1-4 いざ、ギルドへ!
薄暗い部屋に一筋の光が差し込む。光を感じたツナグはゆっくりと目を開け、身体を起こした。
目の前に広がるのは、見慣れない洋風に作られた空間。ふかふかのベッドから降り、カーテンを開け窓の外を見ると、清々しい青空と輝く草原が一面に広がっていた。
自分が今まで生きてきた土地とはまるで違う風景の中に、ツナグはいる。
「……夢……なんてことはなかったか」
ツナグは改めて、自身が異世界へ来てしまった事実に直面しつつも、ベッドへと戻り、慣れた手つきでベッドメイキングを済ました。
少々だらしないが、着替えはないのでスウェット姿のまま階段を降り、キッチンへと向かう。
革命軍の雑務係として、今日からこの家の家事はすべてツナグに任されている。まずやることは朝食作りだ。
ツナグは最初にざっとキッチンを一望する。物や道具をひととおり見る限り、どうやら料理に使用する家電 (この世界では家電と称するのか不明だが、説明上『家電』とさせていただく)は、デザインや使い方も、ほぼツナグの元いた世界と同じようだ。
大きな木製の棚が冷蔵庫だろうと睨んだツナグは試しにそれを開けてみる。中には、色とりどりの食材があった。昨日の部屋の惨状を見るに、あまり冷蔵庫に食材を用意しないタイプかと思っていたが、そうでもないようだ。
「……よし、久しぶりに料理でもするか」
ツナグは朝食の準備へ取りかかりはじめた。
朝食の用意もほとんど終えたころ、ヒトリが帰ってきた。ツナグよりも早く起き、外へ出かけていたようだ。
「うーんいい匂い。朝からありがとうねぇ」
ヒトリは言って、ツナグの横に近づき覗き込む。
ちょうど目玉焼きを皿に盛りつけようとしていたツナグはその距離に緊張してしまうが、改めて料理に集中する。
「ヒトリさん、こんな早くからどこか出かけてたンスか?」
「うん。転生の間にちょっくら、ね。今日は早かったんだぁ。……あと、それともうひとつ用事があってね」
「……用事?」
ヒトリは持っていたカバンから何かを取り出しながら、ツナグから少し離れた位置に立ち、それを広げてみせた。
ヒトリがカバンから取り出したのは――洋服だ。
緑色がベースの落ち着いた色味に、胸元にはアクセントとして赤い模様が入っている。生地がやわらかいことは見るだけでもわかるゆえ、動きやすい服装であることは確かだ。
「ツナグくん、服、それしかないだろう? よかったらこれ着るといいさぁ」
「マジッスか……あざす!」
ヒトリは「もちろんスボンもあるからねぇ」と言いつつ、洋服一式をツナグへ渡した。
ツナグは大事にそれを受け取りながら、出かけるときは必ずこれを着ようと決めた。
「さぁて、朝ごはんでも食べようかねぇ。さぁツナグくん、さっさと用意したまえ」
「はいはい。……あ、キズナも呼んでこないと……」
「おはよ〜。なんだか朝からいい匂いなんだよ〜……わ! めっちゃ豪華なごはんが!?」
タイミングよく、キズナもリビングへやって来た。
寝癖をつけたままキズナは席につき、ツナグへ笑みを向ける。それは、早く朝食を食べさせろと言わんばかりだ。
ツナグは全員分の朝食をテーブルの上に並べ、席につく。互いに目配せをしてから、三人は同時に手を合わせた。
「「「いただきます!」」」
◇
ツナグたちは朝食を終え、ギルドへと向かっていた。
もちろん、ツナグはヒトリからもらった洋服を着て外へ出かけている。
「おっしごと、おっしごと、は〜じめ〜るぞ〜。ウキウキルンルン、ギルドへゴ〜♪」
「……あれ、なんなんスか?」
「キズナオリジナルのお仕事出勤ソングさぁ。気分がいいと、ああやって歌うんだよ」
歌を口ずさみながらスキップするキズナの一歩後ろで、ツナグとヒトリは横並びに歩きながら会話をしていた。
やがて少しずつあたりが活気出してきたころ、大きな街が見えてきた。
あの街こそが、話に聞いたセンターリーフ街だろう。
「ここが例の街さぁ。すぐそこに大樹があるだろう。あれがギルドさ」
街へ入りつつ、ヒトリはそう説明した。
街の中心には雲を突き抜けるくらいの大樹が生えており、大樹を囲むように様々な商店が栄えていた。
大樹の前まで来ると、その迫力はさらに増す。幹には大樹の大きさに比例することなく、通常サイズの扉がついていた。
「あ、わたしは外で待ってるよぉ。三大卿がギルドへ来たってなったら、文句言われてめんどうだからねぇ」
そんなわけで、ヒトリを外で待たせ、ツナグとキズナでギルドの中へ入ることになった。
キズナが扉を開けると、果たして、そこにはギルドの光景が広がっていた。まずはいくつかの窓口があり、ベンチなどが並べられたフリースペースもあった。壁に付けられたコルクボードには、何枚もの紙が張り出されていた。
ギルドでは、仕事を求めて来ているであろう、それは様々な種族の――人々で賑わっていた。
「す、すげぇ……幹の中がこんなに……!」
「千年樹を利用して作ったんだって! すごいよねっ!」
異世界での千年樹は、ツナグが元いた世界に生える木と成長スピードが段違いのようだ。
「じゃ、今日はどんな依頼があるか見てみよっか」
キズナに手を引かれ、ツナグはコルクボードの前へ移動する。
「どんなのがいいかな〜……」
コルクボードに張り出された紙を見るに、ギルドへ集まった依頼の数々なのだろう。キズナが依頼書を眺めている横で、ツナグもいっしょにそれらを見上げた。
依頼書は、約三メートル四方のボードを埋めつくしている。日々これだけ困っている人がいるのだと、ツナグは依頼書を通して知った。
そのとき、ふとツナグ視界に金色の何かがチラついた。
右隣を見ると、そこには自分と同い歳くらいの腰に剣を携えた金髪の青年が、眉間に皺を寄せながらコルクボードを見上げていた。
この人も依頼を受けに来たのか、とツナグは思いながら改めて依頼書を見ようとしたとき、青年が不意にこちらを見たため、目が合ってしまう。
ツナグは気まずくなり、軽く会釈してから目を逸らすと、青年から「おい、そこの君」と声をかけられた。
何事かとツナグは青年へ視線を向けると、青年は続けてこう言った。
「僕はギルドで仕事を受けたいのだが、実は初めてでね、よくわからない。だから君、やり方を教えろ。ついでに、僕の傘下に入れてやる」