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096:地下7階報告

ダンジョンを出るとまだ外は明るく、入り口の前にはなぜかアドルフォと、そしてモニカともう1人、少し偉そうな様子の男性が立っていた。

「おう、お疲れ。って、おいそれ、」

「わ、わ、グリフォンじゃないですか、何階です? 7階? うわ、すごい、大きい」

大好評である。高い山、崖などに巣を作り馬や牛を襲って食べる獰猛な魔物ではあるが、この辺りでは見かけること自体ほとんどないのだ。

一緒に立っていた男性が呆然とした顔でこちらを見ている。

「ごめんなさい、ちょっと運ぶの手伝ってもらえるかしら。魔法が切れそうだわ」

「あ、ごめんなさい。すぐに」

モニカが慌てて出張所へ戻り、すぐに人手を集めて駆けつけた。

クリストも重かった前足を降ろすと肩を回す。

「ついでにこいつも頼む。魔石と、あとは成果は宝石と魔道具らしいものが2つだな」

荷物を全て渡すと全員で出張所へ戻り、一休みしたところでお互いに報告となるのだが、先ほど一緒にいた男性の姿は見当たらなかった。

「なあ、さっきの、あいつは誰だ? あれか?」

「あれだ。本部から来た査察官だな。鑑定結果を見てびびったのか支部まで1人で先に戻ったよ」

「マジかよ、何しに来たんだよ」

「知るか。所詮下っ端だったってことだな。最初は偉そうだったわりにグリフォンを見てからは完全に腰が引けていたからな。本物には勝てなかったってことだ」

「まあそうなるか。はあ、このダンジョンはすごすぎるぜ」

「そんなにか? その言い方だとグリフォン以外にも何かあったな?」

「まあな、だがまずは結果を聞いておこうか」

モニカが鑑定の結果をまとめたものを手渡す。

倒した魔物、回収された宝石、魔道具2つの鑑定結果だ。

魔道具は2つ。オーブ・オブ・タイムは手に持っている間、屋外が今は朝なのか昼なのか夕方なのか夜なのかを知ることができるというもので、個人的に欲しいくらいに価値がある。屋内に閉じこもるタイプの仕事人間とか、その仕事人間の近くにいる人とか、あとは単純に引きこもりの人が持っていて、ざっくりとした時間を知るのに使うといいと思う。

もう1つのワンド・オブ・スマイルズは人型生物1体を1分間笑顔にすることができるというもの。何が何でも笑顔を作らないといけない場面で使うといいと思うよ。1分笑顔が作れたらあとはきっと何とかなる。

ギルドに引き渡す成果としてはこれで全部なのだけれど、当然もう1つあるわけで。

「これで今回は全部だな。それで? まだあるんだろう?」

「ああ。見るだけだぞ。この鑑定結果も俺たちが持っていく」

バッグを手元に出し、鑑定結果を見せる。その効果は言うまでもなかった。

「なあ、これは‥‥マジか?」

「マジだな。な、すげーよな」

バッグも鑑定結果もそのまま後ろのカリーナに渡す。これはこれからの探索で活躍することがもう分かっていて、そして鑑定結果も持って行ってしまうので、次が見つかるまでは存在自体が夢物語に戻るのだ。

「これが7階で出ますか。これはもう何が何でも10階へ、地下世界へ行かないとですよ」

「そうだな。ダンジョンでは物が出るだけかもしれないが、地下世界にはこいつを作る方法があるかもしれないってことだ。行かないとなあ」

「伝説の魔物に伝説の魔道具か、すげーな。はあ、でだ、さっきのあいつが今支部に行ったのは本部に助けを求めたんだろう。誰かもっとましな奴が来る。早ければ明日。でなければ明後日ってところだ。協力を頼む」

「そうだな。会っちまったのも縁のうちだ。仕方がない、やるさ」

この後本部から査察官が来て支部の、出張所の仕事ぶりを見て、ダンジョンを視察することになるのだろう。目の前の本物を見ればそれがどういうものかなどすぐに分かる。それからまた本部から今度は役員が来て、というように繰り返していくのだ。探索はひとまずここまでということになり、しばらくは査察だ視察だに協力していくことになる。その後はまた国の中央からの調査だ視察だが来るのだ。

