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その日冒険者たちは9階第2ブロック最後のエリアに挑んでいた。

階段を上がった上層部、入ってすぐにダンジョンは洞窟へと姿を変え、周囲の壁をクモの巣が覆っていることが分かる。ここは5階以来となるスパイダー系で固めたエリアだ。

現れるのはジャイアント・スパイダー、そしてそれよりも一回り小さなジャイアント・ウルフ・スパイダー。戦い方は5階の時と何も変わらず、相変わらず痛いファイアー・ボルトで先制、近寄ってきたところを各個撃破だ。

それでも5階よりも洞窟らしさを持たせた構造によって視界が遮られていることもあって、見えるところから釣り出しては倒しを繰り返すことで、じわじわと進んでいく形になっていた。

数だけは用意していたのでそれなりにはやれるかな、なんて、そんなうまい話はないわけで、バラバラにいれば釣り出して、まとまっていればファイアーボールで一掃、それだけのことだった。

この難易度では9階の最後にふさわしいとはとても言えない。だからね、ここにはこの段階だからこそ投入する新種がいる。大きさはジャイアント・スパイダーとほぼ同じ、ただ色が青かった。

その部屋にたどり着いた冒険者たちは初めて見る魔物は後回しにすることにしたのか、エディが引き取って仲間から引き離すと、まずは小さいものから順に倒していく。その作業自体は順調だった。ただ小さいものを片付けたところで、では青いスパイダーをと身構えた瞬間、その姿がかき消えてしまう。透明になったとか、目にも留まらぬ早さで移動したとかではない。気配ごと、完全に消失してしまったのだ。

攻撃をしかけようとしていた戦士たちも、魔法を準備していた魔法使いたちもこの現象に動きを止めた。その瞬間、背後に青いスパイダーが姿を現し魔法使いの2人を次々に蹴り飛ばした。

最初に気がついたフリアがそこへナイフを投げ込んだ、その瞬間にまた青いスパイダーは消えうせ、次は戦士たちの近くに姿を現す。不意をつかれたエディが殴られてよろめく。それでも背後に気配が現れたことを察したクリストがすぐさま剣を振り抜いたことでそのスパイダーにようやく傷を付けることに成功した。ただその姿はまたしても消え去ってしまい、追撃をかけることはできなかった。


この青いクモ型の魔物は、名をフェイズ・スパイダーという。異空間転移能力を持ち、時間の流れが違うその異空間を移動することでまるで瞬間移動のように消えては現れるという、とてもやっかいな特徴を持っている。強さそのものはジャイアント・スパイダーとそれほど違いはしないのだけれど、この異空間転移能力によってとても強力な魔物と化しているのだ。この転移能力に関しては普通の人には関知できないので、対処方法としては誰かのところに現れた時を狙うくらいしか思いつかない。


攻撃を命中させたことでフェイズ・スパイダーはこの場所を離脱。再度現れなかったことで冒険者たちはひとまず追い払ったと判断し、移動を再開した。

その先で出現するのは通常のジャイアント・スパイダーとジャイアント・ウルフ・スパイダーに戻っていて、順調に倒しながら進んでいく。さらに9階でスパイダーのエリアが選択された時点で配置された、通常の新種が登場する。エターキャップ。二足歩行して二本腕を持つ、人型のクモだ。もっともこのエターキャップ、実体は単なる二足歩行するスパイダー種でしかなく、特別な能力を持っていたりはしない。初見では驚いてもらえたけれど、実際に戦ってみたら思ったほどでもなかったという感想しかもらえなかった。


そこからも順調に進んでいき、そしていよいよ最後の部屋、ボスの待機している部屋へと到達する。広い洞窟は中に数本の柱があり、見通しは良くなかった。ここに配置されている魔物はボスのドライダー、そしてフェイズ・スパイダーが2体。ドライダーはクモの体にドラウ、いわゆるダークエルフの女性体の上半身が乗っているという形をしている。有名どころだとアラクネだろう。

それ以外にもジャイアント・スパイダー、エターキャップもいる。なかなかなそろえ方だろうと自慢したいところだったのだけれど、残念ながらランダム選定された初期配置位置が微妙で、ジャイアント・スパイダーやエターキャップは普通に釣り出されて撃破されてしまった。

結局ボス戦はドライダーとそしてフェイズ・スパイダー2体ということに。それでもね、ドライダーも十分に強力な魔物なので、頑張ってくれることでしょう。


近づく冒険者たちに対して先に動いたのはフェイズ・スパイダーだった。姿を消してから迎え撃とうと身構えていた冒険者たちの背後、侵入してきた通路の近くに再出現する。てっきり自分たちを攻撃しに現れると思っていた冒険者たちの足は止まっていて、そこを狙ってドライダーから矢が放たれ、それがエディの盾に命中し大きな音を立てた。

エディが持っている盾が、ミサイル・アトラクション・シールドという呪いの盾だったことが幸いした。その効果は近くを狙って放たれた矢が引きつけられて、必ずこの盾の持ち主に向かってくるというもので、呪いといいながらも盾役が持つのなら効果ありという代物だったのだ。

続けて放たれた矢も最初はクリスト目掛けて飛んでいたのに途中で軌道を変え、エディに向かっていって盾に受け止められる。

その間に背後のフェイズ・スパイダーにマジック・ミサイルが放たれるけれど、転移されてしまい必中のはずのマジック・ミサイルが全弾無駄になってしまった。


ドライダーが移動し、柱の陰に姿が消える。その向こう側からはもう1体のフェイズ・スパイダーが迫ってくる。

柱の陰から冒険者たちの頭上へ放たれた矢が軌道を変えてエディに命中する。さらに突然姿を現したフェイズ・スパイダーが殴りつけ、また姿を消した。

近くまで迫っていた別のフェイズ・スパイダーがクリストの目の前で姿を消し、後衛を狙ってカリーナの近くに再出現する。ただ、この行動は待ち構えられていた。

カリーナがマインド・ウィップの魔法を放ち、現れた半透明のムチがフェイズ・スパイダーに絡みつく。そこへフェリクスの魔法やフリアのナイフが放たれてダメージを稼がれてしまった。

