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転生の革命家  作者: みおゆ
第二章・屋敷の主とメイドの約束
42/111

2-13 Over

 ――転生の間。


 そこは太陽の光は決して届くことのない、ひどく冷たい場所。


 奥へ奥へと一歩踏み入れるごとに、その冷たさは増していく。ヒトリとラバーは会話を交わすことなくただただその中を進み、転生の間のメインである転生台の前へと来たときに、静かに足を止めた。


 淡い青い光を放つ照明が転生台を囲うように設置されている。転生台はただの黒い石版でしかなかったが、ヒトリが手を翳すとそれは起動し、刻まれていた紋章が青白い光によって浮かび上がった。


「……では、こちらに」


 ヒトリは重々しい声音でラバーに告げると、ラバーはゆっくりとした足取りで転生台の上に立った。


「……あの黒髪の少年も、ここに現れたんじゃなぁ」

「ツナグくんのこと……ですか。わかってらしたんですね」

「ああ。長く生きてるとな、なんとなくわかるもんじゃ」


 ラバーは話しながら、転生台の上に立った。


「……ここは昔よりも、血なまぐさい臭いがするのお」

「……それだけ、犯罪者が増えているんですよ」


 ヒトリは槍を錬成し、ラバーも覚悟を決めたような顔つきに変わる。


「……では、さようなら」

「ああ」


 短い別れの言葉を交わし、ヒトリがラバーの首を落としに槍を振ろうとしたときだった。


「お姉ちゃーん!」

「ヒトリさん!」

「ヒトリ!」

「ヒトリさんっ!」


 ――と、四人の仲間の声を背に受け、動きを止めた。


 ヒトリが気を緩めたのと同時に、転生台は光を失う。


「……キズナ、それにみんなも、なぜここへ――」

「それよりもお姉ちゃん! 何しようとしてたの!?」


 キズナは声を張り上げ、ヒトリの声を遮った。

 キズナは槍を片手にしているヒトリを、鋭い眼光で睨みつけている。


「ひ……ヒトリさん、まさかとは思うけど、それでラバーさんを、こ、殺そうなんて……」


 ツナグは青い顔をさせながら、震えた声で問うてきた。


 ウィルはこの状況を悟ったか無言でヒトリを見据え、アムエも予想していたことだったのか、驚きを見せることはなかった。


「……今は依頼の遂行中だからねぇ、邪魔しないでもらえるかなぁ?」


 ヒトリは圧を込めてみなへ促した。

 四人は半歩後ろへ下がるが、それでもキズナはまた一歩前へ踏み込んで、声を荒らげてこの状況を問い詰める。


「依頼って……一体なんなの!? ラバーを転生の間(こんなところ)へ連れてきて、お姉ちゃんは何しようとしていたの!?」


 怒号とも取れる物言いだが、ヒトリは眉ひとつ変えることはない。


「何をしようって……そりゃあ、わかるだろうさぁ」


 だから、とヒトリは続ける。



「――早くこの場を去りなさい」



 ヒトリのひと声は、みなを退けるのに十分な力を持っていた。向かい風に押されるように、ジリジリと後退していくキズナたち。それだけ、ヒトリの言葉は相手の意思をねじ伏せ、服従させる重みがあった。


 だがしかし、それでも動かない人物が一人。


「ヒトリさん……教えてくれませんか」


 ――ツナグだ。


「どうしてこんなことをしようとしているのか、教えてくれませんか。俺……ラバーさんをただ殺されるのなんて見たくないッスよ」


 自身の力に一切怯むことのないツナグに、ヒトリは目を細めた。同時に、厄介という感情も抱く。


「彼が望むことを、わたしはするまでさぁ。依頼に私情は挟まない。わたしは彼の目指す場所へ導くまでさぁ」

「導くって……ウソだよ! あっちへ行きたいと思う人なんていない! 向こうにあるのは――」

「――キズナ、黙りなさい」


 キズナは身震いし、口を噤む。


「あとでしっかり話すから。今は時間がない、早く片をつけないと……」


 ヒトリはそこで、この場の外から誰かの気配を察知した。


「……勘がいいんだねぇ」


 開かれた鉄扉の先に立っていたのは、息を切らしているシャルだった。


「は……博士!」


 シャルは転生台に立つ博士を見つけるや、すぐに駆け寄ろうとした。だが、一歩手前でヒトリはそれを阻止する。


 シャルは憎らしげにヒトリを睨みつけた。


「どいてください。ボクは博士と屋敷へ帰るんです」

「それはダメさぁ。彼は帰せない。このまま、あっちの世界へ送り届けなくちゃあならないからねぇ」


 シャルは、とおせんぼうをするヒトリの横をすり抜け、ラバーの元へ近づこうとしたが、ヒトリに肩を捕まれ動きを止められてしまう。


「……離し……っ」


 シャルは一歩も動けない。いくら力のあるシャルといえども、やはり三大卿(さんだいきょう)の一人に立つヒトリには敵わないものがあった。


「……博士」


 ラバーは転生台の上ですっかり蹲ってしまっていた。呼吸する息は常に痰の絡む音がしており、非常に苦しそうにしている。


「……彼はもう助からない」


 ヒトリは無情に告げる。


「早く楽に逝かせて、彼の望む罰を受けさせなければならない」


 ラバーの身体は激しく震えだし、少しずつ服の内側に隠れていた寄生呪物が顔を見せはじめていた。


「――彼の選択は、尊重してあげなければならない」


 シャルは呆然とした眼差しで、ラバーを見つめていた。


「早く。もう時間が――」


 ――「ない」。そう言い切る前に、事は動き出してしまった。


「――ッ!」


 寄生呪物はラバーの腕にまで侵食し、それは目にも止まらぬ速さで、シャルの右肩を抉ったのだった。

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