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ルーナの超格好いい登場シーンを見終わったところで、緊張していた手足をほぐし気分転換をするために立ち上がる。キッチンスペースに置かれた、今日はエスプレッソマシーンの出番かな、スイッチを入れてカップを用意。ガガガと動き出す音、次第に漂ってくる香ばしいコーヒーの匂いをかぎながらぼうっとする。コーヒーの注がれる音、ミルクの注がれる音、はい、今日はカフェオレにしてみました。それではサイドテーブルを引っ張って位置を調整したらそこへカップを置きまして、続きを見ていきましょうか。
冒険者さんたちに夜明けの塔の設定が説明されていく。この段階でこのダンジョンの名称が夜明けの塔になって、地下世界から見た場合は上が10層、下が1層っていう呼び方が固定されるよ。
それからルーナは語っていく。
およそ5000年前に地上の災いから逃れるために神が大地を地下へと沈めて、この地下世界が誕生したこと。その時、大地を沈めるために使われた柱が現在の夜明けの塔の始まりなこと。いつか災いが消え去ったら地上へ戻れるようにと人々に祝福と永遠が授けられたこと。最初の地下世界は闇に覆われていて、これではいかんと奮起した人が塔を上って神にお願いしたことで朝が来て、それからこの塔の名前が夜明けの塔になったんだよと。
その後、とある一人の男が最初の神の他に地下世界の神がいてもいいんじゃないかって考えて塔を上って、自分を神にしてよって言った話。この話のオチは、男が月の海に沈められて、あげくもう誰も来るなよってことで神が祝福と永遠持ちには塔の機能を使えなくした、さらに塔の前に魔物を配置して来る前に考え直せってしたことだね。
次に永遠に疲れてしまった人たちがもう終わりにしてほしいって願うために塔を上ろうとした話。これが6階のメッセージを残した人たちのことだよ。頑張って塔を歩いて上ろうとしたのだけれど、でも神はそれすらもどうにも気に入らなくて、塔の地下から魔素をあふれさせて、これが原因で今のダンジョンの魔物たちだとか、地下世界の魔物たちだとかが現れてしまったんだよっていうオチにつながる。
神はそれを見ながら言いましたとさ。祝福あれと、これからも変わらず永遠を生きよと。ね、もう諦めなっていう話。諦めて地下世界で生きていきなっていう。
夜明けの塔が、それからどうなったのか。
誰一人として来はしない。上からも下からも誰も来ない。その状況にどうしたのか。
あふれた魔素を力に変えて、夜明けの塔はダンジョンとしての機能を強化していったのよ。いつか神が再び塔の頂に現れてもいいように、塔の頂が再び空の向こうへ続く道に変わってもいいように、誰かがこの場所を訪れてもいいように。
神が祝福よ永遠にと願った者は塔の機能を使えない。でも祝福よ永遠にと願われていない者であれば使える。いつかそういう者が現れてもいいように、ダンジョンの構造が書き換えられ、魔物の調整が行われ、宝箱が配置された。いつかやってくる誰かが未来を切り開いてくれるほどに強くなっていくように。
この時、案内役はモノドロンからその上位存在であるルーナへと切り替えられ、1層に案内窓口が開設された。地上には地下への入り口が作られた。そういう設定。
これ以外にも夜明けの塔には設定がある。せっかくだからこれも開示していこう。
全高は約600キロメートル。それを上下に移動する手段は昇降機と階段、それから一番最初に作られたという全高を貫く円柱形の空間。この空間は壁沿いにぐるぐるとらせん階段が付いていて、600キロをひたすら歩いて上下移動できるようになっている。
ただしここは魔素がめっちゃ濃い。深淵から吹き上がる魔素がここを昇っていっているのでね。1層の階段裏の隠し扉から入れるのがここなんだけど、普通の人は1層でこの場所に入ったところでめまいがするくらいで、上るっていっても100メートル上れるかどうかだと思う。下りはもっとひどい。その先にあるのは奈落、そして深淵に続くわけだけれど、めちゃくちゃに魔素が濃い。たぶん10メートルも耐えられない。深淵にたどり着くにはどれだけ下りたらいいのかとか設定すらない。そこはもうヴェネレ次第。
それからもルーナの語りは続く。
長らくお待ち申し上げておりました。
皆様が上より来られたということは天上の災いは過ぎ去ったのでしょう。そしてまた人の世が始まったのでしょう。ようやく天上の世界とこの地底の世界とが触れ合える時が来たのでしょう。
塔の用意した10階層をしっかりと踏破なされたということは、この世界でも十分に活躍できる実力をお持ちなのでしょう。それはとても喜ばしいことです。
ようこそ、ようこそいらっしゃいました、夜明けの塔の一層へ。
これ以上神の意に反することのないように、これ以上この世界の人々を傷つけることのないように、塔が幾年月をかけてようやく招き入れることのできた皆様は、まさにこの塔の待ち望んだ来訪者なのです。
ふう、というため息が自分の口から出て行った。
みんなでああでもないこうでもないと考えてきた設定が一気に開示されて、ルーナが来訪を感謝して一礼したところで感極まってしまったからね。仕方がない仕方がない。もうね、ついにここまで来たという思いがね。ルーナの言うダンジョンの試みがまさに自分たちのやってきたことと一致してしまってね。うまくいったこと、いかなかったこと、たくさんある。ああ楽しい、うれしい、満足です。
冒険者さんたちもここからは質問タイムに入っていく。案内係だというルーナがどれだけのことを知っているのか、どういうことに答えてくれるのかを聞き始めたところで名乗りあいもまだだったという話になり、ここでようやくルーナが自己紹介。ルーナ・ノクターナス・イドゥス・セプテムブリス。うーん画面越しに改めてルーナ自身の口から聞いてもやっぱり最高に格好いいわ。
