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ミミックエリアを終えたところで装備の損傷具合の確認やけが人の移送の準備といった作業をして態勢を整え、家が燃え落ちた跡に発見された扉を開けて最後のフロアボスのエリアへと進んでいく軍を見送る。ほとんど休むことをしていない彼らがこのまま進んで大丈夫なのか心配しながらの見送りだ。ほんと、大丈夫なの?

そして現実のこちら側ではわあわあとステータスに関する話をしている。ステータスなあ、本当になんでこんな処理になっているんだろう。こういったゲーム的な数値の問題というものは、元になったゲームでも後付け後付けで理由だとか説明だとかをくっつけることで現実との差異を埋めようとしていることは知っているけれど、いくらなんでもむりくりすぎやろと思うのです。

みんながそれぞれの視点でステータスの話で遊んでいるそんな状態に待ったをかけたのはエディさんで、みんなが一瞬、ん? と戸惑ったのだけれど、そもそもここで立ち止まっていることには目的があったわけで、いやー、楽しくなってしまったのでね、申し訳ないです。そういえばエディさんの鑑定が目的なのでしたねという、そういう話。


そんなわけでルーナが鑑定盤で調べ、回復に非常に時間のかかる状態異常にかかっているということが確認される。これはレイスによる体力の吸収という攻撃の追加効果で、衰弱状態に近いのかな、現状のポーション類では治療ができない。

回復のためには時間経過に頼るしかなくて、その時間も効果をもたらしたレイスが生きていれば永続だからどうしようもなくて、死んでいれば2、3日で直るというもの。今回は対象のレイスは倒しているのであと1日ないくらいということだね。さすがにこの状態でドラコリッチは無理では? と振ってみたところそれはそうだという話にまとまって、この日は挑まずに休息に当てることに。良かったこれで時間が稼げたぞ。

それからエディさんは早々に休憩所に場所を確保しに行き、その間にクリストさんやフェリクスさんはルーナからドラコリッチを弱体化するには金属板をどう使えばいいのかを確認する。フリアさんはハンモックに寝転がってゆーらゆら、カリーナさんはトイレに行って感動してしまったらしく洗面台まで行ったり来たり。皆さん楽しんでもらえているようで何よりですな。


わたしも部屋に戻って休む準備をしますよ。

セルバ家用に確保してあるルーナの隣の場所に行ってみたらニクスちゃんが真ん中で堂々と丸くなっていたので、わたしとヴァイオラは壁際にマットレスを敷いて休むスペースを作って、それから入り口には幕を張って視線をさえぎっておく。

えーっと、お湯を沸かして今日のご飯はサンドイッチとスープなのでね、用意しまして。寝ているはずなのに鼻をピクピクさせているニクスちゃんのために、生で持ち込むことは避けるべきかもということできっちり焼いてきたお肉も用意しまして。

そんな感じで時間を過ごしている間にも、小窓の向こうでは軍の人たちが最後の一戦に向けた準備をして、そしてご飯を食べている間にもデーモン戦が始まってしまう。


軍が進んでいく9階最後に待ち受けるのはボスエリア。今回選択されたのはエイプの群れ、そしてデーモンのバルルグラ。大型の猿人のような見た目をした悪魔だよ。

部屋の構造自体は冒険者さんたちの時とほぼ同じ、広間ような場所で幅が広く奥行きがあり柱が立ち並んでいる。最奥には下り階段が見えているけれど、そこは鉄格子でさえぎられていて、ボスを倒さなければ開くことはない。

扉をくぐり広間に入った瞬間、柱の上からはキャキャキャキャキャというサルの声が無数に聞こえ、そしてそこかしこから投げつけられる石がヘルムや盾にぶつかりガツンゴツンといういい音をさせる。

盾で投石を防ぎ、姿の見えたエイプを弓手が射落としながら前進していくと、2本目の柱に差し掛かったところで柱の上からエイプが一斉に下りてきて、そして広間の奥の床に描かれた魔法陣の周囲に集まっていく。

その魔法陣から赤い光があふれ、エイプたちは軍から射かけられる矢には反応せずに、ただただ魔法陣の周りで踊り狂った。


魔法陣から現れたのは大型のサルのような見た目をしていて、赤褐色の毛並みに青黒い肌、赤い目、鋭い牙、短いけれど太く筋肉の盛り上がった足、分厚い筋肉で覆われた肩、極端に太い腕、そういうものを持った悪魔、バルルグラだった。

両腕を一度頭上に掲げてから地面へたたきつけるとグラグラとダンジョンの床があり得ない動きを見せ、まさに突撃しようと踏み出していた兵士たちが姿勢を崩した。支援のために放たれていた矢は分厚い皮膚に弾かれ、周囲にいるエイプこそおおよそ倒せたものの、バルルグラには効果がなさそうだった。

そのバルルグラは手近にいたエイプをつかむと、そのままマリウス将軍に向けて投げつける。正面から勢いを付けて投げ込まれるエイプを受け流すために盾を掲げて防いでいる間にバルルグラはすぐそこまで迫っていた。

殴りつける拳を盾で防げたところはさすがはマリウス将軍だと言って良いと思う。それでも勢いを殺すことはできずに殴り倒され、隣にいた兵士は腕を振り上げただけで吹き飛ばされてしまう。見た目どおりの力強さだった。


