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「叔母様も、ありがとうございました」

今日もわざわざ来てわたしがやることを見守ってくれたことに感謝だ。

「もう十分やることはやった?」

「そうですね、予定していたことはやりきったような気がしています。ああ、そうだ、今日はギルドのポーションも全部わたしが買い取ったので、その決済をお願いします。支払いはわたしの金庫から出してもらって大丈夫ですから」

「あら、足りるかも足りないかもって言っていたけれど、結局買い取りにしたのね。いいの? セルバ家の事業なんだから家から出すわよ?」

「大丈夫です。こういう時のための貯金なんですから、出させてください」

どうせ使い道のないお金だ、今が使い時でしょう。

お母様には何もないところからクッキーを出して見せたことがあるから、もしかしたらわたしがこっそりお金を用意できるのではと思っているかもしれないけれど、それでもわたしの生活費というか支度金というか、そういうものを別宅の方へ用意してくれている。今回の支払いにもそれで十分足りはするだろう。

ただ今後ヴァイオラや叔母様が急に別宅の方で必要とするかもしれないし、金庫が空っぽなのも何となく寂しいので、こっそりと、それをコピーして増やしておくことをデージーにお願いしている。いいよね、偽造し放題のお金って。

「それで、ここでやることはもうおしまいなのね? 戻ってしまっても大丈夫?」

「はい。ここもいずれはセルバ家専用の部屋として整えたいですけれど、おいおいで構わないでしょうし」

うん、もうわたしが見守る必要はないでしょう。

あるがままに。そういうコンセプトがある以上は、冒険者さんたちがこの先どう行動しようと構いはしないのだ。そして地上から地下へと進出していく人々によって、良くも悪くも変化を求められていくことになる地下世界が、どのようになっていくのかもまた一つの見所であり実験でもあるのだ。

実際に冒険者さんたちはそうおかしな行動を取らないだろうという信頼感もあるのだけれど、この後来るだろう軍の人たちもそうおかしな行動は取らないだろうという信頼感があるのだけれど、それはある程度人となりを知っているからであって今後は分からない。それこそさまざまな人たちが訪れて、わたしたちの想定していなかったような行動に出ることだろう。

それでいい、それでいいのだ。

ヴェネレやルーナは彼らを見守るだろうし、もしかしたら誘導したりだとかをするかもしれないけれど、それもいい。ただ、わたしへの報告はしなくてもいい。わたしが知る必要はない。いずれ彼ら自身の口から聞くこともあるかもしれないし、わたしが地下世界に出て行って知ることになるかもしれないけれど、その時の楽しみにでもとっておくことにしましょう。

『本当に良いのでしょうか。私はやってみたいこともあるのですが』

ぜーんぜん。わたしだってやってみたことはあるのだし、お互い様よお。

この地下世界はヴェネレにとっては自分の手足も同然なのだし、好きにしていいよ。何だったら管理をインスタント・ダンジョンに移して、自分は体を用意して出歩いてみるとかもありだと思う。

ここはわたしたちにとっては箱庭だ。設定は作ったし今後の運営に関してはコンセプトも決めたけれど、結局はわたしたちにとっては遊び場であり実験場でもあるのだから、それこそ好きにしたらいいと思う。


それからはもう一度トーリさんやルーナにお疲れさまでしたをして地上へ戻ると、ギルドの受け付けではモニカさんが書類とにらめっこをしていた。

「モニカさん、お疲れさまです。観戦に来ていたのですね」

声をかけたところ反応がちょっと遅れたのはお疲れなのだろうか。大丈夫? ちゃんと休めています?

「‥‥あっ、はい、お疲れさまです。下はもう終わりました?」

「はい、すべて。軍の皆さんは明日かあさってには5階から初めて1階まで攻略する予定だそうで、その後は地下世界を少し調べるみたいですね」

「ああ、そうなりましたか。それはトーリもしばらくは下になりそうですね」

うむ。トーリさん、本当なら今日から地上でゆっくり、かどうかはともかく過ごせただろうけれど、軍の仕事が終わるまではそれを見ていないといけないし大変だね。ずっと地下も気が滅入るだろうけれど、頑張ってほしい。

「そういえば聞くのを忘れていましたけれど、ドラコリッチの素材はどういう風にするのでしょう」

「過去に例のない素材ですからね。ドラゴンの鱗や爪、牙が参考になるとは思いますが、本部の決定が出るまでは塩漬けです。軍も一役買っていますから国が口を出してくるでしょうし、そもそも解体に着手していいのかどうかも謎ですね」

おお、大変そうだな。でもあれをあのまま置いておくのもな。何しろ死体だから、痛みが心配になる。まあそういうこともギルドの方が専門だから何かしら考えて対処してくれることでしょう。

「それにしてもドラコリッチ戦はすごかったですね。見に行って良かった。これから来る人たちは見られずに残念がるでしょうねえ」

「すごかったですよね。また見られないか、ルーナさんにお願いしてみるべきだったかもしれません」

あの映像はルーナに編集しておいてもらって、まずは家で鑑賞会をする予定だ。どうせお父様もお母様も見たがるだろうし、話を聞いたらお兄様や叔父様も必ず見たがるだろうからね。まずは家で鑑賞会をして、その反応を見つつ調整したものを下でも流したらいいんじゃないかと考えている。きっとモニカさんなりトーリさんなり他の職員さんなりがまた見たいと言いに行くことでしょう。


モニカさんには今後もよろしくお願いしますと言ってそれでお別れ。わたしはひとまず別宅に戻って、金庫のお金を叔母様に引き渡し。こんなにあったっけ? と一瞬思ったけれど、デージーがいい感じの量にしてくれているのだからこれでいいのだ。