残念ながらそれまでは一休みということのようだった。


─────────────────────────


「ちょっとステラ、あなた荷物がまったくまとまっていないじゃないの。ダンジョンはいいから、ほら早く片付けて」

声を掛けられてダンジョンを見ていた意識を目の前に戻す。そこには空のカバンと入れられるのを待つばかりの荷物が散乱しているのだ。

これは全て学園に行くための荷作り。

今日中に荷物を作っておいて、明日には実家に行って置きっぱなしになっている服とかも詰めて、なぜかおしゃれ着に着替えて、明後日にはミルトを通ってキノットまで行って一泊。次の日も途中まで行ってまた一泊。その次の日に王都邸に到着するという日程になっている。

要するに明日にはわたしの学園行きが始まるということですね。

荷物なんて2号ちゃんに1号ちゃんのところへ送ってもらえば家でも整理できるし、何だったら学園でダンジョンを作ってから送ってもらえばいいのでは、なんて言ったら怒られてしまった。

学園の寮まで持ち込む荷物になるのだからちゃんとやれって。まあね、中身を見られることはないだろうとは思うけれど、それくらいできないのはだめだと言われたらそれはそう。仕方がないわね、頑張って詰めますか。

下着、部屋着、寝間着、枕、こういうものは今使っているものをそのまま持っていくから詰めるでしょ。それからハンカチ、タオル、歯ブラシ、爪切り、筆記用具だとか詰めるでしょ。この空いたところに明日着替えを詰めればいいかしら。教科書とか辞書とかノートとかは学園で新しいものになるそうなので用意はなし。

あとはなんだっけ、ハンガーとかは個人個人の部屋にクローゼットがあるからいらないって言っていたし、あー、自分用の食器も少し入れておこうかな。部屋で使う用ね。食事は食堂だって言っていたけれど、部屋でこっそり軽食をっていうことはあるだろうしね。うーん、見直してみたけれど、こんなところでいいかしらね。

うんうん、これならカバンの中を見られても変なことはないでしょう。

「どれ、ああ、大丈夫そうね。そうね、空いているところは着替えね、よしよし」

叔母様がさっと覗いてまたどこかへ行った。今日は叔母様もキアラさんもまったく落ち着きがない。学園に行くのはわたしなのだから緊張するのはわたしだけでいいはずなのだけれど、だめっぽい。


『もう明日からですか。早かったですね』


そうね。結局ここまで進めたいと思っていたところまでたどり着くことができずに学園行きの日が来てしまった。

事故があったり6階でわちゃわちゃしたりが原因なのでまあ自業自得なのだけれど、やっぱり実際にやってみないと現実は見えてこない。何事も計画通りにはいかないものなのだと知ることができたということで、よしとしましょうか。


『冒険者たちもちょうど7階から戻ってきたタイミングでギルドの査察に入るようですし、切りが良かったとみるべきでしょう。しばらくは査察だ視察だで探索どころではないでしょうから、ちょうど良かったのです』


仕方がないわねえ。査察も視察もどうでもいいけれど、やらないわけにはいかないでしょうからね。お父様たちの立場のこともあるし、ここで国にもギルドにもしっかり見せつけてやりましょうね。

でもやっぱり残念だったわね。せっかくマジックバッグも手に入れて、8階への階段もすぐ近くにあったのに、ここでストップ。次に7階に入る時にはきっとあれとかそれとかの大変なルートを見に行くことになるでしょうし、楽しそうなのにね。あー、わたしがゆっくり見ることができるのはいつになるやら。


『待っていた学園生活の始まりでもあるのですから、こちらはこちらで楽しみましょう。次の探索からは3号が録画しますし、見所をピックアップしておきます』


リアルタイムでフルで見るのも楽しいけれど、ハイライト映像もそれはそれでいいものね、よろしくね。

荷物が詰められたカバンを閉めて、部屋の入り口近くに置く。クローゼットの前には明日着ていく服がすでに用意されていて準備万端。なぜ家に帰るだけなのにこんな余所行きの服なのだろうとは思うけれど、絶対なのだそうな。その後も公式のちゃんとした馬車で移動するから誰が乗っているのかバレバレで、途中途中で降りるからやっぱりちゃんとした格好じゃないとだめだっていうことで、どうしようもなく。ずっと余所行きらしいわよ。大変よね貴族も。

そんなわけでダンジョンのあれこれは今日でひとまずお休みとなり、わたしは王都の学園に行くのです。

それで学園にまたダンジョンを作るのですよ。学園ダンジョン、どんな風にするのが良いだろう。あれこれそれ、えーっと、いろいろやろう、そうしよう。今まさに見ていたような全てを最初から作ったダンジョンも楽しいけれど、王都の学園ていうものすごく大きくて広くて大勢が生活している場所をダンジョン化するのも楽しいものね。どんな物があるのか、どんな人がいるのか、期待しましょうね。

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