4-29 革命の約束
その日の夜。
ニューエゥラ軍の根城ともいえるアイリス宅にて、みなが寝静まっている中、ツナグはヒトリだけを呼び出し、リビングで二人ソファに腰掛けていた。
「いきなり呼び出してどうしたんだい、ツナグくん。明日は朝から転生の間で仕事だからねぇ、早く眠りたいんだけれど」
ヒトリはわざとらしく、大きくあくびをした。
ツナグは「……すみません」と前置きしてから、話を始める。
「……今日のこと、本当はもっといい結末があったんじゃないかって、ずっと考えちゃって」
「……というと?」
「……ドールがラソソイから提示された第三の選択肢を選ぶことなく、かつチトモクの許嫁の件も突き返して、戦争も止められるような……そんな結末があったんじゃないかなって」
ヒトリは首を横に振り、こう返す。
「さすがにそんな欲張りな展開は無理さぁ。そんな都合よく、現実はうまくいかない」
「でも、俺に力があれば……この〈革命拳〉って力がもっと強ければ、あのモリヒトって奴も吹き飛ばして、末裔もまとめて説き伏せることもできたかもしれない」
「たられば論なんて今話しても遅いさぁ。……それに、わたしはこれでよかったと思ってるよ」
「……よかった、ですか」
「ああ。ドールにとっても、あれでよかったんだ。わたしはあれを罪だと思わない。当然の結果だと思うねぇ」
ツナグはまだ腑に落ちないと感じる気持ちもあったが――しかし、いくら語っても過ぎたことであると思い直し、その場で無理矢理納得することにした。
「……で、話はそれだけかい?」
ヒトリに聞かれ、一度目を逸らすツナグ。
「わたしは、別のことで呼ばれたんじゃないかって思ってるんだけどねぇ」
見透かしたようなヒトリの物言いに、ツナグは観念しつつ、本題を口にする。
「……あのことが、気になって」
「うん?」
「ヒトリさんは、それこそ転生の間の管理人じゃないッスか。だから……俺の前世のこと、よく知ってるのかなって」
「……」
「俺はその、今は前世のことまるで覚えてなくて。あのとき……ラソソイの話を聞いているとき、前世のことを思い出しかけたんスけど、どうもまた思い出せなくなっていて……」
――『ここへ転生する条件はただひとつ――『前世で罪を犯して、死んだ者』よ』。
ラソソイの発言が、ツナグの脳内をぐるぐるの巡る。
――『ああ、罪というのも、窃盗とか、公然わいせつとか、そんなんじゃない――人殺しの大罪あってだ』
その言葉がツナグの心に、重く重くのしかかる。
「……俺、何してここへ来たのかなって」
「……」
「俺、本当は革命家なんて名乗って、世界を救う資格なんて、ないんじゃないかって……」
「……」
「……ヒトリさん。俺は、前世で何をして、なんで死んだんですか」
「……」
ヒトリは足元に目を落としつつ、口を開く。
「……それを知って、ツナグくんはどうするんだい?」
「……それは、別に……」
「……。まあ、わたしから言えるのはこれだけさぁ」
ヒトリは席を立ち、言う。
「君は、凶悪犯罪者なんかの類じゃないってことさ」
ヒトリはそう言って、微笑む。
「気に病むことはない。君は今、この世界で生きているんだから、前世の行いなんて関係ない。どうかその力を卑下しないでくれ。その力は、世界を変えるためにある」
ヒトリは、右手を差し出した。
「いずれ来る日で、わたしと世界に革命を起こそう」
ツナグは自身の右手を見つめ――意を決したかかのように、その手でヒトリの手を握り返した。