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そこには天井はなく床もなく、ただ暗闇だけがどこまでも広がっていた。何もない下方の暗闇からすっくと立ち上がる柱に支えられた浮島が高さも大きさもばらばらな状態でいくつもあり、それぞれが木製の橋でつながっている。その橋には手すりがなく、場所によっては風が吹いているようだった。浮島や橋の周囲にはハーピーが飛び交い、島や橋に下りるものや舞い上がるものもいる。


この場所に踏み入った冒険者たちにとって、その環境そのものが敵だった。木製の橋があるのでは火は使えない、橋にも島にも手すりだとかがないので風の魔法も危なくて使いにくい。そして戦う場所に気をつけなければ強風にあおられて落下の危険性もあった。下はどこまでも暗闇だ。落ちたらそこで終了だろう。

橋の上での戦闘を避けることにしたのか、フリアがダーツを投じてハーピーを釣り出し、浮島で最初の戦闘を開始する。まずは氷の魔法でダメージを与え、地上に降りてきたところを戦士たちが取り囲んで攻撃を加えればすぐにハーピーは動かなくなる。環境こそ厳しいものかもしれないが、そこに現れるハーピーは防御力も低く、戦闘そのものの難易度は低いことが確認された。


その後も戦闘は基本的に浮島までハーピーを釣り出して撃破を繰り返していくことになった。数が増えたとしてもエディが引きつけている間に1体ずつ確実に倒すことで目立ったダメージを受けるようなこともなく先に進む。

風が吹く場所に差し掛かってもやることは変わらなかったのだが、途中からその様子に変化が出る。どこからともなく音楽が聞こえてくるようになり、そしてハーピーが音の大きさに合わせるようにして強力になっていったのだ。魔法に耐える、攻撃に耐える、そして自分たちも武器を持ち、冒険者たちに挑んでくる。

その音の正体はいくつかの浮島を渡り歩いた先で発見された。他のハーピーとは色が違い、そして羽も大きなハーピーが竪琴を奏でていたのだ。そのハーピーがこのエリアのボスだと判断した冒険者たちが勝負に出るための準備を始める。前衛を強化するブレスの魔法、後衛の防御を高めるメイジ・アーマーとシールドの魔法だ。ボスを守るかのように展開しているハーピーも相手取らなければならない状況だけに、竪琴の音を止めることも必要だった。


橋を渡りきり浮島へ到達した冒険者たちがボスに挑もうと前進を始める、まさにそのタイミングで彼らを激しい爆発音が包み込んだ。身を震わせるほどの音の爆発に戦士たちも足を止め、魔法使いたちは思わず耳をふさぐ。

その音が静まったとき、ボスのハーピーがキャハハハハという甲高い笑いを上げながら竪琴をかき鳴らし、それによって強化された周囲のハーピーたちが一斉に冒険者たちに襲いかかる。

武器を振り回してまとわりつくハーピーを追い払うと、ここでようやく立て直したカリーナからサイレンスの魔法が放たれる。その範囲から逃れるように舞い上がったボスのハーピーが続けて放たれたアース・バインドの魔法に捕まり、地面に引きずり下ろされてサイレンスの範囲へと収められた。

竪琴の音による支援を失ったハーピーはもろかった。武器によって切り落とされ、マジック・ミサイルによって打ち落とされる。それ以外のハーピーにもフリアが毒を塗りつけたダーツを投げつけて状態異常を付けて回っていた。


地面に下りてサイレンスの範囲に入ってしまっていたボスのハーピーが移動を始め、近くにいた配下のハーピーの近くに寄り、そして範囲を出たのか再び楽器の音が聞こえ始める。だがすでに残るハーピーは数が少なくなり、そしてダメージが積み上がり撃破寸前の状態だった。

ボスに集中すべしと判断した冒険者たちが攻撃を集めていく。だが接近を試みたエディは配下のハーピーが身を挺して足止めし、マジック・ミサイルはボスが大きく広げた翼に当たるばかりで致命的なダメージは与えられない。

演奏をしながら後退していくボスが再びサイレンスの範囲に入り演奏の音が消える。それを追い掛けていった戦士たちが攻撃を加えようとした瞬間、ボスが笑うように表情をゆがめ、そしてその周囲で爆発が起こった。エディが転がされ、クリストは吹き飛ばされる。

