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071:

立木の伐採が始まってからは早かった。

次々に木が切り倒され、資材置き場へと運び出される。資材置き場にはよそから持ってきた木材だとかも積み上げられていった。

道が付けられる場所が確定すると、その手前、街道との間の測量が行われ、出張所が建てられる範囲に石や砂利で基礎が作られた。

たまに見に行くのだけれど、見に行くたびに景色が変わっていく。

わたしから仕組んだことではあるけれど、何となく楽しいような、でも少し寂しいような不思議な気持ちも湧いてくる。

そして仮設の出張所が完成するかしないかくらいの時に、わたしは9歳になった。

もう、だ。もう9歳。予定では1年くらい予備期間をおけると思っていたから、これでだいぶ遅いのよね。

まだ、調査が始まっていないのだ。

一応調査に入る候補のパーティーは決まっているとは聞いたけれど、まだこちらに来てはいないらしくて、到着したらあいさつに来ると言っていた。どこかよそで別の仕事をしているところだったらしくてね、それが片付いてからなんだって。


わたしは学園入学まで1年を切ってしまったので、その準備が始まっている。

持ち込むものを決めたり、服を決めたりね。

お兄様という前例があるのでそれをなぞるだけになるのだけれど、わたしも一応は教えてもらって物を見て立ち会って、それで決めていかなければならないのよ。

その合間に相変わらず勉強したり運動したり礼儀作法を繰り返したり。

9歳っていうと小学校だと3年生から4年生か。何だっけ、個人差がはっきりしてくる時期なのかな。精神面が子供から脱していく時期。そのタイミングで親元を離れて学園で集団生活を送ることになるというね。良いのか悪いのかよくわからないね。まあこの世界では子供の成長も早いとは思うけれどさ。

さてそんな状況ですが、わたしは運動と称して建設現場まで歩いて出かけます。

だいたいはキニスくんが一緒。たまにニクスちゃん。

ね、彼らは成長しないよね。これ大丈夫なのかな。


『ダンジョンにこの状態で登録してそのままですからね。彼らがよしとするならば現状維持としておきましょう。成長を望むのであればそうします』


そうね、任せましょう。

オオカミって本来1年か2年で大人になって群れを離れたりするんじゃなかったかな。ウルフになって変わったかどうかはわからない。

だからね、本人たちに任せるよ。

わたしとしてはまだしばらくは今のままで付き合ってほしいなとは思うけれど、わたしだってこれから学園に行って成長してっていうように変わるわけだからね。

寿命の問題だって本当はある。オオカミはたぶん15年とか20年とか。ウルフがどうかはわからない。ダンジョンに登録されて成長が止まっているのだと思われる彼らがどうなのかはわからない。本人たちの判断に任せる。


学園にもダンジョンを作ることは決めている。

どれだけのものを作れるかは実際に行ってみないと分からないけれど、最低限自分の部屋はすると思う。

そうしないと不便極まりないからね。今までやりたい放題してきたツケで、ダンジョン化していない部屋でずっと過ごすなんて無理よ無理無理。

最低でも自分の部屋だけはダンジョンにしないとスライムさんを置くことすらできないからね。

それに連絡用のシステムと、やろうと思っていた移動用のシステムも導入したいのよ。

連絡用はもう1号ちゃんと2号ちゃんの間で作ってあるからいいけれど、移動用がね。いわゆるワープポータルを作ろうと思っているからね。

1号ちゃんの自分の部屋、2号ちゃんの、こっちはどうしようか自分の部屋か新しく地下室を作ってそこに。いや部屋がちょっと狭いしさ、2号ちゃんのダンジョンの管理室みたいなちゃんとしたものを作ってそこにっていうことも考えているから。

3号ちゃんの場合は最下層を作ってだね。現状だと11階になるかな。出入り口のない直接飛ぶしかないエリアにするよ。

これね、何かあったときにわたしが直接出向いて現地を確認して対処できるようにっていう以外にも、わたしが緊急時に脱出するための仕組みでもあるのよね。

この世界に生きているものを移動させられるポータルがないのなら、移動用ポータルを使えるのはわたしだけということになる。まあわたしのダンジョンからわたしのダンジョンへっていうだけなんだから当然なんだけど、少なくとも学園から緊急脱出するための仕組みなのだ。いるのかそんなの。分からん。


そうこうするうちに調査担当の冒険者がミルトの町に到着したみたいで、お父様とお母様のところにはあいさつに来たと聞いた。

仮設出張所も完成して、今は荷物の運び込みが行われている。それが済んだら冒険者も出張所に住み込みになるそうで、そのタイミングでもう一度お父様にあいさつして、それからここにも来ると聞いている。

