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一層の見学をひととおり終え、その途中で軍の攻略動画を少し見て、そんなこんなを済ませたら案内窓口に戻ってそれ以外の予定も片付けていくよ。冒険者さんたちがそろそろ来てしまうのでね、急ぎましょう。

「ありがとうございました、ルーナさん」

「いかがでしたか?」

「昇降機の機械がゴリゴリしている感じが格好いいとか、魔法円のクリスタルがきれいだとか、階段の裏に立入禁止の札があってちょっと気になるとか、広場のあれはさすがにあれだなあとか、面白かったです。それでですね、ええっと、考えてきていたのですが、まず1つ目ですね、あのー、上だとスライムがいまして、お掃除をしてくれていたのですが、こちらでは?」

「スライムはおりませんよ。掃除でございますか? 必要だということでしたら持ってきていただいても構いませんが」

「あ、そうなのですね。報告で他に魔物はいないということでしたが、それではいくつか持ってきてみます。ヴァイオラさん、お願いしても?」

予定どおりここでヴァイオラに上から数匹お掃除スライムを持ってきてもらう。その辺に転がしておけば勝手に増えたり減ったりしてうまくやってくれることでしょう。

「後はですね、今見てきましたけれど、あの階段側の部屋になる場所、あそこをトイレと休憩所にできないかなと」

小首を傾げるルーナにトイレの必要性を説いていく。ここでトーリさんに話を振ってみたところ、激しくうなずかれた。今はわざわざ上まで行っているのだそうな。数人でまとまって行くしかなくてとても大変なので、今後はどこかの部屋に簡易トイレを設置することを考えていたらしく、もっときれいで清潔で使いやすいトイレがあるのならばそれはもう諸手を挙げて大歓迎とのことだった。

それではということで、階段側の2部屋を向かい合わせの形で男女別のトイレへと変更をお願いして、どちらにも大きな鏡付きの洗面台を設置して、それから個室を並べてそれぞれに便器を設置して、トイレットペーパーを置いて、そしてそしてひもを引っ張ると水がジャーッと流れる仕組みを導入する。うん、水洗にするんだ。ここはダンジョンなのでね、どこから水が来てどこへ流れていくのかとか考える必要はないのだよ。

ルーナが変更してくれたので、それを見に行って希望どおりなことを確認。使用上の注意だとかを書いた紙も貼ってもらって。うんうん、いいのではないでしょうか。必要でしょう、こういうの。

それから残る空き部屋2つは休憩所にするので、そこにセルバ家の旗も掲げて、ここに置いてある道具はセルバ家供与ですよ、管理はギルドとルーナにお願いしていますよ、個人的に欲しい人はそのどちらかか、セルバ家へ直接申し入れてくださいとしておくよ。置くものはもちろんキャンプ道具あれこれです。一人用の小型テント、台座付きのハンモック、マットだ寝袋だ焚き火台だあれだこれだ。保存食も参考に置いておくよ。こういう展示体験コーナーは地上にも欲しくなってきたので、それはまた相談してみよう。保守管理はヴェネレとルーナがやってくれるからね、ダンジョン内は展示場としても便利なんだよ。


『ミミックエリアは順調です。かなり面白いことになる可能性が出てきました。ご覧になりますか』


なります。ちょっとこの辺に小窓を、おっけー、どれどれ。

見始めたところですぐに状況が分かる。ミミックエリアが広いということもあって、軍は部隊を分けて探索していた。

ミミックエリアは草原になっていて、入って来たところから奥へ小道が続いている。左右には低木が生えていたり、木の柵が並んでいたりして、視線の先には高木が植わっていたり、物置小屋があったり、そして遠くには草を食むヤギがいたりもする。

さらに道の先には家があって、屋根からにょっきり生えている煙突からは煙が立ち上っている。ここからは見えないけれど、畑もあるし井戸もあるし納屋もあるしと生活感がたっぷりなのだ。

そう、このエリアは農村の一コマを作り出している。穏やかな陽気、豊かな農村、その一角にある民家とその周辺、そういうイメージだね。こんな風景が突然ダンジョンの中に登場して軍の人たちがどうしたかというと、さすがに一気呵成に突破しますとはいかず、進行速度を落として探索をしながら前方の家へ向かうことになったのだ。


『地下世界の存在がこの風景と重なってしまいむやみな行動を避けることにつながっているのでしょう。ですがここでは家も人もヤギも建物も木も草も、何もかもがミミックです。最も簡単な対策は火をつけて全てを焼くことなのですが、それをしてしまうと自分たちも危うくなる。それに軍はミミックを知らない。報告では見ていても宝箱の形で出たものを一つだけです。環境そのものを構築してしまうミミックの群棲を知りません』


そうよね。これ、ある程度深く進んだところで一斉にぐちゃぐちゃによね、え、うまくいきそうじゃない?


