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077:地下3階2

地下4階で手に入れた板鍵をスロットに差し、上からぐっと押し込む。

カチッという小さな音がしたところで手を離すと、板鍵の表面に刻まれた模様のような筋に沿ってスロットの中から青い光が伸びる。全ての筋に光が届いたところで模様全体が一瞬光り輝き、カキンッという音が鳴ってノブが上に少し上がった。

格好いいでしょう。こういうのは演出が大事だと思うので何の意味もないけれど仕込んでみました。冒険者さんたちにもたいへん好評で満足です。


ノブに手を掛け力を込めると簡単に押し下げられ、扉が開く。この時点で板鍵はスロットから押し上げられ、抜き取れるようになっている。

冒険者たちはまずはこの扉の専用の鍵をもう1枚手に入れることにしたようで、4階へと移動していく。途中のジャイアント・スネークを倒し、宝箱からブラッドストーンをあしらったゴールドリングを入手。これは当然のようにどこそこで作られたーみたいな説明が付く。

そのままフロッグのエリアを通過して地下4階へ進むと、最初の通路にゴブリンが3体。

そこへ放たれるファイアー・ボルト、炎上する1体のゴブリン。

まったく気がついていなかったのか、呆けた表情でこちらを見ている残りのゴブリンには剣が突き立てられ、これで戦闘は終了。あっさり。

その先の行き止まりには宝箱がありアニマル・スピークのスクロールを入手。これもまた調べた限りでは存在を確認できなかったドルイドの魔法。鑑定して、そして驚いてほしい。喜んでもらえるのではないでしょうか。


板鍵のあった部屋を訪れると今回も部屋の奥の壁には板のようなものが取り付けられ、そしてそこには手のひらに乗る程度の大きさの四角い金属の札のようなものがきちんと置かれている。安心してもらえたことでしょう。これからもバンバン持っていってもらって大丈夫だよ。


それから再び訪れた専用鍵の必要な扉の前、前回同様に格好いい演出を見届けたら扉を開ける。その先は通路が伸びていて丁字路に突き当たる。壁には照明器具が取り付けられ光を放っていた。

フリアから飛ぶタイプなような気がするという初めて遭遇する魔物の接近を報告する。

丁字路から一歩下がった場所で準備をしていると、左側からブブブというような音が近づいてきて、そしてそれが姿を現した。


節くれ立った体、鋭い爪を持つ長い腕、細く獰猛な獣のような形をした足、長い鼻先と細長く伸びた耳、そして鋭い牙を持つ口。背には大きなコウモリのような翼。茶褐色をした体色をして、砂埃のような塵のようなものを体全体にまとっている。

見たことのない魔物だろう。ギルドの資料では存在が確認できなかったこの魔物の名はメフィットという。

体全体が見えた、というところでエディが盾全体でそれを壁に押しつけるような形で突っ込む。これで押し切れるのならばこれまでと同じ程度の魔物ということになるのだけれど、さすがにそうはいかないのだ。

盾が当たったところでメフィットが口を開き何かを叫ぶ。

一瞬頭の中がぼやけるような感覚を覚えたのか戦士たちが動きを止め、エディは足から崩れるように地面に倒れていった。


魔物からスリープを受けたと判断したカリーナが戦士を起こすために近づき、その間に守るように前に出たクリストとフリアが攻撃していく。メフィットはそれに耐え、魔法攻撃も避けるといった今までの魔物とは違う粘りを見せる。

カリーナが手に持ったスタッフで倒れたエディを殴り、これで目を覚ましたエディが盾を構え直して突っ込むと、メフィットを弾き飛ばすようにして盾を振るう。この攻撃にメフィットは壁にたたきつけられ地面に落下した。

