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客間でダイジェスト版を見ながら夜更かしをした一晩を過ごして、翌朝は時間も気持ちもゆったりと起き出した。


『おはようございます。まずは一つご報告を。昨晩、学園で緊急の職員会が開かれています。その場でベトル・ゴードン様がガイウス・カートの問題を報告し、体育担当教師と男子寮の管理人から聴取が行われました。寮管理人からはヘルミーナの言うとおりの内容ですね。問題の体育教師ですが、やはり現状を良く分かっていないようです。すでにスキルを持っている者を優先して育てることは当然のことで、能力の足りない者との差を認識させるには良い方法だったかもしれないと発言しています』


ありえないよなあ、能力が足りないっていってもそれは戦闘能力の話で、それ以外の能力が十分にあるから学園にいるんだぞ。


『同じことをベトル・ゴードン様がおっしゃっていましたが、体育教師は自分の役目は国のために戦える人材の育成にこそある、そのための教育はできているという認識のようです。しかもマスターのことは無能力者であるということしか理解していません。セルバ家の長女だということの問題点を理解していませんよ』


まじか、こちとらほんまもんの貴族様やぞ。生徒の把握をしていない、教育とは何ぞやっていうところがまったく分かっていないということか。まあ、何というか、もういいや、どうせセルバ家から名指しで抗議文が届くんだ。首にならないように自分自身への教育も頑張ろうな。


『ガイウス・カートは寮や食堂での暴言に関して証言多数なため、まずはこれを理由として本日面談室へ招致されています。このあと寮管理人とともに向かう手はずですね』


おっけー。もうね、細かいことはいいや。聞いたところでわたしが何かを考える必要は特にないし、そもそもあまり興味がない。

どうせガイウス・カートはこのあと隔離だろうし、職員会と理事会でわあわあやって結論が出るまではしばらくかかるでしょう。その間に公式の抗議がたたきつけられてわあわあやることになるんだ。


そんな感じで着替えながら報告を聞いたら、すでに食卓で待っていた家族みんなとご飯を食べて、一息ついたところでお父様はミルトへとお出かけ。ミルトの高級宿に泊まっているという冒険者ギルド本部からのお偉いさんたちと、それから国の中央からなのだという視察の一行を迎えに行って、午後にはノッテの出張所を見て改めて説明を聞いて、それからたぶんダンジョンの地上部分を見て、もしかしたら1階もということになるだろうっていう日程だった。

その偉い人たちは今日はノッテの出張所に泊まるっていう話だけれど、高級宿に泊まるような人たちがノッテの宿泊施設に満足できるかどうかは不明だ。対応するギルドの職員さんたちが耐えられることを祈っている。

さすがにそれを出迎えに並ばなければならないとかで、お母様も叔母様も今日は忙しいみたい。そんな時にわたしがこの辺りでうろうろしていてはいけないからね、今日明日くらいはヴェネレのところにでもいようかなと思う。ま、今日の午前中はデージーのところでルプスさんたちと遊んで、それからかな。


ということでやってきました、ここはノッテの森の別宅です。本宅の自室に戻って先に来ていたヴァイオラと合流したらひとっ飛び。何だかここもすでに懐かしい気持ちが湧いてくる。まだ一週間くらいしかたっていないのにね、不思議だね。

今のところ特に目的もないので、外へ出てわっふわっふと寄ってきたルプスさんたちをわっしわっしと揉んであげる。いつもは食っちゃ寝のルパさんも今日ばかりは起きてきていた。みんな元気そうでなにより。

みんな元気にしていたー? いつもはどうしているのー? 何日かはこっちにいるから一緒に遊ぼうねーという話をしながらゆっくりして、それからルプスさんたちにはヴァイオラと一緒に森や、それから山の方を回ってもらうことにした。

ヴァイオラにはね、森の管理人という役割以外にも重要なことがあるのだ。

森や山で採れるあれこれを使って薬品だとかを作ってもらうという役割。これね、ヴァイオラにアルケミスト、いわゆる錬金術師のクラスとスキルをがっつり持たせていて、それで今はあまり一般には出回っていない生薬だとかを作ってもらうつもりなの。

