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再生ボタンを押す前にまずは確認ね。9階は多種多様なエリアを複数組み合わせることで形作っているわけだけれど、今回は何を引いてくれたのかということよ。えーと、マップマップ。マップをここに表示して、と。


『第1ブロックにミノタウロスとハーピー。そこからアニメイテッド・オブジェクトのエリアを挟んで第2ブロックがメドゥサ、ドライダー、マインドフレイヤー。そして階段前エリアがデーモンとエンジェルです』


改めて見て思う、この多彩さよ。人型ばかり引いてくれたのは良かったわね。これで装備品のドロップで冒険者さんたちを強化しやすい。個人的には森エリアも一つくらいは引いてほしかったけれど。ネズミとかウサギとかどんな感じになるのか見たかったわ。でも悪くない構成ね。特に最後のエンジェルがキマッているわ。


『すでに最初のエリアを攻略し終えていますからね。現在休憩中ですが、今日はこれで終了か、もう一ついくか。さあそれでは見てみましょう。まずはミノタウロスです』


─────────────────────────


9階に下りて振り返り、8階からの階段に向かって左側の通路の先には短い下り階段があり、下りたところにはミノタウロスのエリアが広がっている。ミノタウロスといえば迷宮だ。このエリアのテーマは迷宮でのパーティーの分断工作であり、迷宮での追いかけっこなのだ。特定のポイントを越えることで迷宮が形を変える仕掛けが施されていて、移動中や戦闘中にその仕掛けが動作するようになっている。そしてミノタウロスがどこにいるのかは不定で、形が変わった瞬間に姿を現すこともあるのだ。


冒険者たちがそのエリアに踏み込み、慎重に前進を開始する。移動を始めてしばらくしたところで設定されたラインを越え、迷宮のどこかで変化が起きたガタンという音がする。またしばらく進んで再びガタンという音。3度目のガタンという音がすぐ近くでして、そしてついに目の前の迷宮が形を変え、通路を埋める形で壁が出現した。

この現象にぶつかって冒険者たちが相談を始める。偵察のために先行することの危険性、戦闘中の立ち位置の問題、地図が意味をなさないという問題があるからだ。今立っている場所が動くという事態を否定できないために固まっての行動を余儀なくされ、そこからの移動はさらに慎重なゆっくりとしたものになった。


最初の魔物との接触はだいぶ時間が経過してからだった。魔物接近の報告を受けて戦闘態勢を整えるとそのまま曲がり角の向こう側から姿が現れるのを待つ。

そこからゆっくりとした動きで登場するのはミノタウロス。蹄を持った太い足と分厚い毛皮に覆われた大きな体、両手で握る巨大なグレーター・アックス、2本の太い角のある牛の頭部を持っているとても有名な魔物だ。

曲がり角から姿を現した瞬間にマジック・ミサイルとファイアー・ボルトが放たれるが、前衛の戦士は突撃をしたりはしない。これは地形変化を警戒してのことなのだろう。

魔法攻撃を受けたミノタウロスが足を一度地面に打ちつけてガツンという音をさせてから一気に加速して冒険者たちの方へ突っ込み、そこから巨大なアックスを振り回して戦士たちを引き離す。ただ、そこへ撃ち込まれた動きを拘束するウェブの魔法が実質のとどめになった。あとは畳み掛けられて戦闘終了だ。正面から打ち合うのなら強力な魔物でも、絡め手を得意とする魔法使いが一人いるだけでこうなるのだ。


それからも迷宮の地形変化やミノタウロス、そしてミノタウロス・スケルトンとの戦闘が繰り広げられるのだが、見所としてはいまひとつだった。冒険者たちが慣れてしまったのだ。ウェブが猛威を振るったことはもちろんとして、危ないと思われる場面があったとしても実際には取り立てて気にするほどのダメージも受けずに魔物を撃破していく。先の状況を読めているだけに危なかったねで済んでしまうのだ。地形変化そのものの危険性が思ったほどではないということも見切られてしまい、行動にためらいがなくなっていき、その後の展開は早くなっていく。エリアボスの居場所へたどり着くまでにかかった時間や労力は、残念ながら想定していたほどではなかった。


その場所にはあぐらをかいて座る一回り大きな体をしたミノタウロスがいた。

冒険者たちは前衛を強化するためにブレスの魔法を使い、後衛は身を守るための魔法を自分たちにかける。その準備が整ったところで室内へと踏み込み、ダメージを与えるためのライトニング・ボルトの魔法と弱体化を狙ったスローの魔法で先手を取る。ここでボスのミノタウロスは腕を振って雷撃を払いのけるようにして受けとめ、スローの魔法には耐えてみせた。さらに迫り来る戦士たちに対しては踏み込んでグレーター・アックスを振って攻撃をそらし、受け止め、逆に振り回したアックスでそのまま攻撃にも移る。

そこへ放たれるマジック・ミサイルがダメージを積み上げ、そして精神にダメージを及ぼし抵抗力を低下させるマインド・スリヴァーもまた命中する。結局戦闘の流れを決めたのはこの魔法だったのだろう。戦士と打ち合うミノタウロスに対して続けて放たれたのは、致命的とも言える麻痺の魔法だった。低下した抵抗力でこれを防ぐことのできなかったミノタウロスが硬直したところへ畳み掛けるようにして攻撃がたたき込まれ、一気に体力が削られていく。