戦闘そのものはこれで終了。単体なので出来ることには限りがある。でもね、メフィットの良いところはその次の段階にあるのだ。


倒したと思った瞬間、魔物が爆発した。

爆発といっても音や光や衝撃波はなく、その爆発で発生したものは激しい粉塵だった。まき散らかされた塵が辺り一面を覆い、視界をふさぐ。

爆発によって広がった粉塵はすぐに消えたが、直撃を受けたエディとフリアが目を押さえていた。

はい、塵をまき散らす爆発を起こすのです。よってこのメフィットの正式名称はダスト・メフィット。まあただの塵なのでダメージはないのだけれど、いわゆる盲目状態を作り出せる。単体では意味のないことだけれど、ここに増援が来るとか、そもそも複数で出現していたら、ね、意味ができるでしょう。


さすがにゴミが目に入ったという状態でしかないので回復も早い。

もうこれは仕方がない。実際メフィットの真価は集団で投入して倒された端から爆発することにあるのだから。

冒険者たちは探索を再開すると地図を埋める作業に移っていった。その先の部屋で宝箱を発見したのだけれど、鍵あり罠ありを用意してみたところ、この罠の解除に失敗してくれた。失敗というか、たぶん機構を知らないから解除の仕方が分からなかったっていう感じかな。これは罠をたくさん見るうちに引っかかってはくれなくなるのだろうね。

そしてこの罠なのですが。

ビーーーーーーーーーッ!

開けた瞬間に激しい音が鳴り響く。

この音に釣られるようにして、近くの部屋にいた魔物がやってくるのだ。

ブブブという音。現れたのはメフィット、ただし色が違う。白いもやのようなものをまとったスチーム、そして黒みがかった茶色をしたマッド。その2体が重なるようにしてほぼ同時に現れた。


残念だったのはやってくるまでに時間がかかってしまったことだろう。

すでに準備ができていたカリーナが味方を強化するためにブレスを使い、それを待ってからエディが前へ出て、盾を構えて中央に立ち相手をまとめて受け止める形を作る。

攻撃に耐え、スチームが熱い蒸気でダメージをもたらしたりと頑張りはした。したのだが、結局ダメージが積み上げられ、撃破されていく。

しかも一度経験したことで対処方法を学んでしまった冒険者たちは、倒すタイミングをそろえて、まさに倒したというタイミングで盾でまとめて通路へとメフィットを押し返していく。

通路へ入ったところで爆発が起こり、シュージュー、バチャバチャという音が聞こえてきた。音が消えるまで押さえていた盾がどかされると、通路の中には飛び散っている泥のようなものと、白くもうもうと立ちこめる湯気があった。


ご覧の通りこの魔物、見た目通りの攻撃手段を持っていて、そして爆発後の効果が違うのだ。

せっかく警報器で呼び出したけれど、たった2体では限界があった。よく頑張ってくれたとは思うけれど、やはりもう少し数がいないとこのレベル差を埋めることはできないのかもしれない。

そして宝箱からはインヴィジビリティのスクロール。定番の透明化ですね。

誰もが考える透明化の魔法の使い道など決まっている。売店から物を盗もうとか、更衣室を覗こうとか、門番の目をごまかそうとか、使い方は幾らでもある。悪用しないようによろしくお願いします。本当にね。


警報器で駆けつけたメフィットを倒したら移動再開。途中の分かれ道はパスしてその先を調べていくのだけれど、部屋の1つに待機していたスチーム1体はマジミサからの剣の連続攻撃で簡単に倒されてしまう。

最後の爆発は好評だったけれど、倒し方はとても安定していた。攻撃を加えて終わりそうというところで盾ポンで弾いて遠ざける。ううむ。

別の部屋は空き部屋で奥に宝箱。フリアが大喜びで飛びつくようにして調べ始める。やはり宝箱さんの存在は大変に好評。こういう反応はうれしいね。

中身はクライミング・ポーションという壁とかを登れるようになる薬。普通のを出してもつまらないので変化球を投げつける方針。楽しんでもらえるといいのだけれど。


そして次は分かれ道の方。ここはね、色々と仕込んでいるのだ。

先を行くフリアが通路へ進み、少し行ったところで突然ビーーーーーーーーッという激しい音が辺りに響く。

フリアが周囲を見渡すが幸いこの周辺の魔物はすでに倒していて、前方、通路の先の方にも何かがいる様子はない。警報音もしばらくして鳴り止みんだ。足元や壁を調べているがそこには何も見つからない。

