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転生の革命家  作者: みおゆ
第二章・屋敷の主とメイドの約束
55/111

2-26 ボクらはもう水入らずの仲

 シャルがニューエゥラ軍へ入隊が決まり、ディナーも終えてしばらくして。


 ツナグとウィルは、二人仲良く湯船浸かっていた。


 ツナグは「やっぱ風呂の中までひれーなー」と、無邪気に浴室を見回す。ウィルはそんなツナグへ呆れた目を向けていた。


 ツナグはそんな視線に気づき、ムッとした表情を返す。


「……なんだよ」

「いや、子供のようだなと思ってな。大人なら、このくらいのレベルで騒ぎ立てるようなものじゃない」

「……ったく、風呂でまでスカした野郎だぜ」


 ツナグはそう言って、肩まで身体を沈めていく。そのとき、ずっと気にかけていたことを思い出し、ウィルへと問うことにした。


「……なぁ、ウィル」

「ん?」

「その……転生の間でさ、キズナが言ってたこと……っていうか、言いかけてたこと、あるじゃん」

「……なんだ?」


 ツナグは一度目を伏せる。その際、水面に映るどこか不安げな表情の自分と目が合った。


「――『あっちへ行きたいと思う人なんていない』……『向こうにあるのは――』……ってさ、なんか妙に引っかかっちまって」


 ウィルは予想していたのか、小さなため息をついた。


「そんでさ、そのときのヒトリさん……槍、構えてたじゃんか」

「……」

()()()()ってのは、()()()()()()なのか」

「……あのとき馬車で、アムエからいろいろと話を聞いていたのか」


 ウィルは神妙な顔をし、黙り込む。次に紡ぐ言葉を選んでいるようだった。


「……そうだ。あそこは『転生の間』という名のとおり、自分の死を持って魔法が発動する」

「…………」


「死んだ先でどうなるのか、それは死んだ本人にしかわからない。命が消えると同時に転生台から姿を消すというが、果たしてその先ではどのように暮らしているのか、本当に転生なんて起きているのか……こちらとしては不明なことばかりなのだ。まだ誰も、こちらの世界へ戻ってきた者は誰一人としていないからな。だから、そんな保証もされていない場所に誰も行きたがらない」


 ツナグは「だから、『あっちへ行きたいと思う人』がいないのか?」とさらに聞くと、ウィルはどうも説明に悩んでいるようだった。


「……転生者はみな、元いた世界のことをよく思っていないようだった」

「……」

「あるひとりの転生者はこう言ったらしい――あそこは、『地獄』だったと」


『地獄』――という言葉に、ツナグは胸が締めつけられるような思いがした。


「そこから、人々のイメージはあちらの世界は『地獄』というよくない場所だとされて、忌避されてきたんだ。だが、転生者のことを差別するようなことはしない。むしろ新たな仲間として受け入れる姿勢でいる。これまで転生者たちが残してくれた功績のこともあるし、転生者という存在に感謝しているくらいなのだ」


 ウィルは「……まあ、そういうわけだ」と話を切り上げた。


「なぁ、ツナグ」と、ウィルに声かけられ、ツナグは落としていた視線を上げる。

 ウィルと目が合い、その青い瞳はツナグを少し気遣っているように思えた。


「――ツナグは、こちらの世界へ来てしまってよかったと思えるか?」


 ウィルの問いかけに、ツナグは少し考え悩み、答える。


「俺は……正直、どうしてここへ来ちまったのかが、よくわかってないんだ。ほんと、いつの間にか来てたって感じでさ。最近は、元いた世界のときのこととか、よくわかんなくなってきてて……」


「……でも」と、ツナグは続ける。


「――今は、お前らといれて幸せだなって思ってる」


 ウィルは「……気恥しいことを」と言うが、その顔はうれしげに微笑んでいた。


 そのとき、浴室の扉に影が映る。

 誰かと思いツナグは扉へ視線をやると、向こうから聞こえてきた声は、シャルのものだった。


「せっかくお二人の中すみません。一旦家事が落ち着いたので、ボクもいっしょにお風呂に交じってもいいでしょうか?」


 ――と、シャルのとんでもない発言に、ツナグは「……えっ!?」と声を上げる。ウィルも声を上げずとも、少し顔を赤らめ困惑しているのが表情から伝わってくる。


「な、な……なんでシャルさんがいっしょに!? 入るならキズナたちとかじゃ……!」

「……? それはダメですよ。ボクはツナグ様たちじゃないと」


 訳のわからないシャルの返答に、パニックになるツナグ。ウィルも動揺が止まらないのか、ツナグに身体を寄せ、「何かよからぬ魔法にでもかけられたか」などと呟いている。


「えと……なんかお返事がないんですけど、入りますね。ボク、もう裸で肌寒いので……」


 そう言って開かれる扉。ツナグとウィルは「「待っ――」」と声を出すが、二人は露になったシャルの姿を見て、ポカンと口を開けたまま呆然とした。


 なぜなら、二人はシャルのスレンダーなボディには目もくれず、身体にある重大な()()に注射してしまったからだ――()()()()()()()()()()()、大変馴染みのある、そのひとつに。


 シャルは二人の反応を見て察したか、かわいらしく小首を傾げてこう話す。


「ああ。もしかしてメイド服を着ていたせいで勘違いされていたのでしょうか――ボク、男です」




 ◇




 のちに、ツナグとウィルはキズナたちへそのことを話すと、


「えー、わたしたち最初からわかってたよ? ツナグとウィル、シャルのこと女の子だと思ってたの?」


 と、言われてしまうのだった。

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