表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の革命家  作者: みおゆ
第二章・屋敷の主とメイドの約束
30/111

2-1 救われた今と明かされた過去

「買い物行ってくるね!」


 キズナは元気よくそう言って、ウィルとアムエを連れて出かけて行った。


 家に残されたツナグとヒトリは、各々の時間を過ごしはじめる。


 ツナグは家の掃除に取りかかった。一方、ヒトリはリビングでのんびりとくつろいでいる。そのためツナグはリビングを後回しにし、ほかの部屋の掃除をひととおり済ませてくることにした。しばらくしてから、最後に再びリビングへと戻るが、まだヒトリはリビングのソファでだらしなく寝転んでいた。


 ツナグは小さくため息をついてから、「ヒトリさん、そろそろここらへんも掃除したいんで、自分の部屋行くとか……どいてください」と、注意した。


 ヒトリは身体を起こし、なぜかどくのではなくローテーブルの上に置いてあった空のカップを持ち上げ、ツナグに突き出した。


「ツナグくん、おかわり」

「いや、俺の話聞いてました?」


 ヒトリはまったくツナグの話を聞く気はないらしい。カップを持ったまま、「おーかーわーりー」と騒ぎ出した。


「自分でいれたらいいじゃないですか」

「いやだねぇ……ツナグくんのいれたやつがいい。そっちのほうがおいしいんだぁ」


 ツナグは呆れ交じりに息を吐き、カップを受け取った。


 新しくコーヒーを注ぎながら、ツナグは言う。


「コーヒーいれたらどいてくださいね」

「いやだ。わたしは今ここにいたい」

「ワガママか!」

「ワガママにもなるさぁ。だってさツナグくん、一応わたしって『三大卿(さんだいきょう)』の一人でもあるんだよぉ?」


 そう言われたツナグは、そういえばそうだったと内心思った。この人は世界三本の指に入るほどの強さを持っているのだと、改めて認識し直す。だがしかし、やはりこうも常に近くでともにする生活をしていると、ついそんな称号のこともどうでもよくなってしまうのだった。


「……ま、三大卿だからって(ウチ)じゃ関係ないッスよ。自分のことは自分でしてください……俺、今掃除中なンスから」


 ツナグは話しながら、ローテーブルの上にカップを置いた。豆の香ばしい香りが湯気に乗って、二人の間を流れていく。


「……ね、ツナグくん。リビングの掃除はいいからさぁ、いっしょにお茶しようよぉ」


 珍しく、上目遣いで誘うヒトリ。


「…………」


 いつもと雰囲気が異なり甘えてくるヒトリに、ツナグは少し緊張する。


「家の主がいいって言ってるんだし……ね? 実はね、キズナにも隠してる、おいしいお菓子もあるんだよぉ。いっしょに食べよーよぉ」


 ゴクリ、とツナグは唾を飲み込むとともに、そんな甘い言葉に釣られ、ついに首を縦に振ってしまうのだった。


 正直に言うと、コーヒーの香りのせいで掃除をする意欲も落ち着いてしまっていたのだ。




 ◇




 ローテーブルの上には、二人分のコーヒーと缶に入った菓子が置かれていた。


 菓子は、赤いいちごジャムの映えるロシアンクッキーだった。


 ツナグは、いかにも高級そうなそのクッキーを恐る恐る取り、ひと口かじる。


「……おいしい」

「だろぅ? わたしのヘソクリおやつさぁ。……たまに、国から仕事の報酬といっしょにもらうんだよ。つまり、血税の菓子折りってやつさぁ」

「なんて嫌な言い方を……」


 ヒトリは「事実だもーん」と言って、ケラケラと笑った。


 ツナグもつられて笑って、それから二人でまたお菓子を食べていると、ヒトリはふと視線を落とした。


「……あのさ、ツナグ」


 さきほどとは違い、落ち着いた声音のヒトリに、ツナグは菓子を食べる手を止め耳を傾ける。


 ヒトリは顔を上げ、ツナグを見て微笑むと、


「ありがとうねぇ」


 と、感謝の言葉を口にした。


 突然礼を言われたことに戸惑うツナグに、ヒトリは続けてこう話す。


「マーザーデイティの末裔を……チトモクを殴り飛ばしてくれたじゃないかぁ。あれさぁ、最初は度肝抜かれたけどねぇ、やっぱりうれしかったんだよ」

「で……でも……俺のせいで、俺ら全員指名手配犯ッスよ」

「革命家を名乗るのなら、いずれそうなる道だった。そんなことは些細な問題さぁ」


 ツナグは「さ……『些細な』って……」と、その堂々とした態度はやはり共感できなかった。


「――わたしじゃあ……それはできなかった。本当は、わたしがキズナのためにアイツを殴ってやりたかったけど……この世界の常識が邪魔して、その一歩が踏み出せなかった」


 一瞬だけ震えた唇から、ヒトリの悔やむ想いが垣間見える。


「ツナグくんがいてくれたおかげだよ。あれは、ツナグくんじゃなきゃあ、できなかった。ツナグくんがやってくれたから、わたしは囚われた常識から抜け出せた。それにキズナだって……過去のトラウマから、少し救われたみたいだしさ。……本当に感謝してる」


 ツナグは相槌をいれる代わりに、「過去のトラウマ?」と、聞き返した。


「昔、キズナになんかあったのか? ……そういえばキズナ、末裔のことを一番恐れていたような……」


 ツナグは聞くと、ヒトリはカップを手に取り、窓の外を見た。


「キズナがまだ……五歳かそこらのときだ」


 少し間を空けて、ヒトリは言う。



「――キズナの母は、マーザーデイティの末裔に殺されたんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