4-22 前世への問いかけ(3)
深々と、ラソソイの問いがツナグの胸に食い込む。
「お……俺は……」
ツナグは誰を殺したか。
「……俺は、前世で――」
何人だったか、そもそもツナグは、人を殺しているのか。
「……俺はあの日、自分家にいて……何をしたあと、家にいた……?」
記憶の蓋が、徐々に開く感覚。
ツナグは必死に閉めようとする。咄嗟に無意識にそうしようとする自分は、まるでやましいことを、しっかりと自覚しているようで。
「……認めなよ、ツナグ。一回受け入れちゃえば、結構楽だよ?」
微笑むラソソイ。ツナグはその笑みに釣られ、記憶を吐き出そうと口を開く――。
「――おしゃべりはここまでだ」
――だが、その前世は語られることはなかった。
ツナグとラソソイの間を分断するは、鋭く光る槍。
槍の持ち主へと視線を辿らせれば――怒りを滲ませた、ヒトリの姿があった。
「ラソソイ。わたしのツナグくんに何をしようとしていた?」
ラソソイは、ピクリと片方の眉を釣りあげた。
「……はぁ? 別に何もしてないですけど。つーか何? 『わたしの』って。彼氏気取りかよ」
「……ラソソイ」
「……チッ」
ラソソイは猫のように跳躍し、ヒトリから距離を取る。
「あーあ、邪魔が入っちゃったぁ♡ また今度会ったとき、話聞かせてね♡」
ラソソイは最後にそう言い残すと、〈瞬間転移魔法〉を使用し、姿を消した。
ツナグはヒトリを見上げると、ヒトリはそっとツナグに微笑みかけた。
「さぁ、ドールとハンスを連れてココノッチュラ小国へ帰ろうかぁ、ツナグくん」
ヒトリに言われ、ツナグはその二人を見た。二人は気絶したまま、まだ目を覚ましそうにない。
「……あ、ああ! アムエさんに治療してもらわなねぇと……二人とも、傷がひどくて……!」
「……でも、ツナグくんは二人を護りきったんだ。すごいことだよ、ツナグくん」
護りきった――そうとは思えないツナグは、罪悪感から目を伏せる。
護りきれたなんて、とんでもない。
ラソソイの助けがなければ、おそらく全滅していたはずだ。
「……俺は……まだまだ弱いです」
「そんなことないさぁ。ツナグくんは確実に成長しているよ。いつかツナグくんは、世界を変える存在になり得るんだから」
ヒトリはそう話しながら、ハンスを抱える。
「ツナグくんは、ドールをよろしく」
ヒトリに言われ、ツナグは「……はい」と返事をしながら、ドールの身体をそっと抱きかかえた。
「あの……ココノッチュラ小国は、無事なんですか?」
「うん。みんなも活躍してくれたし、そもそもあんな衛兵の軍、三大卿の敵じゃないってヤツさぁ」
「さすがヒトリさんですね」
「……ああ」
ヒトリは「じゃあ、帰るよ」と言い、足元に魔法陣を展開させた。
「……〈瞬間転移魔法〉」
ヒトリたちは、その場から姿を消した。
その後、異変に気づいた何人かの衛兵たちがこの場へ現れ、気絶したパペッティアの姿を見たみなは、大慌てで対応をはじめるのだった。