3-3 質問
「いやぁぁあ! 俺は行かなくていい! ギャングになんて会いたくないぃぃい!!」
「ダーメ! みんなで会いに行く、だよ!」
「ついさっきも似たようなやり取りをしたな……」
ツナグはセキセイ国へ訪れるときと同様、キズナとウィルに腕を引っ張られ、抵抗虚しく地面の上を這っていた。
「……っていうか、ヒトリさんだけが用事あるンスよね!? だったら俺らその辺で待ってればよくないッスか!?」
「まあ確かに、そもそもはわたしひとりでシビコの話を聞きに行こうとしていたが――シビコは元より、革命軍に頼み事があると言っていた。だったら、わたしたち一同で話を聞きに行ったほうが一度で済むだろうさぁ」
「ぐぬぬ……!」
ツナグは悔しげに唇を噛んだ。
「ツナグ様って、こんなに駄々っ子なのですか?」
「うふふ。ちょっと怖いことがありそうなものに対してはそうみたい。かわいいわねぇ」
一方、ツナグの反抗っぷりを少し離れた位置から見守るシャルとアムエは、そんな会話を交わしていた。
ヒトリを先頭に、ツナグたちはどんどん閑静な石造りの建物が立ち並ぶ場へと進んでいく。
ヒトリはある建物の前で足を止めると、扉を二回、ノックした。
しかし、返事はない。
ヒトリは再び二回ノックし――それでも返事がないため、三度目のノックをしたところで、ようやく扉が勢いよく開かれた。
「なんだってんだい! ウチはまだ営業前だ――って、ヒトリさんかい」
出てきたのは、キツネのような見た目をした、獣人の豊満な女性だった。
「ボスに会いに来たってなら通すよ。……だけども、その後ろに控えている子たちは誰だい?」
女性はそういうや、懐から銃を取り出した。
堪らずツナグは「ヒィ!」と短い悲鳴を上げた。
「まあまあそんなカリカリしないでほしいねぇ……。わたしたちは、シビコから用があるって言われたもんで来たのさぁ。ぜひ我が革命軍に用があるってねぇ」
「……へぇ。まあ、アンタら革命軍のことは手配書を見てよく知ってる。だが――」
女性は言って、銃先をアムエとシャルへそれぞれ向けた。
「そこの女二人のことは知らないねぇ。新しいメンバーかい?」
「いや、ボク男で――」と答えようとしたシャルの口をツナグは慌てて抑え、「シャル、こういうとき下手に喋んないほうがいいって……!」と耳打ちした。
「わたしたちはれっきとした仲間なんだけどなぁ、口で言うだけじゃあ、入れてもらえないかい?」
「悪いね。いくら三大卿のアンタといえど、はいそうですかとホイホイと入れてやれないものさ。なんせボスもいろんな者たちから、常日頃命を狙われてるからね」
「うーん、困ったねぇ。どうやったら信用してくれるかねぇ」
場の空気が張り詰める。ツナグは後ろからヒトリと女性のやり取りを見ているだけでも、緊張で吐きそうだった。
「……じゃあ、そうだ。簡単な質問をこっちからしよう。その質問の答え方次第で、ここへ入れるかどうか決めてやる」
――『質問』。それを聞いて、ツナグの額に冷や汗がうっすらと浮かぶ。
「その女二人だけじゃあない。全員で同時に答えるんだ。もちろん、ヒトリさん……アンタも口を揃えて、ハッキリとね」
ヒトリは余裕綽々といった具合に了承した。
ツナグは恐る恐る、「あ、あのぅ……し、質問って、なんで――」と聞こうとしたが、それは銃弾の音によって掻き消された。
ツナグを真横を通り抜けた銃弾は、地面に深く、その着弾の痕を残している。
「そんなん事前に言ったら口裏合わせるかもしれないだろう!? そんな答えるバカが目の前にいると思ってんのか!? えぇ、このアホンダラは!?」
「ひぃぃ……ご、ごめんなさい……!」
すっかり萎縮したツナグは、シャルの背後へと身を隠した。シャルはそんなツナグに「やれやれ、ですね」と呆れを洩らした。
「……ちっ。じゃあ、聞くぞ」
女性はぶっきらぼうな物言いで、こう質問を投げかけた。
「お前ら――明日、末裔から『死ね』と言われたら、死ぬか?」
ツナグは肩を透かした。質問とはどんな複雑なことを聞かれるのかとハラハラしていたが、こんなにもあっさりとした内容だったからだ。
末裔――それはこの世界を牛耳る、神にも等しい絶対的存在、『マーザーデイティの末裔』を指していることは百も承知だ。
ツナグたちは互いに目配せなんてすることはない。ただ全員真っ直ぐ前を向き、胸を張って、声を揃えて、堂々と答える。
「「「そんなクソ野郎、ぶん殴ってやる」」」
女性は満足げに頷き、「最高にイカれた答えだ。ここを通るがいい」と扉の前から身を引いた。
「ようこそ、革命軍。我がアジト――『レールガイ』へ!」