楽しみだ。

待った、待っていたよ、ようやくここまで来た。

もうね、1階から10階までは確認しすぎて何をどう見たらいいのか分からなくなるくらいなのよ。

早く冒険者に入ってもらって実際に体験してほしい。

10階から先も作り始めたけれど、さすがに調査段階では開放しない。そのために10階をイベント戦にできるように調整したいのよ。

だからさ、冒険者に実際に入ってもらって、5階までの進み方を見てからその先のバランスを調整したい。ちょうど良いと思えるくらいの感じで、でも6階くらいから一気に難易度を上げていって10階がギリギリになるように、そんな調整をしたいの。

来るのはBランク、ダンジョンの探索に慣れたパーティーだと聞いている。

ファイター、ファイター、ウィザード、ソーサラー、ローグ。ぱっと見攻撃役ばかりで回復役がいないなと思うけれど、これでBランクだからね。聞いてみたら攻撃役、盾役、攻撃系の魔法使い、回復を兼ねられる魔法使い、斥候役という構成みたいで、これならいいバランスだと思う。ローグが斥候役だというのが特にいい。

シーフ系の職業だからね。鍵や罠を多用するわたしのダンジョンとは相性がいいと思う。いなかったらバランス調整やり直しレベルで大事。

盾役ができる戦士、回復役ができる魔法使いがいるというのもいい。探索に慣れていてBランク、なるほどと思わせるわね。

それで男性が3人、女性が2人だって。もともと同じ町出身の人たちが集まってできたパーティーだそうで、それで戦力バランスも良いし、人間関係もうまくいっているのだそうだ。異性の組み合わせだともめるところも多いって聞くものね。少なくともうちで調査している間にもめてもらうのは困るので。

先に領主で州知事でダンジョン地権者のお父様にあいさつに来たというのも高評価。実際来た人たちの印象も良かったらしいわよ。態度が落ち着いていて、高い地位の人に会うことにも慣れているようだったって。

実際高ランクでそんなわけ分かんないような人はいないってモニカさんも言っていたから心配はしていなかったけれど、あるじゃないね、お話だと、ね。


で、完成したという出張所も見せてもらって、作りの簡素さとか壊すとなったら壁も天井も柱も、全部再利用できるよと教えてもらって、なるほど仮設と納得した。

運び込んだ荷物を事務所だ解体所だ宿舎だと置いていくところを見せてもらったり、冒険者はここでたむろしているのよと教えてもらった休憩室は小上がりになっていて、ゴザが敷いてあって。ゴザ、たぶんゴザでいいと思う、草を編んだ敷物だね。とても興味深い見学だった。

それでいよいよ冒険者があいさつにやってきた。

うおー、初めての現職の、ちゃんとした冒険者よ。それも高ランク。すごいわねえ。

ただあいさつに来たときには防具とか武器とかは持っていなくて、まあそれはそうか、貴族に会うのに武装していてどうする、ちょっと残念だった。

それで軽くお話を聞いて。これまでどんなところで冒険をしてきたとか、どんな魔物を倒してきたとかね。面白いね。

叔父様も叔母様もそこまで手広く冒険をしたわけではないと言っていたから、何というか本職の冒険者についに会ったという感じ。

興味があったので内緒でちらりとステータスの詳細を確認したら、キャヴァリアー、バトルマスター、力術系のウィザード、神の魂のソーサラー、スカウトだった。これは良いわね。盾、物理アタッカー、魔法アタッカー、回復と支援のできる魔法使いに斥候よ。さすがねえ。物理遠隔以外はそろっているっていっていいんじゃない?

それでこれまでの体験談も軽く教えてもらったのだけれど、廃虚になった都市だとか、火山のような溶岩の流れている洞窟とか、墓石の立ち並ぶアンデッドだらけの墓地だとか、聞いているだけでわくわくするわね。ね、参考にしましょうよ。楽しそうよ。


『良いですね。さまざまな形を考えてはいましたが、実際にあった話を聞くとやはり膨らみます。特に10階から先は城門をくぐって入る形式を採用していますからね、オープンワールド、オープンフィールド型、良いですね』


ね、楽しいわね。

わたしとしては希望していたダンジョン名とか、ダンジョンのある土地というか管理地みたいになる土地の名前とかの希望も出してあるし、それが採用されるといいなあってお父様には言ってあるのでこれ以上やることはない。

実際に調査が始まるのを待つだけだ。

それでこの後は装備や持ち込む物の点検をして、不足なしと判断できたところで調査に入るという。おおよそ3日後くらいから。

初日は地下1階だけで、その後は様子を見ながら日帰りで可能な範囲になるので、進み方はしばらくゆっくりなんだってさ。

それで毎日モニカさんが調査報告書を作って、お父様に届けるのだそう。なるほど、それは進み方がゆっくりになるのも仕方がないわね。

ダンジョンにある程度慣れるまでは泊まり込みは禁止、慣れたら1泊までを制限に挑むそうで、だいたいどこのダンジョンでも5階くらいまでは1日で攻略する範囲に収まるらしいけれど、もうそういったところはお任せです。管理人としても1泊から2泊で到達できる、現状最大10階と想定していますので、どうぞよろしくお願いします。

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