さらにその場をエディに任せたクリストがナイト・ソードの機能を使って自身をダークネスの闇の中に収めると、そのままこっそりとドライダーの方へと移動していく。

柱の陰から適当に狙いを付けて放たれる矢は軌道を変えてはエディに迫る。一度体験して分かっていたエディがそれを盾で受け止める。

魔法のムチにつかまっていたフェイズ・スパイダーは結局そのままフェリスクのマジック・ミサイルの餌食となり撃破される。ただもう1体のフェイズ・スパイダーがそのフェリクスの近くに再出現、殴りつけてやり返すことに成功した。


ダークネスを使ってドライダーに近づいていたクリストが、その胴体に深く剣を突き刺す。そのダメージにクリストを引きずるようにしてドライダーが柱の陰から移動し、背中に乗っているような格好のクリスト目掛けて矢を放ち、避けようとクリストは剣から手を離して地面に転がり落ちた。

さらに攻撃を仕掛けようとするドライダーにライトニング・ボルトとファイアーボールが命中する。それでもダメージを耐えきったドライダーは、反撃とばかりに冒険者たちの頭上へと矢を放つと、それは冒険者たちの真上で分裂してから消え去り、そして透明な無数のつぶてとなって彼らに次々に命中しダメージを与えた。

さらにそこへフェイズ・スパイダーが現れ、フェリクスやカリーナに体当たりをして弾き飛ばす。エディがグレーター・アックスを振り回すことでこれを退けるがまた姿が消えてしまいそれ以上攻撃することはできなかった。


追撃をかけようとしたのはドライダーの側だった。弓を構えて矢を放とうとしたが、反撃に出てそれを成功させたのは冒険者の側だった。クリストが横から突っ込むようにして胴体に剣を突き刺し、さらに立て直した魔法使いたちが大量のマジック・ミサイルを全て命中させてきた。

決定打になったのは背後からドライダーの背中へと駆け上ったフリアが首に突き立てたナイフだった。さらにそこから背中に刺さったままの剣をぐりぐりとねじ込むようにすると、ドライダーはたまらず体を地面へと落とす。そこへクリストも駆け込んで、横腹に突き立てたままだった剣に足を掛けて抜き、そして思いきり首にたたき込んだ。


これでゲームセット、そうなるはずだった。でも、まだいるんだよ。残っているよ。

動かなくなったドライダーの背中から下りようとするフリアの背後にフェイズ・スパイダーが現れ、殴りつけてまた姿を消す。次はクリストの近くに現れて蹴り飛ばす。たださすがにそれ以上は続かなかった。エディの投げつけたグレーター・アックスが当たってしまい、動きが止まったところへマジック・ミサイルが殺到した。

これでようやく、本当にゲームセットだった。お疲れさまでした。


─────────────────────────


面白かったわね。というか、ドライダーとフェイズ・スパイダーが最高に格好良かったわね。


『はい。やはりレンジャーを持たせたドライダーは強い。ミサイル・アトラクション・シールドの効果に途中で気がつき、それを利用してみせたことも評価できます。フェイズ・スパイダーは言わずもがなですね』


ね、フェイズ・スパイダーやっばいわね。異空間転移への対処って、結局ダメージ上等で待ち受けるしかないってことよね。


『察知するための魔法なりスキルなりがあれば違うのでしょうが、現状では他に対処方法がありません。これ以上の数を同時投入するようなことはやはりできませんね』


逆にエターキャップは想定していた以上に普通だったわね。見た目のインパクト以上のものはなかったものね。


『あれはだめですね。単に二足歩行しているだけのジャイアント・スパイダーです。せめてもう一段階進化してヒトに近づけばクオトアにように使えるのでしょうが』


そうよねえ。道具が使えるようになれば全然違ったことになるのだろうけれど、それをやってしまうとクオトアレベルになるっていうことで、ここで投入するには問題がありすぎるわよね。スパイダーのエリアというには違和感があるし、これ以上はいいでしょう。やるのならまた別の機会にっていうことで。


『そうですね。地下世界に新種族として配置した方がやりがいはありそうです』


うん、スパイダーエリアはこれでいい、十分だと思う。

その後はドライダーから装備品としてチェインメイル、これは普通のチェインメイルなので価値はあまりないのだけれど、それとアキュラシー・ボウ、命中とダメージの判定にボーナスがあって、射程距離内の目標に対する命中率低下効果を無視できるっていう、ほぼ必中になる弓を獲得される。冒険者さんたちは弓手がいないから価値がないけれど、地上に持っていけばすっごい価値が出るんじゃないかな。

それ以外にも知力を19に上昇させる効果のあるインテレクト・ヘッドバンドと、宝石を20個と大量に入手して、冒険者さんたちもホクホクだ。


こうして9階の第2ブロックも全てのエリアが攻略された。次は最後、この9階全体のフロアボスが待ち受ける場所へ挑むことになる。

スパイダーのエリアで受けたダメージが思いのほか多かったこと、魔法を結構消費してしまっていることから、この日の探索はこれで終了ということになり、冒険者たちは長い休憩時間を取って回復に入った。

それではまた明日。明日こそはフロアボスの待ち構える場所でお会いしましょう。

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