076:地下4階
地下3階から引き続き、4階に下りての探索が開始される。
下りてすぐに発見された魔物はゴブリンだった。臭い、足音、気配からすぐに察せらるくらいには有名な、どこにでも現れる自分勝手な人型の魔物。単独では弱く、良く群れる。このダンジョンのゴブリンは果たしてどうだろうか。
まったく何も考えていない顔をさらしたゴブリンを一気に距離を詰めたエディが盾で壁との間に挟み込み、そこへ剣を突き入れ撃破する。ゴブリン単体では子供でも棒で殴りまくって倒せる程度の魔物だ。ベテラン冒険者の前にはなすすべもない。
ふふ、お待たせしました。ようやく定番の魔物、ゴブリンの登場です。いやー、どういう使い方をするか随分悩んだんですよ。今後あちこちで見ることになると思いますがよろしくお願いします。
ゴブリンが現れた通路の先にある部屋には宝箱。中身は金貨、34枚。これもどこそこで使われていた、みたいな鑑定結果が出るからね。現在ダンジョンからの発見物を使った世界観の構築を行っています。むっふ。
そして通路を少し戻って別の部屋で、奥の壁に板のようなものが取り付けられ、そこに手のひらに乗る程度の大きさの四角い金属の札のようなものが1つ置かれているところを発見する。その札には細い溝で複雑な模様のようなものが彫り込まれていた。
これが、3階のあの閉ざされた扉を開けるための専用の鍵になります。
この鍵に関しては冒険者が4階に入るたびに復活するようになっている。ダンジョン内で入手できる、数が限られたものはわずかだ。3階の専用鍵はいくらでも取っていって世の中にあふれさせてもらって構わない。あのエリアは結構稼げるエリアだと思うので、便利に使ってほしい。
専用鍵を入手したことでそこへ進むかと思っていたところ、4階の探索を継続する選択をした。
通路をしばらく進み、隠し扉を発見しながらもさらに先へと進んで扉へ行き着くと、それを調べたフリアが嫌そうに顔を上げる。もうお分かりでしょう、この先にはゴブリンがいるのだ。
ゴブリンは弱い魔物だが群れやすく、群れた場合の脅威度は当然上がる。さあ冒険者たちはどう出るか、なんて考えるまでもなく、これだから高レベルは、である。
扉を開けた瞬間、部屋の中央、何体かのゴブリンが群れてわめいている場所めがけてスリープが放たれた。
6体いたうちの4体が眠りに落ちる。
部屋の中へ飛び込んだクリストが眠っていないゴブリンに剣を構えて突っ込む。この強襲に耐えただけでもよく頑張ったとほめていいだろう。それでも2撃まで耐えることはできずに終了。
別の周囲を見渡していたゴブリンにはファイアー・ボルトが放たれ、こちらは一撃で炎上して終了だ。
眠ってしまったゴブリンはそのまま急所をざくざくと攻撃されて二度と覚めることのない眠りへと変えられていった。
いやー、ゴブリン・ウォリアーとゴブリン・ワーカーを含む6体を一気に倒してしまいましたよ。さすがスリープはずるい。雑魚が一瞬で無力化されてしまう。
うん、でもこうやって見ると戦力としてのゴブリンの群れってやっぱり悪くないわね。というかあの大群をあっという間に倒しきったルプスさんたちはやっぱりすごいのよ。そっかー、ゴブリンの群れ、使いどころが結構ありそうよ。なーんて。
ゴブリンの弱さは誰もが知るところだけれど、同時にゴブリンの面倒くささも誰もが知るところで。ゴブリンはとにかく数だ。このエリアはゴブリンのエリアに見えて、そうなるとまだまだ数はいると考えてもらえるだろう。
当然そこからは部屋の中のゴブリンを倒す、通路をうろうろしているゴブリンを倒すの連続になる。
まずは部屋のゴブリン3体。ここは魔法なしの奇襲で瞬殺。ひどい。
そして次は同じ距離で左右に部屋のある丁字路で、両側の部屋へフリアがナイフを投げ込んで釣り出してから通路でまとめて迎撃するという手段が採られる。
ここで効果を発揮したのがカリーナの使うウェブの魔法。
