3-5 捜索開始
「あ……この子……!」
ツナグは写真の子に反応を見せると、すぐさまシビコは「なんや、お前さん知ってるんかいな?」と興味を示した。
「あぁ〜知ってるっていうか、あのぅ〜……」
「今朝ここへ訪れたとき、ツナグのサイフを盗んでいった子だ」
盗まれた、という事実を白状しあぐねていたツナグをよそに、ウィルが間髪入れずに答えた。それを聞いたシビコは「なんやお前さん、三大卿相手に手ぇ出せるクセに、小さいガキにやられたんか」とまた笑い声を上げた。
「ツナグって、普段はよわよわなんだよ」
さらにキズナにはそう言われてしまう始末で、ツナグはガックリと肩を落とした。
「あー、悪い悪い。ま、ヤクの運び屋任されとるくらいや、この子もそんじょそこらのガキよかは頭のキレる奴かもしれんしなぁ」
シビコは情けの慰めの言葉をかけてから、両足を振り上げ勢いをつけ、ソファから立ち上がった。写真を再び胸の谷間に押し込むようにしてしまうと、ツナグを見上げた。
「ま、すでに見た顔なら話は早いわ。まずはこの子のとこ行って、大元のヤクグループまで追って叩き潰してくれや、な」
シビコはツナグの肩をポンポンと叩いた。
「……でも、あくまでチラッと見かけただけですよ、盗られたのも一瞬のことでしたし……。そう簡単にまた見つかるわ――」
「言い訳やなくて、『はい』の返事だけでええねん」
突如ドスの効いた声でツナグの言葉を遮ったシビコ。シビコに強い力で肩を掴まれたツナグは身体を硬直させ、「……はい」と震えた声で返事した。
ツナグは明るい雰囲気のシビコに大事なことを忘れかけていた――シビコは、ギャングのボスであるということを。
シビコはまたパッと明るい笑顔になると、肩を掴む手を離し、「よろしくな!」と元気に言い放った。
「じゃ、ウチも創造主の間のほうが終わり次第、お前さんらのとこに行くさかい。任せたからな!」
シビコは言って、ツナグたちの背後を指差す。ツナグは振り返ると、そこにはいつの間にやら登り階段が現れていた。
ツナグたちは言われるまま階段を登っていく。部屋から遠ざかるにつれ、だんだんと暗くなっていき、いよいよ足元も見えなくなったとき、パッと視界が開けた。
そこはあのバーではなく、どこかの路地裏だった。
「な……あれ? どういうことだ?」
戸惑うツナグに、シャルは答える。
「転移魔法ですよ。おそらく、様々なポイントからアジトに繋がっているんでしょうね。アジトの場所がバレないように、入口と出口をその都度変えているのでしょう」
「なるほどなー」とツナグは感心した。そういった大規模なことを一瞬で成し遂げてしまうのも、魔法のある異世界らしいリスク対策だ。
「お姉ちゃん、これからどうしようか? 手分けしてあの子を探す?」
キズナは早速ヒトリに今後の方針を仰いだ。ヒトリは「そうだねぇ」と呟き、しばし思案したあと、こう指示する。
「キズナとウィルは南側から、アムエとシャルは北側から情報収集をお願いしようかぁ。ツナグくんはあの通りにある繁華街を探るんだ」
一同が「了解」と返事する中、ツナグだけへ右手を上げ「ちょっと待ってください」と声を上げた。
「あの〜ヒトリさん? その指示だと俺だけ一人行動になるンスけど……」
「そうだが?」
「いやいや! 俺この街が初めてっていうかぁ……この世界自体まだ全然詳しくないですし? ……ここはヒトリさんが付き添ってくれないンスか!?」
「わたしは別で探るところがあるからねぇ。ツナグくんなら、一人でも平気だろう」
一切取り合ってくれるつもりもないヒトリに、ツナグはたまらず反論を申し立てる。
「そんなっ、ここはただでさえこんな治安が悪いのに……! せめて振り分け的には、経験値の多いキズナが一人行動とかがいいと思います!」
「え!? ツナグ! そんなこと言うのみっともない、だよ!」
「そうだぞツナグ、レディーを一人にさせようなどとは、情けないぞ」
「それはさすがに格好悪い発言ねぇ……」
「ツナグ様、幻滅しました」
周りから一斉に責め立てられ、「ぐぬぬ……」と言葉を飲み込むツナグ。ヒトリは一連の流れを見て笑ったあと、ツナグにこう話す。
「まあまあツナグくん、君は自分が思っている以上に力がある。そんな簡単に死ぬこともないさぁ。それに、時には一人になっても行動できる力を身につけるのも大事なことさ――革命軍の一員としてなら、なおさら、ねぇ……」
ここまで言われてしまっては断れないと悟ったツナグは、渋々事を受け入れた。ヒトリは満足げに頷くと、改めて指揮をとる。
「じゃあみんな、さっき伝えたとおりの配置についておくように。君らなら死なないと思うけどさぁ、まあ気をつけてねぇ」
「了解!」
なんとも気の抜けた指示だったが、それがヒトリらしいともいえるだろう。
こうして、一同はそれぞれ持ち場へと移動していった。
「――ヤク、なんて……そもそもこんなの、なけりゃいいのにねぇ……」
目的地まで歩む中、ヒトリはポツリと呟いていた。