074:地下2階
今日は地下2階の探索を見学します。
地下2階、どんな設定になっていたっけと久しぶりにマップを見直してしまった。うーん、はい普通! や、たぶん一番普通のフロアなんじゃないかなあ。一部に特殊なエリアは用意したけれど、入り口からしてここから先は危ないですよっていう宣言をしているから分かってくれるでしょう。
それ以外は特に工夫もないし、本当に普通だと思う。だからここが実質このダンジョンのスタートになるんじゃないかな。なんせ1階があれだから、周回できる初心者用エリア1個で出来ているから。2階こそ普通に探索して、普通の成果が得られる、普通のフロアとして楽しんでもらえたらいいなと思うのです。
お、さっそく冒険者さんたちが入り口にやってきましたね。
それでは見学を始めましょう。
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1階は最短ルートで階段室を目指す。最初のラットも前回と同じく盾で殴り倒して通過、その後は出くわすラットたちもいなくて一気に階段に到達。休憩も取らずにそのまま地下2階に下り立った。
ここからは地図の完成は求められていないらしくて、難易度だとかを確認するための探索が優先されるのだそうな。
ただギルドからは1階の成果を見た結果、2階以降も期待していいんじゃないか的な空気が出ているらしくて、よろしくとお願いされていた。
階段室から1階と同じく隊列を組んで慎重に進み始め、すぐに2階の特殊エリア入り口が発見される。まあ当然よね、スタート直後に設置したからね。
ここは格子窓付きの扉から中が見られるようになっていて、そこは広い部屋で、そして中央には剣を地面に突き立てるような形で両手を添えて持った銀色に輝く装飾も見事な甲冑が立っている。そしてその背後の壁には扉だ。
一目見てあれが何か分かってもらえたようで、安心しました。そうなのです、あれが門番役のアニメイテッド・アーマー。動く鎧だね。
地下2階の脅威度ではないでしょう? いかがですか? 挑んでみますか? などと手ぐすね引いてみたものの、さすがに保留となってしまう。しかもまあやれるがなどと言われるという。あ、そうですか、そうでしたか。まあそうですよね。うーん、ベテラン様にはこれでも物足りないようで。
そこからは地図を埋めるために行動していく。
遭遇したジャイアント・ラットとノーマルのラットのセットはあっさり撃破。
通路の曲がり角に設置した罠もあっさり発見されて回避。
そうしてスタート直後の通路が完全な形で地図に書き込まれたところで次はどうするかという相談がされ、そこでようやくアニメイテッド・アーマーに挑む機運が生まれた。はい、大歓迎でございます。どうせならその先を見てほしいからね。そしてベテラン冒険者としての評価を聞いてみたいですよ。
ただここで高レベルはこれだからという想定していなかった手段を取られてしまう。
ディスペル・マジック。これはいけない。魔法で動くものを一時的に止めてしまう、決まったら一発で終わってしまうような魔法。これが入ったところでアニメイテッド・アーマーは動けなくなってしまうので、本当に困る。
全員が部屋に入ったところでアーマーが動き出し戦闘開始。エディが盾を構えて正面から突撃して、そしてディスペル・マジックが決まる。案の定である。えーん、である。これではただの剣を構えているだけの置物になってしまう。これはいけない。仕方がないのでちょっと操作。
殴られっぱなしのアーマー君が倒れる前に、動きの止まっていたその手から剣が離れ、そのまま移動を開始したのだ。
いえーい、このための剣を持った鎧なのよ、なんて、いえ嘘ですごめんなさい。急遽持っていたロングソードもアニメイテッド・オブジェクトに設定しました。ごめんなさい。もう少し苦労してほしいのです。頑張れフライングソード君。
攻撃魔法をかわして剣が加速、そこへまたしてもディスペル・マジックが放たれたけれど、これにも耐える。偉いぞ頑張れフライング・ソード君。
そんなフライング・ソードに狙われたカリーナが転がるように部屋の外周に沿って走りだした。
そして剣を失ったことでただの鎧と化してしまったアニメイテッド・アーマーはそのまま盾で殴られ剣で殴られマジック・ミサイルを打ち込まれて撃破されてしまう。これはもうどうしようもないでしょう。
走っていたカリーナがメイジ・ハンドの魔法で追いすがっていたフライング・ソードをつかんで止めると、そこへフリアが駆けつけて殴りつけ、さらにクリストが滑り込むようにして切りつける。とどめはフェリクスの放ったファイア-・ボルトだった。
いやー、途中までは頑張れる気配もあったのだけれど、そうかメイジ・ハンドね、うまく使われたわね。これはちょっと驚きの結果でした。さすがやることに工夫がある。
気を取り直してこの先は、ちょっと雰囲気を変えてみたエリア。どうぞご覧くださいな。
