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078:地下3階3

カリーナがこもったような小さな声で全体回復の魔法を唱えると、全員の体に体力の回復をもたらす光が降り注いだ。

これでようやく動けるようになったのか、とても大丈夫そうには聞こえない声を上げながら手を持ち上げたり、どうにか体を起こして壁に寄りかかるようにずりずりと動いていく。フリアがまだ動けずにいるようだったが、カリーナがはいずって移動すると、もう一度回復魔法をかけていた。

ようやく頭を起こすところまで回復したのかフリアもこれで動き出し、全員の生存は確認できた。

爆発に巻き込まれた衝撃でポーションの瓶は割れてしまっていたようで、各自での回復は諦めたのか、その後に全体回復の魔法がもう一度、そして一人一人の状態を見ながら体力の回復や打撲、火傷といった異常の回復のために魔法が使われていった。

体を起こし壁に寄りかかったエディの足元では盾がひしゃげて転がっていた。


冒険者たちは全員が動ける状態まで回復したことを確認し、そして探索を再開したが、装備は痛み、これ以上は回復魔法も使えないということで地上へ戻ることを選ぶ。

そこでエディが部屋の中に宝箱があることに気がつき、フリアのダメージが深刻だったことから罠があってもいいように盾で壁を作るようにして、そのままクリストが代わりに蓋を開けた。

蓋は抵抗なく持ち上げることができ、開いたと思った瞬間に盾に衝撃があってガンッという音が響く。どうやら危惧したように罠があり、作動してしまったようだった。


─────────────────────────


ん?

うあー!

重ね重ね申し訳ない、罠を外しておかないといけなかったわね、本当に申し訳ない。だめだわ、意識がすごい散漫になっている。ごめんコアちゃん、帰り道のフォローお願い。


『そうですね、今の状況ではこちらも純粋に対応できるかどうか分かりません。幸い3階はすでに一度通ってスネークは倒されていますし、1階2階は遠ざかる動きをさせれば違和感もないでしょう。ここからは無理なく進んでもらえる形を作ります』


よろしくお願いします。はー。


─────────────────────────


宝箱から取り出したのは手のひらに乗る程の大きさのガラスの球体。

ドリフトグローブ。これは宙に浮いての自動追尾機能が付いた、ライトが使えるオーブなので便利だと思う。ただし今回のこれは時間制限があるタイプ。使いどころは考えないといけないもの。でもいいものだとは思うので、喜んでほしい。迷惑を掛けてしまったからね、せめてこれくらいは。


その先はすでに何度も通った道ということで無事に地上へ。良かった。これは本当に良かった。手違いでスネークやラットたちが出会ってしまっても、対抗できるような人たちではないので大丈夫だろうとは思っていたけれど油断はできないからね。

彼らが地上へたどり着いての安堵のため息には、たぶんわたしの安堵のため息も混ざっていたと思う。

出張所への道を歩いていくと、外で作業中だったらしいギルドの職員がこちらに手を振ろうとしたところで惨状に気が付いたのか、慌てて建物の中に駆け込んでいった。

想定していない形でダメージを受け、回復したいことと、傷んだ装備を更新する必要があることが報告される。


おあー、そうか、装備の更新か、その必要もあるのね。申し訳なかったわ。これはダンジョンで見つかるものに少し色を付けることも考えないといけないかしら。

ギルドから回復用のポーションも支給され、部屋に戻って休養を取った彼らの回復は早かった。この辺りはさすがベテラン冒険者といったところだろうか。大ダメージを受けてからの回復方法も身についているのだろう。良かった。帰ってこられて本当に良かった。


回復できたところでギルドへの詳細な報告が行われる。

まずは3階の専用エリアに入るための板鍵がギルドに渡された。これで非常時にはギルドから人が出せるということになる。

それから3階の地図、水場、下り階段。その手前で発見されたメッセージ。

6階というのも戻るというのも翻訳は正しいということが確認され、何度も地名らしきものが登場していることや、下から上を目指していたらしい誰かのメッセージから、下にはこれまで出てきた地名の土地があるのではないかという仮説が語られる。

