1-6 異世界ならではの移動手段
ツナグたちは正式に依頼を受注し、外で待つヒトリの元へ移動した。
「お姉ちゃーん! 依頼見つけてきたよ!」
誰よりも早く、キズナは姉であるヒトリの元へ駆け寄り、依頼書を見せた。
「ふむふむ。今回はおつかいか……初めてツナグくんといっしょにやるには、ちょうどいい案件かもねぇ……と、感想を言ったところで、君は?」
ヒトリはウィルのほうへ視線を向けた。ウィルは一歩前へ出て、胸を張り口を開く。
「ウィリアム・ロングフェローだ。今日から君たちの仲間になった、よろしく頼む。……まさかここで三大卿と呼ばれる一人とお目にかかるとは、光栄だ」
「ウィリアム、ねぇ……」
ヒトリは一瞬、目を細めた。
「わたしはそういう形式的な挨拶は好まない。肩書きなんて気にせず、関わってくれて構わないよ」
「わかった。では、こちらもフランクに対応させていただく」
二人の会話を聞きながら、ツナグはキズナに耳打ちする。
「……なぁ、三大卿が強いのはわかってるけど、やっぱりその分えらかったりするのか?」
「まあ一応、政府から直々に仕事を請け負ったりしてるからね……立場的には政府直属の部下みたいな感じ? だし……」
「……なるほどな」
ツナグは改めてヒトリの立場の大きさについて感じた。
「まさか昨日今日で一気に二人の仲間と巡り会えるとは思わなかったが、きっとこれも何かの縁だろうさぁ。さぁ、新メンバーで初任務と行こうじゃないかぁ」
ヒトリの合図で、ツナグたちは現場へと向かうことになった。
街の外へと出たところで、ツナグはこんなことを聞く。
「聞きたいんだけど、依頼主の待つ……えっと、『シブリッジタウン』って、ここからどのくらいなんだ?」
「うーん。歩いたら、二時間は軽くかかるねぇ……」
「に、二時間!?」
あまりにもかかりすぎると、ツナグは驚きの声を上げた。
ヒトリはツナグの反応が面白かったのか、楽しそうに笑った。
「ま、あくまでそれは歩いたらの話さ。別の手段なら――一瞬さぁ」
ヒトリは言うや、地面に直径二メートルほどの魔法陣を作り出した。
ツナグは非現実的な演出に、目を光らせる。
ヒトリは魔法陣の中心に立つと、「さ、みんなわたしの周りに来て抱きつきなさいなぁ」と言った。
キズナが真っ先にヒトリの真正面から抱きつき、続いてウィルもキズナに倣ってヒトリに抱きつく。
「ふむ。三大卿に抱きつくなんて、滅多にないな」
ウィルは呟き、ツナグを見た。
「早く君も来ないか。三大卿の魔力をムダに消費させるな」
「ウィリアムくん、わたしのことは肩書きで呼ばず、名前で呼びたまえよ」
二人の会話を尻目にツナグは恐る恐るヒトリの背から抱きつく。
女性に抱きつくなんて、昨日のキズナとの抱擁の件があれど、やはりまだツナグは緊張を感じていた。
「ずいぶんと顔が赤いな、ツナグ。この程度のスキンシップで欲情するとは、まさか君、童貞か?」
「なに真顔で変なこと言ってくれるんだよ! うるせぇよ、お前は!!」
ヒトリはウィルとツナグなやり取りを見て微笑ましくしながら、「さぁ、振り落とされないように注意しな」と声をかけた。
ヒトリは息を吸い、パンと音を鳴らし両手を合わせた。
「――〈瞬間転移魔法〉」
次の瞬間、その場から四人の姿は跡形もなく消え去った。