2-24 前を向く者、悔しがる者
「――こっちも、一件落着したみたいだねぇ」
そこへツナグたちに声をかける人物がいた――ヒトリだった。
「お姉ちゃん……!」
キズナはヒトリを見るなり、ヒトリの元へと駆け寄っていく。ヒトリはそんなキズナの頭を優しく撫でながら、ラバーの胸元で泣くシャルを見やった。
「ヒトリさん、末裔……ラソソイとはどうなったンスか?」
ツナグが聞くと、ヒトリはフッと力の抜けた笑いをした。
「あんなの楽勝さぁ。あっという間に叩き潰してやったねぇ」
ヒトリさんに心配は不要だったか――とツナグは思い、改めてシャルへ視線を向けた。
シャルはようやく涙も落ち着いてきたようで、ラバーの身体を持ち上げ、ツナグたちへ振り返る。
「……みなさま、今回は本当に……ボクのワガママを聞いてくれてありがとうございました」
シャルの礼の言葉に、キズナはすぐに「ワガママなんかじゃない、だよ! わたしたちだって、そうしたかったんだから!」と答えた。
赤く腫らしたシャルの瞳が、またほんのり潤む。
「みなさま、今日はどうか屋敷に泊まっていってください。腕によりをかけて、おいしいディナーを振る舞います」
『ディナー』という言葉に、キズナは目を光らせていた。
「でもその前に……博士をちゃんと眠らせてあげないと」
それからツナグたちは屋敷へと戻り、屋敷の庭へラバーを埋葬することにした。
木の板でできた簡易的な墓標を建て、みなで手を合わせる。
しばらくしてシャルは立ち上がり、ツナグたちへ言う。
「さて、ではディナーにいたしましょうか」
――今はもう、感傷には浸らない。
言葉を交わさずとも、その決意の空気でひとつになっていた。
◇
「クフゥ〜! あの白黒頭! 絶対に許さないっ!」
ラソソイは怒りを口にし、ドカドカと大きな足音を鳴らしながら、街の中を歩いていた。
あの特徴的な髪型である巻き髪も乱れ、洋服も所々端が解れていたり破けている。
すっかり、あのきれいに整えられたかわいらしい姿ではなくなっていた。
苛立ちが最頂点に達しているラソソイは適当に目をつけたレストランへ入るや、すでに席に座っている客に「邪魔よ!」と吐き捨て追い払い、テーブルの上に並べられた料理を払い除け、乱暴に着席する。
鳴り響く食器の割れる音に、慌てて飛び出してきた店員。
店員はラソソイをひと目見るなり、マーザーディティの末裔だと理解したのだろう。即座に腰を低くし、「どうなさいましたか?」と尋ねた。
ラソソイは思い切り舌打ちをし、
「どーしたもこーしたもねー! 飯食いに来たに決まってんだろうがよっ! とにかくここにあるメニュー全部持ってこい! 今すぐ!」
店員は恐れ入った様子で、「はいぃ! 直ちに!」と言って厨房へと消えていった。
ラソソイはテーブルの上に足を乗せ、またひとつ舌打ちをする。
「クソっ……アイツ本気でアタシを殺す気だった……もし〈瞬間転移魔法〉で逃げなけりゃ、アタシは今ごろ……」
ラソソイは「あー! ったく!」と声を荒らげ、
「今日はヤケ食いじゃー!!!」
と、店内いっぱいに響き渡るほどに叫んだのだった。