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083:地下6階3

3階以来のメッセージがここにある。

部屋の状況、この枚数のメッセージから、ここの重要性は分かるだろう。3階で発見したメッセージを追ってここまで来たのだから、次はここのメッセージを読めと言っていると想像できるだろう。

カリーナが手帳を開き、メモの解読に取りかかった。


「隣の部屋に鍵を置いてある。1階の左の壁に沿って進んだ場所に置いてあるものを開けるためのものだ。そこに必要になるだろうものを入れてある。この鍵は1本しかないからなくさないように気をつけろ。それと門前の広場には近づくな。危険な場所だ」

これは隣の物置に置いた鍵のことを示している。門前の広場のことはおまけだ。


「やはり幼い子供を連れた女にこの迷宮を行くことはつらいことだったのだろう。すでに子供は失われたが女にはそれを理解することができていない。どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのか分からない。彼女は今、通路にイスを置いてはるか故郷があるだろうところを眺めている」

ここへ来るだけでも大変だったという演出なのだけれど、1階のゴーストの像に思いをはせていた。あの像は女性をかたどっていて、腕の中に何か収まりそうだったのに何もないという形がそうさせたのかもしれない。


「3階から獣の姿を見るようになった。幸いここまではたどり着くことができたが、広間の向こう、吹き抜けの方から恐ろしい音がしている」

これはもちろんあの吹き抜けのこと。彼らを追ってきた魔物はどこにいるのか。ここにいるのか、それとも。


「広間にいるところを獣に襲われた。見たことのない青く細長く、魚のようにもヘビのようにも見える体。丸い口に牙が並んでいる。それが頭上からのしかかるように飛んでくるところを見たのだ。今も扉をたたく大きな音が聞こえる。岩を積み上げて扉を開けられないようにするためにアーティファクトを使ってしまった。これで開けられなくなったと思いたい。今気がついたのだが、1人いない。どうなったのかは考えたくない」

これが3階から彼らを追ってきた魔物のことだ。下から数えて3階、つまり8階に出現する、とある非常に強力な魔物のことだ。さあ冒険者さんたちはこの魔物を倒すことはできるのでしょうか。


「戻る道は失われた。上る道も失われた。まだ5階には調べていない場所が残っている。今ならばまだ獣はいないだろう。今しか探すことはできないだろう。幸運を祈っていてほしい。7階のメフィットが下りてきていないとよいのだが」

下からは青い魔物に追い詰められ、上はメフィットと開かない扉に行く手を阻まれた。まだ調べていない場所へと向かう彼らの気持ちやいかに。


「閉ざされた扉を開けられず、メフィットに追われ、戻ってきてしまった。出発したときには1つを失っていたイスだが、戻ってきたときにはまた2つが失われていた。われわれはこれからどうすればいいのだろうか」

まさにこれが3階のメッセージと同じもの。行き詰まり、絶望して戻ってきた彼を向かえるのは数を増やす失われていくイスなのでした。


「昇降機の鍵は3階にあるはずだ。われわれが初めて獣に襲われたときに失ってしまった。今も彼が持っていると信じている」

なんと、初めて魔物と出会った時点で1人失われていたのでした。

そして彼らはなぜ鍵を使わなかったのでしょうか。本当に昇降機の鍵だったのでしょうか。それとも別の理由でしょうか。全てはそこへ行ってみれば分かります。


「話し合った結果彼らは下りることを決めた。毎日ここから故郷を見ていればそういう気持ちになったとしても仕方のないことだろう。今日も1人、手すりを乗り越えて飛んだ。これ以上時間をかけることはできないだろう」

追い詰められた彼らが何を思い、何を考え、どう行動したのか。思いをはせてほしい。

待っていても救いはない。上を目指すための道を探しにいった誰かも戻ってはこない。1人、また1人と失われていく現状を打開する方法など、そうはない。


「今日、遠く城の上に竜を見た。私が生まれた町は森に埋もれてここからは見ることができない。この世界は神に祝福されてこの地へと送られた。だが神の祝福は呪いと何ら変わらないものだったのだ。1000年、2000年という長い間、われわれはただ無意味に生きている。毎日生まれ、食べ、生きて、死ぬ。そこに未来はない。われわれは未来を失ったのだ。未来がないのだ。ここにわれわれの築いてきた文明、文化は死んでいく。毎日ただ生きて、死んで、また生まれて、死んで。明日などこない。ただ無意味に死んでいく。復活だと? そんなものに意味はない。ただ死ぬだけで、終わりはこない」

