1-18 踏み出した第一歩
「……え」
アムエは目を見開いた。
「……革命……ですか」
ゆっくりと慎重に確認を入れるアムエ。ヒトリは頷き、続けて説明する。
「わたしたちはこの世界を変えたい。ゆくゆくは、あの憎たらしいマーザーデイティの末裔を倒し、世界を根本から変えたいと考えている。みなが幸せで平和に暮らしていけるような、そんな世界に」
アムエはその話に興味を示しているようだった。だが、ヒトリはすかさず「――だが」と言葉を紡ぐ。
「我が革命軍――『ニューエゥラ軍』は、今や犯罪集団と化した。明日には手配書が全世界にばら撒かれることだろう」
ツナグは横で話を聞きながら「えっ!?」と目が飛び出してしまいそうなくらいに驚いた。国際指名手配にされることはモリヒトからも聞いていたが、明日にでもそうなるなんて、ツナグは考えてもいなかったからだ。
だが、ツナグは何も言えまい――犯罪集団となる原因を作ったのは、自分自身なのだから。
「……それでも着いてくるというのなら、わたしたちは歓迎しよう。君の力があれば、わたしはまた『革命』へ一歩近づける」
「…………っ」
アムエの額には、うっすらと汗が滲んでいた。
犯罪者となり世界を変えるか、今までどおり病気の人たちを助けつづけるか。
言い換えれば、問題の原因を潰すか、問題の表面だけをきれいにしつづけるか……やるべきことは明らかだが、背負うリスクは段違いだ。
アムエはしばらく悩んだのち、こう答えた。
「……わたくしアムエは――ニューエゥラ軍に入隊することを希望します」
ツナグたちは驚きと喜びの声を同時に上げた。
「……で、でも本当にいいのか!? アムエさんだって、末裔に狙われてしまうかもしれないッスよ!」
簡単に入隊すると言われることに対し気が引く思いが残っていたせいか、ツナグは席を立ちながらそう言った。
それを聞いたキズナとウィルも口々のこう言う。
「確かに! 仲間が増えるのはうれしいけど……めちゃくちゃ危険だね! 元々はツナグのせいだけど!」
「ツナグは心配をかけているようだが、狙われる原因を作ったのは君のせいだけどな」
「お前ら! あのときは喜んでくれたじゃねぇか! なんだよ、今になってその手のひら返し!」
最後のツナグのツッコミに対して、キズナとウィルはどこ吹く風だった。
アムエはそんな三人のやり取りを見て、クスクスとかわいらしく笑い声を立てた。
「ご心配ありがとうございます。……みなさまを見ていたら、そんなことも気にならなくなっちゃいました」
ツナグは若干照れながら、席に座り直す。
一旦場が落ち着いたところで、アムエはまた話しはじめた。
「実は……世界を変えたいという想いだけではなく、マーザーデイティの末裔を倒したい――正確には、失脚させたいという想いが、わたくしにもあるのです」
アムエは眉をひそめながら、話をつづける。
「あの方たちはあまりにも自分本位すぎます……マーザーデイティの末裔と名乗り、好き勝手傲慢に振る舞うのは、前々から気に食わなかったのです。そのせいで、不幸になる人々も多くいます。マーザーデイティは、そんなことをする方じゃありません。もちろん末裔も……そんなことをしませんし、人々が不幸になることも望んでいません」
ヒトリは「やけにハッキリ断言するねぇ……」と言うと、アムエは顔を上げ、胸に手を当てた。
「それは――わたくしこそが、本物のマーザーデイティの末裔だからです」
ツナグとキズナは「「えぇ〜〜〜ッ!?」」と声を揃えて驚いた。
「じゃ……じゃあ、アレってニセモノ……ってことなの!?」
キズナが聞くと、アムエは「……はい」と答えた。
「わたくしは今までずっと……そしてわたくしの前の世代からも、自分たちがマーザーデイティの末裔だなんて公言してきませんでした。そもそも、それを公言する必要もありませんし、公言したことが要因で、人々にいらぬ気遣いをさせてしまうと考えていたからです。ですが、そんな折りのことでした……彼らが――マーザーデイティの末裔と名乗る人たちが現れたのです」
「末裔が不在だということをいいように、その立場を利用しようとしたわけか」と、ウィルは呟いた。
「言ったもん勝ちってわけだねぇ……神の末裔だってのは。それができちまうくらい、奴らはふてぶてしいってことだねぇ……」
アムエは深く頷いた。
「マーザーデイティの末裔として……彼らの行動は許せません。犯罪者になってもいい……あなた方のような仲間がいるのなら、わたくしも立ち上がれます」
ヒトリは「じゃあ決まりだ」と言って、席を立ち、右手を差し出した。
アムエもヒトリに倣い席を立ち、その右手を取る。
ツナグ、キズナ、ウィルの三人も、その繋がれた手の上にそれぞれの右手を重ねていった。
ツナグたち四人は、アムエを見て言う。
「ようこそ――『ニューエゥラ軍』へ!」
アムエは決意を固めた表情で、「これから、どうぞよろしくお願いします」と、改めて入隊の意を口にした。
施療師、アムエ・クリスチャンセンが加わり、早くもニューエゥラ軍には五人の革命家が集った。
ツナグの放った〈革命拳〉は『革命』への小さなきっかけを作り、世界は新たな時代へ向けて動きはじめている。
しかし、まだ世界を変えるまでの道のりは長い。
ツナグたちはようやく、『革命』への第一歩を踏み出したばかりなのだから。