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転生の革命家  作者: みおゆ
第二章・屋敷の主とメイドの約束
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2-25 次の道へ

 屋敷の客間で休憩していたツナグたち。ディナーができたとシャルに呼ばれ、ダイニングの間へ移動すると、テーブルの上には絢爛豪華な食卓が並んでいた。


 ひとつひとつの皿が芸術品であるかのような料理の数々に、ツナグとキズナは目を輝かせている。


「す……すげぇ……こんなの高級レストランレベルじゃねぇか……」

「そうだよ、そうだよ……! こんなにたくさんいいの……シャル?」


 シャルは「ええ」と頷く。


「これはボクからのお礼です。……あ、もちろん、博士の件での報酬も別でありますから……」

「いいや、報酬は結構さぁ。わたしはラバーの依頼は叶えられなかった。報酬はもらうべきではない」


 きっぱりと断るヒトリに、シャルは動揺した様子だ。


 ヒトリは続けてこう説明する。


「ラバーの依頼はあくまで『()()()()()()へ連れていってほしい』だった。わたしはそれを叶えていない……ゆえに、依頼を果たせていないのだから、報酬を受け取ることはできないねぇ」


 シャルはまだ腑に落ちないといった顔つきだったが、ヒトリの言い分を組んでくれたのか「ヒトリ様、感謝します」と頭を下げた。


「ではみなさま、ディナーはたんと召し上がってください。スープのおかわりだってありますからね」


 シャルの言葉を合図に、「わーい!」と誰よりも早くキズナが料理に手を付けた。礼儀正しく手を合わせようとしていたツナグはギョッとして、「キズナ! ちょっと行儀が……」と注意していたが、キズナのおいしそうに食べる顔を見てそんなこともどうでもよくなり、「……いただきます」と挨拶し、ツナグも食べはじめた。


 みなで食事を囲みながら、穏やかな時間が流れていく。


「ん〜おいしいですねぇ。わたくし、こんなに素敵でおいしいお料理は初めてです」


 アムエは頬を抑えながらご満悦だ。


「うむ。確かに素晴らしい出来だな。見た目も華やかに作られているし……。ニューエゥラ軍の料理担当をぜひシャルにお願いしたいものだな。ツナグは解雇で」

「え!? 解雇!?」


 突然の解雇宣言に驚くツナグ。


「ふむ。身体の資本作りのためには食事が重要だらかねぇ……それもいいかもしれない」

「ひ、ヒトリさんまで!?」


 ツナグはまさかこんなにも早くクビにされてしまうのかと身を震わせた。


「ひどい……! 『不当解雇された俺、実は最強スキル持ちでしたが、今更戻ってこいと言われてももう遅い』なんて展開になりかねませんよ!?」

「んん……? それってツナグのいた世界での流行り言葉ってやつ?」


 ツナグの隣でキズナは小首を傾げた。ツナグは少し恥ずかしくなりながら、「いや……なんでも。忘れてください……」と半分上げていた腰を下ろした。


「フン、まあそうムキになるな。冗談というやつさ。畏まった料理はもちろん最高だが、ツナグの素朴な温かい食事というのも悪くはない」


 アムエも「そうですねぇ。ツナグさんのごはん、わたくしも大好きです」とコメントした。


 和気あいあいと会話が交わされる食卓の場。


 そんな様子をただ見つめるシャルの姿に、ツナグは目を止めた。

 同時にヒトリも釣られるように、ほか三人もシャルへ注目した。


 シャルはみなの視線に気づき、目線を逸らす。


「すみません……みなさまとても楽しそうでいいなぁ……と思いまして」


 ツナグたちは互いに目を合わせた。


「ボク……こんな大人数でごはんを食べること、ありませんでしたし……。博士とは、いっしょに食べてきたけど……」


『博士』と口に出してから、シャルの言葉が湿り出す。シャルは静かに鼻をすすり、元の調子に戻して話す。


「なんだか、ちょっと羨ましくなってしまったんです。ボクはまた一人、日陰に戻るしかないから……」


 シャルの発言に、キズナはどうも理解できないといった様子でこう言う。


「なんで日陰に戻るしかないの?」


 シャルは目を丸くして、「それは、博士がいなければ、ボクはただの……」と言いかけて、俯いてしまった。


 キズナは続けて、こんな誘いをかける。


「一人が嫌なら、わたしたちといっしょにいればいいじゃん!」


 シャルは「……えっ」と、キズナを見上げた。


「シャルも『ニューエゥラ軍』の一員になればいい、だよ! シャルが来たら超頼もしいよ! だってあんなに強いし、その上メイドさんだもん!」


 椅子から立ち上がり、両手を広げそう話すキズナ。


 シャルはゆっくりと、ひとりひとりのみなへ視線を向けていく。


「まあボクは反対しないな」

「わたくしも賛成です。またお仲間が増えるだなんて、素敵じゃないですか」

「俺もシャルさんがいたら心強いけど……あの、知ってると思うンスけど、俺たち一応指名手配――」

「シャル、わたしは君に入ってもらいたいねぇ」


 ヒトリはシャルへ詰め寄るような視線を向ける。


「――わたし、不思議だったんだよねぇ……ラバーを追いかけて転生の間へ現れた君のことが。どうして迷わずあの場へ来れた? 本来なら、そう簡単には来れないはずなんだ……転生の間のまわりには、惑わしの霧森(フォグゥズ)で囲われているからねぇ」


 シャルは一瞬黙ったが、答える。


「……ボク……鼻が利くんです。そうやって、ギリギリ食べられる物を見分けて生きてきたから……。だからあのときも、微かに残る馬車の匂いを辿って追ってきました。馬車にはやはり、ボクたちが暮らしてきた匂いが染みついてましたから……」


 ヒトリは興味深そうに頷いた。


「なるほどねぇ。転生の間のセキュリティにゃ困ったもんだ……だがまあ、そんなのは政府が管理すること。わたしは知ったこっちゃない。わたしが興味あるのは――君の持つ身体能力だ」


 ヒトリは肘をつき、前のめりの姿勢になりシャルを見据えた。

 シャルはたちまち肩を縮こませていく。


「――シャル・マッドガク。君の力を見込んで、我がニューエゥラ軍へ所属願いたい。これは隊長であるわたしからの正式な勧誘だ」


 シャルは目を丸くした。


「それは……ボクを雇用してくれるということですか?」

「給料なしの上、社会的立場の安定を失い、時には命を狙われることもあるだろうさぁ。ただし、生活の面倒はわたしが責任を持ってみる。ラバーと違い、最悪の雇用条件だがいかがだろう?」


 一見、ヒトリの話を聞いただけでは、誰もが「NO」と答えるだろう。


 だが、シャルは違った。


 決意を固めた表情で、こう言い放った。


「――はい。よろしくお願いします」


 シャル・マッドガクはこの瞬間をもって、マッドガク家専属護衛人兼家政婦の職務をまっとうし――


「どんな待遇だろうと関係ありません――今度はボクが、みなさまの力になりたいです」


 ――そして次は、ニューエゥラ軍の一員として従事することを、ここに表明したのだった。

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