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全ての話し合いが済み、軍の兵士たちが回復するためにそれからは休憩の時間に入っていった。冒険者さんたちも改めて自分たちの状態を確認し、自分たちの行動の確認をし、そして休憩に入っていく。

いよいよだ。ようやくここまで来た。何年も何年もこのダンジョンを作り準備してきた成果、念願のラスボス戦、対ドラコリッチのレイド戦が行われるのだ。

わたしも今日はもうやることはないのでセルバ家の部屋へヴァイオラ、キニスくん、ニクスちゃんと一緒に引きこもってお休みの時間。叔母様はさすがに地上に戻って今日は本宅に泊まりだって。

それでは今日の興奮した気持ちを落ち着かせるためにも、ここで反省会をしておきましょうか。


まずは現状の確認から。冒険者さんたちの足止めから始まって、軍の到着のタイミングもドラコリッチ戦の結果も何もかもがうまくいったけれど、少し偶然に頼りすぎた気もするわね。ドラコリッチの行動を縛らなかった分、怖い面はあった。


『そうですね。ですが行動を縛ることはコンセプトに反します。人工知能による自律行動の推進、ドラコリッチの自主性を重んじその成長を促す。次のレイド戦では今回のドラコリッチはお役御免、弱体化が入った段階で予定どおり別の場所に移動ですからね。いずれまたどこかの誰かが発見するその時までは休息の時間です』


たぶん弱体化は開幕に1枚残して全部使うよね。


『当然そうなるでしょう。その段階で4段階の低下。アダルト・サードニクス・ドラコリッチということになります』


サードニクスかあ、まだ強そうだな。


『5段階全て入るまではジュエルストーンですしね。全て入った段階でクロマティック、それもダークブルーまで一気に下がりますから』


前回みたいにカタパルトに釣られてくれるといいねえ。

そのサードニクスくんも一瞬だけで移動だよね。申し訳ないなあ、とはいえ今回が主な出番ではないし、仕方がない。


『再配置の場所が塔から近い、ハグのいる村のカタコンベですからね、意外と早く発見されるかもしれませんよ』


ああ、あそこか。それは確かに近いな。塔から出てぐるっと回るだけだからね。6階から見えている場所だし、興味を持って行ってくれる人もいるかもしれないか。

ちなみにブラックオニキスくんは?


『6階から見えはしていますが遠いですね。山沿いに連なる城壁のどこかから進むことになる廃砦ということに』


ああ、なるほど、それは遠いしあの辺はちょっと大変な場所の設定だからな。もしかしたら冒険者よりも先に地元の誰かさんとぶつかるかもね。


『それもまたこの世界のコンセプトですから』


そうね、楽しみね。

冒険者がドラコリッチを撃破し塔から外へと踏み出した瞬間に、この地下世界の時は動き始める。今はまだ待機状態で止まっている何もかもが一斉に動き出す。人が移動し、魔物が移動し、そこかしこで衝突することになるだろう。何をするのか、その全てが個別に設定された人工知能の判断によって決められていく。その中に今回のブラックオニキスくんも含まれるということだ。もしかしたら戦うことに味を占めて、ねぐらを出てどこかを襲いに行くかもしれないけれど、それもまたよし。


ところで、そのブラックオニキスくんだけど、今回の戦いぶりはどうだった? 完全に受けてから派手な行動を選ぶようにして軽く流していった感じで、本気はあまり見えていなかったよね。

わたしだったら開幕から恐怖をまき散らして相手の数を削る。それから加重のブレス、あとはどうにでも、そんな感じで完勝できるだろうなっていう印象なんだけど。

『私は加重、麻痺、猛毒、恐怖、混乱の順番がいいですね。これでほぼ全滅させられるところまで持っていけるのでは?』

ルーナはいたぶるのが好きねえ。でも確かに、相手を無力化するだけなら何でもいいけれど、全滅ということならその方がいいかもね。重くして逃げにくくしたところへ麻痺、抵抗できなくなったところへ猛毒、体力がゴリゴリ削られていくところへ恐怖、どうしようもなくなったところへ混乱。悲惨だ。あとは適当にがぶがぶしているだけで終わることでしょう。

やっぱり本気ではなかったんだろうなあ。彼からは軍の兵士たちがどう見えていたのかを聞いてみたくなるわね。


あれを倒す、となるとどうかな? 実際に戦えるのはわたし、ヴァイオラ、ルーナ、後はキニスくんとニクスちゃんに手伝ってもらうくらいか。つまり3人プラス2のパーティーでやるって考えた場合だね。

『私とルーナが前線に立つことで守りは問題ありませんが、火力が足りていません。キニスとニクスはドラコリッチの気を散らすことやシャドー処理が主な仕事になるでしょうし、結局は火力不足で簡単には削りきれない、時間がかかるということになるでしょう』

おや、ヴァイオラから見てもそんな感じか。あれは? ヴァイオラの薬とか。

『減退薬はかなりの効果を期待できます。特にスタミナですね。最大効果のスタミナ減退薬を使い続ければ相手の行動回数を減らすことが可能でしょうし、その行動もスタンで止めてやればいい。問題はやはりこちらの火力です』

おー、そうか、スタミナ減退薬ね。体力減退薬はあれか、自然回復力との相殺を狙って使うことになるのかな。ヴァイオラはレンジャーも持っているから弓矢を使うのだけれど、スタン効果の矢を準備しているからね、それは封殺狙いもできるでしょう。

でも問題は、行動が薬の使用とカウンターでのスタン狙いで埋まってしまって、行動を攻撃に振って火力を出すということができなくなることだね。もともとヴァイオラは火力を求めた設計ではないから仕方がないのだけれど、ゲーム的な行動の処理が挟まる問題もあってどうしても1回に出せる火力は低くなる。

ルーナは? ルーナの火力も足りない?

