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放たれた雷撃は正面にいたエディさんやカリーナさんやほかの兵士たちを撃ち抜きながらカタパルトに命中し、破壊した。でもこれでこのカタパルトはその役割を全うしたと言っていいでしょう。担当していた兵士たちは雷撃の兆候が見えた段階でとっくに逃げ出している。

ここからは全員が雷撃の耐性薬にアブソービングのタトゥーシールも使ってぐっと耐性を引き上げ、吐かれるブレスは基本的に無視することになる。後はひたすらにダメージを積み体力を削りきるだけだった。合間合間には森から矢も放たれ、ダメージを稼ぐとともにドラコリッチの意識を散漫にさせようと試みている。

それでもドラコリッチだって黙って殴られ続けるつもりなどない。足を振り、翼を振り、尾を振り、口からかみつきにいき、足元をうろつくじゃまな人間どもを蹴散らそうと動いてくる。冒険者たちも、そして兵士たちも、それを武器を使って盾を使って、時には地面に転がって避けながら攻撃を絶え間なく加えていった。

頭上から覆い被さるようにして迫る口を思い切り伏せることでエディさんが避け、降りてきていたその口に横からマリウス将軍が思い切り盾をぶつけ、さらに振り回したハンマーが牙を打ち付けたことでドラコリッチの視線を引きつけ、盾役が切り替わる。

そのマリウス将軍に駆け寄ったカリーナさんがエンハンス・アビリティで強化をかけ、そこからエディさんが立ち上がるのを手助けしていく。


その間にもフェリクスさんはひたすらに攻撃魔法を放ち続けた。基本的にはファイアー・ボールにスコーチング・レイ、マジック・ミサイルといったダメージ量重視の選択になる。今回の目標は大きい。放った魔法が外れる心配はいらなかった。抵抗されようがなんだろうが、とにかくダメージを与えることが重要だった。

クリストさんとフリアさんは攻撃を加えながら頭が降りてくるたびにそこへ減退薬を投げ混み続けているのだけれど、これはなかなか思うようには効果が見えてこない。そもそもうまく口の中に入ってくれないのだから回数をこなしていくしかないのだろう。

右側からうまく後ろ足近くに潜り込んでいたクウレルさんが翼を切り裂き、そこへ振られた尾を乗り越えるようにして回避する。

左側からは胴体近くまで踏み込んできたパキさんが胴体に剣を突き刺し、こぼれる腐食の効果があるだろう体液を避けながらそのまま後方へと剣を滑らせていった。


ドラコリッチが前足を地面から離し体を起こすと、胸の辺りからはぼたぼたと黒い液体が地面へと落ちていき、そこからシャドーが次々に現れる。

「来たか! 任せるぞ!」

マリウス将軍の声に応えるように広場の外で待機していた兵士たちが槍を構えて駆けだし、動き出したシャドーだけを相手取るようにして攻撃していく。弓手もそちらに攻撃対象を切り替える。ドラコリッチの近くまで行って攻撃に巻き込まれたら弱体化している体で持ちこたえられるかは分からないけれど、シャドー相手なら話が違う。自分たちでも十分に戦えるのだという強い気持ちで突っ込んで1体ずつを確実に倒し、そうでなくとも攻撃をしかけてターゲットを引き受けたらドラコリッチから遠くへ離していく。これでドラコリッチと直接戦っているグループの手をシャドーに向けさせずに済む。それもまた大事なことだった。

体を起こしていたドラコリッチがそのままズシンと大きな音と衝撃を伴って地面に体を落とすと、巻き起こった衝撃と土煙に誰もが一瞬動きが止まる。そのタイミングを狙ったのかドラコリッチがその場でぐるりと一回転するように大きく体を動かし、その勢いのまま尾を振り回した。最も近くにいたクウレルさんの部隊が直撃を受け、3人が引きずられ、跳ね飛ばされる。尾はそのままエディさんまで迫ってきた。

「ストーン・ウォール!」

そこへカリーナさんが準備していた魔法を放つ。

厚さ5、6センチもあるだろうか、巨大な石壁が層をなして次々に出現する。そこへ撃ち込まれた尾が1枚目を破壊し、2枚目を破壊し、3枚目を破壊し、そうして6枚目を破壊したところで動きを止めた。

尾の動きが止まってしまったところからドラコリッチはまた姿勢を戻そうと動き出す。その戻っていく頭部を狙ってパキさんが攻撃を加えていくと、嫌がったドラコリッチがそちらへ足を振る。それを転がって避けたパキさんは頭上を通過していく足に剣をぶち当て、同時に同じ部隊の兵士たちもその足に攻撃を集中させると、踏ん張ろうと下ろしたその足ががくりと折れた。

