1-3 一員としての決意
休憩も一段落したところで、ヒトリはこう言う。
「今日はのんびりと過ごすことにして、明日はセンターリーフ街へ出かけるとするかねぇ。ギルドで依頼を受けに行くんだ」
「お……おぉ。なんかいよいよ異世界っぽくなってきた……!」
「『異世界っぽく』ってよくわかんないけど、ツナグが楽しそうなら何より、だよ!」
キズナの笑顔にツナグは照れた笑みを返しつつも、革命家としての二人の活動を聞いてみることにした。
「普段はそのギルドってところで依頼を受けて、困り事を解決しているって感じなのか?」
「そうだよ! 本当は遠くの国まで助けに行きたいところだけど、わたしたち二人しかいないし……。まずは自分の住んでいる地域から、少しずつ困り事が減っていけばいいなって、ギルドで依頼を受けているの!」
「依頼の受発注以外にも、仕事探しで訪れる人もいるし、まあギルドはいろんな種類の求人屋さんみたいなもんかねぇ」
ギルドについて教えてもらったツナグは、元いた世界でいう「ハローワーク」みたいなものかと解釈し、納得した。
「ま、ギルドでいくら依頼を受けて解決していっても、全然案件は減らないんだけどね……むしろ、増えていくばかりだよ」
「昔と比べて治安はどんどん悪くなってきているからねぇ……しかたないねぇ……」
姉妹は揃ってため息をついた。二人が今まで、どれほどの案件をこなしてきたかが伝わってくる。
「三大卿って呼ばれるヒトリさんがいても、やっぱり案件をどんどん解決していくのは大変なんだなぁ……」
ツナグは呟くと、ヒトリが「それは違う」と否定した。
「三大卿はギルドで案件は受けられない。案件をこなすのが簡単すぎて、独占しちまうからねぇ。それと、一般の職で金銭を得るのが法律で禁止されちまってる。あくまでわたしの収入源は、政府からの給付だけさ」
「え? じゃあ……」
「わたしがギルドで受注して、お姉ちゃんといっしょに案件をこなしてきてたんだ。ちょっとグレーなやり方だけどね。でも、一人が受けられる案件は一日最大三つまで。そんなペースだからさ、革命を起こすぞー! なんて言いつつ、そんなに進められてないんだよねっ」
テヘッとキズナは最後に舌を出してウィンクした。ツナグは内心、そのかわいさに悶えていた。
「まあさっきも話したように、今は地道にコツコツと善行を積んでいくしかないのさぁ。……さて、ギルドについてはまた実際に行ってから話そう。今日はゆっくりと休むといい……ツナグもこの世界へ来ちまって疲れたろう。……キズナ、ツナグを部屋に案内してやってくれ。一部屋余っていたはずさぁ」
キズナは「わかったよ!」と言って、ツナグの手を引き立ち上がる。
「ちょっ、キズナ!?」
ツナグもキズナにつられてソファから腰を上げ、引っ張られるがままに部屋を移動しはじめた。
二階へと上がり、とある扉の前でキズナは足を止めた。
「部屋はねー、ここだよ!」
キズナが扉を開けると、そこにはキングサイズのベッド、ドレッサーやクローゼットなど……ひととおりの家具が揃えられた部屋があった。
まるで、以前そこに誰かが住んでいたかのようだ。
「これは……」
「この部屋はね、元々お父さんとお母さんがいたところなの! ……今はいないから、ツナグがここ、使って」
気丈に話すキズナだったが、語尾に少しだけ悲しみが滲んでいた。
この言い方だと、もしかするとキズナたちの両親は……と、ツナグが思いかけたところで、先回りして答えるようにキズナは言う。
「お父さんとお母さん、もういないんだぁ。……数年前にその、亡くなっちゃって。……でも、もう大丈夫だよ! 天国から見守ってくれてるって、ちゃんとわかってるから」
キズナは笑って言ってくれた。
ツナグはキズナの強さに憧れると同時に心配になった。
きっと、本音は寂しい思いなどもしているに違いない。それでも、こんな会ったばかりの一介の青年に優しくしてくれるのだ。
「……俺も、両親はいないんだ」
「……え?」
気づけば、ツナグも自身の身の上を口に出していた。
「去年、病気で亡くしてさ……。俺、兄弟もいないから、ひとりぼっちになっちまってたんだ」
「…………」
「だから今、なんとなくこうして家族……じゃないけど、革命軍の一員になって、誰かと過ごせることに、ちょっと安心してる」
「……ツナグ」
ツナグは我に返り、「お、俺何言ってるんだろうな!?」と、慌てて弁明しようとしたが、不意にキズナに抱きつかれ、その先の言葉は喉の奥に引っ込んでしまった。
「キズナ……?」
「えへ、いいよ。これから少しずつ、本当の家族になっていこうね」
「……!」
――どうして、自分なんかに。
そう思いつつもうれしくて、この温かさが心地よくて、こんなに素直に受け入れられるなんて初めてで。
ツナグは改めて、そんな心優しいキズナとヒトリのためにも働かなくちゃならないと、強く思った。
そのとき、何か鋭い視線を感じツナグは顔を上げる。
視線の先には、廊下の角からこちらを睨みつけている、ヒトリの姿があった。
「……ツナグくぅん……?」
「あ! いや、これは誤解で……!」
ヒトリの手に槍が召喚される。
次の瞬間、ツナグはヒトリの槍による制裁を受け、家にはツナグの悲鳴がこだまするのだった。