『足りません。主砲も装弾数が1発で連射ができませんし、弾薬の生成を考えていませんから1発撃った段階で終了です。この一発で出せるダメージも最大で250ですから、結局は削りきれないということになりますね。後は私の武装としてはビーム・サーベルくらいしかありませんし、ずるをしないという前提に立つと難しい』

うーむ、主砲なあ、ロマンだ! とかいって組み込んだけれど、あまりにもあんまりなのでね、成形炸薬弾が1発しか撃てないようにしてあるんだよ。しかも砲身が短いから射程とか初速とかに問題を抱えていてね、使いどころが難しい。ずるをすれば毎ターン1発撃てるから押し切れるのかもしれないけれど。それからビーム・サーベルは聞くな。あれこそロマンだ。

防御に関してはそもそもダンジョンは破壊不可能設定なので完璧。ただ出せる火力が装備依存になってしまうので、今のところうちでは直接の打撃力を持っているのはルーナだけ、装備のおかげでヴァイオラも多少はというところにしかいない。どうすべ、この意味分からんドラコリッチ、どうやる。


『以前から検討していたマスターの専用装備を持ち出せば一撃ですよ』


あれかあ。まあ確かに行けるのか。あれもまた、あほかーって言いたくなるような仕様なのよね。いずれ必要になるだろうから準備はしていこうかって設定盛り盛りして作った装備だから、それこそいずれは使うことになるだろうけれど。

ただなあ、わたしがあれを使うにしても、攻撃手段として使えるのはわたしのダンジョン限定になるじゃない。防御力はそのまま反映されるから心配はいらなくなるけれど、火力を出せる場所が限られすぎるよ。

まあ仮定に仮定を重ねるような話は今はいいか。


『次のドラコリッチがやってくるとしても86年後でしたか。設定が邪魔をしますね。どこかの誰かが深淵へ至るための扉を開けてくれたら100年を待たずに復活できるのですが。それこそ死体がまだ広場にあるうちに開けてくれたらブラックオニキス以上のものを召喚できるでしょうね』


ルーナに止めてもらおう。でもいくら止めたところで開ける人は開けるんだろうなあ。なんてそんな何かのフラグになりそうなことはこれくらいにしておきましょう。

そんなことより現実的なことを考えておかないと。冒険者さんたちの準備はよし。エディさんも大丈夫よね?


『すでに衰弱からは回復済みです。軍の方は衰弱から回復するにはまだ2、3日必要になるでしょう』


想定どおりだね。装備は大丈夫かな? ヴァイオラの作った薬とタトゥーシールがほとんど全てって言ってもいいくらいだけど。


『アイウーンストーンにはやはりヒーリング系を詰めていました。ヒロイズム・ポーションはエディ様が使うようです。タトゥーシールは前衛で分けていました。特に抵抗判定やダメージ耐性に関しては飛び込むポジションの兵士が持つようです。マリウス将軍も盾役を務めるようで防御はエディ様とお二人が使用。他は適度にばらけさせています』


ドラコリッチ相手に飛び込む気満々か、すごいわね。まあブレスや腐食効果を気にしなくても良くなるなら、それはやるか。

アイウーンストーンはやっぱりマリウス将軍の部隊だね。これだけの人数がいるのに回復魔法を使えるのがカリーナさんだけだから、当然か。回復に全力にならずに済む分だけ、できることが増えるもんね。

結局、鍵を握るのはヴァイオラの薬になりそうかな?


『体力とスタミナを常時回復し続けられるという点は大きいでしょう。そしてドラコリッチには常時減退を使っていく。さらに鋭利の油の効果で全ての攻撃に+1が乗る。相手のヒットポイントはたかが258です。冒険者の実力、軍の実力を鑑みれば十分ではないかと。それでも不測の事態が発生した際にはヴァイオラがフォローに動きます』


そっか、ソラちゃんから見ても行けそうか。楽しみだなあ、わたしも特等席で見たいけれど、さすがにあまり近くにいるのは良くないよね。ポーター見習いとしてポーション詰め合わせを持って近くに陣取りたいところだけれど、さすがに怒られるだろうし迷惑だろうからできないよなあ。


『彼らからすればマスターは何もできない子供でしかありませんからね、仕方がありません。今回はルーナが映像の中継を行いますから、それを皆さんで見ることにしましょう』


はーい。それじゃあギルドの受け付けに観覧席を作ってルーナのところの中継映像をみんなで見ましょう。ふむ、それも楽しそうだな、いいな、わくわくしてきたぞ。

『1枚にします? それとも多視点にします?』

ああー、多視点中継か、いいなそれ。ダンジョン内なんだから多少あれな設定で中継したって許されるよね。

『モドロンがカメラを抱えて撮っていますよでごまかせることでしょう』

そうか? 駄目じゃね? でもまあいいや、これだけむちゃくちゃなダンジョンなのだから多少のことはどうとでもなるでしょう。じゃあ視点は正面と左右の3つにしようか。冒険者さんとマリウス将軍が正面だっけ、その間くらいに1点、後はクウレルさんとパキさんのところだね、よし。後で映像編集していつでも見られるようにして希望者にはここで鑑賞会するとかもいいな。

『その時用にドラコリッチ視点も撮っておきましょう』

いいわね、それ。楽しみが増えるわねえ。


この日のあれこれはこれでおしまい。

学園の方は特に進展なしということだったので今日はわたしの確認もなし。そんなことより明日のことよ。うおー、楽しくなってきたぜ!

高ぶった気持ちを落ち着かせるための反省会だったはずなのに余計高ぶってきてしまって眠れないぜ! おやすみなさい、また明日!

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