扉の先の通路の壁には初めて登場する照明器具。さらに一見普通の扉なのに、違和感を感じるということをきっかけにして一方通行の扉が発見される。いやー、きっちり裏面を確認されてしまいました。ほら、こっち側のノブがないのですよ。閉じたらこっちからは開けられなくなるのです。
さすがに下に物を挟んで開け放した状態にしていきますね。まあそれはそうか。
そしてその先のエリアで地面が土になります。どうですこの変化の付け方。さすがに驚いてくれているみたい。うれしいね。
このエリアにはキノコの魔物、マイコニドを配置している。このマイコニドは平和的、というか冒険者と率先して敵対する魔物ではない。さすがにみなさん承知しているようで、マイコニドをじゃましないように移動したりと工夫する。そう、これを知らずに敵対すると、あとで大変な思いをする場所が作ってあるのだ。
マイコニドと別れて通路を戻ると開いたままにしておいた扉が見えてくるけれど、それは当然のように閉まっている。はい、挟んでおいた金具を回収して閉めてしまいました。まあここは一方通行体験エリアでもあるので、そこはね、ルールに従ってほしいなと思うわけですよ。
その先もマイコニドのエリアになっているのだけれど、冒険者たちも友好的ですよと示すように、武器などは持たずに手を振りながら近づいていく。それを放っておくことにしたのかマイコニドは再びその場で壁に手を延ばしたりといった仕草を見せ、手足には苔のような草のようなものが付着していく。
特に危険はないと判断され、マイコニドの脇を通り過ぎ、マイコニド君は当然これを華麗にスルー。
そうしてたどり着いた部屋には大きな切り株があり、付着した苔を持ち帰ることにしたようで、切り株から少しだけ削り取っていた。
まだうろうろしているマイコニドの脇を通り過ぎて通路を戻ると最初にノブがないことを確認した扉までたどり着き、開けて場所が予想していたとおりなことを確認した。
これでひとまず土の地面が終了、普通のダンジョンに戻ったと思ったらその先は今度は水浸しのエリアに変わる。当然水場に住む魔物のためのもの。これも下層の前にテストしておきたいということで用意した。ここにも一方通行の扉があるので、半強制的に水浸しな場所を歩き回ることになる。
さらに最初の部屋は分かりやすく中央に宝箱を置いておく。ここは見せておきたい罠があるのだ。全員が部屋に入ったところで一方通行の扉が閉じる。ふっふ、バタンッていう大きな音もさせて雰囲気も向上。
箱の中には人の頭と手がザリガニになっている人形を入れてある。材質はオニキスだから見た目はあれだけどちゃんとした宝飾品です。
そしてそれを手に取ると。
ずり、ずり、と何かが強くこすれる音がし始める。ずりずり、ずり。
頭上から迫り来るように聞こえてくる音に、え、と全員が上を見る。
ずり、
ずり、
はい出ました、下がる天井の罠。使ってみたかったので。
全員が慌てて移動を始める。扉を開け、外へ。天井の下降はゆっくりにしてあるから急げばちゃんと間に合うようになっているのだ。
背後を封鎖したところでこの先は水の深さが少しだけ増し、そういう場所のための魔物が登場する。
背はそれほど高くはなくて小太り。頭部が大きく、鱗に覆われた銀灰色の体がてらてらと輝く。手には先がハサミのように二股に分かれた槍のような長さのものを持っている。
マーマン、とつぶやく冒険者の声。
そうね、マーマンと言ってもいいのかな。正確にはクオトア、頭部が魚っぽい人型の魔物。さっきの人形は彼らの崇める神様の形を模してある。このクオトアが持っている杖はピンサー・スタッフといって、そうね、刺股の先端部分が開いたり閉じたりするものといえば分かるだろうか。
このクオトアは部屋の中にいて、そして脇の通路の方にもクオトアがいて近づいてこようとしているのか水音がする。
さすがに挟み撃ちの構図にはしたくないのだろう、1人で耐えられるエディがその通路の側にまわり盾を構えた。
クリストが剣を抜き、クオトアがピンサー・スタッフを構える。
先手はファイアー・ボルト、そして距離を詰めたクリスト。それに対してクオトアが自分を守るための防御の魔法を使ってから武器で斬り合うためにピンサー・スタッフを構える。そう、このクオトアは魔法を使うのだ。
だがここでまたしてもこれだから高レベルはといいたい魔法が使われる。
サイレンス。これ以上魔法を使わせないための静寂の魔法。
これによってクオトアは殴り合うしかなくなり、必死に武器を振るい、そしてぶつけられるマジック・ミサイルに耐える。
ここでサイレンスを使っていたカリーナが次の魔法としてマイナー・イリュージョンを選択、クオトアの近くで爆発音を起こす。この爆発音に釣られたクオトアが動きを止めたところへ背後へ回っていたフリアの急所を狙った攻撃が決まってしまった。
いやー、うまいですね。そこまで高度な魔法を使わなくてもこれで戦況を変えられるというところで使ってくる。参考になります。
