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064:

しばらくして街道沿い、森の外周に沿って土地の測量が始まったという連絡が入った。ようやくここまで来たという思いがある。

ミルトの町からやってきて測量をして、その日のうちに帰ってしまうので進展はとてもゆっくり。この辺りには泊まれるところがないから仕方がないのだけれど、これは終わるまで結構かかるわね。

ダンジョン入り口に向かう場所が確定したところで、森の木々に赤いひもが結ばれた。たぶんこの木を切りますという印だと思う。だいたい盛り上がった部分に合わせた幅かな。少し広めの道になるね。

そうやって少しずつ先行きが固まってくるのだけれど、ここまで来たという感慨と同時に、見たことのない人たちが大勢森の周り、何だったら森に立ち入ったりもしてうろうろしているのは、ちょっとモヤモヤする。

まあわたしのできることは特にないので、今は勉強を進めたり、運動をしたり、礼儀作法を習ったりといったことに時間を当てている。

何しろわたしの学園行きも2年後に迫ってきているからね。最低限町の学校で習う範囲に加えて、子爵家の息女として恥ずかしくない程度のレベルまでは持って行かないかなければならないのよ。

国語はね、文法と弁証はまあ何とかなるけれど相変わらず修辞がちょっと怪しい。慣れの問題だとは思うけれど、そもそもコミュニケーションに難のあったわたしがレトリックなんて得意なわけないじゃんていう。

ただ町の学校で教わる初等教育はほとんどが国語で、あとは算数とか歴史とか社会とか倫理とか、一般教養ぽいことで占められているらしいので難易度はそれほど高くない。ほとんどが丸暗記で何とかなる。と思う。わたしは本を読むのが苦ではないからね、国語以外だったらいけるいける。


これが学園に入るとより高いレベルの内容を教わるらしい。細かい部分まで盛りに盛ってくるということだね。日本だと日本史と世界史があって、自国の歴史である日本史は一冊がっつり使って盛ってくるみたいなもの。

それから上等教育として数学が始まる。町の学校だと算数のうちの足す引く割る掛けるまでで、その先は学園でという感じ。この数学がね、かなり難易度高いらしい。

算術はまったく問題なし。得意というわけではないけれど、さすがに一度高等教育を通り過ぎているわたしの敵ではないよ。

問題になるのは数学という名のそれ以外のジャンル。

天文学はわたしの知っている宇宙と違いすぎてどうにもならない丸暗記推奨案件だった。星の位置を記録し続けて一年を知ったみたいな記録もあるし、すべての日で月と太陽の動きを記録し続けて一日を知ったみたいな記録もある。

どこだかに天文台もあって、国から依頼を受けた占星術師が今も記録を続けているみたいな。さすが最古の学問の一つ、この国でも立派に発展してはいる。いるのだけれど、そもそもの天体の配置だとかがまったく違っていてね、わたしにはあれが何でこれが何でが分からない。宵の明星という言葉はあるのに、どれがそれなのか分からないのよ。金星どこだよ。

幾何学。これがなければ点と線と円が決まらなくて、そうなると測量もできないのだからあって当然。そして要するに図形とか空間を扱う数学なので何とかなる、ような気がするのよね。でもさすがに高等すぎてついて行けなくなる要素も出てくる。でもでもさすがに高等すぎて町の学校レベルではほぼ教わらないらしいから、高等すぎるっていう不満はおっけーなのよ。たぶん。

音楽学、これも数学なのかよ案件。なんか難しい理論で音を数学的に調べることが盛んらしいよ。これは正直よく分からん。音程とか音律とかなんとかかんとか、全部数式でできるらしいよ。よく分からーん。


宗教学とか社会学、医学なんかは基本はひととおり教わるものの、どうもその辺りは専門で学ぶ研究機関があって、そっちの担当になるらしい。学園で基礎を学んで、もっと学びたい、その道で仕事をしたいとかいう人たちが行くんだってさ。

