081:地下6階1
専用の鍵が必要な扉を開け、壁に取り付けられた照明によって照らされた通路を進んでいく。そこには1階で見た覚えのある昇降機があった。
周囲をぐるぐると回っていたエディ宇が裏側に操作盤が取り付けられていることに気がつく。その操作盤は左側に上下に切り替えるようなスイッチがあり、上にオン、下にオフと書いてあって、今はオフの位置を指している。さらに右側には溝の掘られた細長い板状の棒のようなものがフックに掛けられている。
意を決してスイッチをオンに切り替えると、どこか足元深く、縦坑のもっとずっと下の方からゴオン、ガチン、ギリギリギリとかすかな音が聞こえ始めた。
さらに細長い板状の棒をフックから取り外す。次はこれを使う場所だ。
部屋の中を見渡しながら昇降機の正面へ戻り、昇降機の籠の中を調べると右奥側の柱部分にいかにもな装置を見つけ、そこへ棒を差し込んでみる。
ピー、という軽い音がして、棒を差し込んだ場所の上が左右にスライドして開き、中から1、5、10と書かれた丸いボタンが姿を見せた。そのボタンは1と5は点灯しているが、10は暗い。
もう一度棒を抜くとまたピーと音がしてスライドが閉じる。これで昇降機を見つけ、使えるようにするという目的は達成された。
あとは気になっている部分を見て、できれば6階も少し調査しておきたいということで。
まずはこのエリアの分かれ道の先をということで調べていくと、その先は丁字路、そして右側は専用鍵が必要な扉にたどり着く。鍵を開けるとその先は階段室だ。最後は丁字路の反対側。そこは下り階段へとたどり着いた。
通常ルートと隠しルートですね。特別な鍵は必要のない階段室に通常ルート、そしてこちらが隠しルート。こういう場合は隠しルートの方に重要なものがあると決まっていますよ、さあ行きましょう行きましょう。
なんて、やはり先に見つけた階段の方が通常ルートには見えるらしく、そちらから先に調べることに決まってしまう。わたしとしては残念で仕方がない。
通路を戻り板鍵を使う扉を開け階段室へ戻る。次は6階。
階段を下りたところは部屋になっていて、そこを出てまずは左へ行くと扉がある。フリアが扉の向こうに気配を察知。ここで6階初の戦闘だ。
ギッと音を立てて扉が開いていく。ランタンの光が差し込み、その光の範囲が徐々に広がっていくと、小さな気配がバッと飛び出してきた。
開きかけている扉を抜け、冒険者たちの足元をすり抜け、通路を走っていく背中が小さくなっていく。
その姿はラットに見えた。
一番後ろにいたフリアがそれを見送る。
扉を開ききった彼らの前で部屋の奥の方でうずくまった人型のものが姿を見せる。そちらからはグチ、グチャという何かを食べるような音がしていた。
一瞬動きの止まったエディが「グールだ!」と叫び剣を構え、同時に魔法使いたちからファイアー・ボルトが放たれ命中して炎を上げる。
ようやく立ち上がった魔物がこちらを振り返るが、そこへエディが詰め寄り、グールが振り上げる腕を受け止めた。
あとはいつもどおりだった。グールの攻撃は防がれ、冒険者の与えるダメージだけが積み上がっていく。最後には盾に弾かれた勢いのまま、グールが後ろにひっくり返り動きを止めた。
部屋の奥、倒れたグールの脇には先ほどの音の正体だろうか、ぐちゃぐちゃに引き裂かれたラットの死体が転がっていた。
ラットも魔物だ。地下1階からすでに何体もが犠牲になっている。それでもこの部屋の中でグールに襲われて食われていたと考えると、多少同情の気持ちが湧いてきているようで、表情は渋かった。
グールの心臓部から魔石を取り出し、そしてラットの死体からも魔石が回収される。これで食べられたラットも冒険者によって倒された魔物の1体としてダンジョンに吸収されて消えるだろう。
ちなみにこのラットの死体は部屋に配置しておいたらグールに殺されたとかではなく、あくまでもラットの死体というオブジェクトを配置したものなのであしからず。
グールのいた部屋の次はオークが出現し始める。5階でもすでに配置していたので驚きはないだろう。オークは6階前後での主力になるので出番は多い。
最初の部屋にはまず1体。
マジック・ミサイルで先手を取り、戦士たちが剣を抜いて駆け込んでいく。オークの持つ斧に合わせて盾で押し込み攻撃を防いだら、空いた胴体を切りつけたところで勝負あり。オークはそのまま崩れ落ちた。
ここでは宝箱も配置していて、グロウズ・ポーションを回収される。巨大化できるというものなのだけれど、わたしには使いどころがいまいちつかめない。大きくなって物を運ぶのかな?
