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連絡事項の中で入学式の日はご両親とお別れもできますよという話もあったので、わたしも他の人たちに混ざって移動して、お父様お母様に直接報告をしておいた。4号、できましたよって。ちょっと変な顔をされてしまった。

や、それはさ、周りでわんわん泣いている子がいたり、そうでなくてもしんみりした空気が広がっているところで報告で終わりはないだろうという気持ちも分からなくはないけれど。や、すぐ戻れるのでね? 連絡も簡単に取れるのでね? 部屋に移動用ポータル、設置できましたから。メッセージを送るためのファックスも設置しましたから。

できましたは良いけれど、今後はよくよく注意して行動するように、お兄様にもよく見てやってくれと言ってあるけれど相談して行動するようにと言い聞かされてしまった。いやだなあ、そんな変なことはしませんよ。学園のダンジョン化の目的にたいしたものはないのだ。わたしの安全確保、それから情報の収集。この2つだ。特に情報面では期待している。学園の図書館や職員、教員の持つ資料だね。学術だとか文化的な側面だけでなく、国の、あるいはこの世界の、現在の状況を把握するのに役立ってくれることでしょう。

情報収集だけが目的なら王都に遊びに来たついでにダンジョン化すれば済む話ではあるのだけれど、学園に入学したいという希望には別の側面がある。これはね、わたしの勝手な都合だ。わたしの前世など病気でひっくり返っている時間が多かったということもあるけれど、遊ぶと言っても家でジャンル問わず本を読むだとか、マンガ、アニメ、ゲームというオタク文化を満喫したりだとかの一人で過ごすことに全力だったのだ。結果、学校生活何それ美味しいの状態で、思い出というものがほとんどなかったりする。当然友達などいません。つまり何が言いたいかというと、学園生活に興味があったのだ。幸いこの世界に来てからのわたしは健康だ。これなら学園での生活を満喫できるだろうという読みがあって、授業はもちろんイベントにも積極的に参加したいし、そして当然、友達というものを作ってみたいのだ。

学園を卒業したらわたしは家に帰ることにしている。どこかに就職したりだとか、どこかのお家でお嫁に来ませんかなんていう話には絶対にならないという確信がある。こちとら中央にまで名の知られた無能なのでね。そんなのが就職して何ができるというのか。せいぜい荷物運びだとか事務職だとかになるのだろうけれど、それだってそういう技能系のスキルというものがあるわけで、雇うのなら絶対にスキル持ちの方だよ。そしてお嫁になんてもってのほかよ。何て言ったって無能なのでね。そんなの血筋に残してどうするのよ。そんなわけでわたしを引き取る話なんてどこからも出ないだろうと断言できるのでね、家に帰って家の仕事をするのです。

お父様が言っていたのだけれど、ノッテの地権者はわたしになっているのだそうだ。ダンジョンとその周辺の土地はわたしからセルバ家に貸し出している形になっていて、その地代がわたしの収入になるんだってさ。ついでに、今は叔母様がわたしの後見人ということになっていて、成人したあかつきにはわたしはセルバ家の分家として独立できるみたい。その場合は性がノッテにでもなるのかしらね。そして独立するとわたしに、下位中の下位とはいえ爵位が付くらしいよ。土地持ち、爵位持ちの立派な貴族の誕生だね。セルバ家の派閥の一家として、セルバ家から土地を任されて、そして土地から得られる収入で生活するというね。

まあそんなわけで、わたしの将来は安泰なわけよ。どこに就職する予定も、どこに嫁に行く必要もないのだ。ということで将来のわたしは基本ノッテに引きこもりなのよね。だからね、この学園で友達とか知り合いとか、いっぱい作っておきたいな。それでノッテまで遊びに来てくれるといい。たまにはわたしも遊びに行ったりね。あとセルバ家の事業に就職してくれたりとかもいいわね。つまりなぜか今も隣で大人しくしている、わたしの部屋のお隣さん、仲良くしましょうね。


