4-21 前世への問いかけ(2)
「……え?」
「こうグサッと包丁で! こう何度もやられたの! 一発じゃ逝けないから、アレはマジしんどかったぁ〜♡」
ラソソイは話しながら、何度も包丁を突き立てるような動作をして見せた。
ツナグはその衝撃の事実に、返す言葉も見つからない。
「……んでさ、気づいたら転生の間にいたの。目の前に大きな男の人がいて……アタシ、怖かった。でもその人は、優しくアタシを保護してくれて……」
「……男の人?」
「……うん。ミーユっていう……まあ、それでそのあといろいろあって、アタシはマーザーデイティの末裔の一人になったの」
「いろいろって……?」
「そこは別にいいでしょ。アタシの前世とは関係ない話だもん」
「……」
その『いろいろ』の点も気になるツナグだったが、今は引き下がることにした。それよりも転生者であるラソソイの前世の話を聞いたほうが、自分がなぜ、この世界に来れたのかを知れるかもしれない。
「……あ。でもこれだけは言っておくか。そーゆーわけだから、実際アタシたち末裔は『家族』としてつるんでるけど、お互い血の繋がりはないから。なんとなく、アタシたちは引かれあって集まった感じなの」
「そこは、俺たちニューエゥラ軍と同じような感じか」
「……あら、アンタらもそんな感じなのね」
そこで話が途切れたあと、先に切り出したのはツナグだった。
「……どうして、ラソソイは母親なんかに殺されたんだ?」
「……」
ラソソイは悲しげに目を伏せた。
「……前世で、アタシは母親とふたり暮らしだった。片親世帯ってヤツね」
「……」
「でさ、アタシのお母さん……よく男を連れ込んでて……アタシさ、その男によく……」
ラソソイは言葉を区切り、一度あの王のほうへ視線を向けた。
「……まあ、察してよ。本当……クソみたいな毎日だったわ」
――『……あの子もアタシと同じだったのが、嫌だっただけ』
ツナグはさきほどのラソソイの呟きを思い出しながら、ラソソイの話の続きを聞く。
「……ある日さぁ。アタシ、ついに我慢できなくなって、近くにあった酒瓶で男の頭を殴ったことがあったの。当たりどころが悪かったのか、男はすぐに動かなくなってさ」
ラソソイは自身の右手に視線を落とす。
「……そのタイミングで、母親は帰ってきた。アタシはすぐ、お母さんに助けを求めようとした。でも……お母さん、発狂しだして。……そのときに、こう言い放ったの」
そのとき、ラソソイがツナグに向けた表情は、当時の母親の形相が乗り移っているのかと思わされるようなものだった。
「――『あたしの彼氏に何してくれたの!!?』……って」
ラソソイは乾いた笑いを交えながら、話を続ける。
「お母さん……アタシのことなんにも心配してくれなかった。お母さんすごく怒って、キッチンから包丁を持ってきて、アタシのこと刺したの」
「……そ、そんな……」
「……ああ、そういえば。アタシも何か反撃しないとって思って、手当り次第その辺にあるものを投げつけたりはしたんだよね……途中で、お母さんが倒れ込むのが見えたけど、お母さんが最後どうなったのかは、ちゃんと確認できてないや。その前に、アタシが事切れちゃったから」
「……でも、今ならわかるなぁ」と、ラソソイは不気味に語る。
「――アタシ、あのときお母さんも殺しちゃったんだよ。だからこそ、アタシはこの力を手に入れている」
ラソソイはそう言い、パコダ傘を優しく撫でた。
ツナグは何も言えず、ほんの少し、ラソソイから退くのみ。
「……以上が、アタシの前世の話。じゃあ、今度はツナグの番ね」
ラソソイに促されたツナグは、自分自身のことを語る前に、ある引っかかった部分について問いかけた。
「なぁ……『だからこそ、この力を手に入れている』ってどういう意味だ……? 確かさ、前世の行いが、力の強さを決めているって……」
「そうよ。前世の行い――正確には、前世で犯した罪の重さで力の強さが決まる。そもそも、この異世界に転生する条件があるのは知ってる? ……ま、その感じだと知らないのよね」
ラソソイは不敵に笑い、その条件を口にする。
「何も、ただ死んだら無条件にここへ来るわけじゃない。ここへ転生する条件はただひとつ――『前世で罪を犯して、死んだ者』よ。ああ、罪というのも、窃盗とか、公然わいせつとか、そんなんじゃない――人殺しの大罪あってだ」
「……ひ、人を……」
「……なあツナグ、教えてくれよ」
ラソソイはツナグの顔を覗き込み、その質問を口にする。
「お前は何人――誰を殺した?」