この仮説の答えが出るのはまだ先の話なので、まずは5階、そして6階に行ってそこで見つかるものから察してほしい。

「面白いだろ」「面白いですよね。安全だったら見に行きたい」というやりとりで少し救われた気持ちになる。モニカさんも冒険者さんたちも楽しそうで良かった。あれだけ大変な目にあってもこれなのだから本当に冒険者気質な人たちは、とも思うけれど。


で、本題のこの状況の説明なのだけれど。

冒険者さんたちにはなぜこうなったのかはやはり良く分かっていないみたいだ。

このダンジョンは特殊な魔物が出る、そして罠も仕掛けもある。となるとそういったものの中に今回の状況を引き起こしたものがあってもおかしくはないと考えるだろう。

メフィットの倒すと爆発するという特徴、そして倒した直後に盾で押し返して直接爆発に接しないようにした対処法が説明される。

特に問題はなさそうとモニカさんも冒険者さんたちもここまでは考える。

ただその後のあの3体いた場所での爆発は想定外すぎて、結局原因が分からないというところに行き着いてしまう。


爆発の経緯は不明としたまま、冒険者さんたちは「こういう時のために金は貯めてあるから装備は新調する。それからだ」という。

そっか、装備が壊れること自体は想定しているものなのね、良かった。ギルドには損害の一部補填の制度もあると。良かったー。

それで彼らは装備を揃えるために留守になるわけね。よし、その間にギルドからモニカさんが報告に来るでしょうから、その時、はまずいからその後ね、用意しておいて爆発について伝えてもらいましょう。

粉塵爆発は気をつけるべきことがはっきりしているからね、実験を見てどういうものなのか知ってもらって、それで注意点を周知してもらうことにしましょう。


─────────────────────────


いろいろと準備していたその日のうちにモニカさんが報告に来て、冒険者さんたちは装備を用意するために王都まで行くことになるだろうと教えてもらった。

やっぱりそうなりますよね。残念です。

わたしの代わりにそれを聞いてもらった叔母様も、成果だとかメッセージだとかは楽しそうに聞いていたけれど、さすがに爆発のことは驚いたようで、ギルドが帰ってから説明を求められた。

「結局ですね、あれは事故なのです。一定の条件がそろった時に発生してしまう現象で、ちゃんとした原因があって、それはここでも発生しうるものなのです」

「そうなの? あなたがやり過ぎたとかではないのね?」

違いますよ。あれは本当に偶然起きてしまった事故なのです。

どういう現象なのかを説明してもとても理解してもらえそうになかったので、叔母様から伝えてもらうためのメモを作成。

それからまたモニカさんが来たところで一緒に実験を見て、どういうものなのかを知ってもらうことにした。

化学実験だからね、さすがにこれはわたしがやるしかないでしょう。


実験はどこだかの消防署だったかな、でやっていた動画を参考にする。

絶対割れないガラスの箱を用意、その中に火のついたロウソクと小麦粉の入った器を置く。そこへホースで空気を送り込み、小麦粉が舞い上がったところへロウソクで着火、爆発が起きるというもの。

ダンジョン産なので壊れない箱を用意できるのが便利。威力を見てもらうために上は開けてあるから爆風も炎もどーんと上がるよ。

かなり大きな音がするだろうからルプスさんたちには大丈夫だから気にしないようにと伝えてもらった。


翌日モニカさんがまたお話に来たところで叔母様から一通りの説明をしてもらう。

条件が偶然重なったために起きた現象で、粉塵爆発という。

細かい粉が大量に舞っている状態に火がつくと爆発するもので、ダンジョンに限らずどこでも大量の粉を扱っているところであれば起こり得る。

今回のケースで言えばダスト・メフィット2体が倒されて大量の塵をまき散らした後に、マグマ・メフィットが火をつけた形になったせいだと考えられる。

この順番で倒したこと、そしてダスト・メフィットが2体いて塵が大量だったことも重要だろう。

そういう説明。

説明している叔母様もメモを見ながらで、実はよく分かっていませんみたいな雰囲気が出てしまっているけれど、これはもう仕方がない。仕方がないのでその後には実験を見てもらう。


はい、こちらをご覧くださーい。えー、爆発でも壊れない透明な箱を用意しまして、その中にですね、小麦粉を入れた器を置いて、ロウソクを置いて、ライターで火をつけて。そしてこちらホース、えー、空気を送り込むための管ですね、これを入れます。