肘を着くような格好で体が地面へと降りてしまったドラコリッチがカチカチと牙を打ち鳴らし、足を傷つけたパキさんの部隊の方へと雷撃のブレスを放つ。

でもその頭も地面近くに降りてきてしまっていた。殴りやすい位置、そう見たのだろう、横から駆け込んだクリストさんが剣を振り、さらに目の前の口に突っ込むように体力とスタミナの減退薬を投げ込んでいく。

「フリア! 火薬だよ!」

フリアさんが声をかけたフェリクスさんから火薬を受け取り、ドラコリッチが起こそうとする頭に向かって駆け出す。頭を上げようとする動きを止めようとクリストさんが頭部にしがみつき、手当たり次第に剣を振っていく。ぶるぶると身震いしてクリストさんを落としたドラコリッチがそこへかみつこうと口を開いて迫り、その動きによってフリアさんが間に合って火薬の袋を口の中に突っ込んだ。

ドラコリッチはそのまま重なるようにしているクリストさんとフリアさんをまとめてかみ砕こうとしたけれど、それはかなわなかった。2人を守るようにして現れた黒い半透明の球体に遮られて牙を止められてしまったのだ。

「助かった、いいタイミングだったな」

「うん。やっぱりこれ便利、無理ができるよ」

フォース・ビードの防御はドラコリッチのかみつきよりも強力だった。2人はそのまま球体の中で薬品を使い、体力とスタミナを回復させていく。そしてこの防御を見届けたならば、あとは火薬を爆発させるだけだった。

「マジック・ミサイル!」

フェリクスさんが口の中を狙って魔法の矢を放つ。同時にマリウス将軍とエディさんが頭部に駆け寄り、マリウス将軍はハンマーを大きく振り上げ振り下ろし、エディさんはたたきつけたグレーター・アックスからそのまま強撃を放つ。

「ファイアーボール!」

ついでとばかりにカリーナさんが頭部目掛けてファイアー・スタッフを使って魔法を放った。これでもかとまとめてたたきつけられた攻撃に思わず持ち上げた頭部の、口の中で爆発が起きた。

ドオオオンッという鈍く響き渡る大きな音、思わず身をすくめるような衝撃、そして、ドラコリッチの下顎がはじけて木っ端みじんに吹き飛んだ。

ぐずぐずに崩れた肉と骨がまき散らされ、ぼたぼたと体液が地面へと落ちていく。

身をよじるようにして動くドラコリッチからは音声を止められたせいもあってか悲鳴もない。その胸から湧き上がる黄色い光が口の中から現れるけれど、形をまとめることなく漏れるようにして地面に向かって雷撃が乱雑に放たれていく。


闇雲に振り回される足に、翼に、尾に、兵士たちが弾き飛ばされる。爆発の真下にいたエディさんやマリウス将軍は頭上から落ちてくる肉や骨や液体や雷撃に盾をかざして避けることが精一杯だった。

そこへ弓手が一斉に矢を射かけ、ドラコリッチに命中させていく。ダメージとともに足元の仲間の支援という側面もあるのだろう。その間にもマリウス将軍の部隊にいた兵士の1人がアイウーンストーンの回復魔法を使って仲間を回復していく。

この激しい動きが一段落したところへ尾にひきずられたダメージからポーションで強引に回復してきたクウレルさんの部隊が突撃し、目の前の尾から体をよじ登るようにして背に上がっていった。そして振り回す剣で翼を切り裂き、胴体へ突き刺す。予想外のところから攻撃を受けたドラコリッチが身をよじり、傷だらけでボロボロになっている翼を打ち合わせるように動かして、背の上のクウレルさんたちを振り落としにかかり、さらに腐食の効果を発揮させようとしているのか、皮膚の色が黒っぽく変わっていった。

その胸元ではフォース・ビードの防御が解けて動けるようになったクリストさんとフリアさんが再び武器を振り回して攻撃を加えていく。

「何となくだが、攻撃が弱ってきたな?」

「そうだな。疲労が効いてきたのかもしれん」

クリストさんが近寄ってマリウス将軍に声をかける。

「勝負所だな」

「うむ。行くぞ! 畳み掛けろ!」

再び身を起こし背のクウレルさんたちを振り落とすことに成功したドラコリッチの胸からは再び黒い液体が地面に落ち、シャドーが現れるところだった。自分の体力を削ってまでした行動だが、それは攻める冒険者や軍にとっては好都合だった。再び広場から離れて待機していた兵士たちが飛び出し、弓手は対象を切り替え、シャドーを引き取ってドラコリッチから引き離していく。