それでも立て直したエディが放った魔法のグレーター・アックスの強撃が、再び放たれたマジック・ミサイルが、さらに放たれたファイアー・ボルトが、投げつけられたナイフがボスの体を傷つけ、そして楽器を奏でる手は止まり、ボスのハーピーは崩れるように地面に落下していった。


─────────────────────────


乗り出していた体をスライムさんに埋もれさせ、にぎっていた手をひらいてこわばりをほぐすように動かす。ハーピーは思っていたよりもずっと強かった。


『はい、頑張ってくれました。やはり演奏による強化は素晴らしい。知能が上がるだけでもあれほど戦えるようになるのですから』


ね。いやー、最後のさ、味方を盾にして魔法を仕込んでから戻るところなんて最高に格好良かったわね。レベル差がこれほどあっても冒険者を転がすことができるのだものね。


『今回は第1ブロックに配置されたということもあり、環境の変化も、演奏による強化も制限されていました。これが第2ブロックに配置されたらどれほどの効果をもたらしたでしょう』


いいわね。木の橋もつり橋に変わるんでしょ? 風も突風が吹いたりするんでしょ? かなり変わるわよね。


『ところにより風速30メール以上を計測することもあるでしょう』


台風なみか、いいわね。つり橋の上で戦闘中にそんな数が吹いたりしたらひどい結果になるわよね。


『命綱が必須となるエリアになるでしょう。そして命綱によって行動が制限され、演奏によって強化されたハーピーたちが襲いかかるのです。楽しみですね』


うんうんうん。ミノタウロスのところは失敗だったけれど、こっちはほとんどいじる必要はないわね。せいぜい浮島とか橋とかの配置のランダム性をどうするかくらいかな。


今回で冒険者さんたちの強化も進んだのよね。

使用済みの魔法を再使用可能にするパワー・パール、空気以外は通り抜けることのできない半球型の力場を作り出すフォース・ビード、1分間あらゆるダメージに抵抗を得られるインヴァルナラビリティ・ポーションが獲得された。

そしてバード専用の楽器装備、クリ・ライアがボスからのドロップとして得られる。今回の冒険者さんたちにはバードがいないし、何だったら世間のバードに対する認識は吟遊詩人、酒場の片隅だとか広場の片隅だとかで歌をうたっている人というものだろう。当然、歌がうまくなる、印象が良くなるだとかのスキルはあるけれど、バードというクラスの本質はそれではなく、今回ハーピーが見せてくれたような味方の強化、敵の弱体化、そして音波攻撃に至るまで多岐にわたるのだ。そういうバードというクラスの本質に対しても示唆することができるだろう。

楽しい。こうやってこっそり冒険者さんたちを強化していったり、この世界に足りていないあれやこれやが地下世界にはありますよとちらちら見せていったり。楽しい。


『冒険者たちは本日はアニメイテッド・オブジェクトのエリアを攻略しました。終了時間が遅く、今日のところはそのまま休憩に入って終了となっています。第2ブロック最初のエリアへの挑戦は明日の午前中、恐らく9時から10時ころとなるでしょう』


順調ね。次はメドゥサかドライダーか、それともマインドフレイヤーか。どこも強敵になると思うので頑張ってほしい。

ハーピーエリアの攻略動画を見終わった時点でもういい時間だったのだけれど、明日も1つは確実にダイジェストがあるので、できればアニメイテッド・オブジェクトも見てしまいたい。さすがに明かりがついていると見回りの人に心配されるだろうからベッドへ移動して、寝転がって見ることにしますよ。


─────────────────────────


8階から階段を下りてきた正面には両開きの大きな扉が鎮座している。

その扉の先にはアニメイテッド・オブジェクトで戦力を固めた大広間があり、一番奥にまた同じように両開きの扉があってその先の第2ブロックへと進むことができるようになっている。ここを突破するしか進む方法はなく、そしてこの場所にはロングソードを構えたフルプーレトのアニメイテッド・アーマーが8体、それに加えて追加の戦力も用意して待ち構えているのだ。