はい、これで準備ができました。

みなさん大きな音がしますが危なくはありませんからね、はい、大丈夫ですよ。ニクスちゃんも、肉でも焼くのかみたいな顔して来ているけれど、話は聞いていないの? 聞いていない、そうですか、大きい音がするよ? 分かってる? 分かってなさそうだなあ。まあいいや、えーっと、ではいきまーす。

ホースの一端を持って離れて離れて、ニクスちゃんも離れて、ほらほらこっち。それから空気を送ります。道具を使ってプーッと空気を送ると、箱の中で小麦粉が舞い上がるのが見える。


ドッカーン!


爆風で小麦粉が舞い上がり、それを追うようにして炎が上がっていく。

小麦粉の量が少ないので一瞬ですね。あっという間に爆発は治まりました。

見学していた叔母様は片足下がったけれどそこで踏みとどまり、モニカさんはビクッとしてから固まっていた。さすがに驚いたことでしょう。

ニクスちゃんはお尻からぴょーんと跳ねるようにして逃げていった。と思ったら家の周りを一周してわたしのお尻に突進してきた。

ほらー、だから言ったじゃないの、大きい音がするって。こんなだと思っていなかった? まあそうかもね、そんな涙目で押しまくらなくても分かったって、ごめんよ、ほらー、落ち着いて落ち着いて。

ニクスちゃんの首の周りをわしゃわしゃしていたら見学していた叔母様たちも落ち着いたみたいで、粉塵爆発の威力というものを納得してくれた。

これがメフィット2体分の塵で発生すると思うとね、怖いよね。運悪くダストとマグマがセットで出てしまったときには要注意。

倒すときには爆発が治まるタイミングに気をつけて、1体ずつ釣り出してじっくり倒すのが一番いいと思う。

メフィットはここで見られてしまっているし、ダストとマグマの同時登場も見られている。今更やっぱり今後はなしにするねとはいかない。知識としてこういうことがあり得るということを周知してもらえれば事故は減らせるだろう。絶対はないけれどでも減らすことはできるはずだ。

ギルド様、周知徹底の程、どうかよろしくお願いします。


─────────────────────────


装備を新調した冒険者さんたちが出張所まで戻ってくるのに2カ月近くかかった。さすがに王都は遠いということだろう。

ギルドから粉塵爆発についての説明も聞いて、さすが荒事なれしているというか、反応はわたしの思うものとは少し違った。

「再現できる、理屈がある、分かっていれば対処できたということだ。ありがたい、これで心配しなくてすむ」なんてのたまったのだ。

あんなことがあったというのにまたあの場所を通る気は満々だったらしい。さすがです。

ただあの実験のおかしさ、不審さはモニカさんにしっかり気がつかれていたようで。慌てて準備したし他にどうすればいいのかよく分からなかったから危ないから近づかないでで押し切ったけれど、やっぱり色々と思われるということで。


そして実験を主導していたのがわたしだったということから、王都のギルドでもわたしの「無能」の噂を聞いたとうことも報されてしまった。

わたしの無能っぷりは王都でも評判なのかという思い。

今までそんな話は聞かなかったけれど、もしかしたらお兄様も肩身が狭い思いをしたかもしれない。これは本当に申し訳ない。わたしが王都へ行けばわたしが矢面に立てるからね、そうすれば大丈夫だと思う。


3階のお話はここまで。

明日から潜る、今後は泊まりもあり得るということが話される。

いよいよ泊まりがけのダンジョン行ですね。もう5階だもんね、事故の分を除けば順調といっていいでしょう。

さらに簡易ベッドだとかマットだとか焚き火台だとか着火具だとかのキャンプするならこれよといった道具、調理器具、そして保存食とセルバ家から試供品として渡しているものが紹介される。

「セルバ家は農家じゃなかったのか」と言われましても、あわよくばアウトドア事業とかを新規事業としてどうかなって考えている最中なので。性能評価の方をよろしくお願いします。

「ダンジョンの5階だ10階だから、セルバ家が急に変わった理由が出てきたりはしないよな」などと言われましても、その返答としては、いやー、さすがにそれはないと思いますよ、たぶん。としか言えません。

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