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099:

王都に到着して一日ゆっくりとした時間を過ごした翌日に、わたしたちは学園へ向かう。一緒に行くのは両親とお兄様。さすがにお祖母様もとはいかないので、また来ます、王都のこともいろいろと聞きたいので、と何度も言って手を握ってお別れをした。馬車に乗り込み、学園までの道をガタゴトと進んでいく。振り返れば見えなくなるまで手を振っているお祖母様の姿があって、見えるかどうかはともかくわたしも窓越しに手を振ってみたりした。

いわゆる貴族街から学園までとなると、王都のほぼ中央にある王城の前をぐるりと回って行くことになる。この国の王城はヨーロッパのお城と言われてすぐに思い浮かぶような豪華な作りというよりも、王宮、宮殿と言った方が似合うような作りをしている。時代がたぶんそっちよりなんだろうなあという感じ。そこまで背も高くないし塔がたくさんとか窓がたくさんとかそんなんではない。

王都の構造としては分厚い城壁に囲まれた旧市街地と呼ばれている場所が古くからある城塞都市部分で、その中で一段上がった丘陵部にそこまで大きくはない城壁で囲んで王宮があるって感じなのかな。それで城砦都市部分の周辺に集まってきた人々が住みだして、今の新市街地を形成し、この旧新両都市部と王城を併せて王都ということになっている。

セルバ家の王都邸は王城の南西側にあって、学園に行くにはその前を通り過ぎてそのまま旧市街地を抜けて北へ出る必要があるっていう形になっている。学園は旧市街地の北東部分にくっつく形になっているのだ。

この学園がまた分厚い石壁で囲まれていてね。どうも本来は旧王都の衛星っぽい形で隣接して作られた別の宮殿らしくって、近づいても壁ばかりで施設が見えてこないのよね。

「あの壁の向こうなのですよね? こうして見ていても何も分からないですね」

「そうだよ。今の王都は旧市街、新市街、軍施設、学園の4つで構成されているようなものだからね。旧市街の城壁からならよく見えるらしいけれど、僕らは登れないから」

「外から見ることはできないのですね。元が宮殿なら見た目もいいでしょうし、ちょっと残念ですね」

「宮殿だったのは最初の頃に作られた一部だけで、途中からは軍の訓練施設になって、軍がもっと広い場所に移転してからは学園用に作り替えられてというように聞いたけれど」ほーん。そういう資料はさすがに家にはなかったので勉強になります。

そのままお兄様の説明を聞いていると、どうも旧市街地を拡張するように城壁が最初にできて、中に宮殿が作られ始めたけれど途中で建設が止まって、その建物は今は学園の本部というのかな、事務局だとか職員室だとか偉い人の部屋だとかが入っているみたい。軍の施設になってから追加されたのが今もある集会場だとか訓練場だとか宿舎だとか馬場だとか。それから学園に模様替えになって教室棟だとか生徒用の寮だとかが追加されたと。なるほど。軍の訓練用の施設なら生徒が訓練にも使えるだろうし、城壁に囲まれていて貴族の子弟だとかを守るにも好都合だったということだね。

説明を聞いている間にも馬車は新市街地の密集した建物の間をガタゴトと進み続け、分厚い城壁へたどり着く。門の前で警備の兵士に証明書を見せて、それからいよいよ学園の内部へ。城壁をくぐったところで一気に周囲が開けて奥の建物が見えてくる。おー、やっぱり建物自体はそこまで大きなものではないね。うん、作りは王宮と同じような宮殿風。その向こう側にようやく背の高い建物があって、それが新しく作られた教室だとかの学園に必要な施設が入ったものになるのだそうだ。いくつもあるらしいけれど、詳しいことは案内があるから大丈夫だってさ。

馬車はそのまま宮殿風の建物の前に着けられて、わたしたちはそこで降りることになる。お父様とお母様は事務局の職員さんだとか、あと教員をしていたり役員をしていたりする偉い人だとか、入学式に来ているこちらも偉い人たちにわたしが来たからよろしくというあいさつ回りをするそうで、わたしはお兄様と一緒に学園の職員さんに連れられて学生寮の1年生用の棟へ。回廊がぐるっとあって、そこを歩いてずっと奥へ進んでいくと、学園の施設があれこれ建っている区画があって、そこで今度は回廊を曲がって中庭を右側に見ながらさらに進む。それでようやく学生寮に到着。これ、作りは単純だから油断しがちだけれども、普段人任せにしているような人だとか、方向感覚が相当に怪しい人は迷うだろうねえ。聞いてみたところ地図は作られていないみない。これは安全のためにわざとそうしているっていうことだけど、当然のように迷う人はいるそうな。一応入学式の後に校内を案内してくれる時間は取ってあるという話だったし、わたしはマッピング機能でどうにでもなるけれども、迷う人はやっぱり出るのだろうなあ。


さて、自室へ到着しましたよ。寮は複数の棟で構成されていて、男女の別と貴族市民の別だね、それが共有スペースでつながっている形。男女の別は管理人室のある共有スペースでしか接点がないのはやっぱり問題が起きないようにの配慮かな。貴族市民の別は棟の1階の共有スペースに接点がある。これは逆に問題が起きてもいいから交流してほしいのではないかな。生徒の部屋は2階と3階。わたしの部屋は貴族用スペースの2階部分、その奥の方でした。3階はもっと格の高い家の人たちみたいだね。

