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転生の革命家  作者: みおゆ
第二章・屋敷の主とメイドの約束
52/111

2-23 マッドガク親子

「――〈クウ・トッ・ショウ〉!」


 ――時は現在へと戻り、シャルは怪物に掌底を打ち込んでいた。


 怪物は絶叫し、ガラスが割れるように肉片が剥がれ飛び散っていく。


 その内側から姿を現したのは――ラバーだ。


 シャルは、空中に放り出されたラバーの身体を抱きかかえ、そっと地面の上へ寝かす。


「……ああ、ワシは……」

「博士! 博士!」


 シャルはラバーの顔を両手で包み込んだ。


 割れたサングラスからは、ラバーの小さな瞳が覗いている。シャルはサングラスを外し、ラバーの瞳を真っ直ぐ見つめた。


「……シャル。すまなかった、ワシは――」

「博士、いいんです。ボク、知ってますから……博士の過去にあったこと」


 ラバーは目を見開き、悲しげに目を伏せた。


「――でも、博士はボクを救ってくれた。永遠に日陰で過ごすしかなかったはずのボクを、太陽の下へ連れ出してくれた。温かいごはんをくれた、お風呂にもいれてくれた、暖かいベッドの上で寝かせてくれた、学びをくれた――博士は、本来ボクが知るはずもなかった幸せを与えてくれた」


 シャルは込み上あがる衝動を必死で抑えながら、語りつづける。


「実験体の遺族からしたら、100パーセントあなたは悪人です。……だけど、ボクはやっぱりあなたが悪人だとは思えません。罪の裁量なんて……人の見方で変わるだけです」


「シャル……」と、ラバーは掠れ声を洩らしたが、それ以上話すことはもうままならなくなってきたのか、ただじっとシャルの言葉に耳を傾けている。


「……博士はボクのことを『大切な我が子』と、手紙で伝えてくれましたね」


 シャルはついに込み上げるものを抑えきれずに、目から大粒の涙を流した。


 少しでも気を緩めたら、話せなくなりそうだった。


 だからシャルは、より一層気を引き締め、自分なりに精いっぱいの笑顔をラバーへ向ける。



「最後までそばにいてくれて、ありがとうございます――お父さん」



 ラバーは幸せそうに笑った。シャルの言葉を聞き届けると、ラバーはすぅ……と息を洩らし、静かに眠ってしまった。


「……! お父さん……お父さん……!」


 シャルはラバーの胸に縋りつき、肩を震わせ大いに泣いた。


 冷たくなっていく体温に現実を思い知らされ、シャルはまた泣いた。腹の底からとめどなく悲しみが溢れ、しばらくは涙が止まりそうになかった。


 ツナグたち四人は、そんなシャルの背中を遠巻きから見守っていた。


「シャル……大丈夫かな……」


 心配そうにするキズナに、アムエは答える。


「今はそっとしてあげましょう。涙を流し切れば、きっと立ち直れますから」


 キズナは頷いて、そっとアムエに寄りかかった。


 一方、ツナグはただじっとその光景を眺めていた。


「……ツナグ、平気か?」


 ウィルはそんなツナグに何か感じたのか、そう尋ねてきた。

 ツナグはハッとした様子で、「……いや、平気……」と、曖昧な返答をした。


「そうか。なんだか思い詰めたような顔をしていたから、自分に罪悪感を感じることはないと伝えようと思ったのだが、杞憂だったか」

「……ありがとな。でも、本当に平気だぜ」


 ウィルは「……そうか」とだけ言って、少し離れた木の幹へ背をかけた。ウィルなりの配慮だろう。


 ツナグは改めてシャルの背中を見つめながら、ふと呟く。


「俺も親が死んで……ああやって泣いてたんだっけ……」


 それは、誰にも聞こえないくらいの小さな吐露だった。

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