真っ先に突っ込んできたゴブリンは網に足を取られて豪快に転び、その後に続いてきたゴブリンたちも足を手を取られて動きが止まる。
どうにか突破してきたゴブリンが攻撃にいってもそれは盾に防がれ、武器で魔法で次々と倒されていく。ひどい。
ある程度の数を倒したところでクリストが1人で途中にあった分かれ道に向かい、そこでこちらへ来るゴブリンの迎撃を担当、一人で? と思うなかれ。さすが高レベルのバトルマスターは違った。ノーマルのゴブリン3体なんてなんの足しにもならない。
さらに面倒くさくなったのかフェリクスがウェブごと焼き払うために放ったファイアーボールが炸裂して、焼け残ったゴブリンもサクサクとどめを刺されてあっさりと全滅。何ということでしょう。ひどい。
ゴブリンも群れたら何かできるかもなんて甘い考えだったと思い知らされる。ルプスさんも言っていた。これでメイジでもいたら少しやっかいだったかもと。少し、やっかい、かも。その程度。
これはいけない、いけませんよ。もちろんレベル差が大きすぎるという問題もあるだろうけれど、ゴブリンは単純過ぎる。頭がおかしいのかと思われるくらいの数を一気に投入してようやく意味があるのがゴブリンなんだ、そういうことなんだ。
うおー、使い方を考えなければ。
ということで、まさにしょせんゴブリン。
足止めをしてまとめたところで漏れを始末し、そして範囲魔法で一層する、大した話ではなかった。
ここには宝箱も1つあって、そこからはポーションを回収される。ジャイアントストレングスのポーションだね。今回はヒル・ジャイアントの筋力が得られるもの。まあたくさんゴブリンを倒した報酬ということで、少しはましなものになっていると思う。
このゴブリンエリアにはまだ1部屋残っていて当然そこも調べられ、待機していたゴブリンたちの運命は。なーんて、初のゴブリン・アーチャーを含む6体がいたのだけれど、開幕スリープの前にあえなく全滅。そして宝箱からは宝石を回収されて終わりという結果になりました。
ゴブリンエリアから他のエリアへの接続は途中の隠し扉ともう一カ所あって、そこへたどり着くと、目の前に見えている通路の変化に戸惑いの声があがった。
その通路は入ってすぐの場所が真っ黒に塗りつぶされていて、ランタンの明かりもその黒い場所で途切れている。ただそこは壁ではなく、黒い部分に手を差し出すとそのまま抵抗なくすっと入る。そして手は黒く塗りつぶされ見えなくなるのだ。
その手を動かしてみると普通に動かせるのに、その手が見えていない。左に移動すれば壁に触れられる、右に移動させればこちらもやはり壁に触れられる。
意を決して一歩足を踏み入れると、その足もやはり真っ黒に塗りつぶされて見えなくなったが、地面を踏みしめている感触はある。
ランタンを差し出してみれば、ランタンが真っ黒な中に消え、その光も完全に消えてしまう。だがランタンを戻せば部屋の中へと光がもたらされるのだ。
フリアが意を決したようにロープの一端を手に持つと、そのもう一方の端をクリストに渡し、黒い部分に足を踏み入れた。黒い壁のような場所にロープが浮いた状態で動いているのはおかしなものだった。しばらく右へ左へ動いていたロープがゆるんだようになり、そしてフリアが黒の中から姿を見せる。
中は普通の迷路で右手を壁につけて進むか、長いロープを用意するかで進めるだろう、ただし途中でバットだろう羽音が聞こえたと報告がされる。
ここはなしにしよう、こういう場所があったということでいいだろうという判断がされ、残念ながらダークゾーンの攻略はおあずけ。
真っ暗で見通せない場所に強力な魔物がいたら、罠があったら、そうするとベテランの冒険者といえど苦戦しそううではあるので、これは仕方のない判断だと思う。
はい、お待たせしました。ダークゾーンの登場です。
