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068:

さらに少し進んだ辺りから森の植生に変化が現れた。

生えている草が変わり、コケが目に付くようになる。水分量が変わったのだろう、沼地が近づいたということだ。

「ああ、これはいい、少ないですがすでに薬草がありますね」

忙しく見渡していたベネデットさんの評価の声。

沼地周辺を濃くして、そこから遠くなるほどまばらになるようにしたんだっけ。でもそろそろ魔物もちらほら見えるはず。

「今何か動いたか? でかかったが」

ウーゴさんが気がついたみたい。わたしはガサッていう音がしたことは分かったけれど、どこに何かがとかは気がつかなかった。

「オオカミが無視する程度の相手なのでしょうが、種類は知りたいところですね。注意して見ていくことにしましょう」

さらに進むと明らかに周囲の様子が変わってくる。

草の密度が上がり足首まで隠すように生い茂り、岩がコケを乗せ、倒木もコケむしてくる。視線の先、まだだいぶ向こうだけれど、光がまとまって差し込む場所、開けている場所があることが分かる。沼地だ。

「薬草の数も種類も増えましたね。わたしは気がつきませんでしたが、魔物は見えましたか?」

「いや、今のところ見ないな。さすがにこれだけ音をさせて動き回れば警戒はされるだろう。と、待て、止まれ、左手だ。慎重にな、3本先だ」

ん? 何かいました? 特に音とか気配とかわたしには分からなかったけれど。

左手、3本先――んー? 何かいます? 分からーん。

「いますね、ああ見えた。セラータ・ラット確認。ダンジョンにいるものと同じでしょうか。あのサイズですからね、これはなかなか見つけにくいですよ」

ラットだったか。まあ草、木、岩、地形も含めて障害物が多いからね。森の中であのサイズを見つけるのは難しいね。ラットで良かったよね、向こうもこっちを襲おうとは思わないでしょう。

「このサイズのスネークがいてラットがいないはずがないですからね。そうなるとスネーク以外にもラットを狙うような中型の魔物は他にもいるかもしれません。注意しましょう」

なるほど、そういう風に考えるのね。そしてニクスちゃんが軽く狩ってきたので、捕食者として上位に置けると。

何を配置したっけ、小型はどこにでもいるラットと、バットは餌にならないタイプかな? 中型はフロッグ、トードか。まああれはラットを食べそう。

そろそろ沼地、というところでニクスちゃんが足を止める。それを見た叔母様やベネデットさんも武器に手をかけた体勢で沼の方を見る。

「いますね。ジャイアント・トード、さすがに大きい。沼の主といったところでしょうか。その向こうにノーマルの、こちらはフロッグ、セラータ・フロッグですか。あれを釣り出して狩って帰りたいところですが、ジャイアントの動きが気になりますね」

リンクしないタイプなら1体ずつ釣って倒せば良いけれど、リンクするタイプ、もしくはジャイアントがノーマルを従えている形だと面倒よね。集団対集団になってしまう。


『沼の周りの平たん地内であればリンクしますよ。ジャイアントは沼の中へ戻らせ、ノーマルから1体を少し離しますのでそれをどうぞ』


おっけー。やりましょう。

ジャイアントがのっしのっしという動きで沼の中程まで移動していく。跳ねないんかいと思うけれど、今回の獲物は彼ではないのでスルー。周囲に何体かいるノーマルのフロッグの中から1体が沼から少し離れた場所、わたしたちの側へと移動してくる。ぴょういと跳んで完全に平たん地をはずれ、岩に手をかけてあさっての方を見る。あれ、釣れそうよ。

「行きます」

叔母様が小さく言う。腰から何かを取るとそれをフロッグへ向けて放った。

それが足の上、腰になるのか、そこに当たってフロッグがゲとか何とか言ったような気がした。こちらを見る。

ニクスちゃんが脇へどき、ウーゴさんが開いた場所に出て盾を構える。

跳んだ。と思った瞬間、ドンっという激しい音とともにウーゴさんが身をかがめて盾を押さえた。その右から叔母様が、左からベネデットさんが、盾に隠れて見えない場所へ向かって剣を突き出した。ザクザクッと言う激しい音とゲーという声らしきものが聞こえて、すぐに静かになった。