ダンジョンで見つかる不思議なポーションとは違う、薬師さんや錬金術師さんたちがやっているように、薬効成分を持つあれこれを元に薬品を作るという活動だね。これもまたノッテの森の価値を高めるための手段にしようと思っているのだ。


ついでになぜ山なのかという話もしよう。

さっさとダンジョン化してしまえばいいことなのだけれど、その前にヴァイオラに探索を楽しんでもらおうと思っていてね。現役ダンジョンが将来のダンジョン候補地を探索するっていう良く分からない構図だけれど、そういう計画なのよ。

それでね、以前ルプスさんたちが言っていた地面の暖かい場所、地熱の高い場所を探しておいてもらおうと思って。温泉の候補地だよね。いつか山を押さえた時には温泉を掘ってそこにお風呂を作るか、それともふもとまで引っ張ってそこで作るか、そこは地形とか魔物の状況次第になるけれどね、楽しみだわ。

あとは硫黄よ、硫黄。世の中に火山は数あれど、山というものは大概は魔物のはびこる土地になっていて、探索や調査はあまり進んでいないのだ。

異世界人が普通にいる世界に火薬がないはずがない。というかダンジョン内だと火薬を配置しようとすると普通に用意できるのだから、恐らくはどこかにはある、もしくはあったのだろうと思う。そして火薬、いわゆる黒色火薬の作り方が分かっていたとして、でもやっぱり現実には魔物がいっぱいいる所へ行って硫黄を取ってきて、それから硝石や木炭と混ぜてどうこうっていう製作の手順があってさ、難易度が高いのよね。そこでまずはヴァイオラに硫黄を取ってきてもらうのだ。それで黒色火薬を作って実験をするのよ。

楽しいねえ。森も山も資源の宝庫なので、まずはヴァイオラにぐるっと見てもらって、それから次のことを考えるよ。森にあるものはデージーが知っているし、いくらでも用意できるのだけれど、そこはやっぱり雰囲気大事ということでヴァイオラにマジックバッグを持って採ってきてもらう。それから一応安全のためと、山でもしものことがあった時の帰りを簡単にするためにインスタントダンジョンを1個ヴァイオラに渡して、ここからはルプスさんたちと一緒によろしくだよーといって送り出す。わたし? わたしはさすがに今はまだ行きません。またいつかのお楽しみにとっておくよ。


さあそんなわけで、暇になったわたしは今、ヴェネレのところに来ています。まずは上から見た場合の地下10階、実際にここが機能し始めたら地下世界から見て1層っていう呼び方になるのだけれど、この場所の見学から始めようと思いますよ。

ヴェネレのダンジョンは冒険者が10階で情報を得た段階で、名称が夜明けの塔に固定される。地下世界に立つ塔という設定を持ち、その地下世界のスタート地点を1層、そして最も地上に近い最上階を10層とするということだね。

その1層はダンジョン部分になる塔の円と、その前には外の世界へ出て行くための門とその手前の広場、広場を囲むように広がる木立、外壁沿いの開けた場所なんかがあるもう一つの円がある。この2つの円は塔の外壁から連続する高い壁によって囲まれている。そして門前の広場には最後の敵としてふさわしい、だいぶあれな魔物が配置してあるのだ。

ダンジョン部分は通路が十字になっていて、地下9階から下りた場所が最奥、そこから十字の中心点へ移動して、右へ行くと転移のための魔法円、左へ行くと1階や5階とつながる昇降機、正面へ行くと広場に出るという構造。本当は階段の裏側に回ると隠し扉があって、その奥にも大事な施設があるのだけれど、それはイベントをこなさないと見つからない仕様なので今は必要ない。

それで十字路の正面以外の3つの通路にはそれぞれ左右に2部屋ずつ空いている場所を作ってあって、何かしらの用途に使える。というか、想定としてはギルドの施設が来るだろう、セルバ家としても寝泊まりできる場所にしようっていう場所だね。

