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転生の革命家  作者: みおゆ
第一章・革命軍は名を上げて
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1-7 ミッション・スタート

「……え? あれ? ……えぇ?」


 瞬間移動した先で、ツナグは寝ぼけた声を上げた。


 あまりにも一瞬だった――瞬間移動というのだから一瞬なのは当然なのだが、ヒトリの詠唱が聞こえたと思ったら、すでに移動は完了していた。あまりにも呆気なく終わり、何も感じることなく過ぎたため、ツナグは拍子抜けしてしまったのだ。


「さぁ、ここが依頼主の待つ『シブリッジタウン』さ。……ツナグくん、わたしの身体が心地いいのはわかるが、そろそろ離れたまえ」

「すっ、すみませんっ!」


 ツナグはヒトリから慌てて身を離した。言われてみれば、キズナもウィルもヒトリから離れ、シブリッジタウンを見渡していた。


 ヒトリから離れたツナグは、シブリッジタウンを一望する――「タウン」というからに、栄えた町の風景が待っているのかと思えば、それとは正反対だった。


 町はひどく寂れていた。老朽化が目立つ建物が点在しており、とてもライフラインが整っているような場所だとは思えない。


 さきほどいたセンターリーフ(がい)と比べると、まさに雲泥の差があった。


「……ここはこの国でも有名な貧民街さ。……昔は人々が賑わい活気ある町だったけどねぇ……。マーザーデイティの末裔による税金の取り立てに耐えられなくなって、今はこうなっちまったのさ」


 ヒトリの説明を聞きながら、ツナグはなんだか悔しさが込み上げてきて下唇を噛んだ。


「でも、これからだよ。わたしたち革命軍がこの国を変えることができれば、この町の人にもまた笑顔が戻るんだ!」


 キズナは明るく言って、ツナグを見た。落ち込んだツナグの心も、キズナの笑顔に救われる。


「そろそろ雑談もよいだろう。早く依頼主の元へ行くぞ」


 ウィルはそう言って、ツナグたちよりも先に歩き出した。残された三人もそんなウィルに続いて、町の奥へと歩みを進めた。


 歩みを進めるうち、人々の呻き声が聞こえてきた。


 何事かと、ツナグたちは声のするほうへ急ぐ。声の先では、半透明の青いテントの中で多くの人々が横並びに寝かされていた。


 老若男女問わず、大人から子供までもがそれぞれ苦悶の表情を浮かべている。


 そのテントの中ではそんな人々を看護をしている人らしき何人がおり、そのうちのひとりである白髪の女性がツナグたちに気づき、テントの外へと出てきた。


「あぁ! もしかしてあなた方がギルドの依頼を見て……!」


 女性はツナグたちの前で足を止め、薄い線で描かれた柔らかい(まなこ)をこちらに向けた。同時に女性は、ヒトリという存在に目を止めるや息を飲む。


「……まさか、あなたがここへいらっしゃるなんて、驚きです」

「あくまで依頼の受注者はキズナ(彼女)だからね、詳しくはこちらへ」


 ヒトリは話しながら、キズナの肩に手を置いた。キズナは「どうぞ、どうぞ! 頑張っちゃうよ!」と、胸を張る。


「承知しました。……まずはここまで足を運んでくださり、ありがとうございます。依頼書にも記載があったと思いますが、改めて自己紹介をさせていただきます」


 女性は一人ひとりと視線を合わせながら話していく。


「――わたくしの名前はアムエ・クリスチャンセンと申します。アムエとお呼びください。わたくしが頼みたいのは依頼書にありましたとおりです。アンデル迷宮に咲く『黄金花(オウゴンバナ)』を摘んできてほしいのです」


 女性――アムエは、テントの張られた場所を見やった。


「現在、この町では伝染病が蔓延っています。ここにはまともな医療機関もなく、現場にいた数名の医療関係者と協力して、なんとか延命処置をしている状況です。しかし、医療関係者(彼ら)もすでに伝染病にかかっており、わたくしの回復魔法でとりあえず動けている状況です。このまま無理を続ければ、彼らまでもが倒れてしまいます。……また、延命治療もいつまでも続くとは限りません。そう長くない間に……限界は来てしまいます。この伝染病を食い止め治すには、すべての病に効くという、黄金花(オウゴンバナ)が必要なのです。その花さえ手に入れば、薬を作ってみなさまを病から救い出せます」


 キズナは心配そうに、「ひとつ気になったんだけど……」と、口を開いた。


「あなたは大丈夫なの? 伝染病って言うからには、あなたも感染のリスクが……」


 アムエは一度小さく笑ってから、「問題ありません」と答える。


「わたくしは無効化魔法をかけてきたので問題ありません。それに、あのテントにはわたくしのバリア魔法がかけられています。病原菌はあのテントから外へは出ないようになっているのでご安心ください。……ふふ、自分の心配よりわたくしの心配をしてくれるなんて、あなたはとても優しいのですね」


 キズナは褒められたせいか、耳を赤くしていた。


「ふむ、事態は把握した。こうしてはいられない、早くその花を取りに行かねばならないな」


 ウィルに言葉に続き、ツナグはヒトリに向かって言う。


「ヒトリさん! こんなときこそ、さっきの〈瞬間転移魔法(テレポーテーション)〉を……!」


 ヒトリは静かに首を横に振った。


「……悪いけど、アレは一度訪れたことのある場所にしか使えないのさ。黄金花(オウゴンバナ)の咲く場所なんて行ったことも、そもそも場所すらちゃんとわかってないから、使えないんだよねぇ」


 なんでもかんでも自由に好きな場所へ行けるとは限らないのか、魔法というもの不便だ――とツナグは内心思った。


黄金花(オウゴンバナ)の咲くアンデル迷宮まではここから歩いて約一時間半……少々時間はかかりますが、道中は魔物が出ることなんてほとんどありませんし、平坦な道ばかりです。どうかよろしくお願いします」


 アムエはそう言って、頭を下げた。


「よぉし! そうと決まればアルデン迷宮へ出発、進行〜!」


 と、キズナは右腕を力強く上げ鼓舞したところで、「あ」と何か思いついたうな顔をした。


「せっかく革命軍のメンバーも集まってきて活動が本格的になってきたわけだし……ここは何か、任務(ミッション)を始める前に何かひと声ほしいところだねっ」


 ウィルは「そんなことを急に今……どうでもよいだろう」と、心底めんどうそうな表情を浮かべたが、キズナはお構いなしに、「よし! 決めた!」と言って、ツナグたちに向き直ってこう叫ぶ。



「――さぁ、革命の時間だよっ!」



 どうやらこれが、キズナなりの決めゼリフとなったらしい。

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