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アエリウスさんはマリウス将軍から具体的な話をすでに聞いていて、冒険者さんたちが持っている弱体化キーを全て使えば相手はせいぜいアダルト・ブルー・ドラゴンに毛が生えた程度まで落ちるだろうということを分かっていた。

そのアエリウスさんが言うには、やはり軍としては事前情報からダンジョン10階にいるという門前広場の魔物を倒せるかどうかぎりぎりのところで考えていたらしい。

実際に他のダンジョンでも脅威度の高い大型の魔物が出現することはあって、そういう時に出動してどうにかしているのは軍の方で、その経験からもやれるだろうと想定していたと。直前でドラコリッチだと聞いてさすがにそれはと思いはしても、いざ戦い始めたところでこれはやれそうだと感じ、そして現実は厳しかったと思い知らされたと。畏怖と恐怖から立ち直ってみれば、もっとやり方があっただろうという思いに駆られたと。

腕組みをしたまま話を聞いて、うむうむとうなずいてしまう。

アエリウスさんもまたさすがである。あんなにきれいに吹き飛ばされてようやく回復してきたところだというのに、もう反省していて、もう一度やれるならやるぜという覚悟がすでにできあがっている。さすがである。

「まず言っておきますが、わたしだけでなく後からアーシア叔母様も来ますから、改めて正式なお話をお願いします」

これも大事。わたしは確かにノッテの代表者だけれど、まだ成人前なのでわたし一人で全てを決めることはできないのだ。後見人の叔母様からの許しも得てほしい。こうなってほしい、こういう方向に持っていきたいという話はすでにしてあるので、断ったりすることはないと思うよ。


軍とセルバ家の契約で、何だったらトーリさんがギルド代表で見届け人という形にすれば契約としては十分でしょう。

『アーシア様もキニスとともにすでにこちらへ向かっています。ユーナから今回の話は伝わっていますから許可も問題はないでしょう』

うむ。叔母様が本宅に来たところでファックスを送っておいてもらったから話は早いのだ。軍と冒険者の協力の話も、わたしがいろいろと提供することで確実に勝てるように調整するよという話もすでに通じている。やっぱ遠隔での即時通信手段を持っているっていうのは強いよな。

「では具体的なお話をしましょうか。まず先にですね、トーリさん、これまでにここで見つかったもので使っても良いものってありますか?」

もう状況は分かっているけれど、もしかしたら使ってもいいよっていう話が聞けるかもしれないし、念のために聞いておきましょう。

「えーっと、大丈夫ですよと言いたいところだったのですが、先日の視察の時に目録にしてしまいまして‥‥」

「あー、そうすると使えても9階で出たものでしょうか」

「‥‥それどころかその後に見つかったものも含めて目録を作って、送ってしまっていまして‥‥」

あらーん、やっぱり駄目だったわね。出張所にあるのはリスト化しただけのものっていうことだったけれど、目録にもしていたんだ。

「あー、それは仕方がありませんね。そうするとダンジョン産の道具で使えそうなのはわたしたちが見つけたものくらいですね」

いくらまだ出張所にあるからといっても、情報が中央に行ってしまっていてはさすがに勝手に使うわけにはいかないからね、仕方がないね。

「俺たちが見つけたものはさすがにもう無理だろうな。何か使いたいものでもあったのか?」

あるんだよなあ。それこそ仕込み自体は1階から始まっていたのだけれど。

「そうですね。報告を見たのですけれど、ジャイアント・ストレングス・ポーション、あれがあれば遠くから槍を投げるとか石を投げるとかでも十分活躍できそうですし、尾を受け止める役割とかも考えられますよね。インヴァルナラビリティ・ポーションがダメージの抵抗力を上げる? レジスタンスが冷気抵抗でしたっけ、それからディサピアランス・ダストでしたか、姿を消せる粉? でしたっけ、奇襲に使えそうな。あとはジェム・ストーンでエレメンタルを召喚する、ウィザリング・スタッフで筋力と耐久力を下げられるとかですか。あとは、えーっと、ヒロイズムのスクロール。あれもいいですよね。恐怖に対する完全耐性に一時的なヒットポイントの増加、それにブレスの効果が付くかも。他にもスピードのポーションと、音を聞くと攻撃時にボーナスが得られるコンバット・インスピレーション・ホーンでしたか」

どうよこの準備の仕方、すごいでしょう、何てね。や、最初はそんなつもりはなかったんだよ? でもさ、そうだ10階にダンジョンボスを配置するんだから、それを思いっきり強いのにするんだから、その時になったらあれもこれも使えるんじゃないかって、そうなりそうなものを出していく、変化球でなおかつ対ボス戦で実用的なものを混ぜていくっていう方針に切り替えたんだよ。


わたしがあれがこれがと話していると、クリストさんが天を仰いだ。

「ジャイアント・ストレングスなんて何階で出たやつだよ‥‥まさかその時からこの展開を狙っていたとか言わないよな」

「4階だったね。でもウォーター・ブリージングが出たのなんて3階だよ‥‥あり得そうじゃない」

そうでしょうそうでしょう、楽しいねえ、こういうの。

「ねえヒロイズムって私たちは知らないのだけれど」

カリーナさんは魔法の方が気になったみたいね。そうね、ヒロイズムはないものね。

「ふっふ、ヒロイズムはですねえ、実はわたしたちはポーションで発見しまして。その効果と同じならという前提ですけれどね」

「へえ、ポーション? それにもヒロイズムっていうのがあったのね。なるほどねえ」

うむ、ヒロイズム、強いんだよ。特に明確な盾役がいるこのパーティーにはうってつけだと思うのだ。

「で、問題のそのわたしたちが見つけたってのは何の話だよ? 大丈夫か? 怒られないか?」

‥‥。いやー、ねえ?