ここからは質疑応答だよ。
まずはルーナの種族、地下世界の人類のことから。ルーナの設定はヒト科ドール属アルケイン・ドール種ってことになっている。そして地下世界のヒト科には全部で6属72種が存在しているっていう話になって、そのうち人間ていうことに限定しても、ヒト科ヒト属以下10種だよと。
それからいよいよ冒険者さんたちのステータス鑑定へ。
教会やギルドにある鑑定盤よりもはるかに詳細まで分かる鑑定システムを導入しておりますので、それはもうレベルや能力値からアーマークラス、ヒットポイント、クラス、スキル、魔法、それ以外にも出身、経歴、種族、属性、身長体重、称号、現在の装備だとかね、これでもかと出て来るのだ。
すごいでしょ。そしてここの種族欄、ここにヒト科ヒト属ヘルト種って書かれるのよ。これが地上の人の設定ということになるのよ。ヘルト種は地下世界にはいないのでね、これで違いが明確になります。地上ではヘルト種をヒト、それ以外を亜人扱いすればいろいろなことが解決するのではないでしょうか。
クラスは基本だけで11種、サブクラスが140以上、それ以外にも一般クラスに上級クラス、特殊クラスがあるんだよという話。
魔法は9系列93系統があるんだよという話。
そして1層には魔物は広場のあれ以外いないから安心だよという話。
昇降機を10階で使えるようにする方法と、1階と10階を行き来するための鍵は窓口でルーナからもらえるよという話。
10階まで自力では来れないけれどぜひ10階に連れてきたい人たちがいるんだけどどうすればという問いに対する、何か方策を用意しておくのでどうぞという話。
転移用の魔法円を使えるようになります、テレポーテーションの魔法は地下世界にあるので探してねという話。
オリジナルの魔法、オリジナルの道具、魔道具やアーティファクト製作の自由度の話。
地下世界独自規格の金属、魔素を帯びた金属、帯びさせた金属、そういう話。
塔の前にいる魔物のことと、強すぎるから勝てるくらいに弱体化させるためには5つの金属板が必要で、すでに3枚を持っていて残りの2枚は1階と4階にありますよという話。
用意していた全てがここに示されていく。これで冒険者さんたちが次の段階に進む準備はできたでしょう。地下世界の魅力は知ってもらえただろうから、それは地上に戻ったら、うちやギルドに伝えてもらえることでしょう。そして1階と4階で弱体化キーをゲットして塔の前で待っているあいつと戦うのだ。
10階に下り立った冒険者さんたちの今日のお話はここまで。ルーナのはす向かいの空いているスペースを使って今夜の寝床を作っていくのを確認したら、わたしの方も今日の鑑賞はこれにて終了となる。
この後のわたしの夜ご飯はどうしようかなあとか考えながら、冒険者さんたち以外のことを一応確認していく。
まあ9階ボスエリアはもういい。後でご飯の時にでもリプレイで流し見すればそれで十分だと思うからね。
で、学園ではガイウス・カートがいろいろ問いただされて、無能を無能と言って何が悪いのか、学園の恥だ、追い出した方がいい、学園で恥をさらし続けるよりも本人のため、ひいては子爵家のため国のためだとか、がーっとまくし立てたということを伝え聞く。他に言いようもないだろうしそんなもんよね。で、取り巻き3人も問いただされたそうで、同じような話をしていったそうな。
学園側のその後の話をちらりと聞くと、この取り巻きの3人は退学が確定っぽい。少なくともガイウス・カートの周囲からは人を遠ざけるべきってことで、そうするとこの3人の扱いが困ってしまってね、実質平民で特段学園に残すべき理由もなしってことで、退学でいいだろうと。うちへのごめんなさいの1つにするようだ。
肝心のガイウス・カートには今は周囲もうるさいだろうから別室で1人で勉強しようなと言ってすでに隔離済み。本人は不満なようだけれど、さすがに抵抗するようなことはできなかったみたい。当然だね。
そしてここからが学園と、今日までの聴取内容をまとめた通知を送った理事会がどう考えるかということになるのだけれど、その話し合いはこれからだってさ。暴言だけを問題にするのか、暴力行為も問題にするのかはもめているね。
学年主任の先生はね、わたしがあまりにも状況を分かっていることからさすがになしは無理だって会議で言っていたけれど、できればなしにしたいなあっていうのが今の学園側の気持ち。さすがに男爵の子が子爵の子に暴行とか外聞が悪すぎてつらいって感じかな。でもまあセルバ家からは公式に抗議が行くので頑張ってくれ。
最後に国とギルドの視察のこと。これは今日はノッテの出張所とダンジョンの現地見学で終了だった。来ていたのはギルドの本当に偉い人たちで、前回来ていたケイロスさんがどうしてもって説得して来させたみたいだ。ダンジョン現地を見ている時点でもう興奮しているところは本当に冒険者ギルドだなあって感じ。国の方はダンジョン管理を担当している国務省から担当の人が2人と王家の執務室勤務の事務官が1人、後は国軍の方からも護衛も兼ねてそれなりの人数が来ていた。
その軍の方はすでにダンジョンに入る計画を立てて動き出しているそうな。話の内容からリッカテッラの東西の州に駐留している部隊から、入れ替えで中央に戻る予定だった部隊をそのまま来させるっていうのと、中央から全体を指揮する偉い人の部隊、もう1つ通常任務の部隊、それから輜重部隊も来ることになっているということを知る。そろったところでそのまま攻略の流れなのだろうね。
こういう冒険者が幅を利かせているお話だと、軍はだらしなかったり、変だったりすることがままあるけれど、この国では果たしてどうなのでしょう。そういったこともこれからノッテに来れば分かっていくのだろうね。注目しておきましょう。