ゆっくりじっくり進んでいく軍を見ていたらニクスちゃんがでっかいあくびをしたので、部屋で寝ていていいよと伝える。そうしたら今度は冒険者さんたちがダンジョンへと入って来たので、これはそろそろいい時間ですねということでわたしもルーナのところに戻って、あとはお試しということで自分のステータス鑑定もしてもらうことに。

「それではこちらに手を」

「はーい。お、何だか光った? お、何だかぴこぴこしている」

作ったはいいけれど自分で試すのはこれが初という詳細が出る鑑定盤。手を置くとぺーっと手の縁に沿って光ってね、それから盤面に文字列とか数列とか幾何学模様とか、何か書いてあるけれど何が書かれているのか分からないものがばーっと出ては消え出ては消えするっていう演出があってから結果が出るのよね。面白い面白い。思わずその場でぴょんぴょんしてしまった。

ルーナが印刷してくれるというのでそれを待っていると、昇降機がガコンと音を立てて到着する音がして、数人の話し声と足音が近づいてくる。これは冒険者さんたちが到着したのでしょう。そちらを見ると見覚えのある人たち。

「あ、来られたのですね、お疲れさまです」

ぴょんぴょんしていた姿勢を正して声をかける。

「おー、そっちもお疲れさん。今日はアーシア様はいないんだな」

「はい。今日はミルトで書類とにらめっこです。わたしたちは今日はいろいろと持ってきたので皆さんが使えるように置いていこうかと」

「お? ここをどう使うのか決めたのか」

「はい。お隣はわたしたちの部屋になりますね。それで向こうの、階段の前のところ。階段に近い2つはトイレにします。もう2つはテントとかベッドとかを展示してお試しで使ってもらって、それで気に入ったら買ってほしいなって」

「え、テントも置いてくれるの? うれしい、あれ使ってみたかった。1人用?」

「1人用ですね。大きなサイズを置くと狭くなってしまうので、そういうのもありますよとはしておきますけれど」

「あれは? あの、えーと、ハンモック。ダンジョンじゃ使えないけど良さそうだった」

「それも置きます。ハンモックはお兄様もお気に入りなんですよね。えっと、結ぶところがなくても使えるように台座ごと置くので使ってみてください」

フリアさんがわーいと無邪気に喜んでくれる。キャンプ道具に一番食いつきがいいのはいつもフリアさんなので、ここは宣伝していきたい。

「私としてはトイレにしますっていう方が気になるんだけど」

カリーナさんが食いついたのはトイレの方だった。やっぱり気になりますよね。

「えーっと、ここはトイレがないですよね。それでギルドの職員さんたちもいるし、これから軍の人たちも来るでしょう? そうすると大勢の人がいるのにトイレがないっていう悲しいことになるので、そのあたりをルーナさんに説明したところ」

「はい。階段側2部屋はトイレへと改装いたしました。男女別で2部屋ですね。使い方の説明も掲示してございます」

こう、と手で指し示したりトイレの形とか扉の形とか、うまくできているようないないような動作付きで説明すると、それを受けてルーナも答える。

もうすでに改装は終わっているので、トイレは水洗で使った後にひもを引くと水が流れるよ、地上でもお金持ちだとか王城だとかに設置されているタイプだよと説明。ルーナからは水の流れてくる元だとか流れていく先だとかは気にしないようにと説明がされる。

「水が流れるのね。いいわね、スライムを探さなくてもいいってことだし」

「そのスライムがいつの間にかその辺を転がっているのは気になるがな」

「あ、それはルーナさんにお聞きしたら、どうぞということだったので上から連れてきました」

「清掃に役立っているとお聞きしましたから、それならばここにいたとしても問題になるようなことはないでしょう。もっともダンジョンにごみが溜まるのかという問題はございますが」

そういえばダンジョンのごみというかほこりというか、日常的に発生するそういうのってどういう扱いなんだ?

「溜まらないのです?」

「どうでしょう。たとえ溜まったとしてもダンジョンの場合はリセットで全て初期化できますから」

ほむ。そういえばここは別にごみがその辺りにあったりはしないよな。ほこりが気になるってこともなかったような? カウンターの上とかじっと見てもきれいだしな?

あ、ダンジョンのリセットは初期化用だよ。ゴーストのところの扉みたいに初期化する仕組みっていうのは全体でも個別でも設定できるからさ。いじりすぎてどうしようもなくなったところとかでも、やり直すにはリセットするのが一番手っ取り早いから。

「りせっと? 初期化ってのはまっさらな状態になるってことだよな。ダンジョンてのはそういう仕組みがあるのか?」

「はい。解決が困難な障害が発生した場合に初期化するための機能となります」

この話に食いついたのはクリストさん。ダンジョンの仕組みというものを聞くことができるまたとない機会だと思ったのかも。

「その時中にいたらどうなるんだ?」

「ダンジョンの外、入ってきた場所へと排出されます。基本的には生きているものは排出、それ以外のものは消滅となります」

そういう仕組みなのです。リセット機能の初期設定だと人は装備していたり手に持っていたりするものを含めて排出、入ってきた場所に転移させることになっている。装備していたり手に持っていたりしなかったものは消滅だよ。リセットによる消滅ではポイントが入らないし、そもそもリセット自体にポイントを消費するから万能なわけではないのだけれど、細かい設定も可能だからとても便利な機能なのだ。

もちろん設定次第では人も物もおかまいなしに消滅させることだってできる。ダンジョン全体を完全にリセットするっていうことなんだけど、これだと入っていた人も物も何もかも初期化されて消えてしまう。以前ソラちゃんが言ったような気がするけれど、わたしたちが人を消すことなど簡単な理由の一つがこれだ。

例えば軍隊が今このダンジョンに入っているけれど、あれがわたしと敵対している、それこそ例えばバルトレーメ州の州軍だったりしたら、ね、何もかもリセットしましょうそうしましょうというその一瞬だけで消滅してしまうのだよ。恐ろしいね。まあその場合はリセットに必要なポイントがすごく大きくなるから、やるならとっても強い魔物をぶつける方が簡単だよね。消される当人たちにとってはどっちがいいかな?

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