そして昇降機側の通路の部屋の1つが地下世界の案内窓口になっているのだ。今日の目的地の1つはここ。ここで会うのだ。誰とって、それはもう決まっている。

「そんなわけで、来たよ-、ルーナ、どうお?」

『ようこそマスター。ここは夜明けの塔一層案内窓口です。私がここに設置されてより1865年と273日13時間38分51秒、マスターが初めての来訪者となります』

ルーナ・ノクターナス・イドゥス・セプテムブリス、9月13日の夜の月。わたしのダンジョン、13号ちゃんだよ。


「おお、そういうあいさつになるのね、いいわね。本当はここにルーナが来てから、まだ2日? 3日? とかだけれど」

『2日と少々となります。現在冒険者の皆様は最後のエリアでデビル戦の最中、ああ、そろそろ終わりそうですね。続けて2戦目へ入りますので、ここへ来られるまで小休憩を含めてあと数時間といったところでしょう』

「もうそんななのね、よし。ね、ルーナは今の状態で大丈夫?」

『そうですね、特に問題はありません。鑑定盤もここに用意してありますし、それ以外に必要になったものもカウンター内か棚から持ち出す形を作れます。19も背後の壁面に設置してある球体の中で動作中ですから、これで十分に対応可能でしょう』

「うんうん。ルーナはさ、脚部を可変にしたじゃない、座った状態で平気? 自由に動ける方が良かったらまだ間に合うからさ」

『そう、ですね、私は特にこの状態に不満も不便もありません。副腕の問題もありますから、可変の方が都合が良いのです』

よしよし、大丈夫そうね。


ルーナは特別な形状をしている。特別というよりも特殊といった方がいいのかな。

見た目は人の大人と同じくらいの背丈の、ドール、人形だ。これはユーナの時に思いついた形状の一つになるね。人の女性をかたどった人形で、銀色の長い髪と陶器のような白い肌をしていて、服の隙間からは首元や腕の関節部分が見えたりする。等身大のこんなにきれいな人形だなんて、インパクト抜群ではないでしょうか。

カウンター越しに見える部屋の奥には雑多なものが積み上げられた棚が一面に並んでいて、その中央の高い位置には青い球体が据え付けられている。この球体の中にインスタントダンジョンの19が入っていて、ルーナの背後からその棚へは管のようなものが幾本もつながっているっていう、ルーナの見た目以外のインパクトも十分。

そのルーナの足はカウンターの内側に座った状態だと、脚座といったらいいのかな、台座になる部分と完全に一体化していて、部屋の中を移動する時は台座ごとレール上を走るようになっている。そして立ち上がる場合には台座から脚部が自立してぐぐっと持ち上がるというね。さらに部屋から出て移動しようとすると、脚部を車輪に変更するか、円錐形に変えて半重力で浮力を得て移動する格好になる。かなり特殊なのよね。

でも不満も不便もないなら良かった。もうね、とにかくここは初見のインパクトを重視しているから。ルーナの存在そのものがそのインパクトを作る重要な要素だから。


「あとは、ここは冒険者さんたちが来る時には」

『左右通路内はダークゾーンと同じレベルの暗闇を設定、そして踏み入ればそのままUターンして十字路交差点に逆戻りとなります。交差点に鍵のかかった箱状にしたモノドロンを置いておきますし、計画どおりに行動していただければ』

「広場も大丈夫ね?」

『はい、すでに全て配置済みです』

いいわね、準備は整っている。9階から下りてきて、鍵はもう持っているのだから箱を開けてモノドロンと会って、そして広場に案内してもらってこの十字路の闇を晴らすための装置を見つける。わたしはそれをここの下、11階に用意してある部屋から見学させてもらいましょう。

『冒険者はすでにデビルを撃破、現在エンジェルと戦闘中。あと少しですね』

おっとそろそろわたしはここから移動しておかないといけないわね。それじゃあルーナ、後のことはよろしくね。

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