ただ物理一辺倒ではないことは次で分かった。

攻撃しようと槍がバルルグラに向けて構えられた瞬間、その姿がかき消える。フェイズ・スパイダーのような異次元転移系ではない、いたって普通の不可視化だけれど、その効果は大きかった。兵士たちは目標を失って立ち止まってしまい、突然すぐ近くに現れたバルルグラに殴られて吹き飛んでいく。

それでも姿の現れたところに向かって他の兵士たちが突っ込むことで、ようやくまとまったダメージを与えることには成功した。

バルルグラが両腕を広げてその場でぐるりと回転することで周囲から兵士を遠ざけてからまた姿を消したところで、今度は場所を特定しようと弓手が一斉に矢を放ち、幾本かが何かに当たって弾かれた。

そこにいると判断して盾を投げ込んだのはマリウス将軍で、そして槍を構えた兵士たちも一斉に何もないように見える場所へ殺到する。またしてもまとまったダメージを受けるバルルグラ。さらにそこへ油瓶が投げつけられ、火矢が放たれたことで炎上した。


炎上に苦しむバルルグラを兵士たちが取り囲み、何かの道具を投げつけて動きを止めたところへ再度殺到する。恐ろしいほどの切り替えの速度。

槍が顔面に突き込まれ、剣が胴回りに切りつけられる。動きを制限しようと盾で囲まれ、さらに槍が剣が突き込まれる。

どうにかしようと腕を振り回して盾を殴り飛ばし剣を折るけれど、どうしても数が多く限界が来る。

バルルグラが低い位置の攻撃を気にして下を向いてしまい、その頭部にマリウス将軍が振り上げ振り下ろすハンマーがきれいに入ってしまった。

鼻から口から血をまきちらしながらも、どうにかしたいと拳を振り回す。でもでもダメージが積み上がって動きが悪くなってしまっていた。

右に拳を振って開いた脇の下に剣が突き刺さる。悲鳴を上げてそちらに攻撃を集中しようとすれば左脇腹ががらあきでそこを攻撃される。左右に視線が行っていれば足元は空いていて、踏ん張る足の甲にハンマーが振り下ろされる。

急所ばかり、急所ばかりが狙われる。痛い、つらい、そしてとどめは股間だった。

急所を打ち砕かれたバルルグラの開いた口からは悲鳴も上がらず、泡を吹きながら下りてきた頭にもう一度全力のハンマーがたたきつけられ、それでおしまいだった。


目を閉じて今まさに終わった激闘を振り返る。

軍はここまでで結構な人数のけが人を出しているし、疲労がたまっていて万全ではない。それでもやっぱり強かった。もちろんバルルグラだって強い。強いけれど、それでもこの人数のこの強さの兵士にぐるりと囲まれてはどうすることもできなかった。

そして予定どおり、軍はこれで9階を突破したことになる。

ほとんど休息を取らずに6階から一気に下ってきたその疲労は相当なものだと思う。担架が必要なほどの重傷者もいて、精神攻撃を受けた2人も回復の見込みもない。破損した武器防具、使ってしまったポーションなどの道具も多い。それでも歩みを止めずについにここまで到達した。

早かった。本当はもう1日か2日はかかると思っていた。それなのにもう来た。正直なところわたしたちは軍を甘く見ていたと思う。これほどの実力と、これほどの使命感を持って、これほどの速度でここまで来られるとは思っていなかった。冒険者が幅を利かせる物語に良くみられるような、規律は緩み実力はまちまちでどこかだらしのない軍隊像などどこにもない。恐れ入りました。これからは軍の評価は今までよりもいくつも上と見なしていくことになるでしょう。国の守りとしてこれほど頼りになることはないし、ダンジョンにもまた来るとしたらとても脅威になるでしょう。

わたしが新設されたトイレに行って満足して、ルーナにおやすみなさいを言ってから部屋に戻るころ、疲れているはずの軍はわずかな休息と、装備や道具の点検をしただけで再び立ち上がり階段を下り始めた。


わたしがマットレスの上で次の出番を待って横になっているころ、トーリさんや居残りのギルド職員は完成させたギルドの休憩室で同じように休み始め、そして冒険者さんたちは階段近くの休憩所でそろそろ寝るかくらいの雰囲気だった。

そのタイミングでルーナのところからモノドロンが出てきて階段方向へと移動していく。クリストさんがそれに気がついて通路に出てきてみると、階段の上から物音とざわざわとした気配が下りてきていた。大勢の人の気配、ガチャガチャという騒々しい物音。軍が到着したのだ。

さすがに下りてきた兵士たちは疲れた表情を浮かべていた。担架に乗せられた兵士も何人もいる。傷だらけの鎧、傷だらけの盾。頭や腕を包帯でぐるぐる巻きにしている兵士。先頭を来るマリウス将軍の表情も厳しかった。その視線がモノドロン、そして階段の下で待つクリストさんに向かう。

「ふむ、やはり先に10階には到達していたか」

「まあな。だがあんたたちもさすがに早いな。もう少しかかるかと思ったんだが」

「ふ、侮ってもらっては困る。‥‥とはいえかなり無理をさせてしまった。どこかで休ませることはできるか?」

「ああ、大丈夫だ。俺たちはこっちにいるんだが、そこ、向かいは空いている。そこで休ませるといい。待っていろ、ギルドを呼んでくる」

軍の人数は多く、そしてけが人も多数抱えている。

一部屋を使って全員が休息するというわけにはいかないだろう。場所を作るために必要だと判断したクリストさんがギルドの職員を起こしに行った。

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