ダンジョンの中ではわたしは無敵だし、そもそもこのダンジョンはわたしのものなのだから危険も何もないのだけれど、それでもこの年齢の娘がこんなところをうろうろしているとなったらそれはちょっと待てと言われるよなあ。

カウンターに上体をぺたりと乗せて、足をぶーらぶら。怒られるかと言われると怒られはしないかもしれないしうーんどうだろうどうでしょう、でも絶対一言以上は言われるだろうとは覚悟しております、はい。

「ヴァイオラさんとかうちのオオカミたちとか、どう考えても上層余裕なんですもの。5階まで6階まで行く用事とか、こうして10階に来るですとか、歩く機会も多いのでこうなってしまったのです」

ぶっちゃけうちのウルフたちならオークよりも余裕で強いし、ヴァイオラはこう見えてむっちゃ強いので、たぶん5階6階どころか10階まで普通にやっても踏破できるだろうと思っている。見えないけれど後ろからふふんみたいな声が聞こえたから、きっとヴァイオラがどうだみたいなポーズでもしていることでしょう。


わたしが再びカウンターの上でぺたーとしたタイミングで、通路の向こうの方でガコンという昇降機が到着する音がして、わたしがああだこうだ言い訳をしている間に叔母様がキニスくんと一緒にやってくる。

「あなたは本当に‥‥どうせ勝手にダンジョンをうろうろしているという話でしょう。もう本当にね、ヴァイオラも、ステラにもう少し厳しくして」

わーん。叔母様に当然のように一言もらい、ついでとばかりにヴァイオラも一言もらう。キニスくんはわたしの近くまで来たところで鼻をふんふん言わせている。何だい、わたしの足でも匂うのかい。

「失礼、私は軍のアエリウスと申します。今ステラ様ともお話をさせていただいたのですが、このあと軍の方でいろいろと融通を利かせて頂きたく」

「ああ、来ていて、門前の魔物とやるとかっていう話は聞いているわ。それで、融通をっていうのは?」

さっそく交渉に入ったアエリウスさんはトーリさんの許可を得て、ギルドの応接を借りると叔母様に現在とこれからの計画の説明をし始めた。

「先ほどお聞きしたところここへ持ち込まれているものも多いということでしたので、それを使わせていただく許可をですね。ステラ様にはすでにお許しを頂いておりますので、アーシア様にもぜひ」

「なるほどね、確かにいろいろと持ち込んでいるわね。そう、ステラがいいと言うのなら私も大丈夫よ。それで、一応正式にするのね? 分かったわ。私たち2人のサインをしましょう」

「ありがたい。これで何とかなるかもしれません。感謝いたします」

うむうむ。事前に話は通っているからね、判断も早くなろうってなものです。


さあここからはもっと具体的な話をしよう。わたしとクリストさんも応接まで移動して、アエリウスさんとマリウス将軍も交えて説明していく。

「ヒロイズム・ポーションはもう言いましたよね。ではそれ以外を一つずついきましょう。まず、あのジャベリンの射出機? というのです? カタパルト? あれはまだ使えますか?」

「いや、本体は多少の補修でなんとかなるが、バネがな」

「なるほど、そうすると、ゴムで代用はできますか? これ、輸入品なのですけれど、使い道が難しそうで放置されていたものを買ってみたのです」

強化ゴムだね。バネの代わりになるかっていったら微妙だけど、せっかくカタパルトがあるのなら使おうっていうこと。特に一戦目でドラコリッチはカタパルトを標的に雷撃のブレスを使ったから、それを誘導してブレスを雷撃に固定させようっていう算段なのよ。

「ふむ。威力は下がるかもしれんが撃てなくはなさそうか‥‥試してみよう」

そう決まった。担当者に渡して使い方を検討するって。輸入品てどこの? っていうことも聞かれたから、この国唯一の港であるアンティゴネで購入したよ、どこから来た商人か確認してもソート・ランゲルという知らない国名を言われたよという設定を話しておく。これは国の方で調べれば出て来ると思うのだけれど、ずっと南の方にある国、らしい。詳しいことはわたしは知らない。

「カタパルトはこれでいいですね。次に、このダンジョン産のものをもう2つ。1つはタトゥーシールの詰め合わせです。全部で10枚。魔法の模様を描いたシールなのですが、これが防御力を上げるバリア、これが抵抗判定に有利を得られるレジスタンス、これがヒットポイントが0になるような攻撃を受けても1を残して耐えられるライフウェル、これが相手からは使用した人の体がぶれて見えるブラー、それからダメージ耐性を上げるアブソービング。全部2枚ずつしかありません。使う人を良く考えましょう。

