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123:

「ああ、そうだ。結局その、えーっと、誰だったかしら。あなたをいじめたそいつ、悪口雑言というのは何となく分かるけれど、暴力っていうのは何をしたの。それで、学園はどう対応するつもりなのよ」

叔母様に言われて話は振り出しへ。まあここまでで全体の構図は説明できたということでいいでしょう。

「ええっとですね、まず授業中やお昼の時間にわたしに向かってそうと分かるように大きな声で罵倒したのです。それからどうやら男子寮内でもかなり言っていたようですね。寮の管理人さんから一度注意を受けているようですが、上位の貴族の中にもそれに同調する者がいると聞いています。その上でバート・ハーレンシュタインとガスケ・マルト・マルシュからおまえならできるといった感じにあおられた結果、お昼の時間に背後から、体育の授業中には正面から攻撃されました」

「攻撃!? え、暴力っていうのは肩を押したとか、そういう程度の話ではなくて、本当に攻撃してきたということ?」

「攻撃と判断して良いと思います。学年主任の先生とも共有しましたけれど、あれはサイオニック、念動による突き押しだろうと。本来であればサイ・ウォーリアーのクラスを取得してから身に付けることになる技術なのですが、彼は生来、サイオニックを持っていたようで、それが自慢で誇りだったのでしょうね」

教会からも特別だとか何とか言われたって自慢していたからね。

「サイオニック、それは貴重で、大事に育てるべき才能だったでしょう、何て‥‥」

「もったいないことをしましたよね。バート・ハーレンシュタインはこの才能を大事に育てるべきだったのに、こんなことで無駄にしてしまった。えっと、学園側はカート家や町からの話としてその能力を承知していて、それと町の学校からの話として視野狭窄や直情径行の性質が伝えられていたそうです。ハーレンシュタインを前に自分の力を誇示したかったガイウス・カートが暴走したということになりますね」

それにしたってなあ、という気持ちは消えないよね。

「男爵家が子爵家に対して、暴力、ね。抗議するわよ。それで学園は何と?」

お母様がお怒りですよ。まあそれもやむなし。

「一応ですね、クレーベルさんとお兄様にはハーレンシュタインとマルシュのことも話してあります。学年主任の先生もその場にはいましたけれど、そこは聞いていないことになっていますね。ですので抗議はカート家に対してのみという形でお願いします。それで、この問題は一度学園側に預ける形にしてあります。わたしが家に戻っている間に何かしらの結論を用意しておくと。発言だけでも大問題なのに、知っている人からすれば明らかな攻撃手段をわたしに向かけて使ってしまいましたからね。セルバ家に対して納得してもらえるような結論を渡したいと、そう言っていました」

「そう、そう。確かお昼と体育の授業中だったわね? 教師は何をしていたの?」

お母様がメモをしているう。ここで話された内容は抗議に反映されるのだ。頑張れ学園の偉い人たち。

「体育の先生もガイウス・カートの能力は承知しているようでしたし、遠目から現場を見てもいたのですが、止めるようなことはしませんでした。その後は無防備な準備のできていない者にスキルを使うということはこういうことだというような話をしておしまいでしたね。あ、お昼はまったく問題はありませんよ。逆にせっかくのご飯をぶちまけてしまって、食堂の職員さんたちには大変に迷惑をかけてしまいましたから、こちらからおわびをしたいくらいです」

「そう、そう。教師がその程度なの‥‥」

はい、体育の先生もご愁傷様。セルバ家から名指しで抗議文が届きます。

「とにかくわたしからは特に何もしないと言ってありますので、あとは学園側の対応次第です。そこから先はわたしは関知しませんので、お父様とお母様で良いように判断してください」

手元のメモをにらみつけるお母様に、叔母様がどうする? どうやる? みたいに話しているし、ユーナやヴァイオラがやっちまいましょうみたいに言っているけれど、わたしは怖いのでその先は知りません。


夕刻には帰ってきたお父様にも同じように説明して、普段は人のいいお父さんみたいな雰囲気なのに、怒りの表情を浮かべて「当然抗議だ、学園にも文科庁にもカート家にも、場合によってはハーレンシュタイン家にも管理不行き届きで申し入れる」と言っていた。

わたしのことで怒ってくれて、ありがたいね。でもハーレンシュタインにはまだいいよ。いずれ何かしら動きがあるだろうから、その時でも十分だよ、なんてお父様は学園の対応次第で言っていくって聞かないし、その気持ちはありがたく受け取っておこうかな。

ついでに言ってしまうと、お父様に入れ知恵というか、ユーナが地図を広げて恐ろしい話をしていたのだ。

何とリッカテッラからバルトレーメにある流通拠点への食料だとかの輸送路、今は王都から直接バルトレーメ行きの街道を使っているのだけれど、カローダンを経由した方が近いし道もいいのだそうな。

普通は各州との契約による輸送はその州へ直接乗り入れているのだけれど、別にそうしなければいけないという決まりはなくて、王都を経由しない土地は日数や経費の関係で当然一番都合のいいルートを使っているのだから、そこはもちろんバルトレーメ行きもそうしていいでしょうという話。