ここからドラコリッチが体を落とすことはもう分かっていて、そこへ置いておく魔法はファイアーボールが2つだった。巻き起こる爆発と炎にドラコリッチの体が包まれる。

体を落とすことで発生した衝撃で弾き飛ばしたり転ばせたりできた兵士はわずかで、体勢を維持できた兵士たちが槍を構えて突き進み、炎の向こうにある体へ突き立てていく。さらに衝撃から逃れたクリストさんやフリアさん、マリウス将軍が駆け寄っては切りつけ殴っていく。

盾役を再び引き受けたエディさんが見えている上顎にグレーター・アックスを突き立て強撃を放つ。

背から振り落とされて再びダメージを受けたクウレルさんたちは今回もポーションで強引に立て直してそのまま攻撃に参加すると、雷撃のブレスを受けたパキさんたちも同じように復帰してきていた。

ドラコリッチがまたしても大きく体をぐるりと回し、尾を振り回す。またしても真っ先に巻き込まれる位置にいたクウレルさんたちは、この振り回しは一度経験していてどう対応すべきかは分かっていたのだろう、持っていた武器を振り回される尾にたたきつけながら地面に伏せて尾が頭上を通過していくのを見送った。

そして振り回された尾は先ほど立てられて今もそこにある石の壁にぶちあたり、残る4枚をそのまま破壊してからエディさんへ迫っていく。だがすでに勢いは落ちていた。

「ストーン・スキン!」

カリーナさんから魔法の支援を受けてエディさんは盾を構えそれを受け止める。

「ライトニング・ボルト!」

振り切ったつもりが完全に受け止められてしまった尾を、その形に沿うようにフェリクスさんの雷撃の魔法が貫通していく。

さらにマリウス将軍がハンマーを思い切りそこへ打ち下ろす。

ドラコリッチの胸から黄色い光が上がっていき、そして口からあふれた雷撃がお返しとばかりに地面を這うようにして広がっていったけれど、雷撃への耐性は全員が十分に積んでいて思ったようなダメージを出すことはできない。


そのブレス攻撃の合間に、地面近くまで降りてきていたドラコリッチの体につかまったフリアさんがそのまま体をよじ登り、首にナイフを当ててガリガリと傷つけていく。

そして同じように駆け込んだクリストさんが、こちらは下から思い切り剣を振り上げて上顎の根本付近を切り裂き上へと突き抜けさせる。

目の前で止まっている尾にグレーター・アックスを振り下ろしたエディさんが続けざまに強撃を放つと、その部分から砕け半ばから分断される形になった尾の先端部分がビタンビタンと地面をはねた。

ドラコリッチはもう一度体を起こそうと踏ん張るけれど、パキさんの部隊が目の前で半ば折れたような格好になっていた足に攻撃を集中させると、その部分から完全に折れて先端がちぎれ飛び、体を支えられなくなったドラコリッチが右側に体を倒すようにして地面に落とす。

目の前で腹が丸出しになったところへクウレルさんの部隊が突っ込み、こちらは殴り、蹴り、突き刺し、手当たり次第にありったけの手段で攻撃を加えていく。それに加えて弓手も大きく見えている胴体へ集中するように矢を放った。

度重なる攻撃と突き刺さったままの矢でぼろぼろの翼を振り上げ、振り下ろして周囲の兵士を追い払い、何とかしようと頭を持ち上げるドラコリッチの首にはまだフリアさんがしがみついていて、変わらずに首の骨を狙ってガリガリと攻撃を重ねていた。

ドラコリッチにとってこの時点で一番攻撃がしやすそうな位置にいるのはクリストさんで、そこへ向かって頭を起こして雷撃を、と胸から黄色い光が上がっていく。その首元にクリストさんは飛び込んだ。狙うのはフリアさんがゴリゴリガリガリとやっていた場所だった。遠慮なく全力で突き上げた剣は狙い違わずそこへ届き、フリアさんのナイフと合わせてその部分を切断することに成功した。


ずり、と首がずれた。

胸から上がってきた黄色い光はそこから周囲へ漏れ、クリストさんとフリアさんを雷撃が襲った。

2人はそこから転がるようにして地面に落ち、クリストさんはダメージをこらえながらその場から離れ、フリアさんは地面をごろごろと転がるようにして離れていく。

「ファイアー・ボール!」

ドラコリッチにとどめを刺したのはカリーナさんがファイアー・スタッフの力を借りて放った火球だった。

ずれた首を中心に発生した火球の中で、弱っていた部分が耐えきれなくなったのかそのまま首が地面へと落下していく。

ずうんっと大きな音をさせて頭部が地面に落ち、ドラコリッチの動きが止まった。持ち上げられていた翼はそのまま力なくバサリと落ち、踏ん張ろうとしていた左前足ががくりと折れる。起こそうとしていた体もまた、頭の後を追うようにして地面に落ち、そしてそのまま動かなくなった。

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