冒険者たちは武器をプレート・アーマーを殴り倒せるようにメイスやハンマーのような打撃武器に切り替え、ブレスの魔法で前衛を強化をし、メイジ・アーマーとシールドの魔法で後衛も防御を固め、そして囲まれないように壁際へと移動していく。この場所のアニメイテッド・アーマーは2階で登場したものよりも強化されていて、ディスペルに抵抗できるようになっている。正面からの殴り合いで突破していくしかないのだ。それこそ囲まれないことが肝心で、彼らも確実に1体ずつという形を取ることにしたのだろう。

そんな中で直接戦うには不向きなフリアが持っていた石を投げつけることで2体のアニメイテッド・アーマーを引きつけ、そのまま引っ張るようにして反対側の壁沿いへと移動していく。これで冒険者たちが相手取る敵は6体まで減る。大広間に立ち並ぶ柱を避けるようにして迫ってくるアニメイテッド・アーマーはやはり移動が制限されてしまい、冒険者たちの正面に出てこられるのは1体か2体。そこをエディが引きつけ、横から襲撃を仕掛けようと動いてくる相手をクリストが受け持つ。

冒険者たちに迫れる場所が制限されていることで、アニメイテッド・アーマーが囲んで挑む形を作り出すことはできず、メイスで殴られ、ハンマーで殴られ、魔法を撃ち込まれて1体、また1体と撃破されていく。さすがにプレート・アーマーの防御力が高いために速度は上がらないものの、とても手堅い戦い方だった。


そんな中で大広間を逃げ回っていたフリアが次のエリアにつながる扉へと到達する。その瞬間、扉の左右高くに掲げられていた旗が、壁を離れて動き出した。これが今回の追加戦力、アニメイテッド・フラッグ、動く旗だ。気がつかずに扉に手をかけたフリアを横かはたいて地面に転がし、そしてもう1枚が上からばしんとたたく。さらに後を追ってきていたアニメイテッド・アーマーもまた攻撃を加えようと迫る。

ここでフリアが取った手段が、先ほどハーピーのエリアで手に入れていたフォース・ビードを使うことだった。アーマー2体を巻き込むように投げつけると、発生した半球型の力場の中に閉じ込められ、それ以上動くこともできなくなる。その状態を確認して駆け戻っていくところを追い掛けるようにしてフラッグが移動してくるが、それは魔法使いのいい的だった。放たれたファイアー・ウォールの魔法に包み込まれ、炎上したのだ。布製の旗は良く燃える。

フォース・ビードとファイアー・ウォールが足止めとして機能している間にアニメイテッド・アーマーは次々と倒されていき、ようやく炎から脱したフラッグはファイアー・ボルトで再度炎上して崩れ落ち、ようやくフォース・ビードから脱してきたアーマーはたかが2体では何をできるということもなく、時間だけはそれなりにかかったものの問題なく全てが撃破された。


その後は奥の両開きの扉を開けた先へと進み、涸れた噴水や上へ向かう階段2つ、下へ向かう階段2つを発見し、さらに奥へ向かう両開きの扉があることが確認される。

ここはクリアするだけならば両開きの扉の先ということになるのだが、これまでこの9階の短い階段の先はどこも良い成果が得られているということもあり、冒険者たちは予定どおりに全ての階段の先を調べることに決めると、休憩へと入っていった。


─────────────────────────


問題点は特にないよね? 想定どおりっていうことでいいのかな。


『そうですね。最大戦力であればアニメイテッド・アーマーが16体、フライング・シールドが10枚、フライング・ソードが20本、アニメイテッド・フラッグが2枚というあり得ないほどの規模になったのですが』


ちょっと見てみたかった気持ちはあるわね。

でもミノタウロスとハーピーのクリアで数が減ることは想定済みなことだし、この数まで減ってしまえばそこまで激戦になることもないだろうということも想定済みなことだし、ここはこれでいいのよね。


『問題はないでしょう。もしも今後難易度の上昇を図りたい時が来たとしても、数の調整だけで良いのではないかと』


うん、そうね。うんうん。想定していたとおりに戦えたわけだし、ここでフォース・ビードの有効性も見てもらえたし、いいわね。今日はこれでおしまいで、明日はどこに行くか、雰囲気的には上のどっちかよね。楽しみね。

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