はい、申し訳ありません。ダンジョンそのものが人感センサーの役割をしているので何かが仕掛けてあるとかではないのです。通れば必ず鳴るのです。

どう頑張っても必ず鳴るので、連発されないようにすでに鳴らしてしまったフリアがその場にとどまり、仲間は先に通り抜ける。はい、対策はそれで大丈夫、1人残して通り抜ければ鳴るのは1回で済みます。もっともこの警報は演出のためというのが主目的で、魔物を呼び寄せる効果はあまり期待していません。


肝心のその先の部屋なのですが、真っ先に気がついたのは一番に部屋に入って警戒していたクリストだった。

左側の壁の中央辺りに文字のようなものが何行かに渡って書き込まれている。

壁に書かれている文章に使われている文字は、ここヴェントヴェール王国や周辺国で使われている共通語とは違う。古語を少しいじって使用した。

カリーナが古語にも詳しいようで、たどたどしいながらも正しく読み解いていった。

「メフィットに追われてここにいる。扉を開けられず先に進めなくなった。6階に戻って別の道を探すことにする」

ここにはそう書かれている。

ここは3階で、扉の先にあるのは2階への階段で、ここから戻る先は4階、5階になる。それなのに6階へ戻るとは? 6階からここまで近いルートがあるのか?

冒険者たちはそれに加えて下から上がってきた誰かがいる可能性、地下10階を1階と見立てれば自分たちが5階だと想定する場所が6階になり、この場所にぐっと近くなるということにも思い至る。

答え合わせはそれで正しい。このダンジョンが見つかったのはつい先日のことで、ダンジョンを本格的に探索しているのは彼らだけ。地上からここへ至るのは彼らが初。だとしたらという想像。使われている文字も古語に近いもの。だとしたらという想像。

もしかしたらはるか昔に下から上を目指した誰かがいて、今の時代に上から下を目指す彼らがいるのかもしれない。その想像の先の答えは今はないけれど、これから彼らはまだ下を目指すのだ。そこで答えにつながるものが見つかるだろう。


─────────────────────────


いかがでしょうか。キャンペーンシナリオのスタートフラグになります。

文章も正しく読んでもらえて良かった。そうでなければこれを書き写して、持ち帰って翻訳してという手順が必要になるし、6階表記のところでうんうん唸ることになったかもしれない。ここは迷ったところなのだけれど、5階6階と進んだところに答えがあるので、最終的にはそこで察してもらえるだろう。

でもやはり一番盛り上がるのは発見したその場で訳すことだと思うので。

古語が分かる人がいると判明した段階でこういうメッセージを用意することに決めたから急ごしらえな感は拭えないけれど、これはあくまでもスタートフラグになる。本番は6階以降なのです。

そしてメフィットですね。このエリアに登場した魔物はメフィット。アイス、スチーム、スモーク、ダスト、マグマ、マッドと全部で6種類いて、普通に登場しているけれど脅威度は他のエリアよりも少し上なのです。いわゆる普通に強いレベルにしてみました。

簡単に倒されているのは冒険者のレベルが高すぎるせい。決してメフィットたちのせいではないのです。


─────────────────────────


壁に書かれていた文字を紙に書き写したら探索を再開。

メッセージの部屋の先は左右に分かれて、右側からは階段と水場が見つかる。

はい、無事に4階への正解ルートに到達しました。

でも彼らはそのまま4階へと進むことはせず、この専用鍵エリアの地図を埋めることにしたようで、残る通路の先を調べることに。


ならばとこちらは次の部屋にメフィットとしては今までで最大となる3体を同時投入。さすがに難易度がこれ以上になってもいけないので、同時ではこれが上限かなと思っている数だ。ランダム選出で選ばれたのはダスト、ダスト、マグマ。