わたしは考えた。ここに地下世界を作りだし、地上と同じように命にあふれ、時がすぎていく世界を作りだしたとして、そこに生きている命って何なのかを。

わたしは考えた。ダンジョンを抜けた先にある、このオープンワールド、オープンフィールドとなる冒険の舞台に生きているってどういう状態なのかを。

わたしは考えた。神の祝福って何なのかを。どういう状態をいうのかを。


「われわれはここで生きろと神に祝福を授かった。だが私はもう知っている。これは祝福などではない。そういう名の呪いだったのだ。私はもう一度上を目指して6階へ行く。すでにここには私しかいない。このメモはここへ置いていく。もしも誰か、ここを訪れてこのメモを読んでいる誰ががいるのならば、どうか、私の願いを知ってほしい。どうか、」

この場所でのお話はこれでおしまい。

どうか、10階へ早くたどり着いてほしい。そして知ってほしい。わたしが考えて考えて作り出したこの世界が、いったいわたしにとってどういうものなのかを。

このメッセージを書いたのは実際にはわたしたちで、わたしとコアちゃんたちで考えたもので、そしてこの願いはたぶんわたしのものだ。その願いが何なのかは今はまだ内緒。わたしが自分からそれを言うのは恥ずかしいからね。


メッセージを読み終えた冒険者たちが話し合っている。

下から上ってきた誰かはあの地下世界から来て地上を目指していたのだろうということ、イスの花は失った全員の分の花だろうということ、帰ろうとした誰かも地上へ行こうとした誰かも恐らく全員が失われたのだろうということ。

そしてこれからの方針も決められる。

8階にある昇降機の鍵を目指す。5階でそれが使えればよし、使えなければそのまま10階を目指す。そして物置の鍵を使うものを見つける。そういう方針だ。

そして交わされる。自分たちにも神の祝福があるということが。そうね、それがどういうものなのかを教会は何も言ってはいない。ただ祝福されているというだけで、どういう意味が込められているのか、どういう効果があるものなのかは誰も何も言っていない。

1階のゴーストのことが話される、嫌がらせのようだという言葉。地上を目指して子供を失った女性に子供を返さずに像にして、その足元に祝福をと書く、そのまさに嫌がらせのようなこと‥‥ごめんなさい、そこまでは考えていなかった。これにはどこかで話のオチを付けておこうと思いますので、お待ちください。1階は先に作ったからさ、本当にごめんなさい。決着はいずれ付けます。


それからはこの6階のガラス壁の場所が、見に来られる場所ではないかということも話し合われた。

良く気がついてくれました、です。気がつかなければわたしの方から見てみたい行けないかという話を振るつもりだった。

ここまでは実は簡単に来られるのだ。1階でラットたちを追い払いながら昇降機まで行き、そして5階まで降りたら隠し通路を通れば魔物は出現しない。6階のこの場所も、実は魔物は一切出現しないのだ。彼らはすでに昇降機で5階まで往復できる状態にあり、この場所まで安全に来られるのだ。


そして彼らも考える。このダンジョンの調査は昇降機を使える状態にしたところで一段落ついているということを。ここで調査は終了、そうなると彼らが優先してこの先を調べることはできなくなる。それでいいのか? がまんできるのか?

できるはずがない。何と言っても彼らは冒険者なのだから。

目の前にこんなでっかい餌をつり下げられてがまんできるはずがないのだ。

だからぜひとも相談してほしい。5階まででひとまず公開の準備は進めてもらってもいいから調査を続けたいと。

大丈夫、こんなにいろいろと珍しいもの、貴重なものが見つかるダンジョンはそうそうないと思うから。

ギルドはきっとだめとは言わないでしょう。もし上に相談すると言われても、大丈夫、セルバ家はオーケーを出すから。

だからぜひとも相談してほしい。そして10階を目指してほしい。

文句を言うような人はここへ連れてきて、向こう側の世界を見てもらえば分かると思う。10階よりも先の方がずっと長く続くのだと分かってもらえば、そうすればダンジョンの中での細かいことなど気にしなくてもよくなるだろうと思う。


部屋を出てまだ残っていた通路の先の瓦礫を調べ、そこに広間に続くのだろう扉を発見。ただしゆがんでいて開けることは難しそうで、そして積み上がっている巨大な岩も人の力では簡単に動かせそうもないという結論が出る。

ここでは追ってきたという青い魔物のものかもしれないひげを見つけ、鑑定するための成果の1つとして持ち帰ることが決まった。

これでこの場所を調べ終わり、5階への階段を上り、昇降機へと移動する。

籠はそこまで広くはなかったけれど、どうにか全員が荷物共々乗り込み、鍵を奥の装置に差し込む。1と5の数字が書かれた丸いボタンが点灯したところで1を押すと、ガコン、ギギギときしむ音をさせながらゆっくりと籠が上昇を始めた。

前後左右全てが石組みの縦坑の中をゆっくりと上がっていく。

これで1階に無事到着したら、次はギルドに戻っての報告会が待っている。

ガタガタと揺れながら上がっていく籠の中の顔はどれも、この1泊2日の探索を思い出してとても楽しそうだった。

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