キニスくんとニクスちゃんにもお疲れさま。

寝床に戻っていくところを抱きしめて、ぐりぐりわっしわっしとしてあげて、これからもよろしくね、ヴァイオラと仲良くねと伝えておいた。

そのヴァイオラは今日からはこの別宅の番人、ノッテの森の管理人として生活してもらうことになる。きっと軍かギルドからあの薬品はーとかの問い合わせがある、かもしれないしないかもしれないけれど、一応心づもりだけはしておいてもらって、どういう扱いにしていくかをゆっくり考えていきましょう。

そんなこんなでダンジョンでの楽しい楽しいイベントも終了、これでわたしがこちらにいるべき理由はなくなったのだけれども、学園に戻るのはさすがにまだ早い。

今日はもう遅い時間だからこのままここに泊まりだとして、帰り始めるのが早くても明日。そうすると学園に着くのは2、3日後だと考えなければいけないからね。デージーのところにいるとどうしたって人の出入りがあって見つかってしまう可能性があるし、またヴェネレのところにでも行ってごろごろしているかな。


みんなで別宅で一泊した翌日、日程的にはお母様が戻ってくるはずということで、わたしも叔母様にくっついてごあいさつがてら本宅へ。

途中でギルドに立ち寄り叔母様にポーション代を支払ってもらって一安心。後は家の帳簿で会計処理をしてもらったら本当にイベントの後始末も終了ということになるね。

本宅に着いたところではまだお母様は帰ってきていなかったので、そのまま部屋でゆっくりしてすごす。ユーナも同行しているので現在地も分かるし、もう後1時間かそこらでしょうということで、自室でごろごろしながら本を読んで過ごしている。

そうこうするうちに門をくぐって馬車が到着。お母様と、でっかいカバンを手にしたユーナが降りてくる。叔母様が外まで出迎えに行ってくれているし、わたしは玄関で出迎えましょうか。

「――そう、もう1日早ければ間に合ったのね、惜しいことをしたわ」

先ほどまでは静かだった家の中が急ににぎやかになる。

「お帰りなさいませ」

「はい、ただいま。大人しくしていた?」

「そんな笑いながら聞かれても。暴れたわけではないですし、大人しくしていたと主張しても許されますかね」

「駄目でしょ。ダンジョンの中をうろうろしたり、ドラコリッチを見に行ったり、冒険者や軍を相手に交渉したり、最後の決着の瞬間を見に行ったり。あなたくらいの貴族の子どもがすることではないと思うわよ」

そんな、お母様も叔母様も。まあ常識的にはそうかもしれないけれど、ヴェネレのダンジョンなんてそれこそ安全なのだし、一応ヴァイオラたちと一緒だったのだしね。


荷物を片付けて落ち着いたところで話はやっぱりダンジョンでのドラコリッチ戦のことになっていく。わたしはユーナから外遊の話も聞きたかったのだけれど、それはまた今度ゆっくりとだね。

「今はこういう状況ですという話はユーナから聞いていたから分かっていたし、見ることもできますがという話を聞いたのだけれど、さすがに外で一緒に見るというわけにもいかないじゃない。部屋にいても人の目に絶対に触れないかといったら分からないわけだし。残念だったわよ。報告だけは聞くものだから、余計に」

インスタントダンジョンで管理してしまえばいいのだけれど、そういうことは避けたのだね。州内の田舎に行くのだから大丈夫だろうとは思っていても、絶対ではないから極力ダンジョンを作ることはしないって話だったから仕方がないかな。

「ルーナが撮っておいた映像がありますし、一緒に見ましょうか。編集作業がまだなので本当にそのまま見るだけになってしまいますが」

「あら、下で一緒に見たあれよね? 見られるようになっているの?」

「はい。いずれはルーナのところで流そうかと」

「それはいいわね。どうせ兄様方やロランドも見たがるのだし、中央でも見たがるでしょうからね」

そうなんだよなあ。この場にいないお父様や叔父様、お兄様はまあわたしなりユーナなりがどうにかして見せることはいくらでもできる。でもな、中央でも絶対見たがるよね。そこでセルバ家から提供っていうのはおかしいので、ルーナのところで見たいと言えば出してくれるかもしれないよってことにしておくのが簡単かなと思っている。それかいっそルーナからあの映像を流す日時を決めましたっていう情報を出してもらって、その時に見るようにしてもらうか。まあその辺はそのうち考えましょう。

「これからはユーナに言ってもらえれば見られますから。お父様も一緒に見られたら良かったのですが、お帰りが遅いですよね?」

「うーん、まだしばらくは帰ってこられないと思うわよ。こちらからの正当な理由のある抗議だし、後処理が全部終わるまでは無理じゃないかしら」

「そんなにかかりますか‥‥もっと簡単な方法もあったのですが、失敗したかもしれませんね」

「いいのよ。これから学園には何年もいるのだから、問題を起こすような相手に早めに気がつけた、早めに対応できたということよ。それにロランドにとっても警戒する良い機会になったのだから」

それもそうね。わたしがさくっと帰ってきてしまっていたら、もしかしたら矛先がお兄様に向かっていたかもしれない。セルバ家にとっては良かった、早めに気がつくことができたということで良しとしましょうか。

それからはルーナからもらった映像をリビングの壁にスクリーンを用意してそれに向かって投影、みんなであれがそれがとワーワー言いながら鑑賞する楽しい時間になって、気がついたらわたしたちだけではなくて働いている人たちもみんな集まっていて、それはそれはにぎやかに過ごすことができた。

わたしのわがままで始めた新事業なのだし、誰にとっても忙しくなってしまって迷惑もかけたと思うけれど、それでも、わたしのダンジョンがこうして家のみんなに楽しんでもらえるところまできたことは一つの節目になるのではないかなあなんて思うのでした。

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