いやー、思っていた以上に威力がある。作ってようやく分かるとんでもなさ。これは普通の人はパスするよ。やばいな、ダークゾーン。何しろ暗視すら効かないから、気配察知や危険察知に頼るしかない。安全だと言い切れる移動方法が存在しないのよ。
ここでは魔物はバットしかいないし、罠も設置していないのだけれど、下層で魔物あり罠ありの場所を作っているんだよね。これはひどい場所だわ。何か変えないと本当にひどいことになる未来しか見えない。
あー、このダークゾーンを越えたところにちょっと他と違うエリアを用意したのは失敗だったな。別の移動ルートを用意しないと誰も行ってくれなくなってしまう。悩むわ。
ダークゾーンをスルーして、その後は発見したまま放置していた隠し扉へ。
その先は地面が土のキノコエリアになっていて、ファンガスと出会うことに。部屋の壁際を埋めるようにして、赤や黄、茶、白と様々な色をした平坦だったり半球だったりする傘と、節くれ立っていたり滑らかだったりする柄を持つキノコたちがいる。
待機していたシュリーカーは見つかって即座に倒されてしまい叫ぶことすらできなかったし、残念ながらマイコニドやヴァイオレット・ファンガスのいるエリアには踏み入ってももらえなかったしと悲しい結果に。フロッグエリアにつながる階段を発見されてそちらから戻る選択をされて終わってしまった。
どうやら今回の探索はここまでと決めたようで、その後はスネークたちの復活していた連続する部屋もサクサクと通過、そのまま2階、1階と順調に引き返し、無事に地上へと到達した。
帰還してギルドで報告がされ、専用の鍵、光を通さないエリアといった特徴が話し合われる。
まだ3階、4階という段階で見られるこういった点から、もうよく知られているダンジョンではなくなったと言われてしまった。
普通はダンジョンといえば魔物との戦闘を繰り返しながら通路を進んで奥を目指すというものらしいのだけれど、ここのダンジョンはそういうものではない。鍵があり、罠があり、特殊な仕掛けがあり、宝箱がある。少なくとも10階まであるだろうということが分かっていて、そしてまだ4階なのだ。
それでも倒した魔物の種類も増えてきて、得られた宝物などもまたバリエーションが増えていく。とても魅力的なダンジョンだと思ってもらえるとうれしい。
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最終的には喜んでもらえたから良かったけれど、わたしたちの手応えとしてはやっぱり微妙な感じになってしまったわね。
『ゴブリンエリアくらいでしょうか』
そうね。あそこの印象が強すぎてそれ以外がパッとしなくなってしまったという評価かもしれないけれど、結局キノコのエリアは素通りされてしまったし、アリさんのエリアは見てももらえなかったし。
今回の成果はゴブリンの使いどころと、ダークゾーンの危険性だけかな。
『3階も4階も基本的には低レベルのための場所です。4階のアントエリア以外は現状のまま微調整でレベリングの場になるのですから、よしとしましょう。アントエリアはダークゾーン以外の侵入方法を作ってそちらへ回ってもらい、ダークゾーンは本当に見せるだけということでも構わないのだと考えましょう。全ては下層のためです』
そうねえ。仕方がないのかもしれないわね。
何しろ相手はベテラン様。強力な魔法を平気で使ってくるし、そもそも前衛が強すぎて後衛まで手を出す余裕がまったく持てない。スカウトがサクサク進んでサクサク状況を把握していくからこちらが優位に立てる状況が作れない。
相手が悪すぎるわね。ね、せめて対抗できそうなのって5階からかな?
『どうでしょうか。5階もテストの範囲内の配置しかしていませんし、本格的に対抗できるのは6階か、もしかしたら7階まで無理かもしれません』
そんなにか。いやー、相手が悪かったわね。どうしようね、Bランク大歓迎、ベテラン様大歓迎とか考えていたのにわたしたちが大苦戦してしまっているとか。いやー、さすがに楽しくなってくるわね。