お兄様は寮の建物が別なのもあって、寮の入り口でお別れ。普段は学園の門も完全に閉ざされていて、用があっても通用口からしか出入りできず、それも厳重に管理されていて安全が保たれているという建前。寮内に立ち入れるのもその寮で暮らしている生徒だけ。ということで貴族の子供が一人でうろうろしていても大丈夫なようになっている。

さて、その肝心の部屋の中は、と。うん、普通ね。普通の中流貴族向けの部屋。くつろぐ用のテーブルとソファ、学習用の机もあって、姿見があって、クローゼットがあって、うん。お金を積めば家具を入れ替えたり追加したりも可能らしい。一応ね、この部屋で5年間過ごすことになるので、お父様もお母様も学園御用達の家具屋さんにお願いして新品をそろえてくれた。様式は全部実家の自室と同じ感じだね。ここで払い下げられた以前の生徒が使っていた古い家具は、一般家庭から入学するような生徒にお安く売られたりするっていう話。中古家具の方が断然安いし、その割には貴族が使っていたものだったりで物はいいからね。

窓からの眺めはさすがに貴族用の部屋から石壁しか見えませんなんてことはなくて、学園の外壁との間の広い空間を庭園として整備したらしい場所が見えている。花壇があって木も植わっていて、遊歩道みたいに整備された小道もあって、良いのではないでしょうか。2階だから散歩している人と目が合うなんてこともないしね。

今日の予定としては、この後入学の式典がある。講堂に1年生と両親だとかの参列者が集まって校長先生や来賓のあいさつを聞くというどこにでもあるあれだ。時間になったら寮内で鐘が鳴るので集合場所、まあ寮のラウンジなのだけれど、そこに集まるようにと言われていて、それまでにはまだ時間がある。となるとやることは一つだ。


『やりますか』


やりましょう。とりあえずこの部屋を押さえて、それから寮内へ拡張していく予定。問題なさそうならさらにそこから学園内に手を広げていこう。できれば優先的にあの事務棟? 本部棟? 言い方が分からないけれどあそこと、教員が資料を置いておくような部屋、図書館といきたい。最終的には安全のためにも全域押さえたいけれどね。


『そうですね。今後の安全を考えますと教室や訓練場は絶対ということになりますし、当然日常生活を送る場所もということになります。やはり全域の確保が目標ということで良いでしょう』


よっし、そうしたらどこに設置するのがいいかな。部屋にあっておかしくないもの。違和感のないもの。部屋に入った人が目を付けるようなことのないもの。こうして考えると2号ちゃんの鉢植えっていいアイデアだったな。うーん、同じパターンも芸がない。とはいえ。まあ仮のものってことでそこまで難しく考える必要はないのだけれど。よし、サイドテーブルに置いておく小物入れにしておこう。


『準備はよろしいですか?』


よろしいです。それではいきましょう。

ベッド脇に設置されたサイドテーブルの上にいつの間にか置かれていた小物入れ。簡素な作りだけれど箱の横はぐるりと植物の模様が彫られていてなかなかにかわいらしい。手に取って蓋を開けても中にはまだ何も入っていない。

そっとサイドテーブルの上に置き直したら蓋を閉めて、そしてその蓋に手を乗せる。

わたしの中の用意してあったダンジョンコア、さあ、この箱がそうだよ。すうっと指先を通して暖かいものが箱の中へと流れ込んでいく感触がある。


【ダンジョン:王都学園が誕生しました】


わたしにだけ聞こえる声がそう告げる。

ここに王都の学園を支配するための準備が完成した。いつもどおり呼び方はひとまず4号ちゃんとしておきましょう。これからよろしくね。

『はい。よろしくお願いします』

おっと何やら応えてもらってしまいましたよ。このパターンは初めてね?


『さすがに今回でもう4回目ですからね。事前に準備してあるダンジョンコアには教育を施していますから』


なーに、そんなことしているの?

変なこと教えていないでしょうね。


『変なこととは? これまでのダンジョン運営の情報などを共有していますから効率は良くなっていますよ』


まあいいでしょう。今日はこれから入学式だし、さすがにわたしもあまりこっちのことを考えている余裕はないだろうから、後のことはよろしくね。


『お任せください。この部屋は何の問題もなくダンジョン化し、そして名称も王都学園で通ったということは恐らく学園全域を対象とした拡張にも問題はないと思われます。絶対ではありませんから注意は怠らず、予定どおり段階的に拡張していきます』


うん、よろしくね。学園内にダンジョンを察知するような機能があったり、そういう能力を持った教員だとか生徒だとかいたらまずいからね。寮だけなら即座に解除して知らぬ存ぜぬでいいけれど、拡張中に関知されるのはめんどくさい。時間はあるのだし慌てる必要はないのだ。一つずつ行こう。

お、鐘がなった。ではわたしは入学式へ行くとしましょうか。

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