その部屋に入る前に冒険者たちはブレスの魔法を使い、さらに部屋の中にスローの魔法を投げ込んでから突入するという慎重さを発揮した。

さらに戦士たちが接近する前にアイス・ストームという強力な冷気魔法が使われ、氷の粒による嵐に見舞われて動きが止まりメフィットたちはふらふらに。ダストには接近したクリストが剣を振るい、順次倒されていく。さらに好機と見たフリアもマグマに向かってナイフを投げ込んだ。

後は爆発に巻き込まれないように通路へ入って盾で防ぎきれば終わり。これはブレスがスローがというよりアイス・ストームが強すぎましたね。

1体目のダストが爆発を起こして塵をまき散らす。すぐにもう1体のダストも爆発、もうもうと粉塵が立ちこめる。

そこへ最後に倒されたマグマも爆発を起こして溶岩のようなものをまき散らした。

これで終了のはずだった。


部屋の中でカッと白い光が発生した、その直後。

ドカンッというこれまでに聞いたこともない激しい爆発音が響き渡り、ビリビリとした衝撃が壁に床に伝わり、そして続けて発生した爆風が部屋から通路へと押し出されるようにあふれていった。

通路しか行き場のなかった空気の圧力がエディを襲うと、その足元をすくい上げ、そしてそのままの勢いで隣のクリストにも襲いかかると2人をまとめて後方へと吹き飛ばす。

すぐ後ろにいた魔法使いたち、そしてフリアにも巻き込むようにしてぶつかり、さらに後方へと向かって激しい圧力が彼らを吹き飛ばしていく。

そしてその爆風の向こう側、部屋の中央付近からチラリと赤いものが立ち上がり、激しく吹き飛ばされた彼らを、続けて炎の渦が襲った。

壁に床に天井に、打ち付けられてそのまま通路を吹き飛ばされた彼らの上を炎が嘗めていく。その勢いと熱が通路を埋め尽くした。


─────────────────────────


え?

え? え? 何が起きたの?

どした? あんな爆発が起きるような罠は設置していないよ?

え??


”事故”という言葉が浮かぶ。

いや、これは、事故よ事故、事故。まずい──


『マスター、落ち着いてください。事故が発生しました。対応しなければなりません』


そうね、そうね、ふぅ。事故対応が必要だわ。

何があったの?


『ダストの爆発による塵の散布、さらにマグマの爆発による溶岩の散布、そこからの爆発でした』


塵の散布、溶岩の散布ね。それでばくは、つ? あ? あれ?

あーっ! やっちまった! ふんじんばくはつだ!

ぎゃー、いやーっ! 考えてなかった-!


『マスター、落ち着いてください。理解しました、粉塵爆発ですね。なるほど部屋に粉塵が充満したところへ溶岩による着火ですか、これは想定していませんでした。私たちのミスと言って良いでしょう』


ごめん、まったく考えていなかったわ。

そうよね、起こりうる状況だったじゃないの。どうして考えつかなかったんだろう。や、考えても仕方がない。私たちのミスだ。

それで、彼らの状態は? どう?


床に転がったクリストがうめき声を上げ、わずかに体を動かしているのが分かる。その横でずりっというエディがかすかに動いた音が聞こえた。少なくとも息はある。

その2人に突っ込まれる形で後方に押し流された3人は通路のあちらこちらで倒れているけれど、動きはまだ見えない。


『重体です。2人が意識不明、3人が意識朦朧です』


だめじゃん!

回復は? カリーナさんが回復魔法を使えたよね?


『意識不明、あ、いけません、緊急蘇生の許可を』


きゃーっ! 許可、許可します! 急いで!


『‥‥、はい、蘇生を確認。気絶状態からの回復を確認、これでヒーリングを使用できれば自力で回復まで持って行けるはずですが』


最初に意識を取り戻したクリストが身を起こそうとうごめきながら仲間の無事を問う声を上げる。そのかすれた声に反応したように後方、通路の先で倒れ伏していたカリーナの手がピクリと動いた。

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