表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/154

098:

お祖母ちゃんていう言葉から受けるイメージとは違って、マノンお祖母様はとても若い。当然と言えば当然なのだけれど、今の時代、今の社会情勢がそうさせるのだろう、結婚が早いのだ。結果マノンお祖母様は50代、いって60前後かな、そんな年齢。お祖父様はわたしが生まれる前に流行病で亡くなったそうで、それ以来、お祖母様が1人でこの王都邸を守っているのだとか。ポーションだとか魔法だとかがある世界で流行病とは、と思うけれど、どうやらそういうもので直せる病気と、いわゆる人がかかる死ぬような病気というものは判定が違うらしい。もちろん病気用のポーション、薬品もあるにはあるけれど、かかった病気に対して効果があるかどうかは賭けになるのかも。もっともうちのダンジョンで産出されたエリクサーがあるのでね、あれはあらゆる症状に効くという評判なので、果たして。まあそれはどうでもいい話なのよ。重要なのはこのマノンお祖母様が、叔母様言うところのいい家の出なせいで、考え方が古い、固いという話で、この王都邸に常にいるのでわたしが関わることもそれなりにあるだろうということで、関係をどう作っていくかという問題なのよね。

「さあ中に入って。私一人だから広い家ではないけれど今日くらいはくつろいでいってちょうだい」

そう言って案内してくれた建物は決して小さくなどない。当然だね。何と言っても領地持ちの子爵家の王都邸なのだから、小さいわけにはいかないのだ。以前はお祖父様もいたのだし、それなりににぎやかだったようだけれど、さすがにお祖母様一人でここを全部使うということもなく、今使っているのは一部で、他は掃除が入るだけみたい。わたしはここへ来るのは初めてなので、実家は普通の屋敷っぽい作りなのに対して、ここは見た目を重視した華麗な作りになっているので興味深くてきょろきょろしてしまう。

「そんなに珍しい?」

「そうですね、家と全然違いますし、わたしがいた別宅もまた違いますし。奇麗ですね」

「そう? こういう白壁だとか飾り彫りだとか、当時の流行だったらしいのだけれど」

ほーん。あれね、何となく察してはいたけれど、やっぱり全体にローマっぽいのよね。当時の流行っていうは誰かが持ち込んだものなのかな。言語も気候も何だったら植生だとかもイタリア風だし、ワイン作りが盛んだったりするし。それに石畳の街道だったり、公衆浴場だとか大浴場だとかがあったり、どうしてもそう感じてしまう。ローマスキーさんが転生だかしてきて作ったっぽい雰囲気があるのよ。まあそれはいいでしょう。良くできていると思う、そういうお話でおしまい。

それからわたしは2階にある客間の一つ、1人用の部屋に案内してもらった。両親はいつも王都に来たときに使うっていう別の部屋に荷物を運び込んでいる。わたしは明日にはすぐ学園に行くので荷ほどきはせず、今日必要な分だけを出しておくだけ。部屋の外にはメイドさんが待機していてくれるので、うーん、何もしないのもあれね、とりあえず飲む用のお水をお願いして、と。おっとお手洗いの場所を聞いていないぞ、それもあとで聞いておこう。


『ここまでのマッピングは終了しています。ここはダンジョンとして確保しないということでよいのですよね?』


そね。今は必要性を感じないし。あんまり王都の中央近い場所にダンジョンを作ってしまうのもね。


『察せられてしまう危険性は捨てきれませんし、しばらくは様子見ですね。それと報告になります。先ほど冒険者が7階に入りました』


お、ようやく来たわね。まあここまでの道中、視察だなんだでまったく動きがなくてぜーんぜん面白くならなかったものね。本当、ようやくよね。


『はい。何一つ見所がありません。視察などダイジェスト版を作る価値もありませんでした。あえて見るとしても16倍速か32倍速で飛ばしてしまうくらいで十分です』


この時間に7階に入ったっていうことは、今日はたぶん階段を見つけて終わりよね。面白くなりそうなところがあったらそこだけあとで教えてね。

さ、メイドさんが戻ってきたからお水とコップはここに置いておいて、一口飲んで、と。ではお手洗いの場所を聞いて、一応着いてきてもらおうかな。お、やっぱりここはちゃんと水洗だわ。丘の上になるんだけどここまで水を引いているのかな、すごいね。上下水道がちゃんと分かれているっていう話だし、さすが王都。さて、一息ついたところでお父様とお母様の部屋まで案内してもらいましょう。