剣を引いた2人が離れ、ウーゴさんが盾をどかすと、そこには動かなくなった大きなカエル。色が緑と黄色と間に紫の線があるかな、そして腹は白っぽい。ちょっと色が原色気味で怖いけれど、そこまで毒々しい見た目ではないね。

「さすがに本職の盾がいると楽ですね。さて、こいつも何とか持って帰りたいですね。袋に入るかな」

ベネデットさんが足元に落としていた袋の口を開けてフロッグをぐいぐいと押し込んでいく。スネークが奥の方に押し込まれ、フロッグの幅で袋がぐぐっと盛り上がって、どうにか入りましたか。でももういっぱいいっぱいですね。

「フロッグは皮と肉ですね。毒持ちならばそれも欲しい。肉は舌とモモが美味しいですよ」

ほう。そういえばカエル肉って鶏肉みたいで美味しいんだっけ。そしてこのサイズになると舌も食べられると。牛タンみたいなものなのかな。うちは基本シカ肉だからカエル肉とか食べたことないのよね。

「魔物はこんなところでしょうか。あとは薬草をサンプルにいくつか採取させていただいて、品質を確認してみます」

はーい。

ベネデットさんとモニカさんが沼地までは立ち入らずに周辺の薬草を採取してくるそうなので、わたしたちはここで待機。大きな岩があったのでそれを背に、ニクスちゃんも寝そべってこちらを見るので、仕方がないのでジャーキーを提供。

ウーゴさんは立ったまま、いつでも動ける体勢でいる。さすが護衛役。その辺りはちゃんとわきまえているわね。


『お待たせいたしました。ただいまより突発発生型の戦闘イベントを開催いたします』


え、何だって。

イベントって言った? え、なに、本当に仕込んでいたの。と、思うまもなく。

岩を背に、沼地を右手にした前方、山の方、斜面の上の方からギャー! という激しい声とバサバサバサッと何かが転がり落ちてくる音。

「ゴブリンだ!」

ウーゴさんが盾を持ち上げる。

「モニカ、後退!」

ベネデットさんが指示しながら、自分も下がってくる。モニカさんはわたしの隣、ウーゴさんの背後へ。ベネデットさんはウーゴさんの隣で剣を抜く。叔母様もすでに立ち上がって剣を抜いていた。ニクスちゃんはまだジャーキーをもっちゃもっちゃしている。あんたねえ。

「今のだけでしょうか」

「いや、まだいるな。数がいそうだ、気をつけろ」

ウーゴさんとベネデットさんが声をかけあう。さすがに危ないのでわたしも立ち上がってクラブを手に持つ。ほら、ニクスちゃんも。ゴブリンどうでもいいみたいな顔をしていないで。

わたしからは木立が邪魔をしてゴブリンは見えない。でも音がするね。何だろう、数は分からない。でもガサッバサッて――

急に気配が膨れ上がった、と思った瞬間、バババッと音を立てながらゴブリンが傾斜地に飛び出してくる。中には背後を気にしているのか後ろ向きのものも。数がどんどんと増えていく、10以上いるんじゃないのか、それが傾斜を転がり落ちるようにして下りてくる。本当に転がっているものもいる、何だ、何かに追われている?

傾斜が緩やかになった辺りでゴブリンたちは集団を作り、そして、わたしたちではなく傾斜の上の方を気にしていた。中にはこん棒を振り上げて威嚇しているものもいる。ギャー、ガーという声、何かいるんだ。わたしたちの注意も上の方へ向かっていた。

「いる、なんだ、圧力を感じる。強いぞ」

ウーゴさんが盾だけでなく剣も抜いて構える――ニクスちゃんが立ち上がった。

いる、何かいる、わたしでも分かる。木々の向こう、傾斜の上、草が揺れる、細い、長い足が見えた。毛に覆われている。それが2本、3本、4本、5本、濃い紫色をしたいぼのような膨らみがたくさんついた体が見えてくる。クモだ。

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