3-2 セキセイ国の知り合い
「いやぁぁあ! 俺は行かなくていい! おうちでお留守番してるぅ〜!!」
「ダーメ! みんなでお出かけ、だよ!」
「治安が悪いと言われただけで、その目で実際に見たこともないくせにビビりすぎだぞ、ツナグ。みっともない」
ツナグは悲鳴を上げ、必死に抵抗を見せていたが、それも虚しくキズナとウィルに腕を引っ張られ、地面を引きずられていく。
ツナグは庭先に引っ張りだされ、これで革命軍一同は出揃った。
「よし、じゃあみんな揃ったねぇ。……まったく、この人数を移動させるのは少々骨が折れるが……まあいいさぁ」
ヒトリはそう言うと、両手を合わせる。
「さあみんなぁ、わたしに掴まって」
ヒトリの合図で、みなはヒトリに集まりその身体に触れる――触れなければ、移動魔法の効力を受けられず、その場に置いていかれることになってしまうからだ。ツナグは最後までヒトリに触れないようにしていたが、キズナに素早く手を押さえつけられてしまったため、いよいよ逃げられなくなってしまう。
ヒトリは全員が自身に触れたことを確認すると、呪文を詠唱した。
「――〈瞬間転移魔法〉」
奪われる視界。しかし、それはほんの一瞬のことで、瞬く間に目の前にはツナグの知らぬ街の景色が広がっていた。
「……おぉ……」
あまりの人々の賑わいっぷりに、ツナグは感嘆の声を洩らした。
世界一治安が悪い――そう話していたわりには、多くの商会が並び、活気に包まれているように思えた。
「な、なんだぁ……治安が悪いとかいうから怖かったけど、全然普通じゃないッスか〜」
ツナグはホッと胸を撫で下ろしたときだった。不意に、背後から誰かがぶつかってきた。
背後といっても、臀部あたりに衝撃を感じたツナグは驚きながら振り向くと、なんとぶつかってきたのは、ネズミような大きな丸い耳を生やした、まだ小さな女の子だった――半獣人の子、と呼称するべきか。
「悪ぃ兄ちゃん、アタイちょっと急いでてさっ、前見てなくって!」
女の子は「ごめんな!」と言うや、そそくさ走り去ってしまう。
「なんだ、子供かぁ」とツナグは呟くと、ウィルに横腹をつつかれた。
なんだよ、とツナグはウィルを睨むと、ウィルはツナグのズボンを顎で指した。
「呑気なものだ。尻のポケットを探ってみろ」
ツナグはウィルに言われるまま、ズボンの尻ポケットに手を当てるや――ツナグは顔を青くする。
そこにいれていたはずの、財布がなくなっていたのだ。
「……な、な……」
「この辺りは特に手癖の悪い人が多いですから、子供だろうと注意しなきゃです、ツナグ様」
狼狽えるツナグに、シャルは冷静にそう注意した。
「まあ早速、いい勉強になってよかったじゃないですか」
アムエの言葉に、ガックリと肩を落とすツナグだった。
「――で、お姉ちゃん。お姉ちゃんはどこへ行くの?」
キズナはそんなツナグを華麗に無視して、ヒトリへ本題を持ちかけた。
「知り合いのとこさぁ。頼まれごとがあるって言われてねぇ……って、これ、さっきツナグくんには話したんだけれど」
「知り合い……? あ、セキセイ国での知り合いっていったら、もしかして……」
ヒトリは頷いて、こう答える。
「ああ。これからシビコに会いに行く――この国の……いや、世界のギャングの元締めにね」