090:地下7階3
次の段階の目標は8階の探索で、その前に7階の地図を埋めて階段室で長い休憩を取る予定だという。
地下5階から6階、そして7階への行程はすでに慣れたもので、6階に下りて最初のエリアでは通路上のオーク1体が向かってくるところをフリアがチラリと姿を見せて素早く後退することで釣り、他のオークがいる場所からは引き離してから倒した。
あとは順調に7階へ。まずは通路のオーク、それからルート上ではないけれどルートに近い部屋にいるオークの対処ということになるけれど、今回は階段下のオークに関しては遠ざかる動きを見せていたのでこれを見送り、近い部屋にいるオークも部屋の中にいて通路を見ている様子もなかったことからそのまま戦闘はせずに通過。
ここからはさすがに全てを回避してというわけにもいかなくて、通路のマネスはうろうろと彷徨うように歩いているところへエディとクリストが駆けつけそのまま殴り倒す。
その先の部屋ではドレッチ2体が座り込んでいるところを見つけて、余りにも無防備な様子だったので倒していくことに決定。ここもエディとクリストが駆けつけて切り捨てるだけで終わった。
この辺りからは未確認の通路や扉があるということで一つずつ潰していく。
最初に踏み入った通路には前回使ったのと同じ形で壁抜け用のポータルがあり、それを抜けたところは8階への階段室の前の通路だということが分かり、階段に到達。
どうにもあっさりした展開だったけれど、とにかくこれで階段から階段へという7階の最短ルートが開拓された。
ここからは純粋に7階の地図埋め作業になる。
少し引き返してから分かれ道へ進むと扉に行き着く。
扉を調べたフリアが魔物の存在を報告する。気配があって種類の分からない魔物となると初めての遭遇ということになる。
エディが扉の前に立ち、その隣にクリスト。フェリクスとカリーナは魔法の準備をしたら扉を開ける。部屋の中には一見すると臭い魔物に似ているが、肉塊のようなぐちゃぐちゃとした塊に頭と胴体のような形をした魔物が2体いた。腕はあり足はない。肉塊がずるずると這っている。口を開けどこかこちらでも天井でも壁でもない所を見てうごーというような音なのか声なのかを発していた。
この魔物はレムレーといい、こんなんでも分類としてはデビルになる。
もう1体はラットだった。1階の魔物だけれど、登場したという意味では6階にもいたのだから7階にいてもおかしくはないはず。
だがフリアにラットの気配ではないとあっさりバレる。何ということでしょう。
ラット目掛けて放たれるファイアー・ボルト。ラットは飛び退くようにして避けようとしたけれど、その腰に命中し炎を巻き上げた。
ラットは炎を振り払うように宙に浮き、そして形を変えていく。姿を現したのは赤い肌の人型の魔物だった。頭には小さな角、背にはコウモリのような翼を、そしてトゲのあるサソリのような尾を持っていた。
その魔物は壁際に下がるように移動しながらすうっと姿が透き通っていく。この動き自体は見たことのあるものだった。
姿を消したところでカリーナがディテクト・イーヴルを使用、見えてしまえばどうという話でもなく。カリーナがスタッフで部屋の隅を指し、そのまま右へと指し示す先を動かしていく。位置がバレバレである。
クリストはエディとともにレムレーに迫り、動きの鈍いそれに剣で切りつけていく。頭を、胴体を切り裂かれとろけた肉塊のように地面に崩れていった。
姿を消している魔物が近くまで来たところでカリーナがスタッフにマジック・ウェポンの魔法をかけると、「とりゃ!」という気合いが入っているのか入っていないのかよく分からない声を上げながら殴りつける。
ボカッというなかなかにいい音をさせると、ギャーという声が聞こえた。そしてそこにいると判断したフリアがナイフを投げ込むと、それが何もないはずの空間に突き刺さる。
見えなくなった時とは逆回しに姿が見えるようになっていく魔物はそのまま壁際で崩れるように地面に落ちた。
ところでこの魔物、実はインプという有名な魔物でして、分類としてはデビルになります。はい。このエリアはデビルとデーモンが主力なのですね。
いや主力って言っていいのか? 活躍できていないのだけれど。
この先は入ってきた所から見て正面に扉、左に通路がある。
まずは通路の先を埋めるということでフリアが先行しようと動き出してすぐに立ち止まった。当然気がつかれますよね。床と天井に左右からこすったような跡が付いているのだからそれは気がつく。はい、壁が動きます。
もうなんというか、隠す気ゼロです。や、だって危ないんだもん。
動く壁は使い方が多種多様にあるけれど、通路の左右の壁となったらそれは狭まる通路というもので。前後に扉を置いてロックしてしまえば逃げ場がなくなるし、距離を長くしても速度を上げてもやっぱり逃げられなくなる。今の時点でそういう罠にすることは問題がある。ただ動く壁は今後も使っていきたいのでここで見せておくのだ。
