第35話 この人は酒カスだし、わがままだ
「ああ、蓮くんの希望とあらば叶えることは容易いが、私にも立場や外聞というものがあってだね」
まぁ知ってた。矢車さんに頼み事をすると100%そのお返しを求められる。
「で、今回は何をしてほしいんですか」
「最近、普通科の方で校則変更の動きがあるんだ。理由はいくつかあるが、それを阻止する手伝いをしてほしい」
「分かりました」
今、僕たちが何をしているかというと・・・
昨日、香川が急にこんなことを言い出した。
「ねぇ、幽栖と学校に通いたい!幽栖もそう思うよね!」
「え・・・うん。行ったことないし行ってみたいかも」
「いいぞ」
「え!?・・・こんなにもあっさり?」
「別に誰に迷惑をかけるようなことでもないし、危険でもないだろ」
「それはそうだけど、いろいろ話を通さないといけないから面倒くさいとか言いそうだと思って。実際、前にすごく嫌そうな顔をしていたじゃん」
「そんなの理事長に直接頼めば簡単に通るぞ。問題はその後なんだよ・・・」
ということがあり、幽栖の編入を矢車さんに頼んだということだ。予想通り、面倒な頼まれごとをされている。
「ていうか、蓮って理事長と知り合いだったんだ・・・」
「知り合いというか何というか・・・」
「まぁそんなことは置いておいて、こちらの依頼の詳しい事情を話そうじゃないか」
「分かりました」
矢車さんの話によると、普通科の生徒会長が普通科と天才クラスの待遇の差に不満を持っており、改善を要求しているそうだ。
「え・・・それの何がダメなの?」
「いいか、音無君。この学校は私の学校で私の理想だ。それを社会も知らないガキンチョに壊されるのは我慢ならない」
「この人、上に立つものとして大丈夫?主に発言とか」
「安心しろ音無。この人は酒カスだし、基本的にわがままだ。その代わりあり得ないほど仕事ができる」
「そうなんだよ、蓮くん。私のだーい好きなお酒が生徒会長のせいで我慢しなければならないのが現状だ。さすがに普通科の生徒の前で酔いながら話し合うのはマズいからね」
そういえば、今日はお酒を持っていないな。
「この人、本当に終わってるかも」
「理事長先生、唐揚げで良かったですか」
「ああ、ありがとう」
矢車さんの助手的な人が唐揚げを持ってくる。
「皆さんはコーヒーとかどうですか。お望みであればアルコール類もございますが」
「あの・・・私たち未成年なんですけど」
「外国では年齢はあまり関係なく飲む国もあるらしいですよ」
「ここ日本なんですけど・・・」
「蓮くん、私が禁酒をしているんだ。君だけお酒を飲むなんて許さないからな」
「飲みませんって。そもそもお酒好きじゃないですから・・・コーヒーをお願いします」
「はーい、ブラックですね。あなたがたは」
「じゃあ私もコーヒー」
「私もそれでお願いします」
「はい、砂糖多めとアイスミルクコーヒーですね」
「なんでコーヒーって言っただけで好みを正確に当てれるの」
「あら、違いましたか」
「いえ、あってますけど・・・」
「葵は助手として最高なんだ。いい子を見つけてきただろ」
葵は助手の名前みたいだ。
「まったく才能だけはあるんですから」
「で、本題だが、まず蓮くん以外の天才クラスの人たちは普通科に一切の干渉をしないことを求める」
「なるほど、アドバイスはもちろん妨害や邪魔もしないようにすればいいんですね」
「そういうことだ。で、蓮くんは私の代弁者をしてほしい。3回だ」
「2回でいいですよ。今日と、最後の1回で十分です」
「今日を含めずの予定だったんだが、さすがだな」
「ねぇ、香川さん蓮と理事長がどういう話をしているか分かる?」
「んー、5割くらい?どっちも最低限の言葉で最大限の理解を示しているね」
「いつもは遠慮してくれてたんだね」
「・・・ということで3時間後に頼んだぞ」
「あ、終わった?」
「終わった」
「ところで理事長、校則を変更したくない理由って何ですか。別に正当な理由があればしてもいいんじゃ?」
気になっていた香川が矢車さんに聞く。