「もう1つはアイウーンストーン・リザーヴ。アイウーンストーンは別のものが見つかっていますよね。これは頭に装備すると周囲に回るクリスタルが出てきまして、これ1つに1つ、レベル3までの魔法をキープした状態にしておけるそうなのです。フェリクスさんかカリーナさんが魔法を込めて、誰か使えるようにしておくと良いでしょう」

タトゥーシールは前衛用に枚数を用意してみた。特に盾役、近接でドラコリッチから離れないだろうっていう人たちに配るといいと思う。

アイウーンストーンは、そうだな、ヒーリング系の魔法だとかをセットしてマリウス将軍の部隊が持っておくのがいいのかな。

「最後に、こちらは問題ありのものですね。森と山で採れたあれこれをどうこうしてヴァイオラさんが作ってくれた薬品です。かなり種類があるのですが、いかんせんポーションではなく、しかもヴァイオラさんは錬金術師ではないし薬師でもないので市場に出せません。鑑定の結果、効果があることは分かっているのですけれど、一応今回限りのことです。トーリさんも見なかったことにしてください」

無許可で製造した闇薬品の数々でございます。効果は確実で高いものなので今回だけは目をつぶってほしいですよ。


薬品に関しては今後のこともあるのでヴァイオラが説明していく。

体力の回復が効果の高いものから低いものまで3種類、体力の減退が同じく3種類。同じように魔力の回復と減退、スタミナの回復と減退が全て3種類ずつ。さらに炎、冷気、雷、毒、魔法に対する耐性付加。毒薬が威力の高いものから低いものまで3種類。一瞬で効果を発揮し3秒間相手の動きを止めるとかいう麻痺薬。武器に+1の効果を付与する鋭利の油、そして最後に火薬だよ。

「‥‥いや、とんでもないな。この体力とか魔力とかの回復ってのはポーションとは違うのか?」

「違います。効果がゆっくりと発揮されますからポーションのように一気に回復することができません。減退も同じように効果はゆっくりですね。効果別に最大値が違うと考えていただければ」

「使い方が難しいか。だがこのスタミナの回復と減退は良さそうだ。かなり期待ができそうじゃないか」

「期待されすぎても困りますが長期戦を想定すると意味はあるでしょう。ただどれも素材の問題で数がありません」

「何を使ったんだ? 普通のものじゃないのか?」

「普通が何かは知りませんが、私が使ったのは植物の花や葉、根、種だとか、木の枝や皮、鉱物、キノコ、コケ、魔物を含む虫、魚、獣の一部、卵、まあそういったものですね」

魔物を含むという部分に差し掛かると、え‥‥という表情が話を聞いていた全員の顔に表れる。そうでしょうそうでしょう。もうね、これ以上の詳細は聞かないでほしい。聞いたら使いたくなくなるだろうこと請け合いなので。

「‥‥まあいい。毒とか麻痺は効果があるのかどうか、分からんな。ドラコリッチが耐性を持っていたらどうしようもない。それと、この爆発するってのは何だ。これも薬か?」

「ドラコリッチに状態異常は期待しない方が良いでしょうね。鍵を握るとしたら鋭利の油でしょうか。この効果を全ての攻撃に乗せて攻め続ければいずれは倒せる、かもしれません。持続時間は30分もないくらいでしょうから、いつまでもとはいきませんが。最後のそれは一応薬と言っていいのでしょう、火薬ですね。山で採れたものを何種類か粉にして混ぜたものですよ。衝撃を加えるか火を着けるかすれば爆発して、そうですね、この部屋が吹き飛ぶ程度には威力があります」

この部屋、と言ってトーリさんの方へ手を差し出している。その手にのけ反ってしまっているが別にトーリさんに使うわけではなく、吹き飛ぶのはこの部屋一つ分ということだよ。何だっけ、軍が使っていた、えー、ブラストボール、だっけ、あんな感じで使うことになると思うし、効果も似たところを想像してもらえばいいと思う。


用意されるのはこれ以外にも、残っているということにしたポーション、その他の薬品類、それから冒険者さんたち提供のレストレーション・ウォーター。

戦力としては冒険者さんたち1パーティーの5人。そして軍の兵士が限界まで回復して、前線に立つことができると判断された、本人が戦えると了承した17人。残りの兵士たちは薬品を持って回復する、傷ついた兵士を離脱させる、ドラコリッチが召喚するシャドーの処理だとかを受け持つことになる。

準備はできた。あとは挑むだけ。

「ここから先は振り絞れるだけの勇気を振り絞る覚悟だな」

マリウス将軍とクリストさんが中心になって改めてドラコリッチに挑む流れがまとめられ、実際に行う作戦も決められていく。

今は可能な限り回復して、そしてその後は本当に、覚悟を決めてドラコリッチの前へと進んでその勇気を示せばいい。わたしはそれを見守るだけだ。

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