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051:

さて、探索もそろそろ終盤です。

いかがでしょう、そろそろ戦闘の体験もしておきますか? 元冒険者の方がお二人いらっしゃいますので、指導を受けながらダンジョンでの戦闘が体験できる貴重な機会となりますが。

「そうだね、僕はやってみたい。ラットなのだよね?」

そうなりますね。セラータ・ラット、このダンジョンの魔物ではもっとも弱い部類になります。

「よし、やってみるか。アーシア、ロランド、場所を交代。アーシアの盾を借りろ。構えるのは胸から腹にかけてを守るように前にな、よし。俺の斜め後ろを歩け。接敵したところで俺が受ける、おまえが攻める、いいな」

良さそうですね。それではセラータ・ラット1体の攻撃性をオンに、行動をアクティブに変更します。

現在地から終点、階段室までのどこかで出会うことになります。必ず会えますが、あちらも動いていますからどこで会うかは分かりません。十分注意してください。

もう一つ、まだ出現していない罠が1種類あることもお忘れなく。

「マジかよ、まだあるのか。魔物と同時だけは勘弁してほしいな」

さあどうでしょう。そういうことを言うと本当になりそうで怖いですよね。

「マジかよ。仕方がない、そのつもりでいくか」

では前進を再開しましょう。

交差点を前進、右手の道はクリア。そのまま進むと壁にぶつかり右へ折れる。気配なし。叔父様は剣を先に出しながら慎重に右へ。それに続いてお兄様が通路を曲がる。

後に続くわたしたちもさすがに少し緊張している。

前2人がやる気だからね。戦いたいと言ったお兄様を止めようと手を伸ばして口を開こうとしたそのまま止まってしまったお父様が一番緊張しているかもしれない。

そのまま前進すると十字路。右、行き止まりを確認。前方と左はまだ先がありあそう。まずは前方を確認。前進すると左へ折れる場所へ。慎重に曲がった先を見て行き止まりを確認。

残り分岐は一つ。先ほどの十字路へ戻って右を確認、問題なし、その方向へ進む。

しばらくは直進、と前方に動くものが。立ち上がったりしゃがんだりする、ラットの姿を確認。こちらを見ている。

「あれっぽいなあ。向こうもやる気のようだ、ロランド、いいか」

「はい。いつでも」

「よし。もう盾も構えておけ、そうだ、剣も振れるな? 問題なさそうか?」

「大丈夫です」

「相手はラットだ、俺たちよりも低い位置に頭が来る。思い切り振り下ろすと地面を食うからな。突くか、すくい上げるかだ。振り下ろすときは止められる程度にな。危険を感じた場合は一歩下がれ。俺もおまえの前に盾を突っ込む」

「分かりました。突くかすくい上げる。下段に構えておきます」

「よし、行くぞ」

前進を開始。魔物との間隔が狭まっていく。

ラットが牙を向き、威嚇する。開いた手の爪が鋭く伸びている。

前進する。魔物との間隔があと2歩か3歩か、魔物が前に出る。牙を剥き、手を振り上げる。接敵‥‥と、ガコンッという音が響いた。

あ? という間の抜けた顔をするお父様が音のした頭上を見上げると、いつの間にか石ブロックが消えて空洞が生まれ、そこから何かが落ちてきた。

落ちる場所は叔父様の目の前か、お兄様の目の前か、迫るラットの隣辺りか。そこにもう1体のラットがうごうごと身もだえするように出現した。

「やべえ! アーシア前へ! ロランドの左に入れ!」

向かってくるラットの右手辺りを狙って突き出されようとしていたお兄様の剣が、頭上から新たに降ってきたラットの腰の辺りをかすめる。

ギーとかキーとかいう声を上げたラットが最初に向かってきていたラットの右手側に降り立ち、こちらに向き直る。これで構図は2対2。そこへ叔母様が空いていたお兄様の左側を埋めるようにして入り、3対2の構図に変える。

