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集会が終わった後も生徒たちの間のざわざわとした空気は変わらなかった。でっかい声でここからは校内の案内になるから複数組に分けて移動するぞと指示がされても反応がにぶい。それでも先生たちが生徒が群れている場所に割り込んでいって、ざっくりとグループ分けをしていく。ここからここまで、あ? 同じグループ? ではこっちへ、で、おまえからそこまでこっちだ、なんだかんだどうだこうだ。わたしたちがいる場所は隅っこなので最後に組み分けされて、わたしはさっとクレーベルさんの背後に回ったので先生に目を付けられたのはクレーベルさんで、先頭に立たされていた。振り返って恨みがましい視線を向けられたけれど知りません。

そんなわたしたちの案内は副主任の先生が担当してくれて、先導されて校内へ出たら、ここが教室棟で基本的には1年生はこの教室を使って、専門性の高い授業の場合にはこっちの教室棟で、そう、美術とか音楽とかだね、それで体育は先ほどの集会場か、ここ、ここが訓練場でね、なーんて案内してもらった。

普通の授業が行われる教室、講義室って言うのかな、それは普通だね。あー、大学の大教室といった方が近いのかな。あの階段状になっているやつね。もちろん普通の部屋に長机とイスが並んでいるタイプもあったよ。それから演習室だ実験室だ実習室だって分かれていく。普通教室もあり、特別教室もありの普通の学校だね。

その特別教室の中でも美術はキャンバスがあったり絵の具の匂いがしたりでまさに美術の教室という感じで、音楽はピアノがドンと置いてあっておーってなって。時代的にはピアノは新しいものすぎるとも思うけれど、やっぱりこれも転生者なりが持ち込んだ技術だったりするのかなあと思う。それで準備室の方にはほかの楽器もいろいろあるらしい。打楽器、弦楽器、鍵盤楽器とかとか。古いものから最新のものまでありますよとのこと。

わたしは絵心がないので美術は微妙なんだけど絵を見ること自体は好きだし、何だったら写真の方が興味があるのよね、ないかしらね、カメラ。あと楽器演奏の経験がほとんどないのでいろいろと触れそうなのは楽しみ。

工作室になるのかな、木工、金工、陶工そのほかいろいろ実習ができる部屋も道具だとか素材だとかが山盛りだね。焼き物をするための窯は屋外にあるそうなのだけれど、ガラス工芸の体験ができる施設もその近くに作る計画があるという話もあって、わたしは仕事にするつもりはないけれど、経験する分には楽しそうでいいよね。

それから訓練場はどう見てもコロセウムだった。円形闘技場だね。観客席もあって本格的だなと思ったら、実技試験だとか闘技大会だとかがあるのだそうな。試験はともかく大会かあ、あれか体育祭みたいな感じでやるのか。わあって盛り上がる生徒もいるので観客席も埋まるのだろうね。そんな訓練場の壁の強度はとても高くて、スキルで技をぶっ放したり、魔法をドカンとぶっ放したりしても平気らしいよ。すごいね。

そのほかの教員室が集まっている区画だとか、職員室の場所だとか、事務室の場所だとか、購買の場所だとか、大事な大事な食堂と浴場の場所だとかも見て回った。食堂広いね。既視感があるような気がしたのは有名なファンタジー小説にある大食堂のイメージに近かったからかな。献立は当日のものが朝に用意されるからそれを見て選んでプレートに盛ってもらう形式みたい。ビュッフェ形式? って言えばいいのかな?

浴場はまあ公衆浴場だね。ただし雰囲気というかイメージは日本の銭湯と、古代ローマのテルマエが混ざったような感じ。どちらとも受け取れるけれど、こういうの日本にもあったよなあというのが感想です。男女の別はあるものの、貴族と市民に関しては更衣室だろうが浴室だろうが分かれていないそうなので抵抗のある人はいるかもしれないけれど、建物がそもそも区別することを想定せずに作られたものだそうで、仕方がない諦めろ慣れろと言っていた。

最後に図書館も。開架図書、閉架図書、学習室があって、基本的には現在の学習要項に沿ったものが開架図書に置かれているようだ。古いもの、貴重なもの、専門的すぎるものだとかが閉架だってさ。貸し出しはなし。司書の先生に言ってここで読むしかないらしい。開架図書は期待していたほどの大きさではなかったけれど、ここはやはり閉架図書の方に期待するかな。

見て回ったのは結局主だった施設だけで、細かい部分までは案内してもらえなかった。危険物があったりして生徒は立入禁止になっている場所もあるけれど、そういうところはちゃんと禁止の表示があるそうなので大丈夫らしい。そして今日見られなかった場所は今後は好きなように見て回って自分なりに覚えていくようにと言われた。そこまで面倒見られんということかなと受け取っておく。

先生から話しかけられる位置に置かれて引っ張り回されるクレーベルさんはともかく、だまーって着いてくるハイネさんとか、きょろきょろしているキャルさんが大丈夫なのかはきっと明日から分かってくるでしょう。わたしは自分でも覚えておくけれどマッピングしているのでね、何も心配はしていません。


そんな今日の日程も無事終わり、寮に戻ってきたらあとは自由時間。少ししたら夕食の時間になるということだったのでそのまま部屋に戻って一休みだね。その食事では今までどおり、わたしが部屋を出たところからハイネさんがくっついてきて、これまでと同じテーブルを確保していたらキャルさんがそれを発見したのかててっと寄ってきて、クレーベルさんも今までどおり自分のもともとのグループらしい集団の後を着いてきて、ラウンジに入ったところから壁際をささっと通ってテーブルまで来て席に着いた。まあこの状況に慣れてきたようで良かったですよ。気安く話せる雰囲気はまだないけれど、その辺はおいおいですかね。