お父様とお母様の部屋はわたしが借りた部屋の2、3倍は広くて、荷物を広げてそれを片付けているところだった。この王都邸のお手伝いさんたちも勝手知ったるなのか、特に指示を受けなくてもさくさくと荷物を整理していて、お父様もお母様も自分の手元に置いておきたいものを身近なところに出すだけみたい。わたしがすることも特にないのでそのままイスに座って待機ですよ。

そうこうするうちにお兄様の到着の連絡が届く。学園に許可をもらって今日は一緒にお泊まりをして、明日一緒に学園へっていう予定なのだ。

「やあ、ステラ、元気そうだね」

「お兄様も。学園のお話を聞きたかったので良かったです」

「うん。こういう時は簡単に許可が出るものだからね、明日は一緒に行けるよ」

やはり弟妹だとかの学園入学に合わせて外出許可を取る生徒というのは多いらしくて、お兄様もご多分に漏れずということみたい。事務室に申請書を出して? 担当の教官だとか管理官だとかのハンコをもらって? になるのね。で、お兄様はわたしの入学の話を通してあったみたいで簡単に許可が出たと、そういうことね。

さて、では全員そろったので1階に下りて早めの夕食のお時間です。お茶の時間にするにはちょっと遅いしね、この時間から夕食、それからお茶とお茶請けとでゆっくりたっぷり時間を取ってお話をしましょうと、そういう流れね。


階下ではお手伝いさんではなくお祖母様が出迎えてくれて、それから一緒に食堂へ。わたしはこちらへと案内されたお祖母様の向かいの席。隣にお兄様。その隣にお母様。お祖母様の隣にお父様ね。

出される食事は基本的には家で出るのと一緒ね。ただ食材がやっぱり王都だけあってちょっと変わってくる。何しろ家の場合は地元産の食材で全てまかなえる勢いなのでね。王都の場合は他の州の食材なんかも普通に流通しているのでそういうものも使われるようだ。学園は食堂だっていう話だけれど、やっぱりこんな感じなのかな。あ、わたしはワインではなくブドウジュースになりましたよ。ふむ。王都となればちょっといいワインなんかもあるでしょうし、飲んでみたかったわね。

みんな席についたところで食事の開始。給仕の人が出してくれるものを食べていきますよ。でもまずはジュースをちびり。うむ。あまい、ちょっとしぶーい。

「本当はもっと会いに行きたかったのだけれど、ごめんなさいね。私がここを離れるとなると中央にいくつも許可を取らなければならいし、大変で」

食事も進んで、一息入れられるかなというところでお祖母様が切り出す。

「やっぱりそういうことがあるのですね。いつでしたか、誕生日の時に一度来られて、それ以来ですよね?」

「そうね。せめて5歳の時だとか、行きたかったのだけれど‥‥聞いてもいいのかしら」

「どうぞ、わたしは何も気にしませんよ」

それは気になるよねえ。絶賛引きこもり中でそのまま一歩も出ないかもと思っていた孫娘が学園に行こうってんだもの。お父様、お母様にも事前に聞いてあったのかな、お父様がちらりとこちらを見たけれど、特に何も言わない。

「私の家は男爵家とはいえ古い家系で、どうしてもしきたりだとか、格式だとかにこだわるところがあって、私もそういうものだと思ってきたのだけれど。あなたのことを聞いてとても心配したのよ。家からも問う内容の手紙が来たりしたのよ。破り捨ててしまったけれど‥‥」