「相手が君たちなら正当じゃなくても許容するが、普通科ならそうとはいかない」
「どうしてですか」
「私に勝てないからだ」
「それは・・・」
「安心しろ、私だって頭ごなしに否定するわけではない。最終的には生徒たちの投票によって決まる」
「え、それなら結果は」
「矢車さんが勝つ、絶対にだ」
「どうして?」
「矢車さんは力の使い方が上手い。権力、財力、武力すべてに秀でているからな。よほどの覚悟がないと勝てない」
「つまり?」
「香川、もし僕たちの校則が普通科と同じだとして、僕たちはどういう行動に出る?」
「え?普通に無視するけど?」
「だろうな、例え退学になっても自分の自由を突き通す僕たちにはルールなんてあってないようなものだ」
「すごい、ここまで見事に無敵の人なんだね」
今更、音無が僕たちのクラスの現状に気づく。
「それでも殺人とかを平気でしないのは、自分の中で一定のルールを持ちそれに従って生きているからだ」
「確かに、したいと思わないし楽しそうでもないもんね」
「でも、一般的には違う。従わないならやめろといえば、従うものだ」
「かわいそうだね」
「最近はパワハラとかいじめとかで生徒側の安全も保障され始めたけどね。それでも結局大きな力を持っている方が有利な話し合いだ。『相手の持っている力が無駄である』と思わせなければまず勝負にもならない。だから私はつまらない一般人にルールを変えさせる気はない」
そもそもの口のうまさ、経験の量が違う、というのもあるのだろう。
「なるほど、私たちの前では権力が無駄だから使わないわけなんだ」
「そういうことだ。そしてクラスを分けた理由でもある」
「逆に普通科クラスが勝つ方法ってあるの?」
「うーん、簡単なので言えばルールに不満がある奴は全員辞めてやるとか言い出せば勝負にはなるんじゃないか」
「その場合、この学校より大きな権力が私に向くからね。それで五分五分じゃないか」
「そんなにディベート強いんだ理事長」
「こちらのアドバンテージを消してやっと舞台に立てるだけだからな。そこからディベートが超強い矢車さんを倒すのはまぁ厳しい」
「さあ、どう来るんだろうね」
3時間後、普通科の生徒会長と副会長が理事長室に入ってきた。
「お邪魔します。本日は」
「いいよ、言葉は。ラフにため口でも構わない。別にため口で喋っていたから拒絶する、敬語だから承認するなんてつまらないことはしない」
「じゃ僕から挨拶を。2年ρ組の遠藤蓮だ。僕も同席することになった」
「え・・・私は2年A組で生徒会長の唐梅進です」
「私は、鈴木藍といいます。副会長です」
「私が理事長の矢車菊だ。よろしく。で、いきなりだが基本は話し合いはこの蓮くんに一任する」
「どういうことですか」
「そのままの意味だ。こう見えても私は忙しいのでね、代行を立てるのは不思議かね」
「いえ・・・」
「私が自ら選んだ代役だ。何も問題ないだろう?」
「はい」
見事に流れを持って行ったな。
そのまま一方的な流れのまま、相手側には最低限の必要事項しか言わせず、こちらの要求を一方的に通した。
「ねぇ、これが話し合い?」
「隠れて聞いていたのか」
「葵さんに言ったらいい場所を知ってますよって」
「お疲れ様です、理事長。今日は梅酒ですよ」
「いいな、流石私が見込んだ助手だ」
「本当に酒好きなんだね」
「話を戻すけど、ここまで一方的な話し合いは初めて見たかも」
「蓮は優しいからな。基本的に受け身に回ってくれるんだろう。だが私は優しくないから、最初から一方的な流れをつくる」
「もしかして蓮もそういうことできるのか」
不安になったのか梶井が聞いてくる。
「・・・梶井のためにノーコメントと言っておく」
もちろん、できる。
※酒カス:酒を四六時中飲んでいる人。またそのせいで迷惑をかけている人(ここでは前者のみ)
矢車さん(理事長)はこれからもちょくちょく登場します
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