あの運び屋の女の子を。一度捕まえたはいいンスけど、逃げられちまって……あんまりにも足が早くて、見失っちまって」と、説明すると、不意にシャルがツナグの首元に鼻を近づけてきた。
「……!?」
シャルは男ではあるが、メイド服姿に見た目のかわいさも相まって途端に耳を赤らめ緊張するツナグ。「あの、シャルさん何を……?」と、ツナグは聞くと、シャルはすっくと立ち上がり、ある方面を指差した。
「ツナグ様と同じ匂いが、わずかですがあちらのほうから感じます。ボクが匂いを追っていけば……また彼女と出会えるかもしれません」
ツナグはシャルの発言を受け、なぜシャルが今のような行動に出たのか合点がいった――しかし、事前に断ってはほしいものだ、と年頃のツナグは内心呟いた。
「では、早速追いかけましょう! 次見つけたら、わたくしの〈母の御裁縫〉でひっ捕らえてやります!」
どうやら、アムエはやる気満々な様子だ。
こうして合流した三人は、シャルに匂いを追ってもらいながら、少女の元へ目指した。