それでも麻痺が切れてからのミノタウロスの激しい攻撃は見事ではあった。戦士を遠ざけておいて後衛目掛けて突進し、跳ね飛ばしてダメージを与える。だがそこから先が足りなかった。追撃に行く前に取り囲まれて攻撃を撃ち込まれ、それ以上は耐えることができなかったのだ。事前に防御魔法で備えていた魔法使いを倒すこともかなわず、ミノタウロスは撃破されてしまった。


9階最初のエリア、ミノタウロスの迷宮はこうして攻略され、冒険者たちは銀貨や宝石、攻撃魔法を強化するワンド、さらにボスのミノタウロスが使っていた強撃という追加攻撃を発生させることのできる魔法のグレーター・アックスを手に入れる。前衛、後衛ともに強化することになるこの成果は喜びをもって迎えられた。この結果をもって、強引にアニメイテッド・オブジェクトのエリアを通り抜けて先へ進むという選択ではなく、別のエリアも攻略して成果を手に入れようという方針が決まった。


─────────────────────────


失敗したわね。


『はい。ミノタウロスの迷宮は失敗したといってよいでしょう』


これはもうあれね、迷宮の地形変化がうまくいかなかったという結論でいいわね。こんなことならごくごく単純に常に追いかけっこ状態になるような構造の方がましだったわ。そうだ! 地形変化だ! とかひらめいたのが逆に良くなかったのよ。今回の最大の失敗は変化のさせ方よね? ”どこか”というのがだめだったのよね?


『そういうことでしょう。変化は常にすぐそこで起きなければ。そうでなければ分断など望むべくもない。変化の演出ももっと劇的であるべきだったのでしょう』


うん。それこそ、こう、ラインを境界線にして上下左右に思いきり動かして、動いた先でつながったところには常にミノタウロスがいる、くらいでないとだめね。設計をやり直そう。縦の幅をもたせて上段、中段、下段に分けて、バラバラなパズルのピースみたいにしておいて、それが動いて通路がつながっていくイメージで。

あとは武器もあれね、グレーター・アックスはオークたちも使っていたし、ちょっと飽きてきているから変えてみたいわね。そうなると、なんだろ、ハンマーとかどうかな。格好悪いかな?


『いえ、ハンマーは見せ方次第ではよい選択ではないでしょうか。引きずらせてそこから振り回す、手のひらでもてあそぶ、上体をのけ反らせる勢いで振り上げる。重さの演出が重要でしょう』


お、いいわね。次回はそれでやってみよう。それで地形変化はどうかな?


『そうですね。パズル方式はよい方法かもしれません。ですが今回の仕組みも机上では良いように思えましたし、実際に冒険者に入ってもらって試したくなりますね。それに追いかけっこ、の部分の再現が難しくなりませんか』


あー、そうか、ピースを細かくすると変化はともかく追いかけっこがやりにくいのか。曲がり角の先を自動生成する、で、どうにかならないかな。ピースの大きさは一定にしておいて、接続先の形状、曲がり角の先の形状を自動生成にして、いけないかな?


『管理が難しすぎますよ。生成ミスで行き詰まるケースを除外できません。それよりは追いかけっこが発生した場合の接続先を指定しておく方が無難でしょう』


うんうん、なるほどね。うん。いやー、いろいろと考えること自体はできるのだけれど、こういう大がかりな仕掛けほど実際に試してみないとどうしようもないわね。今これだけああだこうだやっていると、気になってしまう。今回はもう無理だから仕方がないけれど、えーっと、次はたぶん軍が来るわよね。その時の候補として優先順位を上げておこうか。どうしても気になってしまう。


『わかりました。今回選択されたエリアは次回は除外する予定でしたが、ミノタウロスは加えておきましょう』


よろしくね。それでさ、これでグレーター・アックスとメイジ・ワンドので装備の強化をしてもらえたわけだけれど、あとは何が必要なんだろう。この後はハーピー、メドゥサ、ドライダーでマインドフレイヤーか。うーん、メドゥサとマインドフレイヤーはちょうどいいけれど、ハーピーとドライダーは冒険者さんたちの装備とかみ合わないね。宝箱産で調整できるかな?


『そうですね、装備としてはメドゥサとマインドフレイヤーからの、いえ、だめですね、確認しましたがマインドフレイヤーも装備が一致しません。その手前でのドロップに変更しましょう。これで斥候役の冒険者以外は魔法の武器がそろいます。その斥候役用の武器はダンジョンの中層に用意していたのですが回収してもらえませんでしたからね。それでも毒のポーションを有効活用していますし、問題はないでしょう。それよりも、効果的なアイテムを拾ってほしいので宝箱の中身を調整しておきます』


どれどれ。おー、なるほどね。この辺か。うん、これは早めに持っておいてほしいから次で出しちゃっていいんじゃないかな。次ってハーピーでしょ? ドロップが使えないから宝箱からいいものを手に入れてもらおう。そうすればデーモン、エンジェル戦に向けて試しておくような状況も作れるだろうし、いいんじゃないかな。あれよね、魔法反射はもう手に入れているわよね? 矢の引きつけもあるのよね? いいわねえ、準備ができてきた感じがするわよ。あー、早く次へ次へ。楽しみー。

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