デイライトの魔法をその通路の先に飛ばして光に反応するものや魔物がいないことを確認したらフリアが通路に踏み入る。
ズズと音がしてわずかに壁が動いたように見えた。
そのままフリアは駆け出し、あっという間に通路を抜けて部屋へ到達する。壁はまだゆっくりと狭まってくる途中で、この程度であれば歩いても問題なく通過できそうな速度だった。
はい。この動く壁も罠といえば罠なんだけど、本当に今回は見せたかっただけ。
いつかどこかで本気の壁君の威力を目の当たりにすることがあるかもしれないし、ないかもしれないよ。それだけ。
その先の場所は部屋になっていて、宝箱以外に見所など全くなし。
すぐにフリアが手にスクロールを持って戻ってきた。また動き出した壁だったけれど、わずかに狭まったところでフリアが通り抜けたため、すぐに元の場所へ戻っていく。
スクロールを受け取ったカリーナがそれを開いて中身を確認するけれど、見たことのない魔法が書かれていて興味津々。
ここは興味の引かれる魔法が出てくるので調べたいだろうけれど、この後8階も調べる予定でいるからかがまんするという決断。このスクロールは大当たりなので楽しみにしていてほしい。
インプのいた部屋から入ったのとは反対側の壁にあった扉から外へ出る。その先は通路で、すぐ先で丁字路になっていた。その場所は昨日壁抜けポータルを通ってきた通路の形状と一致していた。場所も手書きの地図だとどうしてもずれは生じるけれど、それでもほぼ一致する。これで残る調査対象の範囲がぐっと狭くなり、途中の部屋、途中の魔物はサクサクと処理されて先へ先へ。
そして未確認の扉へと移動し、フリアが解錠し、扉を開ける。
その先は通路になっていて左へそして右へと折れている。その先で何か小さいものがたくさんいることが察せられる。フリアが慎重に前進し、部屋中にラットがひしいめいている部屋が確認された。
通路から部屋が見通せる位置まで移動すると、ファイアーボールが投げ込まれ、ゴウッという音と閃光が部屋中に広がり、その炎の渦に多くのラットが飲み込まれていった。
キーキーという鳴き声、逃げ惑うラット。その中から2体、浮き上がるラットがいた。身にまとわりつく炎を振り払い、その姿が赤い人型に変わっていく。インプだった。
カリーナが魔法をそのインプ目掛けて放ち、インプが墜落する。残るはラットが数体とインプが1体。
魔法の炎はすぐに消えた。そこへ待ち構えていたエディとクリストが駆け込む。インプが姿を隠そうと消え始めたところへフリアがナイフを投じ、腕を振ってそれを弾いたことで時間が稼がれる。
エディが突き出したグレーター・アックスの先端がインプの翼を貫き、引っかかったところで手前に引く。近づいてきたところをクリストが手早く首を切り落とした。
これで残るはラットのみ。適当に剣を振り、盾をぶち当てればそれで済むとばかりにどんどん倒していって、ラットたちは部屋の隅に固まったり通路へと我先に逃げようとするところを捕まってしまう。
よく分からない配置だったという悲しい評価。さもありなん。
実はですね、この部屋は魔物を全滅させないと宝箱が出現しないという仕様になっていまして、ラットをこれでもかと配置していたのは単に漏れを作り出すためだったのです。まああまり意味がなかったのですがね。
うーん、もう少しインパクトが欲しいからラットから換えるか、それともインプを換えるか。何か変更するかも。
フリアがサクサクと宝箱を開けて取り出したものを掲げる。黒光りする細いワンドは先端近くにはガラスのように透き通った楕円体が付いていた。
部屋の先は通路、扉と続いて最終的には部屋の中央に違和感を感じたという見覚えのある部屋に着く。これで通路は一周したことになって見ていないところは残り扉1つ。
その扉の先は行き止まりになっていて、床から円柱状の岩のようなものが伸び、そして天井からも不格好ながら同じように円柱状の岩が下に向かって伸びている。上の岩からは水滴がぽたりぽたりと落ちていた。
革袋に水滴を貯めて持ち帰ることに。この水はスザニタの涙という名前が付いている。スザニタが何かとかは当然まだまだ先のお話。効果としては飲むと好きな動物の尻尾が生えるというもので、24時間で消えてしまうけれど楽しいんでもらえるのではないかな。
これで7階の地図は埋まった。
吹き抜けの向こう側にも手すりのある通路が見えているのでまだ他にもあることは分かっているだろうけれど、現状では向こう側へ行く方法がない。吹き抜けにロープを張るとかではクローカーの餌食なのです。
そんなわけで現状では7階の地図は完成。ここまでということになって今通ってきたルートを戻り、階段室へ向かう。
安全な室内でしっかりとした休憩を取って回復したら、いよいよ8階。洞窟の先を探索するのです。