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転生の革命家  作者: みおゆ
第四章・自由を願う姫君
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4-28 あなたに出会えてよかった

「は、ハンスに足が生えていますわー!」


 ドールは大声を上げ、ハンスの足をまじまじの眺める。


「あ……足ですわ。わわ、ワタクシとおんなじ……!」


 ドールはオロオロしながらも、ぺたぺたとハンスの素足を触る。

 ハンスは恥ずかしそうに、そしてくすぐったそうにしていたが、ドールはお構いなしだ。


 そうこうしていると、ドールの大声を聞きつけた人魚たちがぞろぞろと現れはじめた。


 続々と集まる人々を前に、ますます顔を赤くするハンス。


 集まり出す群衆の中から一人の人魚――初め、ツナグたちにハンスの居所を教えてくれた彼女だ――が、ハンスのそばまで泳いでくると、呆気に取られつつも、ただ無言でハンスを抱き締めた。


「……うん、とにかく無事でよかった」


 彼女は言うと、パッと顔を上げ、周囲に睨みを利かせた。


「ほら! そうやってジロジロ見るんじゃなよ、変態ども! どいた、どいた! ハンスに新しい服を用意しなくっちゃ!」


 彼女の声を皮切りに、一斉に人魚たちは動き出すのだった。




 ◇




 事は一旦落ち着き、ツナグたちはハンスの自宅に集合していた。


 半袖と半ズボンの姿に着替えたハンスは、ツナグたちの前に立つと、深々と頭を下げた。


「ニューエゥラ軍のみんな。今日のことは、本当にありがとう」


 その隣に立つドールも、いっしょになって礼をした。


「ワタクシからもお礼を申し上げますわ。あなた方はワタクシをハンスに会わせてくれただけでなく、それ以上のことをしてくださいました。このお礼は、必ずさせていただきたく存じますわ」


「いいや、そんなのいいのさぁ……って言いたいところだけれど、思えば、我が家の家計が大ピンチだったことからはじまったことだし……ここは、ありがたく甘えるとするかねぇ」


 ヒトリはハハハと呑気に笑った。

 ドールも笑みを返してから、ふと考え込むような仕草を取り、言う。


「……それにしても、あの末裔様は何を考えてハンスを人に変えたのでしょう」


 ドールはハンスに視線を向ける。


「でも、ワタクシは……正直、今とてもうれしいですわ――ハンスがワタクシと同じ姿になってくれて。これからハンスとともに、お父様とお母様のいない……カカトウ国で暮らせることを」


 ドールは伏せ目がちに胸中を吐露する。


「結局、カカトウ国に縛られる形となって、本当に自由になったとは言えないかもしれませんが……ワタクシは隣にハンスがいてくれるだけで、それで十分ですわ」


 ドールはハンスの左手を取り、ハンスもそっとその手を握り返した。


「つってもハンスはさー、いきなり王宮入りってことだろ? 大丈夫なのかよ」


 パエルの純朴な問いに、ハンスは微笑みつつも答える。


「本当のことをいえば、不安なことだらけさ。なんせボクは、今までただの一般人だったんだから。……でも、ドールがいてくれるから平気さ」


 そうして見つめ合うドールとハンス。まるで二人の間にはハートが飛び交っているようだった。


「お熱いですね」

「ええ、アツアツです」


 シャルとアムエは口々にそう呟いた。


「フン、見てられんな。もうすべての事も済んだだろう。僕らはそろそろ帰らせてもらうぞ」


 ウィルは言うと、ドールは一歩前に出て、「ちょっとお待ちくださいまし」とウィルを引き止めた。


 ウィルは怪訝そうにドールを一瞥すると、ドールは胸に手を当て、話す。


「こうして、カカトウ国の女王になりましたから、言わせていただきますわ」


「……なんだ?」


「何かあれば、カカトウ国は協力しますわよ」


「……余計なお世話だ」


 ウィルは言うと、ドールに背を向ける。


「君はただ第一に、国民のことだけを思え」


 ウィルは言って、誰よりも先にハンスの家を出た。


「なになにっ? なんの話し?」


 キズナは首を傾げるが、「さて、帰るよキズナー」とヒトリは言って、キズナの腕を引き、家を出ていく。


「えー、もうちょっと人魚の街で遊びたい、だよ!」


「ダメさぁ、観光に来たわけでもないしねぇ。……それに、ここへ来るとき入口を壊しただろう? わたしらに目が向く前に、さっさとトンズラしないとねぇ」


「うーん、言われてみればそうかも、だよ」


 キズナは諦めた様子で、そのままずるずるとヒトリに引きずられていく。

 ほかのみなもそんな二人に続いて家を出ていき、最後にツナグが家を出ようとしたときだった。


「ツナグ。感謝いたしますわ」


 とドールに言われ、ツナグはゆっくりと振り向く。


「……感謝って……?」

「ワタクシのことを想って、あの末裔様に意見してくれたことです」


「ラソソイに……か?」とツナグは言うと、ドールは頷く。


「あなたは、相手が末裔様だというのにも関わらず、ちゃんと真っ向から否定してくれた」


「……そんなことねぇよ」


「いいえ。末裔様の行為に……ワタクシの取った選択に、あなたは怒りを示してくれた。ワタクシはそのおかげで、自分を戒めることができますわ」


 ドールは話を続ける。


「あなたと出会って、ワタクシの人生は革命的に変わりましたわ。これからの道は、ワタクシが自分の力で歩んでいきます」


 ドールはツナグの手を取り、真っ直ぐと見つめる。


「ツナグ。あなたに出会えてよかったですわ」


 ドールは微笑む。


 続いて、ハンスもその手に自身の手を重ね、ツナグを見つめ、目を細める。


「…………」


 ツナグは、しばらくそんな二人の顔を見つめ返したのち、


「……二人とも、幸せにな」


 その言葉だけを残して、この場をあとにしたのだった。

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