両親との涙々のお別れのあとは、再び寮に戻って管理人さんから引き続き連絡事項を聞くことになる。完全に棟が分かれているので男女それぞれに集まって、寮の1階のラウンジで寮生全員が顔を合わせて話を聞く。この段階でようやく、全員が落ち着いた形で顔を合わせることになった。

今は難しく考えずに席に座るようにと指示され、ぱらぱらと手近なところへと座っていく。わたしもそそくさと近くのテーブルを確保して着席。あとを着いてきていたお隣さんもよろしくと小さい声で言いながら座ってきた。なぜかそれ以上あとに続く人が現れないので、部屋の隅で困ったぞという顔をして一人で立ちすくんでいる帽子をかぶった子のところへさっと行ってほらほらこっちこっちと引っ張ってきて座らせて、うむ、まだ席が空いているのだよな。うーん、なぜかこちらも一人でどうしましょうという顔をしていた子を引っ張ってくる。やべーかな、この子、侯爵家の娘だったと思うのだけれど、なぜ誰も周りにいなかったんだ。わたしから声をかけてよかったのかね。まあいまさらですね、さあ座って座ってと案内して、これで埋まったといっていいでしょう。わたしも座ってふーと一息。はい、どうもどうも、よろしくよろしく、ぺこぺこ。

管理人さんの話は寮での生活に関わることだった。まずこのラウンジではお茶とお菓子と軽食も出るそうで、朝食はこのラウンジで取ることになるそうだ。ただし本当に軽い食事しか出せないので、きちんと食べたい場合は大食堂に行く必要がある。それから寮内にお風呂もあるという素晴らしいお話。ただしこちらは広くはないので、入れ替え制で手早く素早くが推奨されていてゆっくりはできないらしい。きちんとゆっくりまったりしたければ大浴場へ行けということだった。

共有スペースの清掃、食事の提供だとかは専属の職員が担当して、管理人さんを含め基本常駐。自室の清掃は自分でやることと決まっていて、点検もないため時折非常に乱雑な部屋を作り出す生徒がいるそうで、大変にみっともないので気をつけるようにと注意を受けた。やはり汚部屋属性の人というものはいつの時代、どの場所にもいるらしい。わたし? わたしは違うよ、普通だよ。

寮での一日は、授業のある日は朝、定時に鐘がなるので起床、朝ご飯を食べて支度をしたら授業へ行く。授業中の時間を使って清掃だとかをやっているので、できるだけ戻ってくるだとかのないようにしろ、ということだった。忘れ物とかするんじゃないよということだね。授業が終わったら戻ってきて、あとは基本的には自由時間。共有スペースも開放されているので交流するなり自習するなり好きにしろと。そして門限の時間以降、就寝の時間までは男子棟、女子棟で閉門。ここからは行動が制限されるわけだね。それぞれの棟の共有スペースはまだ使えるのでそこでは交流してもらって大丈夫。最後、就寝時間以降は共有スペースも消灯するので、寝るなり自室で交流するなりになるみたい。消灯後は必ず寝ろというわけではないので比較的自由度は高いね。まあ廊下の明かりも消されるということだから移動が怖いかもしれないけれど。

それから明日の予定。集会と校内の案内だったね。えーっと? 明日からは通常どおりに朝の鐘が鳴るので、支度をしたらこのラウンジに集まって朝食。食後に説明があって、そのまま校内の集会場まで移動するという流れのようだ。講堂とは別のところなのね。

最後に今日のこれから。このまま席を移動せず夕食へ移行。大食堂は今日は使えないので軽食に多少追加がある程度のものみたい。それから食後は歓談の時間で、希望者はお風呂も入れるらしい。希望者は手を上げろと言われたけれどみんな顔を見合わせるだけだった。それはそう。いきなり見ず知らずの人たちと一緒にお風呂とかね。いやわたしは一瞬手が上がったんだけど、誰も上げねーな!? となって引っ込めた。周りの子に驚愕の視線を向けられ、目が合ってしまった管理人さんに苦笑いをされてしまった。人数が少ないようなので、職員と一緒になっても良ければ入れますよとのこと。新品のお風呂セットを持ってきているので入りたい気持ちはあるのだけれど、どうしたものか。