そうなるとどうなるのか、というと、単純にカローダンにお金が落ちるのだよ。運ぶ人たちはカローダンへの荷物と一緒に途中まで行って、そこで立ち止まって食べたり飲んだり泊まったりとお金を使って、それからバルトレーメに入る。そういう話。

多少なりとも経費節減になるのだから一考しても良いのではと。これは公式の輸送だけのことではないからね。公式がそういうルートを選択したとなると、今は直行しているような一般の流通も便乗してくる可能性が高くなる。ね、結構な規模になりそうよね。そしてクレーベルさんとうまく行くようなら、これをカローダン支援も兼ねて実行しやすいと。

さすがにここまで聞くとわたしにとってもいいお話ではないのとなる。これは検討しても良いアイデアだと思いますよ。


まあとにかくそんなこんなで、ひとまずその話はおしまい。あとは学園での日常生活の報告になるよ。

授業は特に問題なし、座学は普通にこなせそうだということ。体育は放置されてしまってうまくいっていないけれど、それは今後次第ということ。魔法は実物を見て感動したのはいいけれど、例のあいつの暴言が最後の最後に聞こえてきて面白くはなかったということ。食堂のご飯がとても良いこと。これはもう大絶賛しても良いレベル。大浴場もやはり良いこと。もっといろんな人と楽しく入りたいのでこれから頑張って誘っていくぞ。それから寮生活も意外に快適なこと。管理人さんもいい人だし、軽食も美味しいし、少人数で入るお風呂も良かったから。そんな感じのことをつらつらと話すと、みんな楽しそうに聞いてくれてわたしもうれしい。


それから仲良くなれそうな人たちのこと。

ハイネさんを話題に上げたところ、お父様から情報をもらえた。リッカテッラの東隣、トーレデント州のモントレー。ここはリッカテッラとは山を挟んだまさに隣だそうな。そして数年前に洪水でひどい被害が発生していて、もともとそこを治めていた貴族が被害から逃れるようにして転出、そこへ中央から復興担当として派遣されてきたハイネさんのフェストレ家が入ったのだけれど、肝心の復興が思ったようには進んでいないらしい。

復興を目的に入ってきた新参者なのにその復興が進んでいないとなると、それがあのハイネさんの現状になるのだろうね。もともとのトーレデント州の一派との間に深い深い溝がある。中央では知られていても、地方にいると触れることのできない情報というものは多くあるもので、今回の帰宅でこの情報を得られたのは良かったと思う。ついでに言うとモントレーの産物はお米なのだそうな。これはぜひとも復興を頑張ってほしいね。もう少しハイネさんと親しくなったらあれこれ聞いてみようかな。

キャルさんの実はバトルスミス、戦える鍛冶屋さんなんですよ、もうすぐにでも就職できるレベルですよ、何とか仲良くなって勧誘したいですねという話にはみんな興味津々。アウトドア事業の開発に伴って鍛冶屋さんの需要が上がるからね、キャルさんはなかなかの好物件なのだ。

アニスさんのパシュトンという名の商会はお父様は知らなかった。キノットに支店がという話だったので、店があるのも税を収めているのもキノットということで、そうすると知っているとすれば叔父様かもしれない。お父様が知らないということは規模は大きくはないのだろうし、パシュトン商会がリッカテッラで商売を広げようと思ったら、わたしと関わりを持とうとしているアニスさんは面白い立場になるかもしれないよ。

それから問題のリリーエルさん。周囲はともかく本人はとてもいい感じの人でしたよと言ったところ、必ず中央の誰かしらが動向を見ているだろうと、もしかしたら周囲に配置しているかもしれないとのこと。まあそれはそうかも。ヘルミーナに全員チェックだけはしておいてもらおうかな。当然しているか、それはそうね。それから仲良くなることは良いけれど、教会には気をつけてねと。どうにもこの国の教会は立場のわりに中央での評価があれな感じ。

最後にお父様から「ロランドにも言ったがおまえも自由に好きにしていいんだよ。リッカテッラのことは自分たちに任せておけば大丈夫だから」と言ってもらった。

うん、ありがとう。学園にいる間は自由にさせてもらうと思う。でも終わったらちゃんと帰ってくるよ。それまでにはいろいろな人間関係を育てて、たくさんの経験を積んで、ためになる人間になっておくからね。


みんなで暖かい食卓を囲んで、学園での話以外にリッカテッラの今の様子とかもいろいろと聞いて、その日はミルトの自宅でお泊まりということになった。

自分の部屋だと外から人がいるところを見られかねないので客間を使わせてもらう。ヴァイオラは今日はヴェネレのところで、明日わたしと一緒にデージーのところへ行く予定。ユーナはいつの間にか自分の部屋というものを確保していて、うおー、完全に3人目の子供! っていう気持ちにもなったけれど、まあそれもそれでよし。

お客さん用のシンプルな部屋のシンプルなベッドに潜り込んで、今日の業務は終了しましたのお知らせ。さあそれではいつものとおり、お楽しみの時間だぜ!

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