それでそのまま公的な勤め先に進むことになるという。社会学が行政機関で、医学は医療機関、宗教学は何だ、教会は自前で人材を用意するんでしょ? そうすると行政の対宗教なのかね。


そんな学問たちはまあいいのよ。わたしは学ぶことに慣れた元現代日本人。どうにでもなるなる。たぶんなる。それに対して大問題になることは何かなんて決まっていて、武術と魔術、これよ。

武術はまあ要するに武芸よね。剣術、槍術、棒術、杖術、弓術、砲術、体術。まあいろいろあるわあるわ。わたしもね、一応ね、クラブでゴブリンを殴り倒した女なのでね、何もできないわけではないのよ。でもねえ、こっちの世界の武芸ってどうもスキル前提な感じなのよね。

技術で補える部分もあるだろうとは思うのだけれど、まさかねえ、剣を振るだけで離れた場所のものを切断する技なんてどうしろと。もちろんとんでもなく速く強く振ればそれは剣圧は発生するでしょうけれど、そんなものどうやって再現しろっていうのよ。無理無理無理無理無理無理。

わたしが技術で補える範囲なんて限られるだろうし、考えるだけ考えておいて、あとは魔石の力でそれっぽい現象を起こせる武器を用意することで乗り越えようそうしよう。もっとも基本使い捨てらしいそういう武器は使い捨ての割にはいいお値段がするそうなので、わたしが使うというよりもダンジョンの宝箱に放り込むのに良いでしょう。


それでさらに問題になるのが魔術だ。魔法だ。どうしろと。理論だけはね、学んでみたいと思っていたから楽しみではあるのよ。でもねえ、使うためには対応したスキルがどうしても必要らしいのよ。素質さえあれば学んだことを実践している最中に発現するというのだけれど、そうなるとわたしには無理じゃないね。こちらスキルなし子さんですよ。

基本四属性の土水火風、そこからの派生というか変質した上位の属性として木氷炎雷音とかあとは時間、空間、光、闇。そういうのをあれやこれや組み合わせたりしていろいろな現象を再現するらしいよ。

面白そうなのにね。わたしにはダンジョンの中での遊びでしか実現できないよ。

もっとも歴史とか物語とかでは登場するけれど、現在は再現ができていないという魔法も数多く存在するらしい。特に時間と空間系は顕著だね。タイムストップとかテレポーテーションとかだね。これまでに何度も何度も研究と実験は繰り返されていて、それでもいまだに無理なんだってさ。でも基礎理論自体はあって、それをさらに研究してという段階で、要するにさあ、結局数学なのよね。そういう時間とか空間とかを理論立てて研究するためにも数学が盛んになっているんだってさ。もうね、数字数字記号記号で大変よ。勘弁してほしいわ。


そんなわけで勉強と運動はまだいいのよね。理解できているからね。本を読んで、体を動かして、とにかく繰り返して身につけていこうね、で済む。

礼儀作法がなあ。同じ繰り返して身につけていこうなはずなのにね、どうしましょうね。

人としての徳、倫理観なんかは問題ないと思う。現代日本とそう変わるものではないからね。教科書を読んでいても、態度や物腰が大事、節度が大事、口先ばかりでものを言うな、うわべだけでものを言うな、慣習には従え、知性を磨け、まあ大体同じ。

困るのが貴族的な話の方。振る舞いとか作法とかで貴族としてって書かれている内容がどうしても難しいのよね。社交も食事も大事なのは分かるけれど、家ではとくに言われなかったし、お父様もお母様も見ている限りは普通だったからね。普通にしていれば失礼ではないはずなのよ。でも外でだったり公の場では切り替えないと駄目らしいわよ。

叔母様の評価も「見ている限りではおかしいところはないと思うけれど授業や公の席ではきっちり決まり通りにしないと陰で非難されるから身につけるべき」というものだった。

分かるけどさあ、だんだん面倒になるわよね。

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