メニューは昨日から少し変わって、スープの中にロールキャベツがでんと置かれていて感動したり、カリカリに焼かれたベーコンが刻んでサラダに混ぜられていて感動したり、パンがロールパンになっていておーってなったりした。ロールキャベツなんて大変だったんじゃないかな。この人数の分を仕込んで、しっかり味がしみている暖かいものを出してくれるのよ。調理を担当してくれた人、頑張ったのだろうねえ。明日からはもっと簡単なものになるだろうからここまでのものは期待はするなと管理人さんが言っていたので、もしかしたら軽食はパン! サラダ! 肉! とかシンプルな感じになるのかな。それはそれで楽しそうなので、大食堂まで行くのがめんどうとかいう日にはここで済ませるのもそれはそれでいいかもしれない。


あ、もう一つ。やはりというか何というか、生徒の中でお風呂に入りに行ったのはわたしだけだった。食後に管理人さんからお風呂はここの片付けが全て終わってからになりますよと言われていたから、時間を見て行ってみたんだけどね。みんなどうしているのだろう。お湯で体を拭くとかでよしにするのだろうか。ちらっとハイネさんにどうします? って聞いたところぶんぶんと首を振っていたのでやっぱり抵抗があるみたいだ。キャルさんとクレーベルさんは聞く前に逃げていった。そのうち一緒に入ってやる。

わたしは用意しておいた全て新品の、木桶にタオルと、製法秘密の石けんとシャンプーと黄色いアヒルさんを入れて持っていった。石けんはミルク配合のあれ。この世界にも当然石けんはあって、たぶん製法ごと持ち込まれたんじゃないかっていうレベルのものが比較的手に入れやすい値段で売っている。ただしミルク配合のあれはさすがにない。ないと思う。そしてないけれど特におかしなものではないので問題なし。見た目には違いなんて分からないだろうからね、たぶん。

シャンプーは液体石けんが上流階級にこれから広がっていくかもしれないという段階。一般的には石けんをそのまま使うことが多いのだけれど、液体石けんにハーブを配合したものだとかの頭を洗う専用のものが売り出し始められているのでね、こちらもそんなにおかしなものではない、と思う。ちなみにわたしが持ち込んだものは界面活性剤使用の現代仕様。あり得ないとか言わない。出所自体を作り出せるわたしに不可能はないのだ。アヒルさん? もちろん聞くな。

お風呂は行ってみたところ、管理人さんと、掃除や調理を担当する職員さんと一緒になった。何も気にせず普通に一人で服を脱いで浴室に突撃するわたしを、変なものを見る目でみられたけれど、仕方がないのだ。一日ぶりのお風呂がうれしいのだ。元日本人にお風呂の入り方だとかお風呂に入るのに抵抗はないのかとか気にするだけ無駄なのだ。

それでお風呂に持ち込んだものについて、とても興味を持っていろいろと聞かれた。わたしもこう見えて貴族枠なので、どんなものを使っているのか興味があるらしいよ。そうなるだろうなあと思って持ち込んでいるので大歓迎です。で、石けんはともかくとして、ガラス瓶に入れて持っていったシャンプーは気になったみたい。それはそう。匂いをかいで、手のひらに少し取って、髪に塗り込んでみて、使い心地だとかを確かめてもらって。もちろん出所だとかはまだ秘密ですよー、そのうち中央かセルバ家からいろいろ情報が出てくると思いますよーとだけ言っておいた。数を用意して売り出せばいいお金になるのではないかなともくろんでいる。

繰り返してしまうけれど転生者、転移者がこの世界にはいるので、シャンプーという製品の発想を持ち込んだ結果が、今の市販され始めたシャンプーになっているのだと思うので。さすがにね、こんな現代仕様のものがそうそう簡単に出て来るとは思ってはいない。たとえ近いものが出てきたとしても、今わたしが持ち込んでいるものとはまったく違うものだろうと思うので。もともとシャンプーは薬品だったはずだし、こういうガラス瓶に入れた現代仕様のシャンプーをね、ダンジョンから発見されたポーションですという扱いで出してみようかなという計画があるのだ。

そしてアヒルさんはどう見てもおかしいですよね。そうでしょうそうでしょう。この手触り、この湯船に浮かびゆらゆらと漂う姿。どうです、かわいいでしょう。存在自体があり得ないことなど承知の上だ。だってダンジョン産という言い訳があるのだから。元日本人に見られたところで知らぬ存ぜぬだ。ダンジョンに聞いてくださいと言うだけで全て解決だ。まあこれをどこかに持ち出すことはないから誰からも突っ込まれたりはしないと思うけれどね。


お風呂を出てほかほかした体のまま、途中すれ違った生徒たちにおやすみなさいおやすみなさいと声をかけながら部屋へ戻る。誰も彼もがもごもごとした返事が返ってくるだけなのは不慣れなせいなのだと思っておこう。お隣ももう静かなものだ。今日の予定は全て終了して、ここからは一人の時間。

完成している今日の分のマップを確認する。集会中に不審な動きをしないようにがまんしていた今日の分の冒険のダイジェスト版が用意されていることを確認する。さあお楽しみの時間ですよ。

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