夕食はパンとハム、そして葉物野菜の上にマッシュポテトがボンと盛られたワンプレートに野菜と肉の浮かんだスープ。飲み物はお茶かお水。おかわりは自由ということだったのでハムと野菜だけ増量してもらった。両隣はポテト少なめ、向かいの帽子の子はポテト多めね。なんとなーく、全員が席についたところでいただきます。ふむ。このまま黙って食事も味気ないよね。

「せっかくご一緒したのですし、ご挨拶、しておきましょうか。わたしはステラ・マノ・セルバ。リッカテッラ州の領主をしているセルバ家の長女です。学園には兄も通っていますね。みなさんとは今後何かと接する機会も多いでしょう、よろしくお願いします」

ぺこり。

向かいの子はフォークを握ったまま、どれから手を着けるべきか悩んでいるような顔をしてへこへこと頭を下げている。両隣は、なんだこの反応。顔にしまった、とか、困った、とか書いてありそう。もしかしてあれか、わたしが誰なのか良く分かっていなかったのか。でもわたしは名乗ったぞ、ほれ、まずは侯爵令嬢、あなたでしょう。

「あ、あの、わたしは、キャル・スペクタ、です。ベルゲンの、出身、です」

ほらー、向かいの子に先を取られたじゃない。

あー、この子、一般市民枠か。ちょっと背が高い。そしてちょっと体格もいい。なぜ帽子を取らないのかが良く分からないな。髪を押さえているのかな? ん? もしかして亜人か獣人かな? これは仲良くなっておいて損はないかもしれん。よろしくよろしく。にこにこ、ぺこぺこ。そのキャルさんは緊張した顔のままハムにフォークぶっ刺して口に運んでいるけれど。

「私は、クレーベル・フォン・ヘルゼンバンド。カローダン州の領主、ヘルゼンバンド家の次女です」

右隣の侯爵令嬢がようやく口を開く。でもあいさつはそれだけ。うーん、侯爵家の次女なんだよなあ。なんで周りに人がいないんだ? 良く分からん。カローダン州は王都に接した土地で広くはない。山がちで人口も少なかったような気がする。とりあえずうちよりも格上なのでね、どう接していくかは保留だね。

「あの、私は、ハイネ・カルネ・フェストレともうします。トーレデント州、モンスレーのフェストレ家の長女で、兄が在学しております。よろしくお願いします」

おっと、こちらはうちのまさにお隣ではないですか。しかも東側。北への玄関口であり、魔物の脅威にさらされ続けているトーレデント。モンスレーはついぞ聞いたことのない地名だけれど、まあそれはいいでしょう。せっかく州もお隣、部屋もお隣、仲良くなっておいてこちらも損はないでしょう。ただなあ、この2人は反応がいまいちなんだよね。もしかしたらわたしの話を事前に聞いていて、仲良くならないように釘を刺されている可能性もあるのだよね。せっかく初日から知り合えたのだから仲良くしたいところなのだけれど、そう簡単にはいかないかな。わたしも友達を作ろうと自分から動くのなんて人生2周目にして初めて経験していることだから加減が分からない。

この日は結局それ以上話題が広がることもなく、特にクレーベルさんにいたってはそそくさと食事を終えてさっさと席を立ってしまった。キャルさんはド緊張したまま食事を終えて今はお茶をすすっていて、ハイネさんはこっちをちらちらうかがっている。まあ今日のところは仕方がないでしょう。ハイネさんも家から何か言われているのかも知れないけれど、部屋が隣なだけにどうしたらみたいなところかもしれないし、すべてはこれからなのだからね。親の目のないこの学園で、何とか友達作りを頑張ってみよう。うむ。そんなことを考えながらわたしもずずずとお茶をすすった。いや、うそ、音は立てませんよ。

あとね、一応ね、さすがにわたしも自分だけ職員さんと一緒にお風呂とかはまずいだろうと考えることはできたので、今日のお風呂は我慢しました。ざんねーん。

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