さらに通路で始まっていたクオトアとの戦闘に参戦、こちらはそこまで強いタイプではないので、あっさり倒されてしまいましたとさ。
どう考えても2階の脅威度ではない、冒険者が入るとしてもEかD、Dでもどうかという評価を聞くことができた。
大好評ですね。良かった、用意しておいて。
アニメイテッド・アーマーを倒せる冒険者であればここも攻略できる、そういうことですね。ここはそういうエリアなのです。もっと下層でのあれこれのためのテストの為でもあるし、それまでに冒険者にここで少し体験しておいてもらおうというエリアでもあるのです。
ここの戦果としてはピンサー・スタッフも持ち帰るようだ。見たことのない道具だったのかな。そうかも。
この部屋には宝箱は置いていないけれど、その代わりにクオトアが腰に壺を下げていて、それを持ち帰ることにしたようだ。この壺はアルケミー・ジャグといって、水とか油とかお酒とかを一定量だけ自動で作り出せるもの。どうかな、結構いいものでしょう。
そこからは地図を埋めながらスタート地点に戻るように移動。土と水のあるエリアを出て、階段に近いところに戻ったら手近な扉を開けて先へ進む。
扉の先には選択肢が複数あるのだけれど、選んだ通路では配置してあったジャイアント・ラットが別の場所に動いてしまっているし、遭遇戦が発生しなかった。
さすがに扉の向こう側の気配を探るのがうまい人たちは魔物を避けるのもうまいということよね。ジャイアント・ラットが遠ざかるのを確認してから扉を開けてっていうことを普通にしてくるというのが分かって良かったということにしておこう。
実はこの通路、うまく動けば魔物との戦闘が発生しないまま通過できるという予定が最初からあった。この先に3階への階段があるということもあって、経験者が1階2階を一気に通過してしまえるようにという配慮だったのだけれど、やー、まさか最初からそこを当てて来るとは思わなかったわね。さすがということにしておきましょう。
そうして階段室を発見して、これで2階は終了かと思ったけれど、どうも余裕があったらしくもう少し見ていくことに決定。
さっきは回避されたジャイアント・ラットはノーマルのラットとセットで向かわせてみたけれど、やっぱりというかあっさり撃破。
別ルートの探索では、宝箱の前の床に罠を設置しておいたのを見破られ、がっくり。あ、宝箱からは宝石を回収されました。
それから通路上のシュリーカーには見事に悲鳴を上げさせることに成功してバットが応援に駆けつけてくれました。なーんて、ノーマルのバットなんて雑魚ですよ。応援に来たところで、どうしようもないのです。
そして次の部屋への通路に設置した飛び出す槍の罠はあっさり回避。
ラストは通路上と部屋の中とにたくさんバットを配置して、最後にはジャイアント・バットまで持ち出してみたけれど、どれもあえなく撃破されてしまい、まあそれはそうなるよねという感想。
通路の行き止まりに設置した宝箱の罠がようやく解除に失敗してくれたけれど、ダーツが飛ぶタイプだったので盾で普通に避けられてしまった。ここの宝箱は回復薬。ヒーリング・ポーショってやつよ。
それから最後のジャイアント・バットのいた部屋の宝箱の中身は宝石ね。宝石はもう定番。中身に困ったらこれよ。
今回の探索はここまでとしたらしく、成果を持って通路を引き返していった。お疲れさまでした。
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いきなり難易度を高めたエリアに入られてしまったけれど、さすがにベテラン冒険者だけあって難なく攻略されてしまったわね。
『良い結果だったのではないでしょうか。あれくらいの脅威度の魔物ならば特に問題とはならないようです。今後もテストとして小出しにする形で進めていきましょう』
そうね。それでテストして下層で本格投入よね。
罠も結構好評になってきたんじゃない?
『はい。簡単に見つかってしまってはいますが、それも想定の範囲です。こういうものがあるぞと見せていく良い手段になっていますね』
うん。これも今の段階ではただのテスト。下層でどう使うかが本番だもの。
宝箱の罠もやっぱり数を出せばどこかでミスは発生するって分かって良かった。これなら遠慮なく使っていけるわ。扉にも付けていきましょうね。
『そうですね。やはりミスは発生しています。人のすることなのですから当然ですが、ゲームとは違い数値だけでは分かり得ないことです。部屋の罠、扉の罠、箱の罠。連発すれば疲れも溜まりミスも発生しやすくなる。良い経験が積めました』
苔を採取してくれたのも良かった。これでまた採取ポイントの設定がしやすくなるし、エリアの変化をつけるのにも一役買ってくれる。
クオトアの神様の人形も良かったわね。あれも雰囲気作りとして入れたものなのだけれど、やっぱり重要だものね、雰囲気。
報告会での反応も上々だったし、このまま3階も頑張っていきましょう。