「俺が右のやつをやる。ロランドは左だ。アーシアはカバー」

急に数が増えたとはいってもしょせんラットはラット。叔父様がその気になれば一瞬で片付くような魔物で、大きく踏み込んで手に持った剣を突き込むだけで串刺しになる。

この時点で勝負はあったようなものなのだけれど、叔父様が踏み込んだことで残ったラットは左側へ逃げることもできなくなり、正面のお兄様と戦うしかなくなる。

そしてお兄様も改めて構えた下段から、素早く踏み込んで突き。

中途半端な姿勢でこちらを向いていたラットの上顎から眉間の辺りに差し込まれるように入っていった剣によってあっけなく戦闘は終了した。

「はー、びびったぜ。今のがあれか3つめの罠か?」

「はい。踏むと頭上から新たな魔物が降ってくる罠ですね」

「ラットだったからいいようなものの、やべーな、一瞬焦っちまった」

「こんなことなら最初から私も前にいた方が良かったわね」

「そうはいってもな、普通は不意打ち対策で近接もできるやつが一人は後ろにいないと、それはそれでやばいからな。まあ対応はできた、よしとしておこう」

「目の前に何か落ちてきたときは体が止まりました。こういうこともあるんですね」

「普通はない、んだが、はー、これは罠を見抜けるやつがいないとやっていられないぞ」

「こんな、こんな危険なものなのか、ステラ、これは、偶然こうなったのかい?」

「いえ、危険な状況を作ろうというような意図したものではありません。ただですね、実は今の追加のラットは攻撃性のない、安全なラットなのです。落ちる位置も最初のラットの右側、要するに叔父様の正面に敵のラット、お兄様の前に安全なラットという形が作れるように落としましたから、危険はほとんどなかったのです」

「勘弁してくれ、心臓に悪いよ」

「そうですね、やり過ぎたかなと反省しています」

楽しくなってしまって、ここだ! と投入してみたけれど、やり過ぎでしたね。先ほどの曲がり角にあった罠を移動したのは失敗でした。

うん、楽しくなってしまったのよ。ごめんなさい。

さすがのお母様もお兄様に大丈夫か確認をしているくらいだものね、やり過ぎました。

こういう状況ですが、キニスくんはこの状態を知っているし動かなくていいよと言っておいたので本当に動きませんでした。偉い。まあ暇そうではあったけれどね。あとでしっかりブラッシングしてあげましょう。


戦闘が無事終了し、その場で一休みしたところで前進を再開。

あとはゴールである階段室にたどり着くだけですからね。罠も出尽くしましたし、今回はこれで終了と言って良いでしょう。曲がり角を右へ進み、交差点の右が行き止まりなのを確認したら左へ。少し進むと扉が現れました。

さあ、これを開ければ階段室です。お疲れさまでした。

「ああ、ここが最後か。階段があるな、と下はふさがっているのか」

「まだ作っていませんからね。今はここまでです」

「この部屋も十分な広さがあるのね、それに水場もある。休憩するにもいいんじゃないかしら」

わたしたちも一休みしましょう。水をくんで、ろ過して水出しのお茶をセット。カップも用意してミニテーブルに並べる。

これらがどこから出てきたかって、そんなの3号ちゃんに用意してもらったに決まっているじゃないですか、いやだなあ。

あ、わたしは将来、こういう、どこからともなく道具が出てくる便利ポーターとして役立ちますよ。

「忘れていました。最後に明るさの調整もしておきたいので、一度明かりを消しますね」

はい、消しました。おっと真っ暗。いや本当に真っ暗だな、わずかに見えるとかすらないからきついわね。

ランタンを用意して明かりを着けてみる。

「暗いですね。ほかのダンジョンでもこんな感じになるのでしょうか」

「どうだったかな。いや、ここまでじゃなかったな。何というか、暗いことは暗いが何も見えないというほどじゃない、という暗さだったような記憶があるが」

ほほお、では少しずつ明るくしていって、どうでしょう、こんな感じで。

「ああ、こんな感じだった気がするぞ。これでランタンがあればそこそこ見えるだろう?」

暗いのつらいし、明るくしたい気もするし、それだと地下ダンジョンとしてはどうかなという気もする。あと魔物たちも暗いと活動しにくいのでは? という気もする。

うーん、うっすら明るい不思議ダンジョンにしてしまった方が都合がいいとも思えるわね。要検討。

それではお茶を飲んで一息ついたら今日はここまでにしましょうか。うまくいったこといかなかったこと、考えなければならない要素がたくさんあります。帰って反省会をしましょう。

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