このオークエリアには踏むと高いところにつった呼び鈴が鳴るという警報装置が床に仕込んであって、飛び越すこともできないし床に仕掛けがないのはオークのいる部屋の前だけという構造になっているので必ず連戦になる。
フリアが当然のように仕掛けを見つけるけれど、問題はそこからの対応の仕方だった。
部屋から出てくる場所にウェブを置いて、ある程度まとまったところでライトニング・ボルトという流れが確認される。
仕込みが終わったところで呼び鈴を鳴らし、カランカランと大きな音に応えるようにどこかからグゥオオオオという声が聞こえてくる。
戦士たちはすでにウェブの魔法からギリギリの位置、通路の左右に分かれて立っていて、中央は魔法のために開けられていて。そこへオーク2体が登場するのだけれども、ウェブの範囲に入ってしまって足は止まり、ぐっぐっと動かしても前に出られず、そしてライトニング・ボルトに貫かれる。
正面から受けた、前に立っていたオークの手から武器が落ち、仰け反るような姿勢のまま膝から崩れていく。後ろにいたオークは怒りの表現か武器を振り上げて大きく叫ぶけれどもそれでウェブから出られるわけでもなく。
と、その向こう側でも先ほど聞いたのと同じカランカランという音が鳴る。通路の先にもオークが1体いて、それが増援として現れたのだ。
距離がある、と見たのかそのオークが手に持っていた槍を投げようと構える。
それを見たカリーナがメイジ・ハンドで槍をつかむ。少なくとも簡単には投げられない形には持って行けたのだろう。
ウェブの上で叫んでいたオークは盾で押し上げるようにすることで胴体を空け、そこを剣で切り裂かれる。
さらに動かない槍をどうにかしようとしているオークにもクリストが迫り、剣を振るう。槍を諦めたのか手を離して殴りかかってくる拳もかわして、さらに切りつけた。
あとは攻撃魔法と併せてダメージを積み上げたら、いつもどおり終了のお知らせ。瞬殺とまでは言わないけれど、テンポ良くサクサクと倒されていく。オーク、弱くはないのだけれど。
部屋の中を確認するとその先の通路へ。途中の扉だとかはパスしてそのまま行き止まりまで進んだところで気がつかれる。そう、この場所にも隠し扉があるのだ。
フリアがしゃがみ込んで壁を調べ、石組みの隙間を狙って細い棒を差し込む。うまいもので見つけるのも開けるのもあっという間だった。
そして隠し扉だと当たりを付けていた右側の壁の石組みが、そのまま扉のように開いていくと、その向こう側からザーザー、ザーザーという水が激しく流れる音が響いてきた。
扉の先は手すりのある回廊のようになっていて、角々にかがり火が置かれ、ぐるりと中央の空間を取り囲むように続いている。中央の空間は広く、そして吹き抜けになっていた。
手すりの向こう側の吹き抜け部分は、足下、回廊のちょうど下部分から大量の水が流れだし、そして吹き抜けを下へと滝を作り出して流れ落ちていく。
すごいでしょう、ダンジョン内にある、巨大な滝です。
落ちれば水に飲み込まれてひとたまりもないし、ぶっちゃけこの下は8階まで続いているのだ。しかも吹き抜け専用の魔物がいるし落ちた先専用の魔物もいる。落ちたら終わりだし、下りる選択もしない方がいいと思う。
隠し扉を閉めると水の音も消えてまた静かなダンジョンに戻る。
6階の探索はまだ途中なので、ここからは階段へ向かって引き返す形になる。
隠し扉の手前には分かれ道があり、その先は地面が土に変わり、奥まった場所には花が咲いている。
この花はギルドから借りた折り畳みのシャベルで革袋に土ごと入れる。カモガネの花といって、お腹の薬になるので有用だと思います。また採りに来てもいいし、何だったら栽培に挑戦してもらってもいいと思う。
シャベルはダンジョンだと使いどころに困ると思っていたけれど喜んで借りてくれたので、こうして土の地面の採取ポイントを増やしてみた。今後もこういったところが何カ所かあるので良かったらどうぞ。
その後は通路の途中にあった扉が2カ所。
せっかく仕掛けた罠もあっさり回避され、そしてあっさりグール待機が見破られる。慣れてきているのが分かる。
部屋の奥にうずくまったグールがいたけれど、開いた扉に反応して立ち上がったところにエディが詰め寄り、そのままグールとの間を完全に埋めて動きを封じられる。あとはいつもどおり、なすすべもなく撃破されてしまった。
室内には食い散らかされたスネークの死体が転がり、そして宝箱も待っていた。箱の中身はスクロール、グッドベリーよ。栄養価のとても高いベリーが出現するというこれもドルイドの魔法ですね。
その次の部屋でも当然のようにグール待機が察知され。そこからはやることは同じで。盾を構えて突撃されて、マジック・ミサイルがまとめて命中して、剣でざくざくと切られて終了ですよ。
もうね、どうにもグールレベルの魔物だったとしても1体ではどうすることもできないという事実だけが積み上がっていく。
あ、この部屋はただのグールがいるだけの部屋で、宝箱もないしお楽しみの食事跡もありません。残念でした。
これで6階の階段下のエリアがだいたい埋まったという判断がされ、階段室へと引き返すと5階へと上がっていった。
そのまま5階の階段室で休憩を取ったらいよいよ隠しルートの方の6階へと進むのだ。
階段室の扉を板鍵を使って開く。
その先には照明があり通路の先まで見通せるようになっている。真っすぐに伸びるその通路を進み、途中の左への分かれ道も通り過ぎる。左へ進めば昇降機があるけれど、まだ戻る時ではない。そうしてしばらく進むと目の前に6階への階段が姿を現す。これがもう1つの隠されていた階段。さあ、この先には何が待っているのか。さあさあさあ、行きましょう。
さすがに慎重な足取りで階段を下りていくと、その先でも照明があることが分かる。6階の床が照らされているところが見えてきた。
階段を下りきった場所は正面と右が壁、そして左に通路が伸びている。
先に左へ行こうとして角までたどり着いたフリアが一歩目を踏み出したところで立ち止まる。続いて6階に下り立った仲間たちもまた左へと動き、そしてその先を見通したところで足が止まる。
そこに広がっていたのは彼らがまったく予想していなかった光景だろう。
これがわたしがこのダンジョンに詰め込んだ全て。さあ、御高覧あれ。




