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転生の革命家  作者: みおゆ
第一章・革命軍は名を上げて
22/111

1-13 誰にも渡さない

 ――マーザーデイティの末裔。


 ツナグは以前、ヒトリとキズナからそれがどんな奴かは聞いていた。


 誰も逆らえないこの世界の支配者と聞いていたが、三大卿(さんだいきょう)と呼ばれるヒトリでさえ、冷や汗を浮かべているところを見るに、改めてこの存在というのがいかに大きなものであるかを実感する。


 マーザーデイティの末裔だという男は、ツナグよりも頭二つ分くらい背が小さく、おそらく150センチほどといったところだろうか。小太りで口周りにはうっすらとヒゲが生えていて、あまり清潔感があるとはいえなかった。ユラユラと揺れる大きなシッポに、頭には小さなキツネと似た耳が生えており、肩にはオウムのような鳥を乗せていた。鳥は目を瞑ったまま微動だにしないため、アレはただのファッションの一部なのだろうか。


 しかしこの風貌、全体的に印象がよいものとは、とてもいえない。


 その男の一歩後ろには護衛の人だろうか、この場にいる誰よりも背が高く体格のよい男がいた。


 ツナグは気づいた。きっと、天井が崩れだした際に見た影は、コイツらのものだったのだろうと。


 末裔の男はなぜか怒りの形相を浮かべると突然、キズナの頬を殴りつけた。


 あまりに突拍子もない展開に、ツナグは目を丸くする。


「――オニャエ! ワイのことを呼ぶときは末裔じゃなくて、ちゃんと『チトモク様』と呼べ! いっぺんでも言い間違えたら、処刑するンだ!」

「も……申し訳ありません、チトモク様!」


 キズナは膝をつき、深く頭を下げた。

 肩を震わせ、すっかり怯えきっている。


 どうやら末裔の男、チトモクという人物は、「マーザーデイティの末裔」と呼ばれたことが気に食わなかったらしい。


 ――異常だ、とツナグは思った。


 たったそれだけの理由で、いきなりキズナを殴りつけるなんて、どうかしている。


 許せない、と思った。


 しかし、この状況におかしいと声を上げる者はいない。ヒトリでさえ、自身の妹が殴られたというとに、何も言わずに黙って見ているだけだ。


 ツナグはそんなヒトリにさえ、少しばかりの怒りを覚えたが、誰も逆らえない相手だと話は聞いている。ツナグ自身は事情を深く知らないが、そのせいで動けないでいるヒトリたちを責めることは筋違いだと思い、今は拳を握り、ただ耐えた。


「ふん。わかればいいのだ! ……で、ニャんでオニャエらはこんなところにいるのだ?」


 チトモクの問いに、ヒトリはていねいな姿勢で答える。


「実はわたくしどもは、シブリッジタウンに蔓延する伝染病から町の人々を救うべく、万病に効くというこの黄金花(オウゴンバナ)をいただきに来たのです。病に効く薬を作るために、どうしてもその花が必要なのです、どうか花をちょうだいさせていただくことはできないでしょうか」


 チトモクは頷きながらヒトリの話を聞き終えると、「事情はわかっただ」と言い、口をへの字に曲げた。


「――でも、やらん。このハニャはワイのだからだ」

「……はぁ!?」


 ツナグは思わず声を上げてしまった。

 チトモクはすかさずツナグを睨みつけた。


「ニャんだ、文句あるのか!? ワイがこのハニャを先に見つけたんだ! このハニャはきれいだから、オデの家に飾るんだ!」

「で……でも、こんなにたくさんあるんだから、少しくらいは俺たちが持っていってもいいだろ!」

「やらん! 全部ワイのだ! ここにあるハニャは根こそぎ全部もらっていくだ!」


 チトモクは言って、なんとも下品な笑い声を立てた。


「それに、町の人がビョーキ? とか、ワイには関係ないだ! 死にそうなら勝手に死んでればいいンだ!」

「お……お前……!」


 キズナはツナグの腕を取り、首を横に振った。


「ダメだよ、ツナグ。……我慢して」

「で……でも、コイツ……!」


 チトモクは、「常識のニャいやつだ、ムカつくからオニャエは……」と、言いかけたところで、ふとキズナに目を留めた。


 チトモクは考え込むような仕草を見せ、しばらくして何か思いついたのか、いやらしく口角を上げると、ツナグたちにこんな提案を持ちかけた。


「いいだ。オニャエの失礼ニャ態度は許してやるだ。それに、ワイは優しいからこの黄金のハニャもやるとするだ」


 唐突な手のひら返しに、ツナグたちは目を見開いた。


 ツナグは一安心しかけるが、「――だが、条件があるだ」というチトモクのひとことによって、それは打ち消される。



「――その(おんニャ)をワイに差し出すだ! ワイはその子と結婚するだ!」



 その女――と言いながらチトモクが指差したのは、キズナだった。


「……え」と、明らかにキズナの顔が青ざめていくのが見て取れた。


「よく見たらニャかニャかわいい顔をしてるだ。ハニャよりこっちのほうがいいかもしれニャいだ」


 ツナグは「さっき殴ったクセして何言って……」と口に出したが、その言葉に被せるように、ヒトリが「待ってください!」と声を上げた。


「キズナ……妹はまだ15です。婚姻できる歳じゃありません……。この世界の法律で、婚姻できる年齢は18からと決まっております」


 ヒトリの言い分に、チトモクはこう言い返す。


「ニャら、今日から15からでも婚姻オッケーにするだ! これニャら問題ニャいだ! ニャ、ワイはこの(おんニャ)と結婚できてハッピー! オニャエらもハニャをもらえてハッピー! だろ? ンニャ!」


 ヒトリは下唇を噛んだ。


 ツナグは目の前の男を心底気持ち悪いと感じていた。


 傲慢で意地汚く、まさに自分を中心として世界が回っていると本気で思っているんじゃないかと疑ってしまうほどに、呆れてしまうレベルの人間性を持つ――こんな奴を永遠と許していていいのか? と、ツナグの中に疑問が生まれる。


 そんな心情の中、追い討ちをかけるようにある言葉が耳に飛び込んでくる。


「わ……わかり、ました」


 ツナグたちは一斉にキズナを見た。


 キズナは生気の抜けた眼差しで、チトモクを見つめていた。


「キズナ、何言って……?」


 ツナグは言うが、キズナの耳には届いていない。


「わたしが婚姻を結べば、黄金花(オウゴンバナ)は……」


 キズナは上目遣いでチトモクへ問う――キズナはおそらく、自分の身を差し出せば、町の人が救われると思って動こうとしている。


「――やるだ! ニャシシ! さぁ、こっちへ来い、(おんニャ)!」


 チトモクはそう答えたが、傍から見れば信用に値しない。だがしかし、キズナはチトモクの元へ歩もうと足を進めてしまう。その後ろ姿を、ツナグはただ――。



「――キズナはやらねぇ!!」



 ――その後ろ姿を、ツナグはただ見送るような人ではない。


 キズナは立ち止まり、振り向いた。


 ツナグはキズナの前に立ち、チトモクと向かい合って宣言する。


「キズナは絶対にやらねぇ! この黄金花(オウゴンバナ)だってやりはしねぇ! どっちも俺らには必要なもんだ! テメェみたいなオッサンに渡せねぇよ!」


 ツナグの叫びに、キズナは一瞬口元を緩めるも、一度固く唇を結んでから口を開く。


「ツナグ! わたしのことは構わないで!」

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