「――そうですねえ。教会の司祭様が言ってしまったらしくてあっという間に広がりましたしね。わたしは隠すつもりもありませんから、本当のことだと答えてしまっても構わないのです。えっとですね、言ってしまうと、わたしは特に気にしていません。あれから5年です。分かったことがいろいろとあるのです。書記スキルがなくても文章は書けるし、算術スキルがなくても計算はできるし、剣術スキルがなくても剣は振れるのです。だいたいのことは自分でどうにでもできるのですよ」

ほお、みたいな表情でお祖母様がわたしを見る。

お父様は満足そうな表情をしているし、隣のお兄様がうんうんとうなずくのが分かる。

ダンジョンマスターのスキルとかは関係ない。クラスやスキルに依存した技は使えなくてもそれ以外のことなら何だってできるのだ。考えることは自前の脳みそでできることだし、走ったり剣を振ったりとかそういうことは単に体を動かすだけのことだ。誰にだってできることなのだ。

学園の授業内容だって調べた限りでは特に問題にもならないだろうと思う。クラス、スキルに依存した授業だけはどうしようもないけれど、そんなのは他の誰にだって当てはまることだ。学術系スキルしか持たない人に戦技系のスキルの授業を受けさせたって何もできないだろう? そういうことだ。わたしは何に対しても専門家にはなれないけれど、その一歩手前までならできるだろうと考えている。何の問題もない。

「そう、そうなのね。でも困ったことがあったら何でも頼って? 私はここにいますからね、いくらでも頼ってもらって大丈夫よ」

「はい。ありがとうございます。せっかくですし、それ以外の時でも寄らせてもらいます。王都まで来たのですから見たいものとかもありますし」

それはそう。せっかくの王都だものね、観光したいぞ。

それからは王都の見所の話を聞いたり、最近の流行を聞いたり、お兄様が今の学園の様子を話してくれたりと和やかに時間が過ぎていった。


叔母様から厳しめの話を聞いていたお祖母様だけれど、何というか、思っていたよりも普通の人だった。実家からの手紙を破り捨てたという辺りで、おや、とは思ったのだけれど、わたしに対してはとても心配してくれていたみたいだ。うん。もっと早く交流を持っても良かったのかもしれない。やっぱり叔母様の評価は当時のもので、今のお祖母様の評価ではないし、そしてお祖母ちゃんが孫に甘くならないわけがないというのは今も昔も変わらないわけで、うん、普通の人、という評価でいいと思う。これなら今後も頼ってしまっていいのではないかな。


『今後王都を見て回るにしてもこの場所を拠点とできます。もうしばらく様子を見てからになるでしょうが、ダンジョンの説明をできればノッテとの往復の際に使わせてもらえるようにもなるでしょう』


そうなのよねえ。絶対ノッテとこことを往復することになるんだし、何日かかかるような時に学園の寮で引きこもっていますは使いにくいものね。


『はい。日帰りであれば寮の部屋でも良いのでしょうが、10階のことを考えますとやはりイベント戦の前後は数日必要になりますから。今後もそういったことはあり得ます』


寮の自室がどういったものかがまだ想像もできないから、必要なものを全部そこに用意できるかどうかが分からない。お兄様に聞いた限りでは自室の自治権は完全に確保できそうではあるけれど、保険としてこの王都邸を使えるといいなとは思う。学園生活の話だとか、たぶんお父様お母様からも聞いてはいるだろうけれど、ノッテでの生活の話だとかを手土産にお祖母様と親しくなっていきましょう。

そんな感じで王都に到着しての一日目は過ぎていった。結構遅くまでおしゃべりしてしまったけれど、明日学園に行くのはお昼ごろで十分だということなのでこれでいいのだろう。お父様もお母様もお兄様も、もちろんお祖母様も楽しそうに過ごせていたので良かったと思う。

あ、ちなみにダンジョンの本日の状況はやっぱり8階への階段を見つけたところで終了になっていた。グレイ・ウーズを始めとした装備にダメージを与える系があまり効果を発揮しなかったり、せっかく用意しておいたゴブリンの本気が見てもらえなかったりと残念な結果だったので特に言うことはない。ダイジェスト版がものすごく短かった時点で察せられてしまったので、報告だけ聞いておしまいにしましたよ。残念。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